『SANUKI ROCK COLOSSEUM 2023』四国の街を音楽で巻き込む、美しきライブサーキットが4年ぶりに本来の規模で開催
四星球 撮影=Hoshina Ogawa
2日目の3月19日(日)。前日と同じく朝10時からパス交換所は長蛇の列で、朝11時には商店街付近でパスをつけた観客たちの姿が目立つ。初日の我儘ラキアやBiSなどアイドルがラインナップに加わっているのもそうだが、2日目はSNSやTikTokでバズるという今どきの流行旬で話題になっているミュージシャンがブッキングされている事からも幅広さを感じた。
ヤングスキニー 撮影=Hoshina Ogawa
11時30分からのFM香川ステージでは、『バズりロックコロシアム』と題して、のんぴーとヤングスキニーが登場。共にSNSでバズっている2組だが、のんぴーはSUMUS café、ヤングスキニーはオリーブホールで共に入場規制がかかっていた。路上ライブでも活動しているのんぴーは、フェスが元々大好きであり、今回は初日から来ていたとライブで明かす。Hump Back「拝啓、少年よ」をカバーしている事もあり、実際に生で本物の歌を聴いた興奮についても話す。ヤングスキニーはリラックスしながらライブを楽しむも、とにかく黄色い声援が多かった。SNSという異文化での盛り上がりが、ライブハウスと起こす化学反応は興味深かった。
FM香川ステージではアコースティックライブも催され、この日はMONSTERでのライブを控えたEOWが登場。小沢健二とスチャダラパー、椎名林檎などのカバーを歌っていたが、全く知らない観客も、ここで知って興味を持ってMONSTERへ足を運んだ人もいただろう。そういう意味で商店街が交差するど真ん中に位置するFM香川ステージの役割は大きい。
大山メガネでのトークショー
珠玉のカバーに耳を傾けながら、一路、田町商店街の奥へ奥へと向かう。2日間の移動で一番距離が遠かったと思われる場所が田町商店街にある眼鏡屋、大山メガネ。田町商店街のユルキャラたまぢぃを横目に到着したが、至ってシンプルなこじんまりとした街の眼鏡屋。だが、床には所狭しと観客が座り、外にも観客が溢れ返っている。そんな四星球 モリスのトークライブは多くの観客が集まったわけだが、当の本人も「まもなく山本彩さんのライブが始まるのを知ってますか?! たまごっち発売日みたいな行列が出来てますけど!!」と驚いていた。眼鏡屋ながら中には洋菓子屋ブースもあり、サヌキロックとのコラボクッキーも売られている。モリスのトーク相手を務めたFM香川パーソナリティの鍛治匠に、その後、話を訊ける機会をもらったので色々と聞いてみた。すると大山メガネ二代目つまりはお子様が洋菓子屋をされているという。大山メガネ親子の方々含め、商店街の方々は『サヌキロック』に心から好意的であり、コラボを望む声も絶えないらしい。例えば、この2日間、常磐町商店街では常にFM香川ステージの音声が聴こえていた。最初は生放送されているから聴こえているのかと呑気に思っていたが、よくよく考えてみたら、ほとんどのトークライブは生放送されておらず、その場限りのものである。それが商店街の御厚意によりスピーカーから流されているので、商店街内どこにいても聴く事ができた。そう考えるとFM香川ステージも商店街が交差する場所に存在する事に大きな意義がある。鍛治さんも「ここでやらなきゃ意味がない!」と語ってくれた。エフエム香川の鶴川信一郎社長にも御挨拶する事が出来たが、とにかくサヌキロックに対して、ラジオ局が何をできるかを常に考えておられた。元FM香川パーソナリティ井川さんの言葉ではないが、まさしく「街とラジオと音楽と」である。
さて、モリスも気にしていたfesthalleの山本彩だが、リハから温かい空気を感じる事ができた。彼女自身、クラブサーキットは人生で2回目であり、それもバンドをやっていた小中学生以来の10年以上ぶりだという。前日入りして高松での食事を楽しんだり、何とひとりでカラオケ屋にも行ったと話す。ライブ後、会場外で丁寧に観客とコミュニケーションを取る姿も見受けられたが、長いキャリアを持つ彼女だが初サヌキロックを本気で楽しんでいた。長いキャリアを持ちながら初サヌキロックでいうと、festhalleに山本に続いてステージに上がったthe dadadadysもそうである。teto名義時代には出ているが、今のバンド名になってからは初めてだ。
