『OTODAMA'22~音泉魂~』2日目ーー「なんかもうカオス!」だけど「これがやりかった」必然に満ちたドラマチックなラインナップ

レポート
音楽
2022.5.20
『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』

『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』

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『OTODAMA'22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』2022.5.7(SAT)大阪・泉大津フェニックス

2年ぶりの『OTODAMA』の初日(=昨日)は、「BACK TO THE OFURO」ならぬ「BACK TO THE 90's」な、あの時代を思い出さずにはいられない、そしてそれぞれが今も現場で精力的に活動していることがうれしくなる、超強力なメンツが並んだ日だったが、2日目は、そんなコピーが付けられない、なんかもうカオス! としか言いようのないラインナップになった。

音楽ジャンル的にも、あれこれ幅広くてカオスだし、大学を出たばかりの風呂ントアクト=ヤユヨから、結成33年(全員今年で53歳)のフラワーカンパニーズまで、キャリアの長短もカオスだし、『OTODAMA』と(もしくは清水音泉と)密接に関わってきたアクトもいれば、初出場のアクトもいる、という意味でもカオスだし。これは3日通してだが、普段は他のイベンターと仕事をしているアクトも多い。

ヤユヨ 撮影=オイケカオリ

ヤユヨ 撮影=オイケカオリ

そうだ。その「普段は別のイベンターのバンドが多数出演」の件。初日レポ担当のライター・鈴木淳史もそれに触れているし、清水番台も「今回、普段携わってないバンドにも多数お声がけしたのは──」と、ブログにその理由を綴っておられたが、さらに僕も補足しておきたい。最初に今年のラインナップが発表された時に僕が驚いたのは、まさにそこだったので。イベンター、またがっとる! 例年なら清水音泉のバンドが過半数なのに、今年はよそのバンドがめちゃめちゃ出る! という。

これ、オファーを出した清水音泉側も英断だと思うし、オファーを受けたバンド側も素敵だが、それを認めた他のイベンター各社の心意気も、スルーしてはいけないと思う。だってそうでしょ。よそのイベントより、うちのイベントに出てほしいでしょ、そりゃあ。普段面倒を見ているのは、うちなんだから。

でも、今は、よそだのうちだの言っている場合じゃない。『OTODAMA』が成功してくれないと、うちらも困る。とにかくみんなでバックアップしなきゃ、ということだったのではないか。関西のライブ業界総出で、コロナ禍で受けたダメージから立ち上がろうとしている、そんな特別な年だからこそ実現した、特別なラインナップ。清水音泉や出演アーティストたちの意志だけでなく、他のイベンター各社等の意志もこめられたがゆえのブッキング。僕は、そんなふうに受け取った。熱い。と、勝手に感動しといてなんですが、単純に「ゴールデンウィークに引っ越して、他の夏のイベントと時期がずれたから、出やすくなった」という側面もあると思います。

『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』

『OTODAMA’22~音泉魂~“BACK TO THE OFURO”』

あと、翌週末に堺の「海とのふれあい広場」で開催される『METROCK2022 OSAKA』と、アクトが7つかぶっている、だからそっちを選んだ、というファンもいた、というデメリットもある。がソールドアウトしなかったのは、それも大きいだろうな。まさに一長一短。ううむ。

それから、「BACK TO THE OFURO」というコンセプトどおりに、清水音泉ゆかりのバンドたちが大集結している、という側面に関して。

この日だと、フラワーカンパニーズ、UA、サンボマスターは、第1回の2005年に出ているし、他の日だとGRAPEVINEやTHE BACK HORNもそうだ。フラワーカンパニーズは2014年の、キュウソネコカミは2015年の、クリープハイプとOKAMOTO’Sは2019年の、トリを飾っている。トリを務めるはずだった2018年が台風で中止になり、翌年の2019年は自身の横浜スタジアムワンマンと日程がバッティングし、その後活動休止したので、(今のところ)出演できなくなったSuchmosからは、昨年夏よりソロ・アーティストとして活動を始めたTAIKINGが、この2日目に出演した。

というふうに、新旧含めて各アクトと『OTODAMA』のヒストリーやストーリーがてんこ盛り、という意味では、「これがやりかった」という必然に満ちているし、ドラマチックでもあるラインナップなのだが。ただし、音楽的には、カオスだった。

