神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズVol.1 『浜辺のアインシュタイン』開幕迫る～公開ダンスリハーサル＆平原慎太郎（演出・振付）囲み取材レポート

神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズVol.1 フィリップ・グラス／ロバート・ウィルソン『浜辺のアインシュタイン』が、2022年10月8日（土）～9日（日）に神奈川県民ホール大ホールにて上演される。神奈川県民ホールは、グランド・オペラの共同制作を主導し、数々の話題作を生んできたが、開館50周年を迎えるに際し、新たなチャレンジに取り組む。

『浜辺のアインシュタイン』が初演されたのは1976年。作曲家フィリップ・グラスと演出家ロバート・ウィルソンという現代芸術・カルチャーの一線で長年活躍する異才によって創造された。科学者アインシュタインを詩的に解釈しようとした前衛的なオペラで「イメージの演劇」と称される。物語はなく、反復されるダンスと音楽によるミニマルな展開によって革新をもたらし、一世を風靡した。その伝説の舞台が1992年の日本初演以来30年を経て、新たによみがえる。

この企画が始動したのは、作曲家・ピアニストの一柳慧（神奈川芸術文化財団芸術総監督）の肝いり。初演当時パリ公演に接し衝撃を受けた一柳の意向を受けて、演出・振付の平原慎太郎、指揮のキハラ良尚を中心に、松雪泰子、田中要次、中村祥子、辻彩奈（ヴァイオリン）といった俳優、音楽家、ダンサーら多分野の異才が集った。アンサンブルのダンサーは公募された。

9月中旬、公開ダンスリハーサル＆平原の囲み取材が行われ、新たな『浜辺のアインシュタイン』のベールの一端を覗き見ることができた。

公開リハで披露されたのは前半部分で、「Train」「Trial」「Dance No.1」「Naight Train」というシーンからなる。数字が読み上げられるなどミニマムな音楽が続き、列車を思わせる動く台車上に人々がいたり、ビニール袋を被る人々がいたりする。ダンスなのか、言葉のない演劇なのか、とらえどころはない。だが、ミニマムな音楽と身体表現が溶け合うことによって、独特な質感が空間を満たしていく。録音音源で披露されたダンスパートの一部分のみに接しただけであるが、従来のダンス、オペラとは趣の異なる世界の息吹を感じた。

囲み取材で平原は「まだまだ詰めるところはありますが、それでもなんとなく形になってきたかな」と手ごたえを語る。彼は日頃、OrganWorksというダンスカンパニーを主宰し、コンテンポラリーダンスの次代を牽引する創り手の一人と目されている。ダンスの活動とオペラの演出・振付における意識の違いを問われると「コンテンポラリーダンスという立場で物事を創ると、コンセプトやテーマを第一に考えなければいけない、新しいものへの追求・探求心を念頭に置かないといけないと思っています。オペラはあくまでも音楽を主軸に置いたマルチメディアなので、音楽を聴き込んで、そこにどういう要素を加えていくか、さまざまな要素をどうフィットさせていくか。考え方のプロセスが若干違う」と自らの体験から両者の相違について述べた。

そして、平原はグラス／ウィルソンの原作へのオマージュにしたいという。「原作はとても独特な雰囲気なんです。その雰囲気を持ってきたい。特に前半はボブとグラスの影が見える作品にしたいなと意識しています」と話すだけに、往年のファンも興味深く見られそう。本番に向けて「いまは正しいと思ったイメージをダンサーと共有しているというのが正直なところ」と胸中を明かしたが、新進気鋭のクリエイターたちが放つ清新な舞台になることを期待したい。

取材・文＝高橋森彦