岩松了×黒島結菜インタビュー~6年ぶりのタッグとなる『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』で楽しみにしていることとは
(左から)岩松了、黒島結菜
2023年6月3日(土)~6月25日(日)本多劇場にてM&Oplaysプロデュース『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』が上演される(その後、富山・大阪・新潟を巡演)。
今作は年の瀬の銀座を舞台に、肩を寄せ合って生きてきた兄妹が、かつて家庭を崩壊させた父の愛人と出会い、徐々に打ち解けてゆく”赦し”の物語だ。
作・演出は、これまでもM&Oplaysプロデュースで数々の話題作を手掛けてきた岩松了。両親を亡くしひっそりと暮らす兄妹の妹・イズミ役を黒島結菜、兄・アキオ役を井之脇海、銀座の街にいる若い浮浪者役を青木柚と櫻井健人、かつて父親の愛人だった女性・葉子役を松雪泰子が務め、作・演出の岩松も田宮役として出演する。
今作と同じく岩松の作・演出で上演された『少女ミウ』に出演して以来6年ぶりの舞台出演となる黒島と、今回は出演も兼ねる作・演出の岩松に、今作の上演に向けての思いを聞いた。
「僕には彼女を次のステップに連れていく責任がある」(岩松)
ーー黒島さんは6年ぶりの舞台、しかも6年前と同じく岩松さんの作品ということで、今回のお話しが決まったときのお気持ちを教えてください。
黒島:岩松さんとはお会いするたびに「またぜひご一緒しましょう」という話をしていたので、やっとできるんだ、という嬉しい気持ちでいっぱいでした。
ーー黒島さんにとって『少女ミウ』の経験は大きいものだったのですね。
黒島:そうですね、難しかったんですけど、本当に楽しかったんです。わからないながらも一生懸命やったな、という思いがあって、まるで新人のときに戻ったような気持ちというか、毎日を新鮮な気持ちで過ごせました。今回もまたそういう新しい気持ちでやれるんじゃないかな、と思っています。
黒島結菜
ーー岩松さんは6年ぶりに黒島さんとご一緒することについて、どういう思いを抱いていますか。
岩松:前回は、彼女のことはテレビのドラマでちょっと見たぐらいであまりよく知らない状態だったんです。今彼女が言ったみたいにすごく新人っぽくて、まだ色が染まってないみたいな感じが、僕にとってはいい感じだったかなと思っています。ミウという役とも非常に近かったし、僕の中では「黒島結菜」という人で一段階踏めたような気がしたから、次にやる時はまた新たな段階を踏めるんじゃないかな、と思っていました。最近顔を見ると、当時に比べて大人になったなと思ったので、ちょっと大人の印象が反映されたような本になるんじゃないかな、という気はしています。
ーー岩松さんから見た黒島さんは、俳優としてはどんな印象だったのでしょうか。
岩松:余計なことをしないという、僕にとっては理想的な俳優でしたね。「技術が役者を育てる」という発想にはなっていないというのかな。とりあえず黙って聞いている、というところから始まってる印象でした。僕との出会いがそうだったから、おこがましい言い方ですけど、僕には彼女を次のステップに連れていく責任があるみたいな感じがちょっとあって、そういう意味でもまた一緒にやりたいなと思っていました。
ーー黒島さんも、新人のような気持ちになって楽しかったというのは、具体的にどんな感覚でしたか。
黒島:言われたことに応えられるように、一生懸命頑張るみたいな感じでした。でもやっていくうちにだんだん自分の中で整理ができてきて、自分の中に入っていく感じがつかめて、そこからは気持ち的にすごく自由になれた感じがしました。舞台って面白いな、と思いましたし、何度も繰り返しやるということが自分に合っているな、というふうに思いました。
演劇の稽古は「部活時代を思い出す」(黒島)
ーー岩松さんのお稽古はよく「千本ノック」と称されますが、そう言われることについて、岩松さんご自身はどう思われてるのでしょうか。
岩松:「千本もやらないよ」と思っています(笑)。
ーー千本はやらないけど、百本くらいはやるよ、という感じでしょうか(笑)。
岩松:最近はそんなでもないです。若い頃は本当にやっていましたけど、それだと自分の体がもたないということに気づいたので(笑)。
ーー黒島さんは実際に6年前に岩松さんのお稽古を受けたときに、千本ノックのイメージはありましたか。
黒島:噂で聞いてはいましたが、千本もやってなかったです(笑)。でも集中的にひとつのシーンをやるいうのは何度かありました。
(左から)岩松了、黒島結菜
ーー先ほど「繰り返しやるということが自分に合っている」とお話しされていましたね。
黒島:以前スポーツをやっていたので、部活時代を思い出す感じです。怒られて何回も練習するみたいな「はい、やります!」という感じが結構好きで、大人になってからだとそういうことはないじゃないですか。
ーーそう言われると、岩松さんはやりがいがありますね。
岩松:まあ、そうですね(笑)。別に無責任に言うわけじゃないんですけど、自分でもどんな話になるんだろうと思っていて、一応外殻はあるんですけど、この人物たちで書いていくとどうなるのか、自分でも楽しみだなと感じています。
黒島:稽古しながら書いていく感じなんですか?
