小関裕太、ミュージカル『四月は君の嘘』天才ピアニスト役らしいマニアックな音楽の聴き方とは
小関裕太 撮影=高村直希
5月7日(土)の東京日生劇場を皮切りに、群馬の高崎芸術劇場 大劇場や愛知の御園座、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール、富山オーバード・ホール、そして7月3日(日)に千秋楽を迎える博多座の6会場にて上演されるミュージカル『四月は君の嘘』。新型コロナウイルスの影響で2020年7月に予定されていた公演が中止となっていたことから、今回は待望のステージとなる。そんな同公演を心待ちにしていたのが、主人公の演奏家、有馬公生を演じる小関裕太。木村達成とのダブルキャストで有馬役をつとめる小関は、ブランクについて「作品のことを熟考できた」と前向きにとらえる。一方で、やはり歯がゆさもあったと語る。そんな小関に同作に対する想いを訊きだし、さらに彼の音楽的な側面にも迫った。
――2020年7月の公演は開催間近で中止となりましたが、かなり心残りがあったんじゃないですか。
時間が経ってもずっと「いつかやりたい」と考えていました。ただ、公演中止からここまで約1年半、作品について「熟考する期間を設けることができた」と捉えるようにしています。時間ができた分、より成熟できたものを持って挑むことができますし、逆にそれを崩して、また作っていくおもしろさもありますから。
――気持ちが折れることはありませんでしたか。
この作品に限らず、気持ちが折れる瞬間は何度か経験しています。別の作品でも「もう心が折れそうです……」ということが過去にありました。たとえばとある作品で、とにかく役を作りこんで自分を追い詰め、様々な方法で役へアプローチをしている過程でも「舞台に立つのが怖いかもしれないです」というくらいになったんです。
小関裕太
――『四月は君の嘘』が公演中止となったときは、どうですか。
動画配信サービスのトップ画面を開いたときに映画版の『四月は君の嘘』がおすすめに出てきたりすると、なんだか失恋に似た思いになったというか(笑)。「なんでこんなときに出てくるんだよ!」と。好きだった子の連絡先がケータイにまだ残っていて不意に表示された……みたいな。
――「せっかく少しは忘れることができたのに」?
そうですね。そういう感覚に似ている気がして、再び心がえぐられました。そうやって表示されるから何度も観返していたら、7周くらいしちゃったんです。だから、関係者の方から「『四月は君の嘘』を上演できそう」と聞いたときは、すごく安心しました。
――この作品は、主人公の有馬公生の姿を通して演奏のあり方について問いかけてきます。小関さんは、どういうものが良い演奏だと思いますか。
僕自身、いろんな楽器をやっていることもあり、ライブを観に行ったときは各セクションの演奏に耳を傾けています。「今日はドラムに耳を傾けよう」「次はベースを聴こう」というふうに。そうやってさまざまなセクションの音を聴くことが楽しみなんです。で、「今回のサポートメンバーは最高だな」と思ったりして。
小関裕太
――かなり細かい聴き方をしていらっしゃるんですね。
アーティストの方と話すときも、「サポートのドラムの人の音の出し方がすごかった」と感想を伝えると、「よく気づいたね。そう、彼はイケてるんだよ」とか、そういう話になるんです。それらを踏まえて「なにが良い演奏なんだろう」と考えたとき、僕は人それぞれの遊びの入れ方なんじゃないかなと思っています。味付けというか。正確無比なものを求める方もいらっしゃいますけど、僕は味付けを欲しがる人の演奏を聴くのが楽しい。たとえばドラムも「ツー・ツー・ツー・ツー」ではなく、「ツー・ツー・ツーツカ・ツー」みたいな。そうやって味を足して、公演ごとに違うものを観せてもらえると得した気分になれますね。
――その気持ちはすごくわかります。
「ドラムが前に出たから、ベースも対抗する瞬間」とか、あるじゃないですか。そうなるとボーカルもどんどん上がっていく。そして曲全体のボルテージも上がる。あと「今日は気温が良いから」とか、「寒いから」とか、ちょっとした環境の違いでも演奏が変化するものも素敵ですよね。良いものは、今日は今日なりの演奏がある感じがするんです。
――今のお話を聞いてもわかるのですが、小関さんはかなりマニアックな音楽の聴き方をしていますよね。
小さいときは普通に歌や歌詞を聴くことが好きでした。僕の父親も音楽が好きで、カセットテープを車の中で流して、TUBEさんとかを一緒に聴いていましたから。それから楽器を触るようになって、今まで歌声だけしか聴こえなかったものが「ギターのアレンジがすごい」という鑑賞の仕方に変わり、耳もどんどん開発されていきました。
小関裕太
――開発というと?
いろんな音が聴こえるようになったんです。それから自身で演奏を試すようにもなりました。あと、アーティストの方々と直接お話をする機会が増えたのも大きいです。「アルバムの最後の曲が終わってから、あえて10秒の間を作っているからそこも気にしてほしい」というふうに作品のこだわりを伺ってから曲を聴くと、確かに味わい方が違ったりする。その10秒の間というのが、「このアルバム、良かったな。あの演奏はこうなって」と余韻を噛み締められる絶妙な時間感覚になっていたりして。音楽にはたくさんのこだわりと楽しみ方があることに気づかされます。
――そうやってじっくりと音楽を聴いて、考えることはすごく大切ですよね。
最近はSNSで流行させることが中心になっている。だから、何事も移り変わりがめまぐるしいし、次々と話題が押し寄せる。そういうSNS上で曲を聴かせるためには、「伴奏がなくていきなり歌詞から入っていく方が良い」と聞きました。確かにアタマから印象的な歌と歌詞がこないと、SNSでは飛ばされちゃいそう。それが良いか悪いかではなく、「そういう流行も考えた上で曲は作られているのか」といろいろ知れることが嬉しいんです。
――たとえば小関さんはスティーヴィー・ワンダー、レイ・チャールズなどがお好きですよね。長年、ずっと聴き続けていても新しい発見はありますか。
たくさんあります。実は昨日、大阪に来たとき、音楽家の方とお会いしていたんです。その方がキーボードを弾いてくださって、「すごく1970年代っぽい音ですね」と言ったら、「そうそう。だけど実はこれは70年代にはなかった音なんだよ。当時をイメージした、現代の新しいサウンドなんだ」と教えてくださって。懐かしさがあるのにサウンドが新しいのか、と驚きました。そういう話のあとでスティーヴィー・ワンダーの曲をあらためて聴いてみると、また印象が変わるんです。出会う人によって、音楽からより多くの発見をすることができるんです。
小関裕太
――小関さんはもはやミュージシャンの域へ来ている気がします。現在ではさまざまな場で演奏も披露されていますよね。その始まりは2016年11月。ご自身のTwitterアカウントで「弾いてみた」とピアノ演奏を投稿されました。あの当時は、誰かに演奏を見せることへの緊張はありましたか。
すごく緊張しました。もともと自分がリラックスするためにピアノを弾いていただけなんです。「いつかパフォーマンスを披露しよう」と見据えたものではなかったし、自分でSNSに投稿したものの「間違えていたらどうしよう」と考えていました。だけど、演奏を見せることで誰かが元気になれるかもしれないと感じ、それから人前で弾くようになりました。
――この先、音楽への取り組み方もより深くなりそうですね。
個人的にはどんどん掘り下げていきたいです。あと、それを芝居に活かしたい。耳を開発していろんな音域が聴こえるようになったのは、僕の個性であり、自分にしか表現できないものだと思います。俳優はいろんな人物を演じますが、一方でリアルさから生まれる芝居のすごさもある。だから自分が持っているものを今回のミュージカルにも取り入れたい。僕だけが出せる味わいみたいなものを確立できるように、これからもしっかり作品に向き合っていきます。
小関裕太
取材・文=田辺ユウキ 撮影=高村直希
公演情報
【兵庫】6月16日(木)〜18日(土) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール