【レポート】東京バレエ団『くるみ割り人形』全国公演で新星の足立真里亜&大塚卓が美麗に舞って飛躍!

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2022.2.4
東京バレエ団『くるみ割り人形』足立真里亜&大塚卓 photo Shoko Matsuhashi

東京バレエ団『くるみ割り人形』足立真里亜&大塚卓 photo Shoko Matsuhashi

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コロナ禍において日本のバレエは奮闘している。とくに東京バレエ団の活躍が目覚ましい。1964年の創立以降、34次775回の海外公演を行い、32か国155都市を巡った世界的バレエ団である。2021年は緊急事態宣言による延期はあったものの国内で65公演を実施した。7月には〈HOPE JAPAN 2021〉と題する全国ツアーを行い、モーリス・ベジャール振付『ボレロ』などを全国11都市で12回上演、11月には日本唯一の公共劇場専属舞踊団 Noism Company Niigata(Noism)の芸術監督である金森穣に委嘱した『かぐや姫』第1幕を世界初演するなど話題が多かった。そして12月10日(金)から27日(月)まで全国9都市11公演を上演した『くるみ割り人形』全2幕で一年を締めくくった。ここでは4組の主役が組まれた中から、期待のホープ足立真里亜&大塚卓が主演し12月22日(水)に行われた高松公演の模様をお伝えする。
 

■古典バレエの十八番をたずさえ全国へ!

チャイコフスキーの名曲にのせて展開するクリスマス・イヴのファンタジー『くるみ割り人形』は1892年、帝室マリインスキー劇場で世界初演された。台本はE.T.A.ホフマンの童話に基づきマリウス・プティパが手がけ、振付をレフ・イワーノフが担当した。東京バレエ団は1972年にバレエ団初演し長らく上演してきたが、2019年、創立55周年を機に芸術監督の斎藤友佳理の改訂演出/振付で新版を制作した(装置と衣裳はロシアで製作)。創立初期にソ連文化省から"チャイコフスキー記念"の名称を贈られた歴史あるバレエ団に相応しくロシアの伝統を踏まえた舞台で、そこに斎藤のアイデアが織り込まれている。3年連続の上演で早くも定番となりつつある。

12月10日(金)~12日(日)の東京公演後に全国公演を開始。15日(水)の横須賀を皮切りに18日(土)の鹿児島、19日(日)の大分、21日(火)の福山を経て迎えた高松公演は、文化庁 大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業の一環として行われた。会場の香川県県民ホール・レクザムホール大ホールは、高松港からほど近い高松城址に建つ。1988年にオープンした2001人(オーケストラピット利用時は1825席)を収容できる大劇場で、他の公演同様シアター オーケストラ トーキョー(指揮・磯部省吾)が管弦楽を務めた。

東京バレエ団『くるみ割り人形』足立真里亜&大塚卓 photo Shoko Matsuhashi

東京バレエ団『くるみ割り人形』足立真里亜&大塚卓 photo Shoko Matsuhashi


 

■足立真里亜&大塚卓が初役で好演!

舞台はシュタールバウム家のクリスマスパーティーに向かう人々の情景から始まる。そこへシュタールバウム家の娘であるマーシャ(足立真里亜)の名付け親ドロッセルマイヤー(安村圭太)が現れる。家の居間ではドロッセルマイヤーが人形劇を披露。ここでは、ピエロ(昂師吏功)、コロンビーヌ(工桃子)、ウッデンドール(山下湧吾)が人形振りをリズミカルに踊って盛り上げた。足立は、清楚かつ華やかな容姿で愛らしいけれど、ドロッセルマイヤーからもらったくるみ割り人形を弟のフリッツ(鈴木理央)に壊されると、悲しくてわんわん泣く。昨秋の話題作『かぐや姫』でもタイトルロールの1人に抜擢されたが、表情豊かなバレリーナである。

真夜中、マーシャが自室でくるみ割り人形を大事にして語りかけていると、小ネズミが現れ、それを追って再び広間へ。12時になると、ドロッセルマイヤーに導かれるように人形の兵隊たちが登場し、クリスマスツリーが巨大化していく。兵隊&くるみ割り王子(大塚卓)とねずみたちが戦うが、王子はマーシャの機転により危機を脱し勝利を収める。そして王子はマーシャと共にクリスマスツリーの世界へと旅に出る。大塚は2020年4月に入団した新星。凛々しくスタイルもよく、王子役はもちろんキャラクター色の強い役柄でも見映えのする踊りを見せている。足立マーシャを優しくエスコートする姿も様になっている。

