月1回開催中!『神田連雀亭オンライン寄席』インタビュー 若手落語家・講談師・浪曲師のための稀有な場所
(左から)柳家小んぶ、宝井梅湯、オーナーの加藤伸氏、三遊亭遊かり、三遊亭天歌
2021年8月22日(日)に、神田連雀亭(以下、連雀亭)の寄席がオンライン配信される。今年5月より月1回のペースで開催している配信コンテンツだ。視聴の購入により、午前11時30分からの「ワンコイン寄席」と、13時30分からの「日替り昼席」を通して視聴でき、イープラス「Streaming+」では2週間のアーカイブ視聴が可能となる。連雀亭は、若手の落語家、講談師、浪曲師たちの勉強と活躍の場を提供するべく、そして地域を盛り上げることを目指し、2014年に神田須田町(旧称:連雀町)に開設された。連雀亭のオーナーの加藤伸氏は、「ここは若手のためのトレーニングの場」だという。
コロナ禍をきっかけに、落語のオンライン配信は急速に広まった。今では個人レベルの配信からホール落語の配信まで、多様なコンテンツが視聴できる中で、連雀亭のオンライン配信寄席には、どのような特色があるのだろうか。講談師の宝井梅湯、落語家の柳家小んぶ、三遊亭天歌、三遊亭遊かり、そして加藤さんに話を聞いた。
■ふだん通りの連雀亭の寄席を
ーー2021年5月より、月1回のオンライン配信が行われています。梅湯さんは5月と7月に出演されました。
梅湯:いつもと違ったことと言えば、配信のお客様に見ていただきやすいよう、ふだんより、客席の照明を少し落としたこと。高座に上がると飛沫感染防止のためのアクリル板に、自分の顔がより映るようになりましたが(笑)、それ以外は通常どおりです。いつもの連雀亭の寄席をご覧いただけたと思います。
講談師の宝井梅湯
ーー落語の配信が広まり、1年が過ぎました。
小んぶ:はじめの頃は、落語をしながら「自分、何やってんだろう」という気持ちになったこともありました。今は、何も思わなくなりましたね。配信であることを忘れて、落語に夢中になれたらいいですよね。連雀亭の配信は、ここにお客様を入れてやります。その様子を配信するので、ふだん通りの寄席をご覧いただけるんじゃないでしょうか。無観客の配信は、手ごたえのなさが半端ないですから(一同、笑いながら大きく頷く)。
梅湯:少しでもお客様がその場にいてくださって、笑い声があった方が、演者としてやりやすいだけでなく、視聴してくださる方も楽しみやすいと思いますよ。
ーー小んぶさん、天歌さん、遊かりさんは、8月の配信に出演されます。
天歌:私は九州出身ですが、今は落語会のために地方へ足を運ぶことが憚られます。そんな時期に、神田から全国へ発信できるのは、価値があることだと思います。配信でしか聞けないお客様のことを考えると、ひとつのやり方として、今後もあっていいですよね。
三遊亭天歌
遊かり:うちの師匠・三遊亭遊雀は、「カメラの向こうにお客様がいることが想像しやすくなってきた」と言っていますね。それは私も感じます。カメラの向こうにアリーナが広がっていてお客様がいて……みたいな(笑)。また私自身、ゼロからはじめて配信作業もするようになり、「一度はじめたなら、やり続けたほうがいいのだろう」と感じます。配信を待っていてくださるお客様ができていくからです。
■連雀亭オンライン寄席でみられるもの
ーー連雀亭がオンライン配信する「ワンコイン寄席」と「日替り昼席」は、協会や流派を超えて二つ目の落語家さんが登場します。
天歌:それって画期的なことなんです。落語に関しては、おとなの事情があってそれぞれの協会ができあがりました。だから寄席の定席は、協会ごとに興行を行います。でも連雀亭では、コンピューターでランダムに顔付けを決めます。顔付けって、通常は席亭が集まって決めるものですよね?
加藤:そう。でも僕はそこには、一切口を出しません。だから席亭じゃなく、オーナーと名のるんです。
二ツ目の落語家、講談師(それに相当するキャリアの方)の中で希望者が出演している。
天歌:オートマチックに決めるなんて味気なく思われる方もいらっしゃるでしょうし、番頭6人で恣意的につくった番組の方が面白くなる可能性もあるかもしれません。でもそれに頼らず、演者一人ひとりの力でお客様を呼びましょうということで、今の形になっています。
梅湯:加藤さんからのアドバイスもあり、落語の4派の協会がばらけるように。番頭が1人は入るように。そして女性も入るようにしています。コンピューターで決めるのは、今、立川寸志さんの担当なのですが、配信の日だけは、出演者に連絡を取りながら顔付けしてくれて。
加藤:じゃあ、寸志の好みで偏るわけだ。
遊かり:寸志兄さんはそういう方じゃありませんよ?(笑)
天歌:この数の二ツ目が、選り好みがなくバラバラで出る。組み合わせの数を考えたら、同じ顔付けで見られる機会は早々ありませんよ。
ーー連雀亭の寄席ならば、「こんな噺家さんがいたんだ!」といった出会いに繋がりそうですね。演者さんの目線では、他の協会と集まることに学びや発見があるのでしょうか。
小んぶ:私は柳家で落語協会(以下、協会)に所属しています。すると落語芸術協会(芸協)の方や円楽一門会、立川流の方と一緒になることが少なくなるんです。同じ演目でも流派によって、登場人物、設定、オチやくすぐりが変わることもありますから、人の噺を聞けるのは勉強になりますね。また、協会の芸人と芸協の芸人は、どこか……違うんです。良い悪いではなく、どちらも落語家の形だと思うんですが、私の感覚ですと、協会の芸人は気取っていて、芸協の芸人は、コロナ禍の前なら路上でビールを飲んでいるイメージです(一同笑)。
遊かり:すみません…‥!(※遊かりさんは芸協のご所属)全員ではありません!! もちろんコロナ禍以前の話ですよ! でもまぁ、路上でビールを飲むのは芸協の体質と言われたら、否定できないかも……(笑)。
9月下席に真打昇進を控える柳家小んぶ。柳家さん花を襲名する。
加藤:僕の見ている印象だと、協会の若手は行儀がいいですね。芸協の若手は……。
遊かり:本当に、すみません(一同、再び笑)。
加藤:円楽一門会は家庭的ですよ。落語立川流は、一人ひとりが自由奔放にやるイメージ。
小んぶ:加藤さん、この流れで講談の悪口もお願いします(笑)。
加藤 :講談は、まずはもっと知られてほしいよね?
梅湯:そうですね。
ーーどこも個性的なのですね(笑)。
遊かり:二ツ目って、協会が違うとびっくりするほど距離があって孤独なんです。都内の寄席では、二ツ目が上がるのは昼席と夜席の各1本のみですから、同じ協会でも寄席で会う機会は少ないし。連雀亭ができる以前の世代の師匠方は、どうされていたのか想像ができないくらいです。連雀亭のおかげで二ツ目同士が顔を合わせる機会が増えて、色んな兄さんに「今度、自分の会に出てください」「教えてください」など、お願いしやすくなりました。
三遊亭遊かり
天歌:ここに出ている二ツ目同士ならば、だいたいどんな芸風なのかお互いに分かりますしね。
梅湯:講談に関しても、東京には講談協会と日本講談協会がありますが、このような場がないと接点は少ないです。
ーー連雀亭は講談にも力を入れているそうですね。
梅湯:二ツ目の講談師の勉強会として、「講談きゃたぴら」を毎月17日から4日間、開催しています。この4日間も、出演する3名が、どちらかの協会に偏らないようにしています。
天歌:講談は連続ものを楽しみになさるお客様も多いですからね。その4日間は、梅湯兄さんが顔付けをしています。
ーー神田伯山先生も、二ツ目時代(松之丞時代)に、連雀亭に出られていました。
加藤:「もう連雀亭を閉めようか」と考えた時期があったんです。その時に、「閉めちゃうくらいなら、俺にやらせてよ」と言ってきたのが松之丞でした。人気になってからも気にかけてくれて、卒業(真打昇進)まで、年末の大掃除も1回も休んだことはなかった。皆がやりたがらない水仕事も率先してやっていましたよ。自分でなんとかしようという気概を感じましたね。
天歌:二ツ目同士が手を携えてやる場は希少です。それを残してくれたのが松之丞兄さんです。講談にも力を入れているのは、その精神も受け継いだところがあるんです。
■正直配信は好きじゃない
ーーこの企画は、産経新聞さんからの声掛けではじまり、配信作業は、産経新聞社さんの動画配信チームが担当されているそうですね。
加藤:産経新聞さんには儲からないことでしょう? どうしてやるの?
