角野隼斗 in Paris『CONCERT EXCEPTIONNEL』ライヴレポート
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休憩を挟んで第二部は、第一部で聴いた曲のモチーフを使った自作や、クラシック音楽にインスピレーションを得た20世紀・21世紀の音楽で構成されている。コンサートの数日前に筆者がインタビューした中で、角野は「自分が学んでいた古典からの音楽を、現代に弾く意味をどういうふうに見出すか、ということを考えていて、その中で、数年前から自分にできることはなんだろうとずっと考えていました。そこで、クラシックと、それ以外の今あるジャンルというもののつながりに常に思いをはせてきたので、それを後半で出せればいいなと思っています」と語っていた。
最初は坂本龍一の《千のナイフ》。1978年リリースの彼の最初のアルバムのタイトルともなっている曲。45年ほど前に作曲された音楽だが、何か思い入れがあるのだろうか。なぜこの曲を選んだのか聞いてみたいところだ。休憩でリラックスできたのか、またはリズム感が自身のフィーリングとマッチするのか、第一部に比べて演奏にずっと余裕があるように感じた。次に、最近シングルリリースされた自作の《胎動》と《追憶》を続けて演奏。今年1〜2月のツアーで初めて披露し、この夏のフジロックフェスティバルで大好評だった曲を独立した楽曲としたものだ。それぞれにショパンのテーマ(《練習曲》op.10-1と《バラード》2番)のモチーフが使われていて、クラシックファンにはその使い方が興味深い。クラシックを知らなくても、見事な技巧を駆使した演奏にすぐに魅了される。次の久石譲の《風の谷のナウシカ》については、バッハからのインスピレーションに加え、有名なヘンデルの「サラバンド」(スタンレー・キューブリックの映画『バリー・リンドン』に挿入されたことでよく知られている)のモチーフがはっきりと認められる。そのあとにバッハの《主よ、人の望みの喜びよ》を弾いたのだが、ヘンデルの《サラバンド》の方がインパクトが強かったかもしれない。
プログラムの最後はガーシュウィンを2曲。《Someone to watch over me》のあと、最後の《ラプソディ・イン・ブルー》はオーケストラ部分も全てピアノで演奏する編曲だが、見事なリズムでエネルギーに溢れた演奏と、カデンツァの即興は、文句なしに楽しめるものだった。
アンコールはショパンの《マズルカ》1曲、カプースチンの《トッカティーナ》、そしてYouTubeで大ブレークした《キラキラ星》変奏7レベル。最後の曲はおそらく、このコンサートにきた人が一番聴きたかった曲で、最初の音が鳴った途端、悲鳴にも似た歓声があちこちから上がった。弾き終わると、前列にいたルイサダが大声で「ブラヴォー」を連発していたのが印象的だった
取材・文=Victoria Okada 撮影=@ogata_photo