『7本指のピアニスト~泥棒とのエピソード~』〜成井豊(脚本・演出)× 松本利夫(主演)「西川悟平さんの姿から好きなことに向き合っている輝きを伝えたい」

インタビュー
舞台
2022.7.19
松本利夫(左)と成井豊

松本利夫(左)と成井豊

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東京2020パラリンピック閉会式グランドフィナーレにおける見事なピアノ演奏で強い印象を私たちに植え付けた“7本指のピアニスト”西川悟平。西川はニューヨークでプロデビューを果たして注目を集め始めたころ、難病ジストニアを発症し、両手の指の演奏機能を完全に失ってしまう。しかし懸命なリハビリによって少しずつ機能を回復させ、右手5本、左手2本の指でピアニストとして再起し、日本はもちろん世界を舞台に活躍している。ある晩、彼に不可思議な出来事が起こる。アパートに押し入った二人組の泥棒と一晩を過ごすことになったのだ――。事実は小説より奇なり、そんな西川の半生が舞台化される。作品タイトルは『7本指のピアニスト~泥棒とのエピソード~』、2022年7月24日(日)〜7月31日(日)に、サンシャイン劇場で上演される。脚本・演出はキャラメルボックスの成井豊、西川役を演じるのはEXILEの松本利夫。二人の対談をお届けしよう。


 

――戯曲には成井さんと思しき劇作家が登場して、西川さんを取材するような設定になっています。戯曲を書かれた経緯から教えてください。

成井 西川さんがコンサートでいつもお話しされている泥棒の話があるんですよ。西川さんの部屋に押し入ってきた泥棒と一晩語り明かしたという。これを舞台化できないかというお話をいただき、コンサートのトークを書き起こした文章を読ませていただいたんです。これがとても面白かったですけど、さすがに2時間にはならない。それで西川さんの自叙伝を読んだら、こちらもまた面白くて、泥棒と過ごした一晩のうちに自身の半生を語ったという設定にすればイケるんじゃないかと、プロデューサーさんに提案したところOKをいただいたんです。

成井豊

成井豊

――西川さんの半生の中で強く惹かれた部分はどのあたりでしょうか。

成井 すべての指が動かなくなって、医者からもほかの仕事を探すように言われたのに、そこであきらめないんです。ちゃんと再起できるまで数年かかっている。「ちゃんと」と言っても5本の指でのスタート、その後に7本まで回復したけれど、まだ現在も3本の指は動かないわけですから。それでもプロとして国内外で活躍されているんです。この、あきらめないで、自分の困難を乗り越えていく姿には惹かれますよね。

――実際にコンサートをご覧になったり、お話しされたのですか?

成井 戯曲を書く直前に、銀座での演奏会にお邪魔しました。2時間15分の演奏会でしたが、ピアノを弾く時間よりしゃべっている時間の方が長いんですよ、トークライブでしょというくらい(笑)。でもそれぐらい話がお上手なんです。私は音楽が苦手で、クラシックはほとんど興味がなかった。そのとき最前列に席を用意していただいたんですけど、圧倒的な迫力でした。すごいです、ピアノって。非常に感動して、大きな衝撃を受けました。

松本利夫

松本利夫

――松本さんも西川さんとお会いされているんですよね。

松本 僕も最初は悟平さんのことを存じ上げなかったんです。難病を持っていらっしゃる、でも世界で活躍されていると伺って、どんな方なんだろう、どんなお話しをしたらいいんだろうか考えましたね。そんなふうに構えていたら、お会いしたときからマシンガンのように話しかけてくださるんですよ。

成井 そんな感じ、まさに(笑)。多弁で面白いんですよ。

松本 もう圧倒されたと同時に、僕も心がぱっと開けて意気投合したんです。人を外見で判断してはいけないんですけど、イメージが全然違いました。ですから最初から楽しい時間を過ごさせていただきました。

――松本さんは成井さんとは今回が初めてのお仕事ですよね。 

松本 はい。作品も拝見したことがなかったので、ウィキペディアなどで調べさせていただきました! 人を外見でと言ったばかりですけど、成井さんもすごく怖いイメージがあったんです。

成井 え、そうですか?

松本 アーティスト写真が怖かったんです。どんな方だろうと緊張して稽古に入ったんですけど、めちゃくちゃ優しくて。逆にこんなに優しくていいのかなと思うほどです。だからとても楽しく稽古させていただいています。

成井豊

成井豊

――成井さんは、松本さんにどんなイメージをお持ちでしたか?

成井 僕もテレビをあまり見ないものですから、お名前とお顔が一致するくらいだったんです。それで主演された「無頼」という映画を見ました。これが面白くて。一人のアウトサイダーの半生を描いたもので、最初だけ子役ですが、すぐ青年になり、そこから組長を辞めて引退するまでをお一人で演じきっていらっしゃって、すごいなと思いました。西川さんとはキャラクターがまったく違うけれど、これだけできる方だから大丈夫と確信しました。そうしたら初日の読み合わせで、すごく陽気な感じで読んでくださって、それが普段の西川さんに近いんですよ。西川さん多弁で、バカ明るいですから。それでもう、うれしくなりましたね。2時間出ずっぱりで、ダンスも3つあるので相当に負担がかかると思います。何とかやり遂げてほしいし、僕らも惜しみなくアシストしていきます。

――子どものころも演じられるんですよね?

