関西の人気劇作家が大集結! 劇団壱劇屋『supermarket!!!』構成・演出の大熊隆太郎が語る。「ギュッと個性が詰まった脚本や俳優を、スーパーみたいに楽しんでほしい」

インタビュー
舞台
2022.10.24
劇団壱劇屋『supermarket!!!』公演フライヤー。

劇団壱劇屋『supermarket!!!』公演フライヤー。

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2020年から、大阪と東京の二拠点体制という、ユニークな活動を続けている「劇団壱劇屋」。東京支部は現在『五彩の神楽』5ヶ月連続上演という、大胆な企画に挑戦中だが、大阪支部も負けじと、代表・大熊隆太郎の新作『code:cure』公演から、わずか4ヶ月ほどのインターバルで、新作『supermarket!!!』を上演する。あるスーパーマーケットの中で起こるユニークな人間模様を、オムニバスで紡いでいくスタイルだが、全9話の脚本を、関西を拠点とする劇作家たちに描き下ろしてもらうという、実に贅沢な試みだ。構成と演出を務める大熊に、企画意図や、それぞれの作家の作品について語ってもらった。


『supermarket!!!』が生まれたきっかけは、大熊の「いろんな脚本の演出がやりたい」という願望と、劇団員の「会話劇をやってみたい」という要望が合わさって生まれたという。

僕は脚本より演出がやりたい人なので、いろんな人に(劇団に)脚本を書いてもらいたいと思ってて。劇団員の方も、普段は会話よりも、マイムや殺陣が芝居の中心なので『しゃべる芝居がしたい』と。彼らの欲と、僕の思いが合致して、たくさんの人に会話劇を書いてもらう舞台をやってみよう、ということになりました。ただ9人も呼んだのは、みんなに『ええっ?』って言われましたね(笑)。

でも公演って、そんなに何度も打てるものじゃないから、やるからには10人ぐらい呼びたくて。それで頼みたい人に、頼めるだけ頼みました。10分程度の短編ですけど、皆さんその中にやりたいことをギュッと詰め込んでいるわけだから、すごく個性にあふれた作品ばかりです」。

大熊隆太郎(劇団壱劇屋) [撮影]吉永美和子

大熊隆太郎(劇団壱劇屋) [撮影]吉永美和子

舞台となるのは、スーパーマーケット「CONNECT」。店員やお客、あるいは周囲のお店まで、様々な人が行きかい、様々なドラマが生まれる場所だ。まずはこのスーパーと、登場するキャラクターたちの詳細な設定を大熊が固め、各作家にはその設計図に沿うことと、メインにしてほしい人物だけを指定した。あとは完全にフリーという「制約と投げっぱ(なし)が、絶妙に混ざったオファー」(大熊)となっている。

招かれた9人の作家たちは、関西で最も権威のある戯曲賞「OMS戯曲賞」大賞を受賞した作家(合計5人!)から、公募で選ばれた新鋭まで、キャリアは様々。内容も直球のコメディからひねりのある社会派、あるいは実験的な世界まで、非常に幅広い脚本がそろっている。以下は大熊が語る、各作家の作品の内容&解説だ。

(左から)サカイヒロト(WI'RE)、サリngROCK(突劇金魚)、林慎一郎(極東退屈道場)。

(左から)サカイヒロト(WI'RE)、サリngROCK(突劇金魚)、林慎一郎(極東退屈道場)。

■サカイヒロト(WI'RE)
サカイさんは最近、劇作家というより映像や美術の人になっていますけど、以前ラジオドラマでサカイさんの本をやらせてもらった時に、すごく強烈な印象が残っていたのでお願いしました。メインは「妄想癖のある魚売り場担当」。会話はユニークなんですけど、ちょっと緊張感があって生臭い、それこそ死んだ魚の眼が似合うような作品が来ました(笑)。

