KAATキッズ・プログラム2022『ククノチ テクテク マナツノ ボウケン』川合ロン×黒須育海〜「不思議な冒険を楽しんで、コンテンポラリーダンスに出会ってください」
『ククノチ テクテク マナツノ ボウケン』舞台稽古より 撮影:大洞博靖
国内外で活躍する振付家・ダンサーの北村明子が、自然と生き物といったモチーフを通して身体や生命について訴えかける作品を手がけている現代美術家・大小島真木とのタッグで、初の子ども向け作品に挑んだKAATキッズ・プログラム『ククノチ テクテク マナツノ ボウケン』が再演される。夏休み、どこにも行けず、ひとりぼっちの男の子が公園で遊んでいると、森の精霊たちに誘われる。不思議な冒険に出た彼は、森の奥で出会った木の神様ククノチから生と死について教えられる。初演に続いて出演の黒須育海(ブッシュマン主宰、コンドルズメンバー)、再演から参加となる川合ロン(山田うん、北村明子など多数の振付家の作品に出演)に聞いた。
【PV公開!】KAATキッズ・プログラム2022「ククノチ テクテク マナツノ ボウケン」|再演
ーー黒須さんは北村作品は本作が初めてですね。お稽古を一緒にやられてどんな感想をお持ちですか?
黒須:僕が大学生の頃、北村さんが主宰していたレニバッソを観て圧倒されました。リハーサルが始まる前から北村さんは下準備をものすごくされる方だと思いました。稽古を開始する前に作品解説を丁寧にしてくださるんです。勉強になりました。
川合:北村さんは個人のプロダクションでも、毎回最初に1時間ぐらい説明をしてくれるんですよ。作品に関わるメンバーがどこに進むか早い段階で共有できるので一体感が生まれやすいんです。
ーーロンさんは北村作品のベテランさんですもんね。北村さんが子ども向けの作品をつくられたのをどうみていましたか?
川合:最初は意外だと思いました。初演は客席で拝見しましたが、子どもたちがすっごい楽しそうでした。でも、決して子ども向けというだけじゃなくて、尖った北村さんの世界だと感じました。
黒須:北村さんと大小島さんのタッグは、生と死というキーワードをすごく大切にしている感じは当初からありました。大小島さんの舞台美術・オブジェから北村さんがインスピレーションを受けて創作している面も感じました。内臓や、身体のパーツたちが舞台上にあって、それらをどう扱うか、大小島さんが発信されたアイデアを北村さんがどう投げ返すか、二人のキャッチボールが見られたんです。
撮影:大洞博靖
川合:僕は今回初めて大小島さんの作品に触れたのですが、チラシのデザインから綺麗さより、恐怖や執念のようなものを感じたんです。その意図を意識しながら作品を見ていたら、命が何に宿っているんだろうということが象徴的にいろいろと表されていた。舞台上ではダンサーの身体と同じくらいの大きさの臓器、あばら骨や耳、心臓などを触ったり持ったりしていると、縮尺を狂わされるというか、ダンサーがすごく小さな生き物として体内を旅してるような気持ちになります。そのファンタジックな世界を旅する中で、命はどこにあるんだろうといったことを探していくのです。そして改めて大小島さんのインタビューや作品を拝見して、生命の集合体としての身体のコミュニティとかエネルギーなどを描いているんだと感じましたね。歴史の集積の中で生まれては消えていくようなエネルギーの循環が、実は作品の不思議さ、怖さ、温かさ、居心地の良さにつながっているんです。実は北村さんもずっとそこにフォーカスして作品をつくられていて、エネルギーの渡し合いとか、物が落ちたり当たったりするときにエネルギーがどう動くかを丁寧に振り付けとして表現していく。そのリアリティを一つひとつの動きに込めていくような作業をやっていらっしゃるので、お二人はすごく親和性があると思います。
黒須:大小島さんはクジラの探査船に乗り、リアルな様子を見て、自分の表現に落とし込まれている方だと強く感じます。ほかの作品からもどんな生き物でも死に、死んだ生き物のおかげで次の生き物が生きることができているということを僕は受け取りました。ご本人は意外にくだけた方なんですけどね。
ーーたくさんのお子さんに見ていただきたいですよね。この作品をどんなふうに紹介しましょうか。
川合:ふだん劇場には来ないお子さんに見てもらいたいですね。この作品ではいつもの堅苦しい感じではなく、もう少し居心地のいい空間になっています。お面をつくったり、床に絵が描かれていたり、僕らと一緒に踊ったり作品に入り込みやすい要素がいくつか用意されているんです。すごく楽しいと思います。
黒須:子どものころ学校帰りの林や路地、薄暗い場所を見るとワクワク探究心が湧いたりする経験はありませんでしたか? この作品はそういう感覚を抱いてもらえると思うんです。僕自身がそういった小学生のときの記憶を思い出しながら作品に携わっています。生々しい形をしたオブジェがあり、その世界に引き寄せられた子どもが遊ぶシーンから始まります。これまで見たことのない異世界に足を踏み入れた感じを抱いたら、それはまさにワクワクする冒険の始まりだと思います。初演は皆さん最後までワクワク・ドキドキしながら観てくれたので、子どもたちに「どうだった?」って聞きたいよねって楽屋で皆で話したのを思い出しました。
撮影:大洞博靖
ーーもしかしたら、お子さんたちが初めてコンテンポラリーダンスに触れる機会にもなるかもしれませんね。お二人はどんなふうに出会って今があるんですか?
