角野隼斗×フランチェスコ・トリスターノ、ジャズの聖地・ブルーノート東京に登場!~楽屋裏トークを交え “Unstoppable” な公演を振り返る~

レポート
クラシック
2023.1.5

続いてはトリスターノの作品「Ciacona seconda」へ。筆者の席はトリスターノは背中側から見える場所だったので、彼が実際に何をしていたのか視覚的には捉えきれなかったが、ピアノのボディや、おそらく内部の鉄骨なども打っていただろうか。ベースの音型がループしていく中で、バロック調、そしてジャズ調のメロディーが自由に羽ばたいてゆく。この日、角野はスタインウェイ、トリスターノはヤマハのピアノを使っていたが、視覚的に確認しなければ、どちらがどのパートを担当しているのかわからないほど、二人は音色を接近させ、それでいながら各声部を気持ちよく分離させていた。

それぞれのソロも演奏された。角野が弾いたのは、ラヴェルの「水の戯れ」だ。これにはちょっと興奮した。というのも、角野のコンサートでこれまで聴いたクラシックはリストやショパンがほとんどだったたからだ。また、このタイミングでクラシックの原曲演奏というのも嬉しい。とはいえ、やはり瑞々しい即興の精神は宿った《水の戯れ》だ。やや自由な緩急と、大胆なダイナミクスに彩られてゆく。豊かに波うち、生き生きとたゆたう音楽からは、はからずも「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という言葉を思い出した。そう、水は一度たりとも同じようには流れないのだ。

おそらくは、ここがコンサートホールなら、きっと角野は違う演奏をするはずだ。もう少し穏やかに流麗に、より“正統的”に弾くのではないか。しかしここ、ジャズの聖地ブルーノートで感じられるオーラ、距離の近い客席からの熱気、トリスターノの視線の中で、「いま、ここ」を流れる水に角野が与えた形は実にエッジィで、それがとても自然に響いた。この作品の新しい一面を見た。

トリスターノは語っていた。「人生とはジャズだ。人生とは即興だ。ぼくらはいろんなことを計画しながら生きているけれど、大体はうまくいかない。だから次々に新しいプランを作る。即興して前に進んでいくしかないのだから」と。
この日の演奏の中で、クラシックの原曲のままであるからこそ、ある意味逆説的に、そうした「即興的推進力」をもっとも強く感じられたのは、角野の弾く「水の戯れ」だったかもしれない。

続くトリスターノのソロがまた心にくい。旋法的なルネサンス期の音楽である。O.ギボンズの「Pavan」を、まるで吟遊詩人のようにしっとりと奏でたのだった。トリスターノはバロック以前の音楽への愛情も深く、今年は『On Early Music』というアルバムを発表し、自身のオリジナル作品とルネサンス期の鍵盤作品とを組み合わせている(「Pavan」も本アルバムに収録)。そこからトリスターノの自作品「Ritornello」へ。同音連打が再び幻想的な世界へといざなってくれた。リズムの正確な刻みと、幅広い音域のサウンドが心地よい。

再び二人のデュオへ。話しかけるようにタンゴの音楽が始まる。トリスターノの「Cubana」だ。ここでトリスターノは、ダンパーペダルを外す時に出るある種のノイズ音を活用したり、足踏みでリズムをクールに刻む。角野は官能的にメロディーを紡ぎだす。トリスターノに視線を送り、ややテンポを上げながら「もっと行こう!」と盛り上げてゆく。そして「Foxtrot」では、角野が安定した刻みを効かせ、トリスターノは身体をしなやかに使いながら歌う。時おりガーシュウィンの”I’ve got rhythm”のワンフレーズや、民謡的なメロディーが飛び出したのも面白い。

ここまでを弾き終えて「あつい…… (トリスターノに視線をおくりながら)かっこいいっすね……」と角野のMCが入る。そして最後の曲目がラヴェルの「ボレロ」であることを告げた。「おお……」と客席からも声があがる。

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