浅田真央、90分間ノンストップで世界中を旅するアイスショー『BEYOND』大阪公演開幕間近、見どころをコメントとともに振り返る

2022年9月に滋賀から始まった、浅田真央主催のアイスショー『BEYOND』。映像を駆使し、90分間ノンストップで繰り広げられるかつて見たことのないエンターテインメントショーが、3月4日（土）、5日（日）に東和薬品RACTABドームにやってくる。大阪公演の開催を前に、昨年末に実施された取材会の様子を振り返っていく。

2018年から3年にわたり走り抜けた『浅田真央サンクスツアー』を終え、ゼロから作り上げられた同公演。テーマは、その名の通り乗り越えること。「私自身が色々なことに挑戦して乗り越えて進化していくという気持ち、そして公演を観ていただいた皆様の乗り越える力になれば」という決意を込めて『BEYOND』と名付けられた。

キャストの選出から演出、楽曲制作、振り付け、衣装、そしてグッズまでの全て手がけた浅田。オーディションは「名前の知られている選手以外でも、素晴らしい表現をする方や美しい滑りをする方が多くいらっしゃいます。トップスケーターになれなくてもこういう場所で滑れるんだよということを皆さんに知ってもらえたら」という思いのもと、SNSで告知。映像審査の後、スケートリンクで実技方式で行われた。「即興の時に楽しく自信を持って堂々と表現しているスケーターを選びました」とオーディションの場でも新しい取り組みに挑戦していたそうだ。

そうして選ばれたのは、浅田が初めて挑戦するペアプログラムでパートナーを務める柴田嶺、宮原知子のコーチとしても知られた田村岳斗、『サンクスツアー』からの続投となる今井遥ら10名。総勢11名でスピンやツイズルを揃えるのは至難の業だが、公演を重ねるにつれ見事に全員の振りが合わさっていく。その秘訣は「何度も何度も練習をして、特にグループナンバーでは仲間を思いやり、息を合わせながら研究しています」とのこと。また今井について聞いたところ「はるちゃんは現役時代から一緒に試合に出場して、『サンクスツアー』で約3年間一緒にまわってきました。いろんな表現ができるスケーターになったんじゃないかなと思います」と信頼を寄せていると話す。

演出は中学生の頃に観た浜崎あゆみのコンサートからインスピレーションを受けたそうだ。「フィギュアスケートにはない演出で、いつか引退したらこのようなショーを作ってみたいという夢を持って、今の私がいます」と言うほど。その言葉の通り、フィギュアだけでなくクラシックバレエやオペラ、ミュージカルなど様々なジャンルの演劇の要素を詰め込んだ『BEYOND』では、これまでのアイスショーの概念が覆される。

本編は眠っている浅田が光を見つけ、さまざまな世界に旅をして、最後はフェニックスというテーマに乗ってビヨンドし（乗り越え）ていくというストーリー仕立てとなっている。旅をしていくにつれ衣装のテイストも変わっていく。「『BEYOND』では10着ほど着替えるのですけれども、なるべく色が被らないようにしました。衣装の中に衣装を仕込んでスケート靴を履きながら、早着替えをしています」というように華やかで楽曲の世界観を表した衣装にも注目。

プログラムは浅田が選手時代に演技してきた『白鳥の湖』や『シェヘラザード』、「幻想即興曲」などの作品のうち、これまで使用したことがない楽曲からなる完全新作。だからと言って他のキャストが浅田の引き立て役な訳ではなく、ひとりひとりがそれぞれのシーンでメインを担っているところも同公演の魅力。中でも一番のお気に入りは、公演のためにデビン・キノシタが書き下ろしたテーマソングとのことで、最後まで見逃さないで欲しい。

さらにアイスショーには珍しく大きなバックスクリーンと客席前のサイドスクリーンの4方向にモニターが設置され「演目に合わせて映像で表現されて、スクリーンから私たちが出入りしたりという映像も楽しめるアイスショーになっています」と映像とスケートの融合を目指す。サイドスクリーンに花びらや光が散りばめられる箇所があるのだが、まるでスケーターの手足からそれらが舞っているように感じる演出は見事だ。

ちなみに前方の客席はリンク上に設置されている。「お客様に少しでもスケートを感じていただきたいです。またリンクのサイズも通常より小さいので私たちもよりスピーディーに動くことができます」と意図を説明。客席と近いからこそ「こちら側でもっと演技を観たかった」という意見もあるそうだが、それに対し「ジャンプをする位置を変えてみたりするなど日々進化させています」とビヨンドの精神を見せる。観客の笑顔やスタンディングオベーションの姿も捉えやすいことから「本当にやって良かったなと思える瞬間です」と頬を緩ませた。

現役の引退発表記者会見をした場でもある大阪。「また戻ってくることができて嬉しいです。私たちは120％の力で1公演1公演、心を込めて滑っています。大阪の皆さんにも全国の皆さんにも、『BEYOND』を観ていただいて、心の片隅にでも置いていただけるように頑張ります。まだまだ全国を回りますので、ひとりでも多くのお客様に観ていただければと思います。ぜひいらしてください」と誘った。

取材・文＝川井美波　撮影＝高村直希