美弥るりか×花乃まりあ×剣幸「3人でいると家族みたい」~Musical『The Parlor』インタビュー
(左から)花乃まりあ、美弥るりか、剣幸
小林香演出、美弥るりか主演で、2022年4月29日(金・祝)より東京・大阪にて、Musical『The Parlor』が上演される。
パーラーのあらすじは以下の通り。
しかし、パーラーの常連である、幼い娘を育てるシングルファーザーの巧(植原卓也)、クロスドレッサーのザザ(舘形比呂一)、ゲーマーの主婦アリス(北川理恵)はパーラー閉店に反対する。
そこへ、大手おもちゃメーカー・トイッスルの社長で父親である草笛遊史(坂元健児)に引き取られた、朱里の妹の灯(花乃/二役)が朱里を訪ねて、パーラーに現れる。灯は亡くなった母千里と瓜二つだった……
複雑なテーマ性と人間模様が描かれる今作は、小林香の作・演出による完全新作のオリジナルミュージカルだ。本作について、主演の美弥るりか、花乃まりあ、剣幸の3人に意気込みをうかがった。
ーー本作は完全新作のミュージカルになりますね。まずはオファーを受けた時のお気持ちをお願いいたします。
花乃:今回の『The Parlor』は演出の香さんが長年温めていた作品ということで、そんな作品に参加できることを嬉しく思っています。
そして、素晴らしい先輩方とご一緒できて、とても光栄です。稽古がはじまってまだそんなにお時間は経っていないのですが、皆さんと共に家族を演じさせていただけることが嬉しくて、うきうきと稽古場に通っています。
美弥:香さんとは2回目のお仕事になります。前回はコロナ禍の影響もあり、当初の演出と大きく変わってしまった作品だったんです。
ただ、いま、少しずつ舞台自体のあり方が変わっていって、ようやく新しい形を見つけて踏み出そうとしている。そんな、光が見え始めているっていう時期に、香さんが「描きたかった」作品ができることは素敵なことだと感じてます。
美弥るりか
剣:私は香さんの作品には2度、出させていただいてるんですが、最初は50代の時におばあさん役をやりました。次は5役の演じ分けで、その中にはおばあさん役もありました。そして今回もおばあさんです(笑)。いまや年齢も追いついてきて、回想シーンの方が大変ですが、お声をかけていただいて、とても嬉しかったです。
ーーみなさん、演出家の小林香さんとはお仕事をされていらっしゃいますね。
剣:そうなんです。私は、『Indigo Tomato』というオリジナルミュージカルでもご一緒してますが、香さんは作品を作るときに膨大な資料と時間を費やしていらっしゃいます。それを提供してくださり状況を細かく説明してくださいます。
ーーMusical『The Parlor』は日本のジェンダーギャップ指数が120位であることや、小林香さんが生活の中で「どうしてだろう?」と感じている性差やジェンダーロールに関してのことを扱っているとお聞きしました。
美弥:実は、この間、全員で2時間くらい、ジェンダーについて話し合ったんです。香さんから「どう思ってる?」という形で声をかけていただいて。私自身は「男だから」とか「女だから」とかではなく「人間として」相手を見たいと思っているから、あまり考えてこなかったことも多かったのですが、香さんは色んなことに疑問を持っていらっしゃって。
花乃:私もあまり意識して考えてこなかった問題でもあったので、これをきっかけに自分なりの考えを持てるようになれたらと思います。
剣:世の中の80%の人が思う枠からはみ出してしまうと、生きづらい。この作品の舞台となるパーラーは、そんな人たちも普通に生きられるよう語り合える場として描かれ、そしてそれが続いていく。登場するのは3世代ですけど、実際には4代続いてるんです。阿弥莉の母親(朱里から見た曾祖母)が談話室を立ち上げたんですね。その時代って、男性中心の社会で、女性は給仕したらすぐにお勝手に下がる、というように、お手伝いさん的な立ち位置だったんです。そんな時代に談話室というものを作って、みんなの話を聞くという場所を提供した。それが、私の演じる阿弥莉では美容室に、娘の千里の代では喫茶室にと時代とともに変化していった。そして、今回は孫の朱里が帰国したところから物語が始まります。
(左から)花乃まりあ、美弥るりか、剣幸
ーーそれぞれの役柄についてはいかがですか。
花乃:私は母親の千里と、美弥さん演じる朱里さんと妹・灯を演じます。灯は、おもちゃ会社の社長である父親に引き取られて、自分が生まれ育った環境とかに、あまり疑問とかを持たずに生きてきた人なんです。そして、過去にあった悲劇も知りません。彼女なりにまっすぐ育ってきた人ではあるのですが、ちょっと世界が狭い人なんです。そんな彼女がパーラーに一歩足を踏み入れたことで、自分の世界が広がっていくという部分が描かれている役です。
もう一役の千里さんは、故人になります。彼女に関しては台本の中にも、『ポカポカした陽射しみたいな人だった』という表現があるんです。もし、自分が『陽射しみたいな人』と言われたらどんなに嬉しいだろうなって思っています。
美弥:私は円山朱里という役を演じます。朱里は16歳の時に新作のゲームを発表してからは、ずっと海外に住んでいる特殊な世界に暮らしている人です。
ただ、特殊とは言いましたけど、今の自分と同じ性別、そして国籍が日本人って役は、私自身はほとんど演じたことがなくて。今まで個性的な役をいただくことが多くて、悪役とか、世紀の色男とか、なんだかくどい役が多かったので新鮮です(笑)。稽古中にも香さんに、「もっと普通に!」と言われることがあるのですが、どうしていいか分かりません、ぎこちなくなっちゃう。もうカチカチのロボットみたいな状態で稽古しています。
剣:私の演じる阿弥莉は美容師です。自分のカットでその人の人生を少しでも明るく幸せに出来たら…と思っていた人です。ただ、ゴッドハンドの美容師と言うことで、どうしようかなと考えています。うまくできるのかな……?