旅の途中の雪の国における雪の精たちの踊りは絶美。松林を背に、ふわりとした白いチュチュをまとったコール・ド・バレエ(群舞)は、ワルツにのせて刻々と隊形を変えながら優雅に、軽やかに乱舞する。1964年に東京バレエ団を創立した故・佐々木忠次が、欧州やロシアのバレエ団に負けないためにコール・ド・バレエの強化を打ち出し声望を高めたことはよく知られる。そのお家芸は健在で、さらに名バレリーナとして知られロシア国立舞踊大学院バレエマスターおよび教師科を首席卒業した斎藤の下、優美で力強いロシアン・スタイルが浸透してきた。抜群のチームワークと繊細で血の通った美しい踊りは、世界屈指と称しても過言ではない一級品である。

東京バレエ団『くるみ割り人形』 photo Shoko Matsuhashi

東京バレエ団『くるみ割り人形』 photo Shoko Matsuhashi


 

■バレエ芸術の魅力を広く伝えるために

第2幕、マーシャとくるみ割り王子は、お菓子の国へ向けてクリスマスツリーの上部へ。あと少しで目標にたどり着くという所で各国の踊りによって歓待される。スペイン、アラビア、中国、ロシア、フランスと続くが、斎藤の改訂振付/演出では、それぞれの踊りがクリスマスツリーの飾りという趣向。自慢のソリストたちが民族色豊かな衣裳を着て踊り、踊り終わるとクララに向けてさっと一礼のみして去る。ディヴェルティスマン(余興の踊り)と称される場面で、物語とは関係なく踊りを楽しむということになりがちだが、ここではマーシャをもてなすために踊るという姿勢を自然に伝えるので舞踊劇として筋が通っている。

各国の踊りの後、場面が転換し、クリスマスツリーの世界からお菓子の国へと変化する演出も鮮やかで素晴らしい。そして花のワルツを経て、マーシャとくるみ割り王子によるグラン・パ・ド・ドゥへ。原典では女性主人公の踊りに関して、この部分のみ大人のバレリーナが踊る演出であったが、1834年に生まれたワシーリー・ワイノーネン版の流れを汲み、マーシャがグラン・パ・ド・ドゥまでずっと踊る。いわゆる"少女の成長物語"として描かれるのだ。

東京バレエ団『くるみ割り人形』政本絵美&ブラウリオ・アルバレス photo Kiyonori Hasegawa

東京バレエ団『くるみ割り人形』政本絵美&ブラウリオ・アルバレス photo Kiyonori Hasegawa

若い足立&大塚は先の鹿児島公演でロール・デビューしたばかりの初役コンビなので初々しい。ハイライトとなるグラン・パ・ド・ドゥでは高い格調が求められるが手堅くまとめ上げ、夢の世界を体現した。足立が甘美で切ない響きとともに夢見るように踊るヴァリエーションからは、歓喜と同時に「喜び時間は限られたものである」というはかなさも伝わり胸に染みた。大塚の端正な王子ぶりはカッコよく眩しいくらい。東京公演では観られなかったペアリングだったが実に清々しい踊りと演技で、二人のさらなる飛躍が楽しみである。

東京バレエ団には全国から優秀なバレエダンサーが集う。全国公演の際、地元出身者が活躍することも珍しくない。高松では香川県出身のソリスト政本絵美(令和元年度香川県文化芸術新人賞受賞)が期待に違わぬ踊りと演技を見せた。第1幕ではマーシャの母を生き生きと演じ、第2幕ではアラビアの踊りをブラウリオ・アルバレスとともにしなやかに踊る。長身で多彩な表現力を持ち合わせる実力者が見事故郷に錦を飾り、カーテンコールでは大きな喝采を浴びた。