the dadadadys 撮影=Hoshina Ogawa
「街全体を巻き込むロックサーキットは美しいと思っています」
小池貞利(Vo.Gt)の言葉だが、何度も書くように、『サヌキロック』が美しいのは、ただ街でやっているのではなくて、街に根付いて巻き込んでいるから。ここまで街に根付いて巻き込んでいるロックサーキットは、私も他には知らない。小池含めトリプルギターなのは、とにかく爆裂にかっこよかった。よく爪痕を残すというか、これこそ真の爪痕を残すバンドであり、ここで果てても良いという思いで魂を焦がしていた。はっきり言って30分は全く時間が足りなかったが、「やり足りないくらいが良い。2回戦があるから」と言っていたのも頼もしかった。また、四国に、高松に帰ってきてくれるという事だろう。地元民にとっては何よりも嬉しかったはずだ。
Chevon 撮影=Hoshina Ogawa
帝国喫茶 撮影=Hoshina Ogawa
この日も初出場組は多かったが、特にDIMEは帝国喫茶、Chevon、Atomic Skipperなど初出場組が目立った。帝国喫茶 杉浦祐輝はリハで「高松初めまして」と話しかけていてが、初『サヌキロック』だけでなく初高松にも関わらず、リハの段階からどんどん観客が増えていき、本番が始まった時は身動きが取れないくらいの大入りであった。「夜に叶えて」、「君が月」と最初2曲を丁寧に歌って届けてから、「こっから最後までノンストップで行くんですけど、また秋に高松にツアーで帰って来るので宜しくお願いします」という杉浦祐輝(Vo.Gt)のMCは好感が持てた。the dadadadys小池しかり、どれだけ先であろうと必ず帰って来る事を誓ってもらえるのは地元民にとっては、やはり何よりも嬉しいはずだ。そう先に宣言される方が、よりワンマンへの気持ちも向くだろう。そっから本当にノンストップで5曲全速力で走り抜けた。ラストナンバー「春風往来」はいつものように荒々しく衝動的であったが、いつも以上に音が轟きまくっていた。スピーカーの上に座ったり、スタンドマイクを横に向けて歌ったり、最後には全力を使い果たして倒れこむ杉浦の若きロックスター的な佇まいは、四国の観客たちに強烈なインパクトを残しただろう。
四星球と井川さん
四星球と井川さん
16時過ぎに常磐町商店街をバックにした四星球の撮影を行なっていると、その場に何と偶然にも井川さんが通りかかった。康雄は「サヌキロックは井川さんがいなかったら始まらなかった!」と熱く語り、初日の井川さんの急遽影アナを見守るお子さんの表情が良かったとも話す。ちなみに井川さんのお子さんの初ライブは、その初日の四星球だったそうだ。父親も参加した四星球のライブが初ライブである事は、一生忘れられない思い出となるだろう。井川さんに無理を言って、「三びきの子ぶた」前で四星球と井川さんの5ショットを撮影させてもらったが、とてもとても良い笑顔を5人ともしていた。13年の歴史を誇る『サヌキロック』を一緒に作り上げてきた盟友だからこその笑顔であった。
LONGMAN 撮影=アミノン
この日もfesthalle、オリーブホール、DIME、MONSTER、TOONICEでの朝11時10分のトップバッターたちは、各ライブハウス推薦の四国のミュージシャンであった。四星球が発起人となったように、サヌキロックには四国のバンドは欠かす事ができない。初日の古墳シスターズと並んで欠かす事ができない四国の若手バンドと言えばLONGMANである。15時にFM香川ステージでモリスとトークライブして、16時20分にはfesthalleのステージに立っていたのも驚きだ。このフットワークの軽さも地元バンドマンならではかも知れない。メンバーが登場する時に観客全員がハンドクラップで出迎えたのも地元ならではの温もりを感じた。さわがジャンプしながら回りながらベースを弾いて歌う姿は、とてもキュートで目を惹く。