松本 はい、15歳から。過去と現代が入り交じって展開していくので、年齢差をつけ過ぎるとおかしなことになってしまう。ちょっと仕草が子どもらしいかな、話し方が40代だなくらいで、できるだけナチュラルな感じでいこうと思っています。

松本利夫

松本利夫

成井 もう自叙伝が原作、40代の西川さんの回想劇だから。泥棒の二人に語って聞かせるときは40代、回想の中で先生と話すときは15歳という切り替えはありますが、やりすぎると同一人物に見えなくなっちゃいますから。

――西川さんは非常に前向きで明るい方だと伺いました。とはいえその裏に秘めてきた、つらさもあると思うんです。その辺のバランスはどう考えられたんですか?

成井 何より原作が明るい。自殺未遂もされているけど、その表現がすごくあっさりしている。それさえも面白く語ってしまうのが西川さん。つらいときにただ泣いているだけじゃないところが僕は好きなんです。舞台でも自殺未遂などもすべて原作通りに描きますが、むしろ淡白すぎるぐらい淡白になるんじゃないかな。ただ松本さんは、その痛み、苦しみをちゃんと演じなきゃいけないんだろうと思いますね。

松本 そう思います。僕は悟平さんはものすごい闇を持っていた方だと感じます。まず指が動かなくなったことは悲しいし、苦しいでしょう。でもその痛みよりも、他人のせいにしたり、誰かに感情をぶつけてしまう精神的な苦痛、悩みが一番つらいと思うんです。病気のつらさって日常ですから。僕もベーチェットという病気を持っているんです。グループで活動していた30代が一番つらかった。半月以上も40度ぐらいの熱を出しながらライブをやってたんで。でも生き続けなきゃいけないし、つらさに勝つために悲壮感を持たないようにメンタルを保っていく。3日も寝ていれば何とかなるさとか、指が動かなくてもバイトするしかないじゃんというようにプラスに変えていくんです。きっとそういう悟平さんもいたと思います。そういうときって、これが自分の日常だし、人生だしという開き直りがどこかにあるんですよ。悲壮感は心のものすごく深いところにあるけど、それを乗り越えたからこそ明るくいられるんだと思います。

成井豊

成井豊

成井 西川さんが本のあとがきに、「西川さんだから乗り越えられたんでしょ」とよく言われるけど、そうじゃない、普通の人間が頑張って努力したら道が開けただけだと書いているんです。でも全然普通じゃないですよね。ピアノの練習を平気で1日10時間する方なんですよ。きっと肉体的にはつらかったけど、精神的には全然つらくなかったと思う。私は西川さんの足元にも及ばないけれど、似たような経験があるから共感できる。好きなものに対しての努力の払い方は尋常じゃない。そこを読者にわかってほしいのではないかと思いますね。だって好きなことをやっているだけだからって。

松本 努力を努力と思っていないんじゃないですか。それこそ僕も本当にずっと踊っていましたから。コンビニに入った瞬間からムーンウォークをやって、雑誌コーナーの前で回転をしてといった具合に。電車に乗ると吊り革でPOPの技をやったり。そんなことは練習とも思ってない。どうやったらできるだろうという好奇心だけです。バイトをして貯めたお金でニューヨークに行ったときも、バイトも大変じゃなかった。何も知らない街も怖さなんて1ミリもなかった。貧乏生活も全然苦にならない。悟平さんも好きだから弾いている、この曲を弾きたいから練習する、それだけだと思います。

松本利夫

松本利夫

――勝手なイメージですけど、出会うべくしてこの役に出会った感じがしますね。

成井 僕もお話を聞いていてそう思いました。

――ピアノを演奏するシーンもあるんですか?

松本 あるんですけど、悟平さんレベルの演奏は練習しても無理なので、そこはお客様の想像力で見ていただければと思います。童謡を軽く当て振りするところもあるんですけど、そこも同じです。僕はお酒を呑んだ後でお家にお邪魔して一緒にピアノを弾かせていただいたこともあるんですけど、悟平さん、ピアノを弾き始めた瞬間に顔が変わるんです。悟平さんにとっての最大の武器なんですね。やっぱりスイッチが入って、これが僕のすべてだからみたいな感じのオーラが出てくるんですよ。そしてその輝きはやっぱりずば抜けてますよね。せっかく演じさせていただけるのですから、悟平さんの輝きをお伝えできるように頑張りたいと思います。

松本利夫(右)と成井豊

松本利夫(右)と成井豊

取材・文:いまいこういち

公演情報

『7本指のピアニスト~泥棒とのエピソード~』
 
■原作:西川悟平
■脚本・演出:成井豊
■音楽(テーマ曲):千住明
■出演:松本利夫(EXILE) 土屋神葉 筒井俊作 木下政治 畑中智行 原田樹里 石黒賢
 
■会場:サンシャイン劇場
■日程:2022年7月24日(日)〜7月31日(日)
■開演:7月24・25・29日14:00、27日13:00/18:00、30日12:00/17:00、31日13:00

■料金(税込):全指9,900円 ※前売・当日券共通
U-25(25歳以下)6,600円
■問合せ:ナッポス・ユナイテッド support@napposunited.com
『西川悟平トーク&コンサート』
■日時:2022年7月26日(火)18:00開演 ※舞台セットにて演奏
■料金:全席指定 6,600円/U-25(25歳以下)3,300円
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