客席はほぼ満席の盛況で、観客は食い入るように舞台を見ている。そして反応も暖かい。全国各地には規模も大きく設備も充実した劇場が少なからずあるので、そこで今回のように上演水準もプロダクションの完成度も高く、老若男女が親しめるバレエがどんどん上演される基盤が継続的にできればと願う。そうすれば、たくさんの観客が豊かな文化芸術を享受できるし、上演する側の環境改善や芸術水準のさらなる向上にもつながるはず。新たな可能性を感じた。

東京バレエ団『くるみ割り人形』政本絵美&中嶋智哉 photo Kiyonori Hasegawa

東京バレエ団『くるみ割り人形』政本絵美&中嶋智哉 photo Kiyonori Hasegawa

厳しい時期だからこそ、バレエの力で多くの人々の心に潤いをもたらしたい――。東京バレエ団の公演活動からはそうした使命感が強く感じられる。『くるみ割り人形』全国ツアーでは、オーケストラ生演奏付きの本格的な古典全幕バレエを各地の大劇場で上演し、多くの観客にバレエ芸術の魅力を届けた。2021年も2月18日(金)~20日(日)のブルメイステル版『白鳥の湖』、3月13日(日)の〈コレオグラフィック・プロジェクト2020〉、4月29日(金・祝)~5月1日(日)のクランコ振付『ロミオとジュリエット』バレエ団初演を始め多くの公演を予定している。10月には古典バレエ最高峰の大作『眠れる森の美女』の新制作も控えている。ぜひ劇場に足を運び、ご自身の目で"日本が生んだ世界のバレエ"の真価を確かめてほしい。

【動画】東京バレエ団2022年ラインナップ ー The Tokyo Ballet 2022 line - up movie

文=高橋森彦

公演記録

東京バレエ団『くるみ割り人形』高松公演
2021年12月22日(水)18:30開演
香川県県民ホール・レグザムホール
 
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
台本:マリウス・プティパ(E.T.A.ホフマンの童話に基づく)
改訂演出/振付:斎藤友佳理(レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネンに基づく)
舞台美術:アンドレイ・ボイテンコ
装置・衣裳コンセプト:ニコライ・フョードロフ
 
マーシャ:足立真里亜
くるみ割り王子:大塚卓
ドロッセルマイヤー:安村圭太
ピエロ:昂師吏功
コロンビーヌ:工桃子
ウッデンドール:山下湧吾
 
- 第1幕 -
マーシャの父:中嶋智哉
マーシャの母:政本絵美
弟のフリッツ:鈴木理央
ねずみの王様:岡﨑司
 
- 第2幕 -
スペイン:三雲友里加、宮川新大
アラビア:政本絵美、ブラウリオ・アルバレス
中国:最上奈々、井福俊太郎
ロシア:髙浦由美子、後藤健太朗、安井悠馬
フランス:中川美雪、涌田美紀、星野司佐
花のワルツ(ソリスト):榊優美枝、上田実歩、菊池彩美、長谷川琴音、樋口祐輝、和田康佑、玉川貴博、岡﨑司
 
指揮:磯部省吾
演奏:シアター オーケストラ トーキョー

助成:文化庁 大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業

主催:一般社団法人日本バレエ団連盟/公益財団法人日本舞台芸術振興会/香川県県民ホール 指定管理者 あなぶき文化振興コンソーシアム/RSK 山陽放送

公演情報

東京バレエ団『白鳥の湖』全4幕
 
2022年
2月18日(金)18:30(上野水香&柄本弾)完売
2月19日(土)14:00(沖香菜子&秋元康臣)
2月20日(日)14:00(上野水香&柄本弾)完売
会場:東京文化会館
詳細:https://www.nbs.or.jp/stages/2022/swan/index.html

東京バレエ団〈コレオグラフィック・プロジェクト2022〉

2022年
3月13日(日)14:00
会場:東京文化会館
詳細:https://www.nbs.or.jp/stages/2022/cgp-2022/index.html

東京バレエ団〈初演〉『ロミオとジュリエット』全3幕

2022年
4月29日(金)16:00(沖香菜子&柄本弾)
4月30日(土)14:00(足立真里亜&秋元康臣)
5月01日(日)14:00(秋山瑛&池本祥真)
会場:東京文化会館
詳細:https://www.nbs.or.jp/stages/2022/romeo/index.html

【一般発売開始】2022年2月4日(金)10:00

東京バレエ団 公式サイト:https://thetokyoballet.com
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