アルカラ──"ロック界の奇行師"は結成20周年を迎え何を思うのか。新アルバム&野音ワンマン目前に語ったこと
――それぞれ、お気に入りソングってありますか。
下上:「秘密」のバンドアレンジはすごい気に入ってます。コロナに入ってから、疋田と二人でカバー動画を録ったりしてて、松任谷由実の「卒業写真」をやってみた時に、めっちゃムズイな、すごいなと思った、それが入ってます。全然違うんですけど、なんか通ずるものがあるというか。
疋田:俺も、「秘密」のドラミングは、その時カバーした時の感覚でやってる。
――すごく繊細で浮遊感ある、いいリズムですよね。間が絶妙。
下上:「卒業写真」をやっといてよかったよな。あれがめっちゃ効いてる。今までは、音を埋めていく方向に作ってたと思うんですけど、今回の「秘密」と「boys&girls」に関しては、(稲村の)ソロのアコギと歌のリリースがあってからのバンドアレンジなんで、まったくアプローチが違うし、このバンドアレンジはめっちゃいいなと思ってます。アコギの曲をバンドにして、違うステージの曲にできたという、グッとくる感じになったなと思います。
――ドラマー的に、お気に入りは?
疋田:お気に入り、かつ一番難しかったのはインストの曲(「鮮やかなるモノクローム」)ですね。デモで太佑が打ち込んできてくれたドラムがあって、「全然変えていいから」と言ってくれたんですけど、めっちゃ難解で、叩けなくて、悔しくて、これを叩けるようになろうと思ったんで。ドラムの固定概念で考えるとまったく出てこないフレーズで、しかも変拍子やったんで、難しかったけど楽しかったですね。
下上:札幌のスタジオでね。ツアー中にレコーディングが残ってて、ここしか時間がないということで、札幌のライブの前日にスタジオに入って、最終的なアレンジを詰めました。
疋田:その頃やっと、このフレーズが叩けるようになったんで。それぐらいかかりました。
――太佑さんに言いたかったのは、「boys&girls」の歌は素晴らしいです。本当にうまい。感動しました。
稲村:ありがとうございます。こういう言い方を是とする人と否とする人がいると思うんですけど、僕はコロナ禍があって良かったと思ってるんですよ。そのおかげで、歌と向き合えた。ちょうど30代の終わり、40代が始まります、厄年です、みたいな時期にコロナが始まったんで、それを厄と考えればそうなんですけど、おかげで時間ができたり、インターネットで配信ライブができたり。配信の音だとリアルに歌がヘタだとバレるし、逆に歌がうまいとちゃんと伝わるなと思ったんで……ちょっとした表現の差なんですけど、たとえば子音の歌い方で、「さ」を「さっ」と歌うとか、そこでリズム感を出していくとか。いろんな方の歌を聴いて、カバーもやらせてもらって、物まねから始まって、それが自分のものになっていくことがけっこうあって、それもこの3年間がなかったらできてなかったなと思うんで。ミュージシャン、ボーカリストとして考えたら、すごいプラスやったと思ってるし、言い方が正しいかわからないけど、この時期があって良かったなと思います。その先にアルバムを作る機会をいただけて、歌の部分でもそうやって言っていただけるなら、やって良かったなと自分でも思います。
――20年経って、まだ歌が進化してると思って驚きました。そんなアルバムには『キミボク』という、かなりストレートなタイトルが付いてます。これは?
稲村:実は、自分が昔やってたバンドで「キミボク」という曲があったんですよ。今回は男性と女性の歌が、幼い部分も大人の時も含めて、そういう歌が多いなというのがあって、それをうまく表現できたらいいなと思ったんですけど、ええ言葉が思いつかなくて、ふと「キミボク」という曲があったなと思い出して、それにさせてもらいました。20周年やし、原点回帰じゃないですけど、過去の自分の言葉も面白いなと思ったのと、タイトルを付けた瞬間に全部の曲が一つに繋がった感じがあって、このタイトルがあって曲ができたんですかと言われてもおかしくないような、言いえて妙な四文字やなというのがありましたね。
――ちなみにその曲、世に出てるんですか。
稲村:いや、全然、デモでしかないような、僕もあんまり覚えてないんですよ。世に流通してるわけではないんで。
――あと、そうだ、9曲目が入ってますね。ボーナストラックにあたる曲、あれは触れていいんですか。
稲村:全然、触れて大丈夫です。
――あれもキミボク、少年と少女の歌ですよね。
稲村:そうです。8曲目の「boys&girls」が、このアルバムの一番の落としどころの曲だと思ってるんですけど、ちょっとかっこよすぎるんで、アルカラらしくそれをテーマに遊びたいなと思って、もっと若い感じ、衝動だけで、アコースティック1本と歌だけでやったら面白いかなと思ってやってみました。箸休めになればいいなという感じです。
――これ、タイトルは何になるんでしたっけ。
稲村:「おんなのこおとこのこ」です。「boys&girls」があるんで、こっちは日本語で「おんなのこおとこのこ」にして、対になる形で聴いてもらえたらと思います。
――そしていよいよ、アルバムが出た3日後、11月26日の日比谷野外大音楽堂での初ワンマンが迫ってきました。一人ずつ抱負をもらって、締めましょう。どんなライブにしたいですか。
疋田:野外で、あんなに広いところでやらせていただけるのは初めてなので、楽しみなのと、夜の野音というものがどれだけきれいで、お客さんと一緒に楽しめるのか、楽しみでしかないです。夏の野音はだんだん暗くなっていくんですけど、いきなり暗いところから始まる野音って、なかなか経験できないと思うんで、一緒に楽しみたいと思います。
下上:この年で初めての野音なので、初めてのライブハウスに出る気持ちに近くて、それを存分に楽しみたいです。日比谷野音という、すごい歴史のあるところでできる喜びももちろんあるんですけど、まずは自分たちが初めての場所に立って、演奏することを楽しむ1日にしたいと思います。
稲村:言うたら野音は、数あるアーティストの、大御所だったり、自分らが憧れてたバンドが通ってきたステージなんで。そこに自分が立つ喜びと、だからといって変にかしこまらず行こうと思ってるんで、精一杯楽しませてもらいます。という感じでお願いします。
取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希
ツアー情報
2022年11月26日(土)
日比谷野外大音楽堂
OPEN 16:30 / START 17:30
全席指定 ¥5,000-
・一般販売受付中
リリース情報
11月23日(水)リリース
1. tonight
2. 目の前には
3. Dance Inspire (album version)
4. DADADADA!!
5. 秘密 (band arrange)
6. 鮮やかなるモノクローム
7. ゼロの雨に撃たれて
8. boys & girls (band arrange)