同席していた産経新聞の池田氏:弊社では落語事業をさせていただいています。コロナ禍の影響で若手の方々が大変だと伺い、応援になるならばと。
一同:おお~!
加藤:正直、私はね、配信は好きじゃないんですよ。本音ではね(笑)。
一同:ええーっ‼
加藤:だって、この場所に来ていただいて、ここで聞いてもらうために連雀亭を作ったんですから。寄席で出番が少ない二ツ目に活躍の場を。そして私が生まれ育った神田須田町を、盛り上げたいという気持ちから。でも、このような状況でしょう? 連雀亭には、いま番頭が6人いて、彼らが運営をしています。僕はオーナーとして場を提供するだけ。だから、6人でよく話し合ってメリットがあるならやってもいいよと言いました。
天歌:落語を配信することには、色々なご意見がありますが、噺家界隈では、配信も手段のひとつとして浸透していきました。お客様としても「連雀亭には行きたいけれども、この状況ではいけない」という方がいらっしゃいます。そんなタイミングで配信のお話をいただいたので、渡りに船だと思いました(笑)。夜の貸席も配信できないかとか色々な意見がある中で、まずは加藤さんのおっしゃるとおり、連雀亭の魅力をそのままお伝えできる、通常公演を配信しています。
加藤:私は、ここをトレーニング場だと思っているんです。二ツ目さんは、もう、噺家としてのプロですから。噺家さんは、噺だけでなくお客様に自分を知ってもらうこと、自分を売ることも仕事でしょう? その助けになると考えるなら、オンラインもありなのでしょうね。
連雀亭のオーナー 加藤伸氏
ーー多くの方にオンライン配信でも、連雀亭の寄席を楽しんでいただきたいですね。
遊かり:お子さんをもつ方や、地方の方には、やはり喜ばれます。子育て中の大学時代の友人が「みたよー」なんて連絡もくれました。まず1回みてみよう、と。そして状況が落ち着いたら、いつか連雀亭に来ていただき、生で聞いていただきたい。その種を蒔くような感覚で、続けていけたらいいですね。
天歌:いま寄席では、客席でのお酒や食事に制限があったりもします。たとえば某寄席の桟敷席では、空いている時に、マナー違反だけど寝そべって聞くお客様もいました(笑)。ご自宅でならば、そのくらいリラックスして楽しんでいただけます。時間帯も場所も、ご自分の生活スタイルに合わせて楽しんでいただけたらと思います。
(左から)柳家小んぶ、宝井梅湯、オーナーの加藤伸氏、三遊亭遊かり、三遊亭天歌
次回、神田連雀亭オンライン寄席は、8月22日(日)、その後9月12日(日)に配信の予定。
取材・文・撮影=塚田史香
配信情報
会場:神田連雀亭
春風亭昇市、三遊亭楽八、三遊亭天歌(中入り)三遊亭鳳月、三遊亭遊かり、立川笑二、柳家小んぶ
(出演順、演者は交代になることがあります)
※ライブ配信終了後、2021年9月5日(日)11:30まではアーカイブ視聴が可能
協力:産経新聞社(産経らくご)