フレデリック 撮影=渡邉一生

フレデリック 撮影=渡邉一生

かといって、頭から最後までグシャグシャなのかというと、そうでもない。大浴場ステージのトップ=フレデリックと、露天風呂ステージのトップ=TAIKINGの二連発は、四つ打ちダンス・ロック→ソウル/ファンクに根付いたAOR、という「バンドによるダンス・ミュージック」の流れが組まれていた。

後半の04 Limited Sazabys→HumpBack→My Hair is Bad→サンボマスター→キュウソネコカミ、は、ライブハウスの最前線にいる、パンクもしくはパンク・テイストのギター・ロックの、新旧のトップランナーたち、というふうにカテゴライズできなくもない。

と、書いてわかった。つまり、中盤=フラワーカンパニーズ→打首獄門同好会→OKAMOTO’S→人間椅子→クリープハイプ→UA、の時間が、わかりやすくカオスだった、ということですね。そういえば、露天風呂ステージに立った打首の大澤会長は、「このあと人間椅子だよ? そのあとUAだよ? そんなこと、『OTODAMA』じゃなきゃやらないね!」とMCで言っていた。

打首獄門同好会 撮影=渡邉一生

打首獄門同好会 撮影=渡邉一生

「『OTODAMA』は他のフェスとちょっと違うから、テンションが上りすぎてるけど」

「ごめん、前半、テンションが上りすぎちゃって」

「(自分が)今日、わけわかんないテンションだと思うでしょ? 『OTODAMA』だけだよ、こんなテンション」

とも口にした大澤会長は、ちょっと前に作ったが音源リリースはしていない新曲「地味な生活」を、「このフェスに合わせたと思わせる歌詞がある、そう思ってもらってけっこうです!」と前置きしてから、プレイした。コロナ禍で地味な生活を強いられていてもうイヤだ、温泉行きたい旅行に行きたい、という歌詞を変え、<OTODAMA行きたい OTODAMA行きたい OTODAMA行きたい まあ来たけどね>と連呼する、この日のためだけの特別バージョン。無論、大ウケ。

フラワーカンパニーズ 撮影=オイケカオリ

フラワーカンパニーズ 撮影=オイケカオリ

1回目からこのフェスと共に歩んできて、2010年の「ミスター小西ジャンピング乾杯骨折事件」や、2015年の初の日本武道館の時のバックアップ企画「フラカン熱湯CM」など、様々な歴史を作ってきたフラワーカンパニーズは、そのわりにいつもどおりの地に足のついたライブをやった。ように見えたが、後でグレートマエカワにきいたところ、「いやあ、ヤバかったわ俺、2曲目までグッときちゃってて。そのあとなんとか持ち直したけど」。泣きそうだったということだ、今年53歳のおじさんが。ラストの「サヨナラBABY」で、オーディエンスの腕が左右にバーッと振られるさま、壮観でした。で、泣けました。

フレデリック 撮影=渡邉一生

フレデリック 撮影=渡邉一生

「開催おめでとうございます。今日もいつもと変わりなく、全員フレデリックのファンにして帰ります。35分1本勝負!」とスタートしたフレデリックは、アマチュア時代にライブハウスで闘ってきた仲間であるキュウソが、この日のトリ、自分たちはトップ、ということに悔しさを表し、「最初のバンドは忘れられがち、それを打ち破りたい、キュウソに負けてられるか!」と「オドループ」で広いフィールドにダンスの渦を巻き起こした。フレデリックの音楽のような踊らせ方って、オーディエンスがディスタンスを取っていても熱が下がらないので、コロナ禍にむいているかもしれない。

TAIKING(Suchmos) 撮影=河上良

TAIKING(Suchmos) 撮影=河上良

TAIKINGが「大阪に来れてよかった」「『OTODAMA』やれてよかった」「ソロでステージに立ててよかった」と何度も口にしたのは、これまでコロナ禍で活動を遮られてきたからゆえだろう。本当に実感がこもっていた。「めっちゃ気持ちいいです」「最高の雰囲気ですね……ほんと最高、眺めちゃってる」と、ステージからの風景に見入る自分にツッコミを入れる一幕もあった。

OKAMOTO’S 撮影=河上良

OKAMOTO’S 撮影=河上良

「今年の『OTODAMA』が公式サイトのタイムテーブルを『コーチェラ』風にしたのに気づいてくれなくて清水さんがぼやいてた、みんな『おもしろい』とツイートしてください」などと、MCの度に言葉が長めになっていたOKAMOTO’Sのハマ・オカモトは「……楽しくなってしゃべりすぎた。曲をやろう」と、自分でそれに気づく。そしてラストは、『OTODAMA』は2019年にトリをやらせてくれた、全国でいちばん最初だった、という感謝の言葉を経て、「90’S TOKYO BOYS」をプレイした。