岩松:理想は稽古までに全部出来上がってる状態だけど、もしかしたら残っている部分は稽古をしながら書くことになるかも。『少女ミウ』のときどうだった?
黒島:あのときもそんな感じでした。
岩松:そうだよね、途中まで出来てて……。
黒島:途中までもなかったような……(笑)。
岩松:え、嘘! そうだったっけ(笑)。あのときは劇場がザ・スズナリで、今回は本多劇場でしょう。だからさっき言ったみたいに、劇場のサイズ感的にもステップ2みたいな面白さがあるなと感じています。
井之脇海は「ミステリアスな感じがしていまだにつかめない(笑)」(黒島)
ーー今作では黒島さんと井之脇海さんが兄妹役です。
岩松:黒島さんともう1回やろう、という話は本人ともプロデューサーともしていて、じゃあ「黒島結菜」で次はどういう話をやろうか、というときに、相手役に井之脇くんはどうだろうということになったんですね。それで、じゃあ兄妹の話なんていいんじゃないのかな、と思ったんです。僕が昔『スターマン』という、妹と2人暮らしをしてる兄の話を書いたことがあって。その作品の印象が、もうちょっと先に行った感じになれないかなと思ったんですね。あの作品の印象を銀座に置きたいな、という感じでしょうか。
岩松了
ーー黒島さんは、井之脇さんとはNHKの朝ドラ『ちむどんどん』で共演されましたが、そのときの何か印象などありましたら教えてください。
黒島:海くんとは今回で共演するのが4回目なんですけど、いまだに全然つかめなくて(笑)。本音が見えないというか、ミステリアスな感じがします。朝ドラ中も長く一緒にいたのにお互い連絡先も知らないし、絶妙な距離感というか、だから今回はもうちょっと仲良くなれるといいなと思います(笑)。
ーー会えば普通に話すけど仲良しまではまだ行っていない、みたいな感じでしょうか。
黒島:お互い人見知りなのかもしれませんね。どちらかがきっかけを作ったら、すごく気が合いそうな感じはあるんですけど、「まあ、また一緒になるからそのときに」みたいな感じでここ1、2年ぐらい共演してきました。
ーー松雪泰子さんと共演されたことはこれまでにあるのでしょうか。
黒島:松雪さんとは以前『at Home アットホーム』という映画で、親子役で共演したことがあるんです。お会いするのは久しぶりになるので、いい緊張感があって楽しみです。
銀座は“虚”の部分がある街(岩松)
ーータイトルに実際の地名である「銀座」が入っていますが、銀座を舞台にしようと思った理由はどういったところにあるのでしょうか。
岩松:僕はこれまで『市ヶ尾の坂』『シブヤから遠く離れて』と書いてきて、実名シリーズの第三弾という気持ちでいます。どこか虚構じゃない場所を取り入れたいなと思い、どこにしようか考えていたときに「銀座は風向きによって海の匂いがする」という話を聞いて、素晴らしいなと思ったんです。銀座って一昔前は健全な男女のデートの場所だったじゃないですか。だから銀座が父親と母親の思い出の街というのはどうかなと思ったのと、銀座は広告代理店とかがあって“虚業の街”というイメージもあって、“虚”の部分がある街でお兄さんが働いていて、妹はもういない両親の面影を銀座に求める、という矢印がそれぞれにあって、それを組み合わせて書いていくことになるのかな、と思っています。
ーー作品としては、キャッチフレーズのひとつである「“赦し”の物語」というのが、大きなポイントになりそうですね。
岩松:兄妹のお父さんには長年愛人がいて、当時愛人は2人にとって敵だったわけですね。実際書き始めたらどうなるかわかりませんけど、現段階では過去に敵だった者が、今は赦し合う仲になっていくという話を目論んでいます。
黒島:赦すことって、すごい難しいなと思います。
岩松:そうだよね。理屈でこうだから“赦す”という問題ではないから。
黒島:どうやって人は“赦す”のか、それはある意味、相手を受け入れると同時に自分を受け入れていくことなのか……そういうことを描いた物語になるのかな、という想像をしています。