■サリngROCK(突劇金魚)
サリngさんは、かわいいけれど怖くて毒のある話を書くので、今回はどっちに転がるのかな? と思いましたが、一番ポップでさわやかな物語になりました。メインは「地縛霊が見える高校生アルバイト」。地縛霊の件は裏設定だったんですけど、それを結構しっかりと使ってくださいました。ちょっとファンタジックで、甘酸っぱい恋愛の話になっています。

■林慎一郎(極東退屈道場)
林さんの脚本は、モノローグがすごく多いというのが基本ですけれど、今回もモノローグで埋め尽くされた、不思議な話が来ました。メインは「オムツを持っている主婦」。確かにスーパーの出来事なんだけど、何だかスーパーじゃないような場所で、主婦がモノローグを語るという(笑)。すごい本だし、演出も大変なんですけど、個人的にはすごく好みです。

(左から)ピンク地底人3号(ピンク地底人/ももちの世界)、福谷圭祐(匿名劇壇)、水鳥川岳良(私見感)。

(左から)ピンク地底人3号(ピンク地底人/ももちの世界)、福谷圭祐(匿名劇壇)、水鳥川岳良(私見感)。

■ピンク地底人3号(ピンク地底人/ももちの世界)
3号さんはすごく真面目な題材で、真剣な取り組みをされている作家さんですが、意外とふざけた話も得意なんですよ。メインは「特殊な捜査をしている万引きGメン」。彼が店長を困らせるというお話で、「ももちの世界」を観てからこの作品を観たら「これ、ホンマに同じ人が書いたんかな?」と思われるんじゃないかと(笑)。本当に変てこな、面白い本です。

■福谷圭祐(匿名劇壇)
福谷さんの作品って、ドライな感じがあると思うんですけど、今回は意外と人情味があるというか、ウェットな感じのする作品が来ました。メインは「スーパーの向かいにある個人商店の店主」。お願いしてから「ややこしい題材を送っちゃったかなあ?」と思ったんですけど、上手いこと仕上げていたので、本当にいろんな話が書ける人なんだなあと思いました。

■水鳥川岳良(私見感)
水鳥川さんは公募枠です。応募してきた過去作品の、台詞回しのユニークさに惹かれてお願いしました。「いつも店長を呼び出すクレーマー」をメインでお願いしたんですけど、軽快な台詞回しの中に憂いがあって、人間の小さい部分にフォーカスを当てた、非常に良い作品が届きました。ちなみにこの公募、なぜか名古屋や岐阜からの応募が多かったです(笑)。

(左から)村角太洋(THE ROB CARLTON)、山口茜(トリコ・A/サファリ・P)、湯浅春枝(劇団壱劇屋)。

(左から)村角太洋(THE ROB CARLTON)、山口茜(トリコ・A/サファリ・P)、湯浅春枝(劇団壱劇屋)。

■村角太洋(THE ROB CARLTON)
ボブ(村角)さんは、ちょっと(上演)時間が長かったんですけど(笑)、その分たっぷりと楽しい本が届きました。メインは「ベテランの女性パートさん」で、彼女と店長が浮気っぽいことになっている現場で、いろいろなことが起こっていくという、ドタバタなコメディです。ボブさんらしい、洋画とか劇画みたいな語りも、ちょいちょいと入っています。

■山口茜(トリコ・A/サファリ・P)
山口さんからは、昨今の差別問題とか、人と人とのズレみたいなものを、上手く風刺した作品が届きました。ただメインが「人間に期待して、スーパーにやって来た宇宙人」という特殊な設定なので、めっちゃ変な本でもあります(笑)。これも演出が大変なんですけど、すごく時代性を感じつつも、普遍性もあるという、上手くできたお話じゃないかと思います。

■湯浅春枝(劇団壱劇屋)
湯浅はうちの劇団員で、誰に見せるでもない脚本を、チマチマと書いていたんです。だから「何か一本、絶対に書いて!」と(笑)。メインは「スーパー常連の、普通の社会人」。彼女の本は、一見こじんまりとしているけど、実は内包している気持がデカいというのが特徴で、今回も何の変哲もない人物を通して、市井の人々が見えてくるような世界になりました。

劇団壱劇屋『code:cure』(2022年)。 [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

劇団壱劇屋『code:cure』(2022年)。 [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

以上、聞くだけでもバラエティ性を感じる9作品となっているが、それらの本を改めて、一気に舞台に上げてみると、いろんな面白い効果が生まれていると、大熊は言う。

同じキャラがいろんな話に……たとえば高校生のバイトは、サリngさん以外の作品にも、ちょこちょこ登場しています。前の話で『変な人やなあ』と思ったキャラが、次の話でその背景が深掘りされる、みたいなことも起こっているので、全体を通して、すごく面白い世界になったと思います。

僕はもともと『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』みたいな、週刊の読み切りギャグ漫画が好きなんです。ああいうのって、ラストで家が爆発するとか、何かとんでもないことが起こっても、次の週ではケロッと普通に戻ってるじゃないですか?(笑)この舞台も、前の話で大変なことがあっても、次の話では何の回収もなく、日常がまた始まる……という感じになっていて、それもまた面白いです」。

今回の企画を通して、劇団員には「いろんなジャンルの話を演じることで、僕の作品では得られないような経験を積めるから、演技力の向上になれば」という期待を抱いている大熊。そして観客に向けても、まさにスーパーで買い物をするような楽しみが得られるはずだと、やはり期待を高めている。

壱劇屋本公演『supermarket!!!』PV

スーパーでいろんな食材を選んで、それらを持ち帰って料理して、食卓に並べてもらうように、いろんな素材……それは脚本だったり俳優だったりするんですけど、どうすれば皆さんに持ってかえっていただけるかな? と。でもだいぶ、お得な舞台だと思いますよ。半分以上の人が『OMS戯曲賞』を取ってるから、もうOMS祭りですしね(笑)。ぜひ観てもらって、好きなモノを持ち帰っていただけたらと思います」。

1つの劇団が、複数の外部作家を招いた短編オムニバス公演というのは、決して珍しい企画ではないが、一度に9人もの作家を招くというのは、相当にレアではないだろうか。しかもOMS戯曲賞大賞級の作家たちが大半というラインアップなので、これは関西演劇の「今」を知るための、貴重な機会でもあると言える。そして身体性の高さでは関西随一の壱劇屋の劇団員たちが、それらをどのようにカラダとコトバで表現するか? スーパーマーケットというよりも、百貨店を回ったぐらいの充実感のある舞台になりそうだ。

『supermarket!!!』全9作品-冒頭朗読配信!

取材・文=吉永美和子

公演情報

劇団壱劇屋『supermarket!!!』
 
■脚本:サカイヒロト(WI'RE)、サリngROCK(突劇金魚)、林慎一郎(極東退屈道場)、ピンク地底人3号(ピンク地底人/ももちの世界)、福谷圭祐(匿名劇壇)、水鳥川岳良(私見感)、村角太洋(THE ROB CARLTON)、山口茜(トリコ・A/サファリ・P)、湯浅春枝(劇団壱劇屋)
■構成・演出・出演:大熊隆太郎
■出演:安達綾子、北脇勇人、鍬田大鳳、佐倉仁、谷美幸、半田慈登、松田康平、丸山真輝、山本貴大、湯浅春枝、吉迫綺音
佐々木ヤス子(サファリ・P)、田中遊(正直者の会)、三田村啓示

 
■日時:2022年11月3日(木・祝)~6日(日) 13:00~/17:30~ ※4日…15:00~/19:30~
※3日昼公演・4日昼公演・5日夜公演後はアフターイベント有り。
■会場:インディペンデントシアター2nd
■料金:一般4,000円、大学生・専門学生2,000円、高校生以下無料(席数限定)
■問い合わせ:劇団壱劇屋 ichigekiya.osaka@gmail.com
■劇団公式サイト:https://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya
※この情報は7月22日時点のものです。新型コロナウイルスの状況次第で変更となる場合がございますので、公式サイトで最新の情報をチェックしてください。
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