人間椅子 撮影=オイケカオリ

人間椅子 撮影=オイケカオリ

他のアクトは7曲か8曲なのに、人間椅子は5曲。要は1曲が長いからだが、その持ち時間をフルに使って、ちょい暑いくらいの心地いい晴天の泉大津フェニックスを、異世界に叩き込む。「それでは3人のありがたーい般若心経を聴いてください」で始まった「芳一受難」と、次の「無情のスキャット」が、その異世界っぷりの最たる時間だった。

クリープハイプ 撮影=渡邉一生

クリープハイプ 撮影=渡邉一生

(コロナ禍以降)世の中、どうでもいいものがなくなった。その中で、どうでもいいシャレの効いた『OTODAMA』というフェスが存在していて、そこに出られていることがうれしい──という話から、尾崎世界観は、自分たちを初めてメインステージに立たせてくれたのが『OTODAMA』であることに触れ、「ここから10年は、クリープハイプがこのフェスを支えるつもりでいきます」と宣言してから、最新アルバム収録の「ナイトオンザプラネット」を歌った。

UA 撮影=河上良

UA 撮影=河上良

実に17年ぶりのUAは、「太陽は手に月は心の両手に」で始まり、「リズム」「雲がちぎれる時」最新アルバムから「微熱」、そして「スカートの砂」「AUWA」等と来て「プライベートサーファー」で終わる、もう「殺す気か!」と言いたくなるセットリスト。

UA 撮影=河上良

UA 撮影=河上良

「(AJICOで出演した)一昨日もよかったんですが、今日も露天風呂で、また裸でお会いできて、うれしいです」

「最後までみんな、裸で、子供のように遊んでいてね。バイバイ」

と、裸方面のMCが多かったのは、清水音泉=風呂だから、というのと、UAにとって裸になれる行為が音楽であり、オーディエンスにとってもそんな時間であってほしい、ということですね。

04 Limited Sazabys 撮影=オイケカオリ

04 Limited Sazabys 撮影=オイケカオリ

「『OTODAMA』初参戦です。垣根を超えて声をかけてくれる清水音泉の器のでかさ。でも垣根を超えて呼ばれるフォーリミってかっこいい」(GEN)

とスタートした04 Limited Sazabysは、この日の出演者の中でおそらくもっとも「感染予防でモッシュ等禁止」のダメージがでかいはずだが、そんなの意に介さず、どんどんオーディエンスを熱くしていく。

インターネットは怒りやイライラが増幅しやすいものだ、でも音楽の世界は幸せとかが増幅しやすい。世の中、強い人と弱い人がいて、音楽やエンターテインメントは弱い人のためにある──というGENのMCから、「みなさんの未来と清水音泉の未来に光が差しますように!」と捧げられたラストの曲は「swim」だった。

Hump Back 撮影=渡邉一生

Hump Back 撮影=渡邉一生

徐々に日が傾いて夕焼けになっていく時間に登場、「『OTODAMA』にいちばんいい時間もらってもうた!」と絶叫したHump Backの林萌々子は、後半、「番狂わせ」を歌い終えたところで、「やる予定なかったけどやるわ、新曲やで」と急遽予定になかった「僕らの時代」を追加した。終演後に本人に確認したところ、この時点で予定時間よりだいぶ巻いていたので、咄嗟に追加したそうです。

Hump Back 撮影=渡邉一生

Hump Back 撮影=渡邉一生

その曲が終わって、次のMy Hair is Badを目指して移動している人たちに「マイヘア楽しんで!」と声をかけ、「今からやる名曲を聴かずして行くとは、憎いね」と本音を晒して、拍手を浴びた。そして歌われた「星丘公園」は、「生で聴くのを放棄した人たち、損したなあ」と素直に思える、すばらしい曲だった。

My Hair is Bad 撮影=河上良

My Hair is Bad 撮影=河上良

いつもの、ポエトリー・リーディングのような、アジテーションのような、長いMCで、オーディエンスをあおった後、「……あの子に俺は、心の服を脱いでもらってたのかな、と、今、みんなをあおってて思いました」と、我に返ったことを言葉にし始める、My Hair is Badの椎木知仁。その「あの子」と自分に関して、忘れたこと、覚えていることを、しばし言葉にしてから、その曲=「真赤」へ突入する。ここ2ヵ月で3回ライブを観ているが、いつどこで観てもその日一回限りのドキュメントだ、この人たちのライブは。一瞬一瞬が、一音一音が、常に初めて鳴らしたような切迫感に満ちている。

