高畑淳子インタビュー~岡本圭人の祖母役で出演する『4000マイルズ~旅立ちの時~』は「生きている者同士のたくましい物語」

インタビュー
舞台
2022.10.6

わからないところが多い本の方が発見が多くて面白い

――演出の上村さんとは今回初めてご一緒されることになります。

上村さんの演出作品は昨年シアタークリエで上演された『ガラスの動物園』や、他にもいくつか拝見していますが、中でも特に『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』(2014年)がとても面白くて印象に残っています。シアター風姿花伝という小さな劇場で上演されたのですが、転換や装置の使い方も非常にうまくて、食い入るように見ました。

――高畑さんは青年座所属ですが、上村さんは文学座出身、今年2~3月にご出演された『冬のライオン』の演出の森新太郎さんは演劇集団円所属と、新劇系の演出家とのお仕事が続きますね。『冬のライオン』は拝見しましたが大変面白かったです。

本当ですか、ありがとうございます。私は脚本をもらって読んだときに、3ページくらいで寝てしまって(笑)。稽古をしても最初のうちは何のことかわからなかったんですけど、途中からすごく面白くなったんですよね。やっぱり芝居って、お稽古しないとわからないものですね。それに、わからなかった本の方が余計に発見することが多くて面白いものなんですよね。今作もまだわからないところが多いんですけど、そういう作品の方がとても面白くなるんじゃないかなと思っています。

――森さんは2011年に高畑さんが『欲望という名の電車』でブランチをやられたのを見て、『欲望~』でこんなに笑いが起きるのか、と驚いて高畑さんとはぜひ笑える芝居でご一緒したいと思っていたそうです。

私は基本的にお客さんが笑わないと気が済まないところがどうもあるらしくて(笑)。『欲望~』は鵜山仁さん演出でしたね。鵜山さんはとても頼もしいというか、俳優の芝居だけじゃないところで補ってくださる力がとても強い方ですね。お芝居というのは役者の芝居だけではなく、明かりとか場面の転換とか音響とかいろいろなことに支えられているんだということを、近年特に思うようになりました。栗山民也さんの演出も、衣装とかミザンス(注:役者の立ち位置のことを指す)とかそういう演出的なところで整理してくださる強さがあるので、そこを信じてやっています。あとはもう俳優が身をさらして、相手役と生に言葉を交わしていれば、ステージは絶対に成立するんですよね。

演劇は豊かな心を持って生きていくための道しるべになる

――『冬のライオン』では夫婦役だった佐々木蔵之介さんとの息もピッタリでしたね。

あの作品を多くの方が面白かったと言ってくださるのは、私が蔵之介さんという俳優さんのことをとても好きで、一緒にお芝居をするのがとっても楽しかった、というのは大きかったと思います。私の友人からは「あなたと蔵之介さんはよく似てる、笑いに貪欲だと思う」と言われました(笑)。蔵之介さんとは1998年にPARCO劇場で『ロマンチック・コメディ』(福田陽一郎演出)という作品でご一緒しているんですよ。あのときの蔵之介さんは役柄もあったんでしょうけど、固くて真面目な市役所勤めのお兄ちゃん、みたいな印象でした。あれからものすごく変貌されて、大人の色気があって、芝居の欲もすごくおありになるし、こんなに人って変わるんだ、と思いました。

――そんなに以前から佐々木さんとはご縁があったんですね。

その頃は「小劇場でやってきて、広告代理店を辞めて役者になるって言ったものの、ずっと役者をやるかどうかわからないんです」なんておっしゃっていて、「どんな役がお得意なんですか?」って聞いたら「僕の当たり役はがん細胞なんです」って。「この市役所のお兄ちゃんの当たり役ががん細胞?!」ってポカンとしたのを今でもはっきり覚えています。時は経ちますね(笑)。今作でご一緒する岡本さんにしたって、あのときの坊やとお芝居をするなんて、本当に月日が経つのは早いと思いますね。

――今回高畑さんがこの役にキャスティングされたからには、きっと笑いの要素も多いのではと思っています。

この作品、笑わせるところがいっぱいあって面白いんですよ。孫のレオはちょっと事件があってそのショックな状態からスタートしますが、全然堅苦しい劇ではなくて、十分生きてきた人とこれから生きていく人、生きている者同士のたくましい話ですね。人間っていうのは永遠に生きていくものではないですし、右往左往しながらいつか終わりは来るわけで、そういう中で演劇とか映画とか本というのは心に余白を作ってくれるもので、人間同士が豊かな心を持って生きていくための道しるべのような役割があると思うので、観客の皆様にとってそういう時間になればいいなとつくづく思います。

――今回はどんな笑いがあるのか、楽しみにしています。

どんなおばあちゃんになるのか、問題が山積みでこれから戦いが始まるな、という心持ちでいます。でも、しんどいなと言いながら、しんどいことが好きなんですよね。しんどいことをしていると「生きてるな」という感じがする性分なのかな、と思います。もっと楽な生き方もあるんじゃないかなと思いますが、でもその分いろんなことに挑戦できるので楽しみです。お客様に「高畑さんだと思わなかった!」と言ってもらえるようなおばあちゃんになりたいなと思っています。

衣裳=MARINA RINALDI
スタイリスト:森 美幸
ヘアメイク:山口久勝(アルール)

取材・文=久田絢子 撮影=荒川潤

公演情報

『4000マイルズ~旅立ちの時~』
 
作:エイミー・ハーツォグ  翻訳:小田島恒志・小田島則子
演出:上村聡史
 
出演:岡本圭人、森川葵、瀬戸さおり、高畑淳子
 
【東京公演】
日程・会場:2022年12月12日(月)~28日(水)日比谷・シアタークリエ
お問い合わせ:03-3201-7777(東宝テレザーブ)

<全国ツアー公演>
【大阪公演】
日程・会場:2023年1月7日(土)~9日(月・祝)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
お問い合わせ:06-6377-3888(梅田芸術劇場)
【愛知公演】
日程・会場:2023年1月11日(水)~12日(木) 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
お問い合わせ:052-972-7466(キョードー東海)
【香川公演】
日程・会場:2023年1月15日(日)レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
お問い合わせ:087-823-5023(県民ホールサービスセンター)

製作:東宝
シェア / 保存先を選択