ひらい(Gt.Vo)、さわ(Ba.Vo)、ほりほり(Dr.Cho)の等身大の自然体な会話も、観客は楽しみながら聴いている。ひらいは昨年の『サヌキロック』を振り返りながら、「言うても去年はコロナ禍からの第一歩だったし、100人くらいだった。ではあったけど、今年は100%帰って来た! DUKEチームの皆さんが、みんなが、諦めなかったから! サヌキロックが戻ってきました! みんなに拍手!と観客に拍手を贈った。そして、袖にいた『MONSTER baSH』のプロデューサーでありDUKEの定家さんにも拍手を贈る。FM香川のみなさんもそうだが、作り手の顔が見える祭は安心できるし信頼できる。
LONGMAN
「パンクロックの先輩が積み上げてきたのを踏襲するだけじゃなくて、圧倒的なものを作りたい」
このひらいの言葉には、パンクロックへの四国のバンドマンとしての覚悟を力強く感じた。だからこそ、その後に歌う「愛を信じたいんだ」にも力強さを感じた。とにかく、いつも通り元気いっぱいであるし、観客もみんな手をあげて歌っている。英詩も混じる彼らの歌だが、この日は日本語詞によるメッセージが、いつも以上に力強く突き刺さっていた。
The BONEZ 撮影=Hoshina Ogawa
2日間はあっという間であり、残すはfesthalleラスト3連発のみ。初日festhalleラスト3連発は20代バンドマンたちの躍進を感じたが、2日目festhalleラスト3連発はアラフォーバンドマンたちの意地を感じた。大トリの康雄は、ライブ後に「(オメでたい頭でなにより)赤飯のライブがあったから、来年を見据えて半歩はみ出す事ができた」と打ち明けてくれた。ラスト3連発トップバッターのオメでたい頭でなにより、続くThe BONEZの熱狂には、初日とはまた違う最終日だからこそのお祭り騒ぎがあった。勇気ある2バンドが半歩踏み出したライブは当たり前だが、単なるバカ騒ぎではなく、胸騒ぎからくるものであり、あくまでマナーとルールとモラルを守ったものである。
「色々なルールが変わって、ライブハウス業界は俺らで作っていかないといけない。地方地方のルールを守りましょう。でも、ぶっ飛ばす為にやってるんで、自分と戦いながらやっていく」
The BONEZ 撮影=Hoshina Ogawa
The BONEZライブでのJESSE(Vo)のこの言葉はとてつもなく重かった。こういう書き方をすると本人は嫌がるかも知れないが、責任感を感じたし、ライブハウスの未来を考えてくれていた。だからこそ、バカ騒ぎして暴走する観客はおらず、みんな丁寧に周囲を気にしながら楽しんでいた。しかし、オメでたい頭でなによりのライブ同様、確実にコロナ禍に振り回され過ぎず、着実な半歩踏み出していた。
「地元をカッコ良く魅せたかったら、お前らバンド組んでかかってこいよ!」
JESSEの言葉によって本気でバンドを組む四国の若者たちが出てくると本気で信じている。ライブハウスを本気で愛する心構えを教えてくれた。
The BONEZ
「物販でツアーを売ってます! 次のライブは今日を超えてるし、また、この街に戻ってくる時は、みんなで人生を変えましょう」
バンドマンの矜持とは何たるかを知らしめてくれた猛烈なライブだった。
四星球 北島康雄とオメでたい頭でなにより 赤飯 撮影=Hoshina Ogawa
さぁ、こんな尋常じゃないライブハウスバトンを渡された大トリの四星球は一体どうするのだと危惧したが、ある意味、予想通りで何の心配もいらなかった。初日と同じく四国のスーパー「マルナカ」の歌をリハでずっと歌っている。持ち歌かと勘違いするくらいの鉄壁の演奏付き。全くマルナカを知らない赤飯まで楽屋から呼ばれて歌わされている。また、それを完璧に瞬時で完コピして歌う赤飯も凄い。駅近くの会場であるので「TRAIN-TRAIN」をカバーしたり、「1回しか言いません!」とふった後に康雄が喋り出すが、電車の効果音で何を言っているか全く聴こえないという小ネタを繰り返したりする。
四星球