岩松:例えば自分が敵だと思った人間よりも自分が遥かに酷い人間だとわかったときに赦すとか、何か様々な要素があるような気がするんですよね、“赦す”ということには。僕は今まで人を赦したことないし。
(一同爆笑)
黒島:赦さないんですね(笑)。
岩松:赦せたらすごく楽だろうな、と思う。赦せないということは、いかに自分が未熟かということなんだろうな、とは思うんですけどね。
(左から)岩松了、黒島結菜
人間は生活の中でみんな芝居をしている
ーー黒島さんは『少女ミウ』を経て、何か得たと感じるものや、その後のお仕事に影響を与えたものはありましたか。
黒島:岩松さんが「人間は、役者とか関係なく、普通に生活している中でみんな芝居をしている」と言っていて、確かにそうだな、と思いました。家族といるときの自分も違うし、仕事してるときの自分も違うし、友達といるときの自分も違うし、それぞれに違う一面があって、別に演じ分けているわけではないけれど、無意識にそうなりますよね。それがすごく印象に残っていて、私生活でも意識するようになったというか「今の自分はこういう自分なんだ」とより自分を客観的に見られるようになった気がしています。
ーー黒島さんはこれからも舞台のお仕事というのはコンスタントに続けて行きたいと思っていますか。
黒島:はい、舞台は定期的にやっていきたいです。稽古をしていると自分を客観的に見ることができたり、自分をよく知ることのできる時間になると思うので、過去の自分とか、新しい自分とか、自分自身をいろいろ整理しながらやっていきたいなと思っています。
ーー6年ぶりに立つ舞台で、こんなことをやってみたいな、と考えていることはありますか。
黒島:この6年間をまずはリセットしたいな、ということですかね。一回全部フラットにして、また新しい気持ちでできたらいいな、と思っています。そこからまた何か新しい自分というか、もう20代後半に入っていくので「もう子どもじゃないんだぞ」というか(笑)、大人になるステップにできたらいいですね。
ーー今作に参加するにあたり、何か楽しみにしていることとかあれば教えてください。
黒島:舞台はずっとやりたかったので、舞台に立てることもそうですし、稽古も好きなので、その時間全部が楽しみです。映像でもそうですが、少しずつ積み上げてひとつのものが出来上がっていく過程が好きなので、そういった意味でも楽しみです。あと、岩松さんとも一緒にお芝居できるのが楽しみです。映像のときに同じシーンで共演したことありましたっけ?
岩松:多分ないんじゃないかな? でも俺は目は見ないよ(笑)。演出しながら出演すると、ダメ出ししている相手と舞台上で共演することになるじゃないですか。そうすると何だか目を見るのが恥ずかしいんだよね。
黒島:じゃあ、舞台上で共演できても目は合わないんですね(笑)。映像で同じ作品に出たことはあるんですけど、同じシーンに出演したことはなかったので、今回が初共演ということで楽しみにしています。
岩松:……じゃあ、目が合うようにする(笑)。
黒島:ふふふ、楽しみです(笑)。
(左から)岩松了、黒島結菜
取材・文=久田絢子 撮影=池上夢貢
公演情報
出演:黒島結菜、井之脇海、青木柚、櫻井健人、岩松了、松雪泰子
■公演日程
<東京公演>
日程:日時:2023年6月3日(土)~6月25日(日)
会場:本多劇場
お問い合わせ:M&Oplays03-6427-9486
■地方公演
<富山公演>
日時:2023年6月28日(水)
会場:富山県民会館ホール
お問い合わせ:イッセイプランニング 076-444-6666
日時:2023年7月1日(土)、2日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
お問い合わせ:梅田芸術劇場 06-6377-3888(10:00-18:00)
日時:2023年7月9日(日)
会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
お問い合わせ:りゅーとぴあ専用ダイヤル 025-224-5521(11:00~19:00/休館日除く)
主催・製作:(株)M&Oplays