池上直子、二山治雄×宝満直也にインタビュー~​Dance Marché『星の王子さま』で描かれる、愛と成長のファンタジーの裏に込められたテーマとは

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2022.4.18
(左より)宝満直也 二山治雄 池上直子 撮影:大洞博靖

(左より)宝満直也 二山治雄 池上直子 撮影:大洞博靖

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​Dance Marché vol.10 Dance Performance ダンサー育成プロジェクト第5弾『星の王子さま』が、2022年4月27日(木)~28日(金)にスクエア荏原 ひらつかホールにて上演される。Dance Marché(ダンスマルシェ)主宰で振付・構成・演出を務める池上直子は、物語のあるドラマティックなダンスに挑み新生面を切り拓いている。星の王子さまは、ローザンヌ国際バレエコンクールで優勝しパリ・オペラ座バレエ団契約団員として踊った二山治雄。パイロットは、新国立劇場バレエ団、NBAバレエ団を経てフリーとなり振付家としても声望を高める宝満直也。小倉大志によるオリジナル楽曲の生演奏、長谷川匠の舞台美術もあいまって紡がれる愛と成長のファンタジーに期待が集まる。池上と二山×宝満に作品の魅力や意気込みを聞いた。

■池上直子(振付・構成・演出)インタビュー

池上直子

池上直子

――『星の王子さま』をダンスにしようと思われた理由をお聞かせください。

池上直子(以下、池上):「キャナルアートモーメント品川 2020」で初演し、今回は改訂再演になります。小倉大志さんの音楽で何か物語のある作品を創ることになりましたが、もともと『星の王子さま』を凄く好きというわけではなかったんです。原作を読むと“いちばんたいせつなことは、目に見えない”と何度も言われるのが少ししつこい。愛と成長の物語ですが、私の中での裏テーマは喪失です。喪失を知っているからこそ、本当のことは目に見えないと気付く。愛と成長の裏には必ず喪失があるということをあえてテーマにしようと思いました。

――星の王子さま、パイロットそれぞれに対するイメージはどのようなものですか?

池上:星の王子さまはバラを失いますが、星めぐりをしていろいろな人に会い、さまざまな経験をして、時に必ずバラを思い出す。「どうしてあの時、僕はあんなことを言ってしまったんだろう……」と回想するのですが、いろいろな人と出会って成長することによって気付く。それで、こどもから”こども大人”になったのかな。私の中で星の王子さまって、全然無邪気じゃないんですよ。こんなに物事を深く考えられる子供っていますか?

それはパイロットも同じで、彼は”おとな子供”。喪失を抱えた者同士が砂漠で出会い、お互いが前向きに生きていく。原作が書かれた時代は今とちょっと似ていて、パンデミックもあるし、戦争も起こっていました。規制があればあるほど失うものって多くなりますよね。だから空が唯一の自由であり希望なのでパイロットになったのかなって思います。パイロットとは関係ないんですが、戦争というシーンを入れているんです。自由への原動力は規制だったり、喪失だったり、つらい過去だったりします。そういうエッセンスも入れました。

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

――星の王子さまは二山治雄さん、パイロットは宝満直也さんです。

池上:ふたりともイメージにぴったり。バランスもいいのでお願いしました。二山くんは年齢を余り感じないし、中性的なのが魅力です。星の王子さまに対して、女の子のイメージは全くありませんでした。そこで、男の子で20代で動ける子って誰がいるだろうかと考えていたら、「あ、一人いる!」って思い付きました。宝満さんには以前一度私の作品に出ていただきました。落ち着きがあって、王子さまを温かく見守っている感じがいいですね。

とにかく王子がずっと踊っているんです。原作では語り部のパイロットは、最初と最後の三幕にしか出てきません。今回は星の王子さまが最初から最後まで語っている形で、王子さまの物語です。二山くんは大変だと思います。彼がこんなに踊る舞台は他では観られないかもしれません(笑)。二山くんはレッスンから参加してくれて、私の踊りに近づけようとしてくれています。その上で果敢にチャレンジします。そこに躊躇がないですね。

宝満さんには『牡丹灯篭』(2020年、大和シティー・バレエ「日本の怪談」)の時にご一緒しましたが、振りを渡すと練習し、考え、踊りこなしてくるんです。本人に任せても、私の踊ってほしい踊りに付いてきてくれて、本番に向けてどんどん積み上げてきてくれる。作品を締めてくれるし存在感もある。期待に応えてくれるという信頼があります。

――リハーサルの手応えは?

池上:今回はカンパニーのメンバーを全員役付きのソリストにしました。皆2つ、3つの役を踊るんです。蛇もやって狐もやって、戦争のシーンもやってというように。アンサンブルは重要だけど、責任を果たして踊らなければと思ってもらうために役付きにしました。だから皆の意見も聞きながらクリエーションをしています。たとえば、星の王子さまには3人の分身がいる設定です。独りぼっちの彼は妄想の中で分身とお話をしていたのではないかと。そこで3つの分身それぞれキャラクターを創って性格分けをしましたが、そのために皆で話し合いました。主役だからとかアンサンブルだからというのではなく一人一人が立っています。雰囲気もいいですね。

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

――小倉大志さんのオリジナルの音楽、しかも生演奏です。そこもこだわりですね?

池上:「こういう音楽が欲しい」という曲を創ってくれます。音楽が先にできていないとイメージして振付ができないので、そこが難しいですね。生演奏で合わせる時に発見があって、「このメロディ、この楽器で弾くの?」みたいに気が付いて、「もっとこういう振付にすればよかったかな」と思う時もあるんですが、それも含めて生演奏で踊っているのは観ていても楽しいですね。それがお客様にも伝わればいいなと考えています。

――美術を手がける長谷川匠さん(建築家)とは初めてですね?

池上:釣り物はほとんどなくて道具です。長谷川さんが美術を手がけられた舞台はビジュアル的に凄くきれいですが、今回は舞台セットの一部として使いたかったので提案しました。物語がある場合、その一部として舞台美術が重要な気がします。

――本番への期する思いをお願いします。

池上:私が伝えたいメッセージをちゃんと作品にのせてお客さんに届けます。どう受け取めて解釈するのかはお客様の自由ですが、「私はこれを伝えたい!」ということを最大限伝える作品にします。コンテンポラリーダンスって、そこが独りよがりになりがちじゃないですか?物語プラス伝えたいことを最大限伝えたいですね。愛と成長のファンタジーですが、裏に喪失感があるがゆえです。そこを随所から感じ取ってもらえれば。踊り・演出・照明・装置・音楽とか全部含めて創り上げますので、そこを楽しんでいただきたいです。

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

 

■二山治雄(星の王子さま)×宝満直也(パイロット)インタビュー

(左)二山治雄 (右)宝満直也

(左)二山治雄 (右)宝満直也

――池上直子さんとの出会い、今回の出演の経緯を教えてください。

二山:今回が初めてです。人伝いでLINEをいただきました。『星の王子さま』それにコンテンポラリーということで、今までやったことのない挑戦ができるチャンスだと思いました。

宝満:以前直子さんの作品(大和シティー・バレエ「日本の怪談」の『牡丹灯篭』)に出させていただいたのが最初です。今回フリーランスになるタイミングで声をかけていただきました。

二山:直子さんに実際に初めてお会いしたのはフライヤー撮影の時でした。今年の1月、雪も降る氷点下の中、上半身裸で、脚立にのってポーズして(笑)。直子さんは最初から気さくでした。

『星の王子さま』フライヤー 宣伝写真:長谷良樹

『星の王子さま』フライヤー 宣伝写真:長谷良樹

――題材が『星の王子さま』だと聞いて何をイメージしましたか?