袖にはけずに、その場で着替えて、「BONEZのカッコ良いライブの後でブリーフに着替える僕らの気持ちがわかりますか?!」と康雄。そんな康雄がシャツを脱いだら、乳首のとこだけが切り抜かれている! 乳首相撲の長い長い紐を観客に預けて、四星球流デスメタル「乳首オブデス」にのせ、康雄の乳首が挟まれた洗濯ばさみが引っ張られる。そして、その後は仔馬が立ち上がるまでの応援歌「UMA WITH A MISSION」。てか、本来の規模での4年ぶりとなる記念祭であり、オメでたい頭でなにより→The BONEZという屈強なる2組からのバトンを受け取った大トリのライブであるのに、何を見させられているんだろうと考えるが、これが正真正銘THE 四星球だ。
四星球
商店街の人もDUKE玉乃井社長もfesthalle支配人も『サヌキロック』の開催を喜んでくれていると話していたが、ステージで率先して盛り上げているのは発起人でもある四星球であり、関係者から観客まで四国の全ての人々に四星球が愛されている理由がよくわかる。四国の為に本気で真剣にふざけて盛り上げているからだ。この日は何と「ふざけてナイト」が三連発で歌われたが、何回聴いてもポップでキャッチーでパワーあふれるメッセージソングであり、とんでもないキラーチューンである。
四星球
「昔は尖がってましたけど、最近は丸なったと思う事が多いんです。でも丸くなっていくのも悪くないですし、僕らの名前は四星球ですから、どんだけボールのように丸くなっても大事に持っていて下さい。今までは中指ばかりを立ててきましたけど、ここからは約束です!」
四星球
そう言って立てた康雄の小指はかっこよかった。そして、「Mr.Cosmo」での康雄が宇宙人の格好をして出てくる場面では、アーノルドパーマーの有名なロゴマークであるカラフルな傘をデザインした段ボール小道具を持って登場する。初日のネタ回収をするならば、アーノルドパーマーといえばDUKE玉乃井社長が愛用するブランド。そして、そのカラフルな傘段ボール小道具を玉乃井社長にプレゼントすると言う。何故プレゼントするかといえば、「Mr.Cosmo」でお馴染みの康雄が観客エリアに降りて、観客と共にミステリーサークルを作る事が、玉乃井社長から許可されたからだと話す。ミステリーサークルのシーンを観るのは何年ぶりだろうか……。間違いなく3年以上ぶりである……。思えば長い長い長い3年間であった。今、このシーンを観れるのは間違いなく、赤飯からJESSEへと大切に丁寧に繋がれたライブハウス本来が持つ自由が認められて赦されたからだ。その重大さが理解できている観客たちもマナーとルールとモラルを守った上で、周囲に気を配りながら、ゆっくりゆっくりと安全にミステリーサークルを楽しむ。
四星球
「20年間の四星球の代表作は『サヌキロック』やと思います」
観客エリアにある柵の上に立った康雄は言い切った。どれだけドラマチックにエモーショナルになっても、ラストナンバーはやはり、マルナカの歌。これでこそ四星球であるが、ラストのラストは「ふざけてナイト」が歌われた。
<ふざけてないと ふざけてないと ふざけてないと ふざけてナイト泣いちゃうの>
ふざける事が悪とされて不要不急とされた3年間。遂にライブハウスにふざけられる夜が……、そう「ふざけてナイト」が戻ってきた。
2日間の余韻に浸りながらも、その日の内に関西に帰らねばならないので、商店街を歩きながら高松駅の方向へと向かう。その道中ずっと『サヌキロック』の魅力について思いを巡らしていた。そんな中、2日間よく見かけていた『サヌキロック』のポスターを最後にも見かける事に。夜の商店街で真っ黒に日焼けした革ジャンを着た男性がドラムを叩いている。この男性は日焼けサロン、ビームゾーンの店長であり、毎年自主的に商店街側が『サヌキロック』を盛り上げる為にオリジナルポスターを作っているという。それこそサヌキロックの魅力でもあるし、最上級の褒め言葉ではあるが、この街はどうかしてる!? その究極の答えがポスターには書かれていた。
「なぜ、あなたは そんなにロックなのか? この街の店主は みんなロックすぎる。なぜなんだ? サヌキロックがあるから そうなるのか。いや、むしろ逆か? こんな街だからサヌキロックがあるんか? まぁ、どっちでもよい。」
こう最後に文章は締められる。
「この街はロックだ。」
それが答えだ。
取材・文=鈴木淳史 撮影=Hoshina Ogawa、オフィシャル提供(撮影:アミノン)
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