「ボーカリストとして歌えない曲はない」長屋晴子(緑黄色社会)の歌を絶賛ーー東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦が語る、音楽の未来と今のスカパラ

インタビュー
音楽
2023.3.18
東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦

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東京スカパラダイスオーケストラ(以下、スカパラ)が3月15日(水)にミニアルバム『JUNK or GEM』をリリースした。これまで数々のボーカリストをゲストに迎えてきたスカパラ。幾田りらを迎えた「Free Free Free feat.幾田りら」、Saucy Dogの石原慎也を迎えた「紋白蝶 feat.石原慎也(Saucy Dog)」を経て、今作のリード曲である緑黄色社会の長屋晴子(Vo)を迎えた「青い春のエチュード feat.長屋晴子」で裏テーマでもあった「管楽器3部作」が完結した。今作には3部作のほか、TBSラジオ『JUNK』のサウンドステッカー「JUNK or GEM」のフルバージョンやプロバレーボールクラブ・東京グレートべアーズのテーマソング「北斗七星」など、みずみずしい全7曲が収録されており、春にピッタリの1枚となっている。今回SPICEでは谷中敦(Baritone Sax.)に楽曲の話はもちろん、作詞やツアーについての話を訊いた。

東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦

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スカパラは「微調整プロ集団」

ーーまずは「青い春のエチュード」のお話から聞かせてください。もともと長屋さんをゲストにお迎えされたいと思ってらっしゃったんですか?

随分前からお迎えしたいなと思っていて。お会いできる機会はあまりなかったんですけど、自分がやってるYouTubeのトーク番組(『THE FIRST TIMES』内の「FUKA/BORI」)で長屋さんとトークをさせてもらった時に、トロンボーンをやっていたというお話をして。その後、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』のバックヤードで会った時、緑黄色社会のメンバーみんなが自分に向かって「長屋をよろしくお願いします! いつかコラボレーションをお願いします」みたいな話をしていただいたんですね。長屋さんがトロンボーンを吹けることもわかっていたし、ちょうど幾田りらちゃんがトランペットを吹いて、石原慎也くんがチューバを吹いてというので、管楽器を吹くボーカリストが並んでいたので、3部作にしようという話になりました。

ーー偶然にも管楽器を吹けるボーカリストが揃ったんですね。

そうですね。最初からゲストが3人決まっている3部作というのは、今まで全然なくて。「次誰にしようか」と相談したり、楽曲が決まってから探すことも多かったので、偶然に決まった感じですね。

ーー3人とも20代で、今の音楽シーンを代表する若きボーカリストです。

ほんとですよね。よく自分たちとやってもらったなあと、ありがたく思ってます。

ーースカパラにとってもゲストボーカルにとっても、毎回すごく良い相乗効果が生まれているように感じます。

もう長い間やり続けているので、色々な微調整が上手くなっているので、「微調整プロ集団」みたいな感じですよね(笑)。ほんの細かいところからそのコラボレーション自体の粗が見えたりすることがあると思うので、コラボレーションする方との関係性も、音楽のあり方も、歌詞の細かい詰めも、全部綺麗に磨き上げることによって良い曲が生まれると思っていて。微に入り細に入り、アレンジもキーの調整も本当に細かくやってます。今回長屋さんには、最初に自分たちが作った候補の3曲を「ちょっと歌ってみてもらえますか」と連絡をさせてもらったんですけど、3曲ともそれぞれ3つのキー違いを送ってくれたんですね。合計9曲分の音源を返してくれたので、「こういう良さがあるんだね」と聞き取りながら曲とキーを選ぶことができました。すごく生真面目に取り組んでいただいたおかげで、良い作品になったかなと。

ーーキー違いの指定もされたんですか。

3曲とも3つのキーで録ってくださいとは言ってないんですけど、ありがたいことにやってくださって、苦しそうとか低すぎるとか高過ぎるとか、そういうことも一切なく歌いこなしていたので、本当に何でも歌えるんだなと。石原くんもキーによる声の良さや出し方があったので、今回もご本人との相談の上で微調整しました。で、楽曲が決まってから、歌詞を書いていきました。

叶わない恋だからこそ、ずっと無傷でいられる

東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦

東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦

ーー長屋さんからは「大人の歌を歌いたい」というオーダーがあったそうですが。

「どんな歌詞で歌ってみたいですか?」と長屋さんに聞いたら「お任せで。でもせっかくだから大人っぽいのを歌ってみたい」と言われてたんですけど、完全にそういうふうにはできなかったですね(笑)。ちょうどリリースが卒業シーズンだし、世間でも卒業式が久しぶりに行なわれて、スタッフからもアイデアとして卒業が出てきていたので、卒業にまつわる大人の回想を書き上げる曲になりました。「卒業の時にこんなことを思ってた」と大人になって振り返る歌詞の内容になってますけど、「卒業しないわ」と思い切り叫ぶ卒業ソングですね(笑)。告白未遂の恋愛の歌です。

