Anly x Style KYOTO管弦楽団による「Style 京to琉」初ライブ、音楽の力が導いた奇跡の時間

レポート
音楽
クラシック
2023.5.12
 撮影=ハヤシマコ

撮影=ハヤシマコ

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『Style 京to琉』2023.4.30(SUN)京都・京都劇場

4月29日(土・祝)と30日(日)の2日間、京都劇場にて、AnlyとStyle KYOTO管弦楽団で結成されたオーケストラ・バンド「Style 京to琉」の初公演が行われた。SPICEではこれまで、バンドのリハーサルや打ち合わせの現場に潜入し、本番までの動向を追いかけてきた(ぜひ潜入レポートも読んでみてほしい https://spice.eplus.jp/articles/317102)。「新しい可能性を追求し、従来の公演とは異なるクリエイティブ集団としてのオーケストラ・バンドを目指す」ことをコンセプトにした、今回のプロジェクト。バンドに会うのは4月5日のリハーサル以来だが、一体どんな化学反応を見せてくれるのか。筆者もワクワクを抑えきれぬまま会場へと足を運んだ。今回は2日目にして千秋楽、そして集大成となった4月30日(日)のライブの模様をレポートする。


まだ少し肌寒さの残る4月最終日。ゴールデンウィークに入ったばかりの京都駅は、観光客と休日を楽しむ人々でごった返していた。京都劇場はJR京都駅構内にある、駅直結の劇場だ。レッドカーペットを思わせる階段を上がった先にあるロビーからは、京都タワーの姿も望むことができる。

4月5日に初めて顔を合わせたAnlyとオーケストラメンバー。そこからしばらく間が空き、本番前の4月27日と28日に最終リハーサルが行われた。SNSでアップされていた様子を見るにかなり良い感じの仕上がりで、メンバー同士の仲の良さも深まっているように見受けられた。最終リハを通し、結束力も加速度的に強くなったのではないだろうか。

ステージ上には、アーティスト・Keeenueが描き下ろしたキービジュアルのバックドロップが吊るされている。暗めの照明でムードを高めている会場には、AnlyセレクトのBGMが流れていた(この日流れていたのは、アメリカのロックバンド、The Band CAMINO)。これは打ち合わせでAnly本人が提案したもの。いつもAnlyがライブで使用しているBGMを流すことで、初めてオーケストラを見るAnlyファンがリラックスできるように、また普段オーケストラを見慣れている人がAnlyのライブの雰囲気を感じてもらえるようにとの意図が込められている。とはいえ、厳かな劇場の力もあるのだろう。会場内には少しだけ緊張感が漂っていた。

いよいよ開演時間になり、まずはオーケストラメンバーがスタンバイ。チューニングを終えると指揮者でマエストロの松元宏康が登場し、コンサートマスターの三上亮とがっちり握手。客電が消えて松元がタクトを振ると、「Style 京to琉」のライブがスタートした。1曲目は「Coffee」。イントロのパーカッションが鳴り響くとAnlyがステージに登場、大きな拍手で迎えられる。

Anlyはラフさも感じられるモードなファッションで、自由にステージを動き回りながら力強く張りのある歌声を響かせる。そして早くも「Style 京to琉」ならではの演出が炸裂。奏者以外のオーケストラメンバーが楽器を持ったままクラップで楽曲を彩ったのだ。この光景は一般的なクラシックコンサートではなかなか見ることができないだろう。グルーヴィな演奏に乗せてAnlyの渾身のフェイクがキマると、客席からは大きな歓声が上がる。当たり前だが、4月のリハよりも遥かに音がまとまり、ブラッシュアップされている。絶好調の滑り出しだ。

続く「カラノココロ」では、情熱と希望をダイナミックに表現する。大迫力のボーカルとオーケストラサウンドに牽引されて、サビでは一斉に客席の手が左右に振られ、2曲目にして一体感を作り上げた。

最初のMCではAnlyが「Welcome to our live concert!「Style 京to琉」です。沖縄と琉球にルーツを持つ私と、今ここに立っている歴史と文化の都・京都で、何か弾けた新しい音楽やステージが作れないかなと思ってつけたバンド名です。末長くよろしくお願いします!」と笑顔で挨拶。

そして「このプロジェクトが決まって、絶対にやろう! と最初に決めた楽曲」と紹介した「KAKKOII」へ。バイオリンの弦を指で弾いて音を出す奏法(初めて見た!)の軽やかなイントロから、じわじわと壮大に盛り上がっていく構成だ。この曲はリハでもアレンジが「カッコ良い!」と大絶賛されていたのだが、本番はとにかく抜群にカッコ良かった。その要素の1つであり、この日のハイライトとも言えるのが、オーケストラメンバーによるクラップ&足踏みだ。アレンジャー・湖東ひとみのたっての希望で取り入れられたこの演出。1曲目の「Coffee」でもクラップは披露されていたが、そこに足踏みが加わることで低音のビートが力を増し、サウンドにエッジが出て分厚くなる。さらに後半ではサックスやトランペットの管楽器が立ち上がり、ソロプレイをバッチリ決める。松元もAnlyもノリノリで、ぐんぐん空気を動かしてゆく。Anlyは曲中では管楽器とピアノのメンバーをフルネームで紹介したのだが、初日に30人いるメンバーの「顔と名前を覚えたい」と話していた彼女の愛と努力が見てとれた。

曲を終えるとAnlyは「いや〜、カッコ良かったね(笑)」と満足そうに自画自賛。そして「ちょっと話しません?」と松元をトークに誘う。「バンドの手綱を握るボス」と紹介された松元は「最高ですよ! 指揮をしてるとずっと背中向けてるわけじゃないですか。でも背中からお客さんの熱気がすっごい伝わってきます。どんなこと考えてるかとか。めちゃめちゃ盛り上がってますよね。オーケストラだけど、いつも通りのライブの感じで見てくださいね」と興奮したように声を上げた。