My Hair is Bad 撮影=河上良

My Hair is Bad 撮影=河上良

大浴場ステージと露天風呂ステージを同じ大きさにした、大小をつけなかった、というのが今年の『OTODAMA』の特色のひとつだが、そのふたつのステージは、前回までの並行に設置される形ではなく、90度になっている。東西南北で言うと、南の端に大浴場ステージがあって、東の端に露天風呂ステージがある、という形。で、ステージのサイズは一緒だけど、会場自体の奥行きとしては、大浴場ステージの方が幾分か広い。

サンボマスター 撮影=オイケカオリ

サンボマスター 撮影=オイケカオリ

サンボマスター 撮影=オイケカオリ

サンボマスター 撮影=オイケカオリ

その人たちがみんな露天風呂ステージの方に来たら、こんなすごい光景になるのか!と思い知らされたのが、サンボマスターの時だった。集まる集まる、みんな。で、腕を降る降る、ジャンプするする。

途中まで山口隆の弾き語り状態で進む「ラブソング」の時、山口の後ろで木内泰央がスマホのライトを左右に降ると、オーディエンスみんながそれに続き、露天風呂ステージのエリア全体が明るくなった。この「スマホの光をみんな降る」って、フェスで定番の光景だけど、2年半ぶりの『OTODAMA』で観ると、とりわけ感動的だった。

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

そしてトリ、キュウソネコカミ。「激ヤバです、激テンション上がってます、早く曲をやりたい」と、たたみかけるように前半を駆け抜け、中盤ではシンノスケが「今日はなんと新曲を持ってきました!」と、5月25日(水)にリリースになる、東京スカパラダイスオーケストラのホーン4人が参加した「優勝」をプレイする。その際に「とあるゲストが来ています!」と呼び込んだのは、そのホーンの4人に扮した、清水音泉清水さん田口さん野原さんと、ヤマサキセイヤのお父さんだった。お父さん、『OTODAMA』のステージに上がるのは、これで三度目。どういうバンドだ。で、どういうフェスだ。

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

続く「OS~清水音泉ぶっ飛ばす~」の<毎年ガラガラ快適だー!>のところで、セイヤ「今年は入ってるぞー!」とシャウト。そして、「この曲を、『OTODAMA』に関わった人たちすべてに捧げます!」と、ラストに「ハッピーポンコツ」をやった。ポンコツだけど周囲をハッピーにしてくれる、音楽愛・バンド愛に満ちたスタッフのことを歌った曲を、そのまま清水音泉にトレースした、ということだ。

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

キュウソネコカミ 撮影=渡邉一生

しまった。1アクトずつ書いていくのは大変すぎるから別の書き方で、と、初日レポート担当の鈴木淳史と示し合わせたのに、気がついたら全部書いてしまった。どうしよう。すまん、淳史さん。『OTODAMA』愛が炸裂するあまり、ステージ上でメンタルがどうかしちゃってるアクトがいかに多かったかを、MCを引用することで伝えようとしたら、結果、こうなってしまった。

でもここまで書いちゃったので、さらに言うと、初日のCloserのclimbgrowも、この日の風呂ントアクトのヤユヨも、CloserのHakubiも、関西のバンドであるという事実が『OTODAMA』のアツいところである(滋賀と大阪と京都)。いつものことながら。

Hakubi 撮影=河上良

Hakubi 撮影=河上良

なおヤユヨは、2019年の『OTODAMA』に、4人で来たそうで、その次の開催である今回、こうしてステージに立っているという事実が、とても感慨深そうだった。そりゃそうだろうなあ。

翌日に続く。

あ、あと、この日のレイザーラモンRGの「映像で入浴宣言」は、スティーヴ・ジョブズでした。

取材・文=兵庫慎司 写真=オフィシャル提供(渡邉一生、河上 良、オイケカオリ)


■初日のレポートはこちら

『OTODAMA'22~音泉魂~』初日ーー「BACK TO THE 90's」と「素晴らしき未来」が繋がった、2年半ぶり開催の奇跡

■3日目のレポートはこちら

『OTODAMA'22~音泉魂~』3日目ーー「これだ!」「戻ってきた!」感覚と「フェス」でしかなし得なかった幸福な空間

■音泉魂写真館(2日目・5月7日編)

大浴場ステージ(2ページ目)、露天風呂ステージ(3ページ目)のライブ写真を掲載中。

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