黒須:僕はストリートダンスのかっこ良さに惹かれて、高校時代からダンスを始めたんです。たまたま大学生のコンテンポラリーダンス作品を観る機会があって、観ていて涙を流した体験がありました。感動して、ドキドキした感覚が忘れられず、涙を流した作品を踊った大学のダンス部に入りました。また辻本知彦さん(※)と知り合って男性ダンサーのカッコ良さと、型では表現できない踊りがあることを知り、そこからコンテンポラリーの世界にのめり込んでいったんです。北村さんの振り付けはものすごくかっこいいですから。作品を観て、これをやりたいと思ってくれる子どもが現れてくれたらうれしいですね。
川合:僕の場合は家で音楽に合わせて踊って、家族に見せていたのがダンスの原初体験です。そこから小学生のときに市民ミュージカルに出て、舞台に立つ楽しさ、舞台上で行われる世界の要素のひとつとして参加できている楽しさを知るんです。僕がダンス教室とかでダンスに出会わなかったことが、今もやれている理由じゃないかと思っています。僕にとってのダンスは教わるものじゃないってどっかで思うんです。技術に関係なく「踊っちゃった!」みたいなことの楽しさってあると思っていて、その楽しさ抜きに踊りたくないなと思っています。今はダンスへの出会い方として、バレエや日本舞踊も含めて、それぞれ「テクニック」を体系的に習得できる様々な場があると思います。今回の作品はそのカウンターとして、真似ができそうでできない、何をやってるかよくわかんないけど動きが連動していて、言葉で説明しきれないエネルギーを共有しているダンス作品です。こんな世界もあるんだということを見てもらえるといいなと思います。今って初見でも真似しやすい踊りがCMなどで使われているけど、それって血が沸くみたいな興奮の外にあるような気がして。ダンスは真似するものじゃない、身体が踊っちゃうものなんだということを体感しにきてください。
黒須:この舞台を見た子どもが「このダンスをやりたい」と言ったとき、お母さんはどういうダンスを選ぶかな(笑)。
川合:そのときはダンススタジオを探すのではなく、「海に行ってみれば?」、「山に登ってみれば?」と、言ってしまうぐらい何か違うインスピレーションを喚起するものになっているとうれしいですね。この作品は、音楽も映像も美術も衣装もすごいから、どこに引っ掛かるかわからない。ダンスはその一部です。何か大人になってもずっと印象に残るような作品になればいいなと思います。
撮影:大洞博靖
※辻のシンニョウは点ひとつ
取材・文=いまいこういち
公演情報
『ククノチ テクテク マナツノ ボウケン』
美術:大小島真木
出演:川合ロン 清家悠圭 岡村樹 黒須育海 井田亜彩実 永井直也
<神奈川公演>
日程:2022年7月20日(水)~24日(日)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場<大スタジオ>
料金(全席指定/税込):おとな 3,500円 こども(4歳~高校生) 1,000円
※車椅子でご来場の方は事前にかながわにお問合せください。
※4歳未満のお子様はご入場いただけません。
おとな 7,500円 こども(4歳~高校生) 1,800円
※かながわの WEB にて5月28日より、6月4日以降は電話・窓口でも取扱い(前売のみ、枚数限定)
発売:発売中
神奈川公演に関するお問合せ: かながわ 0570-015-415(10:00‐18:00) https://www.kaat.jp
公式サイト: https://www.kaat.jp/d/kukunochi2022
企画製作・主催:KAAT 神奈川芸術劇場
後援:神奈川県教育委員会、横浜市教育委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
■全国ツアー
<久留米公演>
日程:2022年8月14日(日)15:00
会場:久留米シティプラザ 久留米座
お問合せ: 久留米シティプラザ TEL 0942-36-3000(10:00~19:00)
https://kurumecityplaza.jp/
<豊橋公演>
日程:2022年8月23日(火)15:00 / 8月24日(水)14:00
会場:穂の国とよはし芸術劇場 PLAT アートスペース
お問合せ: プラットセンター TEL 0532-39-3090(10:00~19:00 休館日除く)
https://toyohashi-at.jp