二山:すぐに思いついたのは(原作の)挿絵ですね。凄く印象的なので。でも、どんなストーリーだったんだろうと。

宝満:もちろん存在は知っていましが、深くは知らなくて。でもミュージカルやダンス公演の題材になっているのは結構あるので、いろいろ観ていましたし、映画も観ていました。それでもつかみどころがないイメージがあったので、いざ自分がやるとなった時に深く調べました。

――星の王子さまが二山さん、パイロットが宝満さん。ダンスマルシェの方々が星巡りや王子の分身として出るそうですね。池上さんのクリエイションに参加してどんなことを感じますか?

宝満:人の振付を踊るのは、その人の感性・価値観に触れることだと思うんです。テーマは『星の王子さま』ですけれど、それを忠実に再現することがゴールではない。直子さんがどう捉えているのかをリハーサルを通して感じながら、どう考えていくのか。最終的に舞台上でやるのは自分だから、自分が腑に落ちないことはできない。僕は自分が違うなと思うと言ってしまうタイプなのですが、そこを直子さんも聞いてくださるので、すり合わせながらやっています。

二山:クリエーションの経験があまりないので、一から創りあげる一員になれたことがうれしいです。普段踊っているクラシックとは違って、役になりながらも自分の中でどう表現したいのかを考えて創り上げていかなければいけないのが課題です。振りをやるだけでなく、もっと深く掘り下げて「この時はこういう流れだからこういう振りになっている」とか、そういうことを考えさせられます。自分の表現力と感性を高められます。それプラスそれぞれ役割・責任があるいろいろな方々と話し合い、共有しながら創り上げていくのが刺激的で新鮮ですね。

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

――池上さんによると、星の王子さまは、子供から”おとな子供”になった存在だそうです。

二山:不思議と何も考えずに入ることができた感じです。受け入れられました。

――いっぽう、宝満さんの演じるパイロットは、大人のふりをした”こども大人”だそうですね。

宝満:”こども大人”っていうのは割と具体的というか、実際、みんなそうなんじゃない?みたいなことがどこかにあると思います。僕は32歳ですが、世間的・社会的に見て若いんだけど、もの凄く若くはなくなってきました。20歳の頃は舞台に立てるだけで幸せでしたが、今は意識していないと自分の原点を忘れてしまいそうだと感じます。自分のやりたいことしかやって来ず、自分の感性に正直に生きてきた分、そこは失っていない自負はあるんですけれど、気を付けないとそうなっていくんだろうなと。そう体感的に直面するような年齢になってきたところで、若い治雄くんとリハ―サルをさせてもらって刺激を受けています。治雄くんとは全然ストレスがなく普通に一緒に居られる。僕はあまり器用に人と付き合うタイプではないのですが、治雄くんとはやりやすい。この関係性が舞台上でどうなっていくのかが楽しみですね。

二山:全く同意見です。お会いしたのは今回が初めてなのですが、壁はなく、普通に背中を預けちゃっていいのかな?っていう感じでリハーサルに臨めています。

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

『星の王子さま』リハーサル 撮影:大洞博靖

――お二方ともこの春からフリーとして本格的に活動されますね。新たな旅立ちで『星の王子さま』に出会いました。そのことへの思いは?

宝満:リハーサルをしていないと、体がどんどん動かなくなっていきます。直子さんには凄いタイミングで声をかけていただきました。こんなに早くリハーサルを昼間からやれる日々が来るとは思っていなかったです。創ることに重きを置くためにフリーランスになったのですが、踊ることは好きです。踊れるうちは踊っていきたいと思うので、ありがたいの一言です。

二山:ありがたいことにコロナ禍になって帰国してからもお仕事をいただけています。でも、僕は不器用なので、目の前のことを着実にやっていくのが性にあっています。これもやり、あれもやり、というのができないので、今は『星の王子さま』にフォーカスを向けてやっています。このご時世で、こうして舞台で踊れるという幸せな立場にいることを実感しながら、自分の目的を持ってお客様に届けられればいいなと思います。