ーー基本的には長屋さんをイメージして書かれたんですよね。

もちろん。いわゆるストレートな恋愛の歌は、長屋さんはご自分ではあまり書かれないイメージがあって。緑黄色社会は勇気を奮い起こすような内容の歌詞が多いのかなと思ったので、女性としての恋愛観みたいなものを歌ってもらったら面白いかなというアイデアが、自分の中であったんです。でも自分は女性ではないので、想像して、告白できなかった女性の気持ちで書かせていただきました。

ーー私は歌詞を読んで、中学生の頃に見ているだけしかできなかった淡い恋心がふわっと蘇ってきたのですが、谷中さんはなぜこんなに少女の気持ちがわかるんだろうと思いました。さすがだなあと。

あはは(笑)。男には敵わない部分で、やっぱり女性の方が想像力があると思うので、恋愛においても色々想像して膨らませていくことができると思うんですよね。想像の中で幸せにもなるし、失敗した時の自分にもなれる。恋を始める前に、失恋のことを想像しながら恋に臨んでいるといった入り組んだ感覚が、思春期は特に多いのかなと思っていて。不安もありながら期待していく。彼女らにとっては命がけで臨んでいくことだと思うし、そこにおける集中力は一生の中でもかけがえのない力で。

ーー本当にそうですね。恋に一生懸命になれた時期です。

成就しなかった恋愛ほど自分の中で印象に残って、多分大人になっても、年老いても覚えていると思う。その思い出を幸せとして、たとえうまくいかなかったとしても、楽しかったこととして記憶してほしいなという想いを込めました。

ーー初恋ほど、叶わない方が美しいところもありますよね。

叶わないからこそ、ずっと無傷でいられるんですよね。

東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦

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ーー確かに。長屋さんは歌詞を見た時、何かおっしゃっていましたか?

歌い方や気持ちの込め方で少し相談しましたけど、やり取りはそんなにしてないかな。全肯定で臨んでもらいました。途中で<ごめんね>と歌うところがあるんですけど、俺は「世界で一番美しいごめんね」と呼んでるんです(笑)。あんなに美しい<ごめんね>は聞いたことがない。その部分はとてもこだわって、何パターンか録って一緒に選んだりしましたね。

ーーレコーディングでの長屋さんの印象はどうでしたか。

「本当にすごいな」しかなかったですね。とにかくすごいんです。ボーカリストとして歌えない曲はないですよね。ただ歌の上手さだけではなく、自分の感情を伝えるという意味でも、きめ細かいところまでコントロールしていて。本当にメダル候補のオリンピック選手並みだなと思いながらやってました。トロンボーンも一生懸命臨んでもらいましたよ。小学校4年生〜中学3年生まで6年間やられてたのかな。その後随分ブランクがあったみたいですけど、思い出しながら吹いてもらって。管楽器奏者の方は皆さん譜面も読めるので理解も早いし、自分がどうやって歌っているのかも画で見れる。自己分析もしやすいから、やっぱり人より上達も早くなっていくんじゃないかなと、3人と接してそう思いました。

ーー北原さんとのトロンボーンの演奏は?

すごく楽しそうにやられてましたね。ちょっと北原が嬉しそうすぎて。MV撮影で2人のシーンを撮ってたんですけど、北原の方が張り切って目立ち過ぎて、「ちゃんとゲストを立てて」と注意してました(笑)。それぐらい盛り上がってましたね。

音楽の未来を信じられる3部作になった

東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦

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ーー「管楽器3部作」が完結したこと、どのように感じてらっしゃいますか?

3人とも、今日本のポップシーンの中で「時代の声」とも言うべき3人なので、自分たちでやってた昔の3部作とはまただいぶ違ったあり方で。やっぱりすごいですね、素晴らしいなと。

ーースカパラの皆さんも刺激を受けていますか?

