HondaのCM曲が話題に、Newspeakのメジャーデビュー作「Leviathan」の煌めきと人間力を紐解く
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音楽を作ることで、向き合い続けたコロナ渦
Newspeak
ーーそんなふうにNewspeakのアイデンティを確立し始めたところでコロナ禍、Ryoyaさんの脱退というピンチに直面しました。
Rei:コロナ禍に関しては、ピンチという認識は、最初はなかったですね。みんなそうだったと思うんですけど、その年の夏ぐらいには終わるんじゃないかと思っていたんですよ。だから、ピンチという認識がないまま、ただ音楽は作り続けなきゃということで、4ヶ月連続で配信シングルを出しているうちにRyoyaが抜けることになって。でも、正直、ピンチという感じでもなかったんですよね。もちろん、Ryoyaがいなくなっちゃったという寂しさや気持ちの沈みはありましたけど、音楽の作り方はRyoyaの脱退前と脱退後でそこまで大きく変わらなかったんです。ただライブができなかった。
ーーそれはコロナ禍で?
Rei:はい。バンドを止めないようにするためには、どうしたらいいのか、とりあえずもがいてましたね。なんかよくわからないけど、今の感情を音楽にすることしかできないよねと、とりあえずシングルをリリースするしかなかった。
Yohey:メンバーそれぞれ自宅に制作環境があるので、リモートでもできるし、近所に住んでいるから公共交通機関を使わずにお互いの家を行き来できる。曲をみんなで作ることはできたので、コロナ禍で動けないとか、ライブができないとか、結成から一緒にバンドに取り組んできたRyoyaが抜けたことにみんないろいろな感情があるとか……大変な状況ではあったんですけど、曲を作ることで自分達もすごく救われてるというのはありました。
Steven:そうだね。
Yohey:3人で集まって曲は作れたのはすごく大きかったと思います。
Rei:音楽を作ることでしか、その状況に向き合えなかったんだと思います。音楽を作ることをやめない。それを形にして、アルバムを出す。その頃にはコロナ禍は終息しているだろうと信じてたんですよ。
Yohey:うん、信じてた。
Rei:絶対、来年にはと思いながら、その感情を音楽に繋げることしか考えてなかったですね。
ーー音楽の作り方はそんなに変わらなかった、と。ギタリストが抜けたことで、アンサンブルを新たに作らなきゃいけなかったんじゃないかと想像したのですが、そうではなかったんですね?
Rei:ギターは必要な楽器だから、サポートを入れることは決まってたんですけど、Ryoyaがいる時から、アレンジはみんなで作ってたんですよ。
Yohey:それぞれに自分のパートを家で考えてきて、スタジオで合わせる作り方じゃなくて。スタジオで実際に演奏しながら、「そこはもうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?」と作り方を全パートでやっているんです。その中でギターは、Newspeakの象徴的な部分なので、そこに関しては、みんなが意見をたくさん言うんですよ。Ryoyaもみんなで考えたフレーズの中で一番良いやつをやろうというタイプだったから、変な話、Ryoyaが抜けてもギター・アレンジが薄くなることはないと言うか。文章になると、ドライに聞こえるかもしれないですけど、みんなが思っているイメージを具現化するという意味では、そこまで変わらなかったんです。
ーーギタリストを新たに迎えようとは?
Rei:考えましたよ。でも、バンドってすごく難しくて、今になってわかるけど、ギターがどれだけうまいかよりも友達になれるかどうかって言うか。人として良いか、そうじゃないかが大事で。3人ですごくいいバランスが取れているところに、敢えてキャラクターの強いギタリストをがんばって探して入れるリスクのほうがある気がするんですよ。
Steven:最初はギタリストを入れないといけないんじゃないかと当たり前のように思ったんだけど、ちょうどコロナ禍でライブがなかったんです。だったら、焦らなくていいじゃんって。とりあえず決まっているライブにサポートを呼ぼうとなって、やっているうちにサポートでいいかと(笑)。
Rei:言ってる間に今の形が固まっちゃったんですよ。
Yohey:確かに。
Rei:良い人がいるなら、入ってもらったほうが心強いし、無理やり入れる必要がないだけで、良い出会いがあれば、入って欲しいと思います。
Yohey:かっこいいギターは、Newspeakの魅力の1つですからね。ロック・バンドである以上、ギターはすごくかっこいい人にいてほしい。
「その先を見たい」「辿りつきたい」という前向きな衝動
Rei(Vo.Key.Gt)
ーーなるほど。駆け足でしたが、Newspeakがどんなふうに活動してきたか、信条も含め、読者に伝わるんじゃないかと思います。ところで、さっきおっしゃっていた、コロナ禍の中でもがいた成果と言える2ndフルアルバムの『Turn』(2021年7月)は、タイトルからの連想で、きっとNewspeakにとってターニングポイントになった作品なんじゃないかと思うのですが、そこからまた一歩を踏み出すのが、今回のメジャー1st EPなのかな、と。
Rei:おっしゃっるように『Turn』はもがいて、ターニングポイントにしようと思って作った、すごくコンセプチュアルなアルバムだったんですよ。それを作り終えたとき、良い音楽を作ろうと思ってたけど、楽しんでたかなという疑問が湧いて、楽しく音楽をやりたいと改めてシンプルに思った。あまり考えすぎずに音楽を作りたいと思って、コンセプチュアルなものからいったん離れて、自分達が楽しめる、良い音楽を作ろうと作った曲の集まりが今回のEPなんです。
Steven:かっこよくて、アッパーなね。
Rei:そうそう。
Steven:大丈夫。この後、またいっぱい考えすぎちゃうから(笑)。
Rei:『Turn』の曲の中に入っている気持ちって全部、本物だったと思うんですよ。それを作り終わって、楽しい音楽をやりたいと考えたとき、コロナ禍の2年ぐらいのことがジョークのように感じられて、俺が見てたものって本物の景色なのかなと。タイトルの「Leviathan」は、すごく強い海の怪獣なんですけど。
ーー旧約聖書に出てくる。
Rei:そう。今まで見ていた景色が誰かに描かれたもので、それを見ているんだとしたら、リヴァイアサンに乗っかってでも本物の空を見たいと、「Leviathan」のサビでは歌っているんです。けど、それは『Turn』の1曲目の「Blinding Lights」で歌っている、その先を見たいとか、辿りつきたいとかとそんなに変わってないんですよ。変わってないんですけど、「Leviathan」では、よりシンプルに前に進みたいと歌っています。
Steven:そういうところも僕らはメンバーそれぞれの捉え方をするんですよ。
Steven(Dr)
ーーStevenさんは、どんなふうに捉えていますか?
Steven:人間のマインドは、みんなが思っているより強い。Aメロはちょっと混乱しているように思えるけど、マインドが強ければ、何でもできるぜと。
Rei:自分の心の中の強いものの象徴がリヴァイアサンなんでしょ? そういう意味では、勝てるぞという気持ちは同じなんですよ。リヴァイアサンの捉え方が違うだけです。
Yohey:Reiから歌詞を見せてもらったとき、僕もどういう意味なのかなと反芻しながら考えたんですけど、自信のある人にも、自信のない人にも当てはまるなと思いました。自信のある人にとって、自分をプッシュするのはStevenが言うように自分自身のマインドかもしれないけど、自信のない人は自分の勇気の糧になるものを外に求めると思うんですよ。その象徴がリヴァイアサン。確かに強いワードなんですけど、聴いた人それぞれにいろいろな意味に捉えられる。しかも、この曲で歌っている景色は、誰もが思い浮かべられるものだから、みんないろいろと考えると思うけど、最終的には前を向ける曲になっていると思います。
Rei:Aメロでは、『Turn』を作る時も含め、これまでずっと考えてきたもやもやを歌っているんですけど、それはもういいからと、バーンってサビに行く、その中にリヴァイアサンという象徴があるというだけで。シンプルに良い音楽を作って、音楽を楽しみながら「そろそろ前を向く時期じゃない?」と思ったタイミングで、今回のEPを作ったので、自然に、<もう1回扉を開けてみたいんだ>という歌詞になったのかなと思います。
Yohey(Ba)
ーー『Turn』の1曲目の「Blinding Lights」には<We built our own city under the water>(僕らは海底に自分達の街を作った)という歌詞があるのですが、「Blinding Lights」と「Leviathan」、ストーリーとして繋っているんですか?
Rei:そこはご想像にお任せします(笑)。いえ、繋がってないです。
Yohey:(ジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『1984年』に由来する)「Newspeak」というバンド名もそうですけど、深いことを連想させるワードが散りばめられていても、あんまり気にしないでもらいたいなと。
Rei:いや、気にしてもらってもいいと思うんですけど……。
Yohey:そう、僕らがそういうふうに打ち出しているわけではない。単純に楽しんでほしいだけなので。
Rei:僕自信は、「何だろうこの言葉?」とはっきり意味がわからなくても考えるのが好きなんですよ。他のアーティストの曲を聴いている時も、意味はわからないけど、何だろうかと考えて、自分なりに咀嚼して、自分なりに意味を見つけながら聴くことで、その曲に入っていける感覚がすごく好きで。だから、自分が歌詞を書く時も、本当に意味がある時もありますけど、そういう意味深な単語を散りばめるのが好きなのでそういう歌詞になったりしますね。
ーー「Leviathan」では神話を意味する<mythology>という言葉も使っているじゃないですか。だから、Newspeakは現代の神話を書こうとしているのかな、とか(笑)。
Rei:そう思ってもらっても全然いいし、本当にそう思っている時もありますし、たぶん。
Yohey:もしかしたら、『ファイナルファンタジー』の話をしているだけかもしれないですけどね(笑)。