【動画】DanceMarcheダンスマルシェ「星の王子さま」トレーラー

 

――最後にあらためて、本番にむけて期する思いをお聞かせください。

二山:直子さんに直接指導してもらえるのは幸せです。大変ですが、実際に経験し吸収したものが舞台に出ます。楽しみながらプラス深めて、掘り下げて、最終的にお客様に楽しんでいただければいいですね。一つひとつのリハーサルが僕にとっては大事な時間で、毎回毎回が新鮮で新しい発見があるので、それを積み重ねて頂点に持っていければ。

宝満:自分がやる意味がないというか、「それ僕じゃなくてもいいのでは?」というのが嫌です。誰に何を求めているわけではないんですが、それを自分で見つける作業を本番まで大切にしています。このメンバーじゃなきゃ駄目なものを見つけたいので、リハーサルを重ねて、直子さんの感性・価値観を感じ取っていきたいです。どんな作品になるのかは本番まで分かりません。お客様に観ていただいて初めて作品に魂が入ると思います。とにかく楽しみですね。

取材・文=高橋森彦

公演情報

Dance Marché vol.10 Dance Performance
ダンサー育成プロジェクト第5弾
『星の王子さま』
 
【振付・構成・演出】
池上直子

【​キャスト】
星の王子さま:二山治雄
パイロット:宝満直也
ダンサー:大上のの 冨岡瑞希 小泉朱音 児玉彩愛 弘田アンリ 東百音
 
音楽監督:小倉大志
音楽:​​​​OGURA TAISHI PROJECT
Saxophone,Composition 小倉大志
Accordéon 青木まさひろ
Violin 廣田碧
Cello 三谷野絵
Bass 長谷川慧人
Percussion 赤瀬楓雅
​美術:長谷川匠​
 
【公演日時】
2022年4月27日(水)〜28日(木)
4月27日(水)19:00開演
4月28日(木)14:00開演 18:30開演
(全3公演)
​※開場は開演の30分前、ロビー開場・受付開始は開演の60分前。
※開演後の入場は演出の都合上お待ちいただく場合がございます。
※未就学時入場不可。
※車いすでご来場の方は事前にご連絡お願いいたします。

料金】
全席指定席
S席5500円 A席4000円
 
【場所】
スクエア荏原 ひらつかホール(東京都品川区荏原4-5-28)
電車/東急目黒線武蔵小山駅、東急池上線戸越銀座駅・荏原中延駅徒歩10分都営浅草線戸越駅徒歩12分バス/東急バス 五反田駅西口8番乗り場「世田谷区民会館」行「平塚橋」下車徒歩5分​
 
【staff】
照明:前田文彦
舞台監督:渡辺重明
音響:​​​​SoundGimmck
衣裳:小野りか
美術製作:生駒研介
ヘアメイク:北原義紀・井上唯 (SORA)
記録写真:大洞博靖
記録映像:林裕人
宣伝写真:長谷良樹
宣伝デザイン:福井直信
宣伝映像:木原丹
協力:田島誠治 studioOVA  バレエスタジオRISE YUNOBALLET クラウドファンディングサービスReady for シバイエンジン
広報:今村佳奈
制作:後藤かおり
プロデューサー:福原秀己
主催:ダンスマルシェ
 
[新型コロナ感染症感染拡大防止対策ご協力のお願い]
本公演は感染拡大防止対策を徹底し、開催いたします。
※来場者すべてのお客様にマスクの着用をお願いいたします。
※公演当日、検温、手指消毒を行います。ご協力お願いいたします。
※ウイルス感染拡大によっては公演内容に変更が生じる場合がございます。その場合でも、公演が中止になる以外の払い戻しにはお応えできませんので、ご了承の上をお買い求めください。その他、詳細はDance Marcheホームページよりご確認ください。

公式サイト:https://www.dance-marche.com
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