花乃:稽古場で、ハサミくるくる回されてましたよね! 十分ゴッドハンドです!
美弥:私も見逃してないですよ! 回ってました!
剣:香さんに「映画『シザーハンズ』みたいなイメージで」って言われ……(笑)。私、帽子を回すの好きだから、まわしてみたけどうまく回らなかった。
花乃:私は真似してみましたけど、落としちゃいましたよ、剣さんみたいに回せないです。
花乃まりあ
ーーカンパニーの楽しそうな雰囲気が伝わってきます。それぞれの印象をお願いいたします。
花乃:剣さんは、神様みたいな人です……こう、愛が大きくて! 私が、以前、『ME AND MY GIRL』(宝塚花組公演)に出演した時、剣さんがビルを演じた時の公演映像を何度も拝見しているんです。私にとってビルとサリーはとても大事な人たちです。ビルはいつも全部笑い飛ばしてくれて、サリーを包み込む大きな愛を持ってるっていうのが大好きだったんです。実際に剣さんにお会いして、本当にビルみたいな方だなって感じました。
そして、美弥さんは同時期に在団させていただいていたので、いつも舞台を拝見してました。ご本人もおっしゃっていましたけどやっぱり、この美しさからなのかちょっと浮世離れした役がとても多い印象は、私も持っていました。なので、かなりミステリアスな印象を抱いていました。お会いするまでは、どんな方なんだろう……ってドキドキしていたんですが、本当に飾らない素敵なお人柄です。
美弥:実は一度だけ、在団中に花乃ちゃんと話したことがあるんですよ。私ひとりじゃなくて、男役何人かで話しかけたんです。廊下を歩く花乃ちゃんがあんまり可愛かったって理由なんですけど……(笑)。何を話したか私も忘れちゃいましたが、その時もすごく自然にお話ししてくれて嬉しかったです。
花乃:え……! 私なんて答えたんだろう……。
美弥:覚えてないと思うよ、忙しそうだったから(笑)。そんな彼女が、卒業後もひとりの表現者として、満足せずに進んでいっている姿がとても力強く感じています。
剣さんに関しては、すいません、ここでちょっと熱く語っちゃいそう……(笑)。私、剣さんがトップ時代の大ファンなんです……! 私がファンで見てた時って、トップさんであり“男役”さんなんですね。ただ、今感じているのは、剣さんが素敵だったのは、“男役”としての魅力だけじゃなかったっていうことです。人間としての魅力が溢れ出ていて、それに私は惹かれていたんだなって。本当に神様みたいな人なのです、優しくて、愛が深くて、懐も広い。剣さんの出ていらっしゃる作品で、好きなものはたくさんありすぎるので、ここでは語ることは遠慮しておきます(笑)。
剣:美弥ちゃんも花乃ちゃんも、かわいいこと言ってくれるねぇ! やっぱり同じ宝塚で育ってきたからこそ、家族っていう関係性を一から構築しなくても、雰囲気が同じと感じています。なので、お稽古場で香さんが「3人でいると家族みたい」って言ってくださったのがすごく嬉しくて(笑)。
この間、私のペンが稽古場でなくなったんですね。「あれ? 私のペン知らない?」って聞いたら、美弥ちゃんが「あっ、私が使ってました!」って持ってたり、逆に、私が「よいしょ」って座った椅子が美弥ちゃんの席だったり(笑)。そんな感じで、もうすっかり馴染んでます。
剣幸
ーー家族としてのみなさんを劇場で見れることが、とても楽しみです。
花乃:こうやって宝塚の先輩方と『家族』という関係性を演じることはもう二度とないと思っています。とてもデリケートで、難しい作品だと思いますが、香さんがずっと温められていた題材ですので、楽しんでいただけたらと思います。
美弥:私の演じる朱里は、母を亡くしたことによって、心を閉ざした女性です。世界中で暮らしながらも、人と関わることを避けています。そんな彼女が祖母に呼び出されてパーラーに戻ってくることで、再び、人と向き合わなければいけなくなります。
剣:朱里がゲームを作る人なので、ゲームの世界が出てきます。でも、考えたら、人生自体がゲームみたいなものですよね。
人生は選択の連続なんですよね、でも、それは必ず自分で選ぶことが出来るんです。この作品は、女性が『前向きに明るく元気になる』ということと、受け継がれていくということもテーマだと感じています。観劇した後に、皆さんに勇気を与えられて「私も頑張って生きていこう」というふうに感じていただけたら嬉しいです。
(左から)花乃まりあ、美弥るりか、剣幸
Musical『The Parlor』は東京よみうり大手町ホールにて、4月29日(金・祝)~5月8日(日)。兵庫公演は兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて、5月14日(土)~5月15日(日)上演される。
■美弥るりか
ヘアメイク:丸山智路(LA DONNA)
■花乃まりあ、剣幸
ヘアメイク:miura(JOUER INTERNATIONAL)
■美弥るりか、花乃まりあ、剣幸
スタイリスト:津野真吾(impiger)
■衣装クレジット
美弥るりか/Wild Lily
花乃まりあ/CUCINA
剣幸/Wild Lily
取材・文=森 きいこ 撮影=鈴木久美子
公演情報
作曲・編曲:Alexander Sage Oyen
日程:2022年4月29日(金・祝)~5月8日(日)
会場:よみうり大手町ホール
日程:2022年5月14日(土)、15日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール