平野亮一が渾身の名演、ロイヤル・バレエ『うたかたの恋-マイヤリング-』映画館上映は必見!~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンにて公開

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2022.12.16
Mayerling ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

Mayerling ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

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英国ロイヤル・オペラ・ハウスの直近のオペラ&バレエを映画館で堪能できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23」の一環として、ロイヤル・バレエ『うたかたの恋 -マイヤリング-』が2022年12月16日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開される。ロイヤル・バレエのお家芸4年ぶりの登場で、2022年10月5日に上演され絶賛を浴びた舞台だ。
 

■平野亮一、マクミラン極めつきの傑作ドラマで堂々主演!

まさに男子の本懐に違いない。ロイヤル・バレエのプリンシパル(最高位)平野亮一の舞踊人生に輝かしい勲章が加わった。2022/2023シーズンの開幕初日に主演し、没後30年を迎えた偉才振付家ケネス・マクミランの代表作『うたかたの恋-マイヤリング-』の主役ルドルフ皇太子を披露したのだから。さらに、その模様がライブシネマとして収録され、世界各地の映画館で公開される。日本人バレエダンサーが海外バレエ団で活躍するのは今や珍しくないが、世界最高峰の中軸として威風堂々として踊る姿は壮観で格別である。

Ryoichi Hirano as Crown Prince Rudolf in Mayerling ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

Ryoichi Hirano as Crown Prince Rudolf in Mayerling ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

1978年にロイヤル・バレエが世界初演した『うたかたの恋-マイヤリング-』は『ロミオとジュリエット』(1965年)、『マノン』(1974年)と並ぶ、マクミランによるドラマティック・バレエの傑作。1889年、オーストリア=ハンガリー帝国のルドルフ皇太子が17歳の愛人マリー・ヴェッツェラと心中した「マイヤリング事件」に想を得た。この事件は『うたかたの恋』の題名で2度映画化され、テレビドラマや舞台にもなっている。音楽はフランツ・リストの楽曲をジョン・ランチベリーが編曲し、美術をニコラス・ジョージアディスが手がけた。

『うたかたの恋-マイヤリング-』は、数ある全幕バレエの中でも男性がメインを務める稀有な作品。ルドルフは両親と不和で、政略結婚により娶った妻ともなじめず、愛人たちとの愛も実らなくて精神を病んでいく――。いささかエキセントリックな面はあるが、男性舞踊手が演技力を存分に発揮できるので、初演したデヴィッド・ウォール以降、ロイヤル・バレエのカリスマたちが挑んできた。だが6人の女性を相手にして踊るためリフトも含め高度なパートナーリング技術やスタミナが必要な難役だ。2018年に続いて演じる平野にとっても役に不足はあるまい。

Artists of The Royal Ballet in Mayerling, The Royal Ballet ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

Artists of The Royal Ballet in Mayerling, The Royal Ballet ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks


 

■平野亮一×ナタリア・オシポワらが凄絶に物語る、愛と死の悲劇

映像での鑑賞とはいえ今回の舞台に接し、『うたかたの恋-マイヤリング-』により親しみを覚え、理解を深めることができた。このバレエは主要登場人物が多めで、筋が複雑な面も無きにしもあらず。そしてマクミランの多くの作品に通じるが、暗く退廃的な雰囲気に支配されているので、近付き難いイメージがあるかもしれない。しかし平野のルドルフは渾身の演技だが、感情表現に無意味な過剰さはない。繊細かつ大胆、起伏に富んだ表現を通して、一人の人間として悩み死へと向かっていくルドルフの心の内をあぶり出していく。

母である皇妃エリザベート(イツィアール・メンディザバル)とのすれ違いや妻のステファニー王女(フランチェスカ・ヘイワード)に暴力的な態度に出る激しいパ・ド・ドゥ、元愛人のラリッシュ伯爵夫人(ラウラ・モレーラ)や同じく元愛人で高級娼婦のミッツィー・カスパー(マリアネラ・ヌニェス)との自堕落な愛。そういったところから平野ルドルフの葛藤が自然に伝わってくるので、愛と死の悲劇の物語に自ずと筋が通って見えてくる。

Artists of The Royal Ballet in Mayerling, The Royal Ballet ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

Artists of The Royal Ballet in Mayerling, The Royal Ballet ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

そして死への甘い憧れを抱くマリー・ヴェッツェラ(ナタリア・オシポワ)との巡り合いがドラマの核だ。力強く奔放に演じ踊るオシポワ。その一途な思いを全身で受け止める平野。終幕の両者によるパ・ド・ドゥは、一挙手一投足から互いの魂の叫びが聞こえるようで凄絶極まりない。マクミランは「人間の真実や複雑な心理を描いた」というふうにしばしば語られるが、それを文字通り一切の言葉無しに現出させている剛腕にあらためて驚き、畏怖の念すら抱く。そして身体を介してそれを観る者に雄弁に伝える"踊る俳優"たちの凄さに圧倒されるほかない。

Natalia Osipova as Mary Vetsera and Ryoichi Hirano as Crown Prince Rudolf in Mayerling ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

Natalia Osipova as Mary Vetsera and Ryoichi Hirano as Crown Prince Rudolf in Mayerling ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks


 

■受け継がれるロイヤル・バレエの伝統、大黒柱として魅せる芸の深さ

『うたかたの恋-マイヤリング-』は今秋パリ・オペラ座バレエ団で新制作されるなど近年レパートリーに加えるバレエ団が増えている。人間感情の振幅の極点を描き出した舞踊ドラマの真価が、今あらためて見直されているのではないか。そうした中、このたびのロイヤル・バレエの上演は本家の威信を示す出来ばえ。主要ダンサーのみならず、脇を固める演者隅々に至るまで演技巧者である。歴代のダンサーたちによって受け継がれてきた伝統が強みで、平野はルドルフ役を日本公演でも踊り話題をさらったエドワード・ワトソンの指導を受けた。映画館上映では、幕間にワトソンへのインタビューそれにリハーサルの様子も流されるので、ロイヤル・バレエが大事な財産演目をいかにして受け継いでいるのかをうかがい知ることができる。

Ryoichi Hirano as Crown Prince Rudolf and Marianela Nuñez as Mitzi Caspar in Mayerling ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

Ryoichi Hirano as Crown Prince Rudolf and Marianela Nuñez as Mitzi Caspar in Mayerling ©2018 ROH. Ph by Helen Maybanks

話を平野に戻そう。ロイヤル・バレエにアーティストとして入団したのは2002年。2007年にファーストアーティスト、2008年にソリスト、2012年にファーストソリストに昇格。念願のプリンシパル昇格は2016年だった。同年6月、日本公演時の記者会見で昇格について「最高級の評価」と喜びを語った。最高位昇格は決して早くはなかったが、多岐に渡る演目で芸域を広げ、今やロイヤル・バレエの大黒柱と呼んで差し支えあるまい。ことにパートナーリングの上手さに定評があり、2022年7月、東京で催された〈ロイヤル・バレエ・ガラ〉でも実力を示した。その卓越した力量が最大限に発揮されているという意味でも、今回の『うたかたの恋-マイヤリング-』は見逃せないのである。そして2023年6月~7月に行われる「英国ロイヤル・バレエ団2023年日本公演」にも出演予定。映画館で、劇場での生の舞台で、平野の芸の深さを目に焼き付けたい。

Mayerling cinema trailer 2022 (The Royal Ballet)

文=高橋森彦

上映情報

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマ シーズン2022/23
『うたかたの恋-マイヤリング-』
 
2022年12月16日(金)より、TOHOシネマズ 日本橋 ほか全国公開
 
【STORY】
オーストリア=ハンガリー帝国皇太子ルドルフと、ベルギーのステファニー王女との結婚を祝う舞踏会が華々しく開かれるが、ルドルフは新妻ではなく、その妹ルイーズに魅かれたそぶりを見せる。宴の後、ルドルフは元愛人のラリッシュ伯爵夫人に、ヴェッツェラ男爵夫人とその娘、マリーを紹介される。そこへ割り込んできたルドルフの友人の高官たちが、滔々とハンガリーの分離独立運動について囁く。ルドルフは政略結婚した妻ステファニーを愛しておらず、母、皇后エリザベートに同情を引いてもらおうとするが拒絶される。初夜のベッドでルドルフは新妻を拳銃と骸骨で脅す。

妻を伴って居酒屋に気晴らしに出かけたルドルフは、なじみの高級娼婦ミッツィー・カスパーに心中を持ちかけるが拒絶される。父、皇帝フランツ・ヨーゼフの誕生日の宴で、エリザベートと愛人ベイ・ミドルトンの様子を苦々しく思い、マリーと初めて二人きりで過ごす。狩猟場での誤射事件で人を死なせてしまい、あやうく母にも弾丸を当てそうになったルドルフは、マリーに心中を持ちかけたところ、マリーは愛と死の甘い幻想に魅せられ同意する。マイヤリングの狩猟小屋で最後に激しく愛を交わした二人は、破滅へと突き進んでいく。

【振付】ケネス・マクミラン
【音楽】フランツ・リスト
【美術】ニコラス・ジョージアディス
【指揮】クン・ケセルズ

【出演】
ルドルフ皇太子(オーストリア・ハンガリー帝国皇太子):平野亮一
マリー・ヴェッツェラ(ルドルフの愛人) ナタリア・オシポワ
ラリッシュ伯爵夫人(エリザべート皇妃の侍女でルドルフの元愛人):ラウラ・モレ―ラ
皇妃エリザベート(ルドルフの母):イツィアール・メンディザバル
ステファニー王女(ルドルフの妻) フランチェスカ・ヘイワード
ミッツィー・カスパー(高級娼婦でルドルフの愛人):マリアネラ・ヌニェス
ブラットフィッシュ(ルドルフのお気に入りの御者):アクリ瑠嘉
フランツ・ヨーゼフ皇帝(ルドルフの父):クリストファー・サウンダース
ベイ・ミドルトン(エリザベート皇妃の愛人):ギャリー・エイヴィス
ハンガリー将校:リース・クラーク、カルヴィン・リチャードソン、ニコル・エドモンズ、レオ・ディクソン

【上映時間】3時間23分
※上映時間について、公開日が近づきましたら上映劇場へ直接お問い合わせ下さい。
北海道札幌シネマフロンティア2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
宮城フォーラム仙台2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
東京TOHOシネマズ 日本橋2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
東京イオンシネマ シアタス調布2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
千葉TOHOシネマズ 流山おおたかの森2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
神奈川TOHOシネマズ ららぽーと横浜2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
愛知ミッドランドスクエア シネマ2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
京都イオンシネマ 京都桂川2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
大阪大阪ステーションシティシネマ2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
兵庫TOHOシネマズ 西宮OS2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
福岡中洲大洋映画劇場2022/12/16(金)~2022/12/22(木)
 
【公式サイト】http://tohotowa.co.jp/roh/
【配給】東宝東和
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