とにかく皆さん優秀なのでびっくりします。この間作詞を提供した20th Century(以下、トニセン)のライブに行ったんですけど、トニセンの3人が歌ってて、途中でジャニーズJr.の方がたくさん出てきて。1人ひとり自己紹介をしていたんですけど、その中に1人でアカペラを歌って挨拶した人もいて。その挨拶の後、トニセンの3人が「歌の上手さもMCの上手さも俺らの時代にはありえない。今だったら俺らはデビューできてない」と言ってて。そういうの自分たちもすごく感じていることなので。昔は光るものがあれば、未完成でも勢いで自分を信じてデビューできたと思うんですけど、今はとても素晴らしい才能がひしめきあっているので、その中で勝ち抜いていく人たちは、本当にすごい才能の持ち主が多いと思いますね。アベレージが上がってますね。皆さん素晴らしい。未来を感じます。今回も音楽の未来を信じられる3部作になりました。

聴いてもらうことによって完成するのが曲

東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦

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ーーミニアルバムのタイトルにもなっている「JUNK or GEM」は、TBSラジオ「JUNK」のサウンドステッカーとして作られたもので、今回フルバージョンで収録されています。

もともと「JUNK」のラジオのために曲を作らせてもらったので、番組で使う部分は割と短いわけですけど、自分たちとしてはやっぱり1曲にして出したいなという想いがあったのでちゃんと録ろうと思っていました。ラジオプロデューサーの宮嵜(守史)さんからも「こんな感じにしてほしい」という意見をいただいたので、自分たちも要求に合うように作っていきましたね。自分たちだとやっぱり自分たちで好きなものを作る感じになるんですけど、色々リクエストをいただくと、そこからインスピレーションも湧いてくるので、先方からリクエストをもらうのはとても好きなんですよ。J SPORTSの野球中継テーマソング「カルぺ・ディエム〜今日がその日さ」では、野球について考えながら歌詞を書くことが、とても楽しい行為としてできている。人に喜んでもらえるように自分たちで工夫することが好きですね。

ーー谷中さんにとって、作詞とはどういうものになってきていますか?

作詞はただ本当に一生懸命考えて書いているだけなんですけど、作詞全体については……そうだなあ。自分が言いたいことを作詞して、それを自分で歌ったり、人に歌ってもらうことで、聞いている人にメッセージを込めて伝えることよりは、自分なりのストーリーやドラマを考えて、そこに共感してくれる人ができるだけたくさんいたら嬉しいな、という世界で書いてますね。「この人はこのメッセージを伝えたいんだ」というのがハッキリ分かる歌詞だと、人間は天邪鬼なので、逆に額面通り受け取らないんですよね。どこかしら、自分の意見や自分なりの洞察力を持って歌詞の世界を完成させる方が、結局メッセージが伝わることがある。ある意味未完成な部分や想像の余地、聞いてくれる人に参加してもらう余地を残しながら作っていくことがとても大事だなと思っていて。100%完成したものを押し付けることは、やっぱり聞いてる人に拒否されますよね。拒否されるまではないかもしれないけど、無視される部分もありますね。客観的に「良いメッセージができて良かったね」という感覚(笑)。

ーーなるほど。

人を笑わせることもそうだと思うんですけど、本当に面白いことをやってるなと思っても、客観視するとただ「面白いですね」になってしまう。「面白いですね」って言わせたいわけじゃなくて、笑って欲しいわけじゃないですか(笑)。自分も「良いですね」と言わせるよりも感動させたいので。だから余白の部分や、人と相居るための未完成具合を大事にしています。わざと粗削りに一筆書きみたいに書いた歌詞の方が、より伝わりやすい時もありますし。人と一緒に作っていく感覚で、人と一緒に育てていくための個を作るというか、そんな感覚ですね。

ーーそこにリスナーの方も入っているんですね。

そうですね。聞いてもらうことによって完成するのが曲だと思うので。歌詞の世界も「ひとつの隙もなく言いました」と言っても、やっぱりそれは自己満足になってしまう可能性が高いので、そこは気をつけてます。

ーー今作のミニアルバム、どんな1枚になったと感じていらっしゃいますか?

コロナ禍以降、本当に音楽をやることが楽しくてしょうがなくて。コロナの間活動の場が減っていたので、そんな中でスタジオに入って演奏すると、やっぱり音楽が大好きなんだなーって実感して。そんなメンバーを見ながらずっとスカパラの活動をやってますけど、今回は本当に皆楽しそうに作り上げたので、その素晴らしさが出てますね。

ーー6月にはリリースツアー『TOUR「JUNK OR GEM〜SPRING&SUMMER」ガラクタかオタカラか?スカしてるならそれがタカラだ。」』でまた関西に来てくださるということで。

30年以上やってきて、今スカパラの平均年齢が56歳とかなんですけど、今が1番忙しいくらい、多岐に渡った活動をさせてもらっています。その活動をもたらすエネルギーは無視できない。色んな場所で演奏させてもらうこともそうだし、メディアに出させてもらったり、こうやってインタビューさせてもらうこともそう。あと3月中に秋田やメキシコに行くんですけど、そういう場所で得たエネルギーを帯電しながら放電していきたいなと思って。メキシコの風も届けられるかもしれない。会場で色んな風を伝えることができればいいなと思っております。

東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦

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取材・文=ERI KUBOTA 撮影=福家信哉


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