中盤では、弦楽器のみの演奏で渋くしっとりと聞かせた「Moonlight」や、ピアノとフルートがフューチャーされた「4:00 a.m.」を披露。グルーヴィで大人な極上時間で魅了したかと思えば、<遊ぼうって言ったっしょ?>とラフな歌詞を楽しそうに弾ませて、可愛らしい雰囲気に一転させる。曲ごとの表情の振り幅はさすがの一言だ。

MCではオーケストラメンバーとのトークも繰り広げられた。最初に指名された三上は照れながら「特等席で楽しませていただいてます」と話す。Anlyに「俺はこれを出されたら超絶テンションが上がる食べ物って何ですか?」と聞かれて「カニクリームコロッケ」と即答し、「可愛い!(笑)」と笑いを誘う場面も。バイオリンの山田周には「あまね」という名前や年齢について触れ、気の遣わないトークを展開。コントラバスの宮田雄規は長身であることからAnlyに「コントラバスとどっちが背高いんですか?」と聞かれ、立ち上がるとコントラバスの方が少し大きいことが明らかに。客席からは驚きの声が漏れる。メンバーの豊かなパーソナリティはもちろん、楽器の特徴なども上手に取り入れるAnlyのトーク術には舌を巻いた。

松元もニコニコして「このライブめっちゃ良くないですか? なかなかオーケストラメンバーの声を聞くことないですよ」と興奮しきり。トークをオーケストラメンバーに振るというのも、実は打ち合わせの時に決まったことだ。「オケの方に話しかけてみたいとおっしゃって、そういうことがあるんだと思って感動したのを覚えてます」と松元。まさにライブハウスの文化とクラシックの文化が融合し、それが良い方に作用していると証明された瞬間でもあった。

本編に戻り、「Style 京to琉」のために書き下ろした新曲「月下美人-Queen of the Night-」を披露。「月下美人」は「白いドレスを広げたような綺麗な花なんですけど、一夜しか咲かない儚さにキュンときました。生きている中で何気なく過ごしていても、覚えておきたい美しい瞬間があると思うんですよね。今日もそんな瞬間になればいいなと思ってこの曲を歌います」と伝える。テーマ性をそのまま表すような美しいメロディーと演奏は、神秘的ですらあった。聖母のような優しさと母性を感じるソプラノ(もはやオペラのよう)とオーケストラが広げる世界観にうっとりする。

続いては日本の文化をイメージしたという「Angel voice」。湖東曰く、京都のわらべ歌2曲と、沖縄の民謡「てぃんさぐぬ花」など3曲が曲中に織り込まれているそうだ。オーケストラらしい壮大なアレンジが郷愁の想いを連れてくる。沖縄の歴史や島への愛情。Anlyの強い想いが詰め込まれた大切な楽曲が、丁寧に紡がれる。

さらに、最強に「コスモ」な「CRAZY WORLD」へ。ハラハラする展開から始まるパワフルなアレンジにゾクッとする。流れるような早口ボーカルを堂々とした佇まいで投下する姿がクールで、グルーヴィな音の波に客席はただ身を任せる。まさにCRAZYな空間だった。

さっきまでキメキメで歌い上げていたのに、MCでは「楽しんでまーすよっ!(笑)」と無邪気に笑顔を見せるAnly。今度はトロンボーンの亀岡航紀やパーカッションの高鍋歩、ビオラの加茂夏来に話を振る。前半と同様に、メンバーの楽器歴や担当楽器の特徴についての会話が飛び交った。観客はこのような話を聞く機会もないので、本当に楽しく興味深い。松元も「オーケストラの方の話って面白いですよね。僕も客席で聞きたいですもん」と太鼓判を押していた。

非常に和気藹々とした空気で進むライブ。この日、本番直前の調整でメンバーに「自分たちが楽しめば伝播してお客さんも楽しめると思うので、ご褒美だと思って(演奏して)!」と伝えていたAnly。まさにそれを体現するかのように、素直に感情を表に出して楽しむメンバーの姿が印象的だった。きっとAnlyのお茶目な一面もメンバーによって引き出されているし、そのくらい気を許しているのだろう。お互いが大好きで尊敬し合っていることが、ライブの中で何度も伝わってきた。

「Style京to琉」の結成と初ライブに向けて書かれたもう1曲の新曲「音燦鱗型-Dress Code-(おんさんりんがた どれすこーど)」は、4月上旬の打ち合わせの時点ではまだ影も形もなかった楽曲だ。打ち合わせから本番までのわずか2週間で書き上げられた。AnlyのSNSでは、ややアイデア出しに苦戦していた様子も見受けられたが、短時間の間に素晴らしい完成度に練り上げられていたことに感服した。Anlyはこの曲について「京都と日本、沖縄・琉球の共通点を探りつつ、各地にある文様を思い浮かべました。それぞれの場所に見覚えのある模様があると思うけど、音にも馴染みやすい音があるんじゃないかなと。そういうものを作れたらいいなと思って。今回はどんな格好で来てもいいよとアナウンスしていたんですけど、この楽曲が皆さんにとってのドレスコードになればいいな、音を身に纏ってほしいなという想いで作りました」と語った。ピアノが琴のように、フルートが尺八のように聞こえ、和の雰囲気を感じさせる。体が丸ごと飲み込まれるような美しい音のうねりと歌声、躍動感のある指揮。初めて聞くのにどこか懐かしい、不思議な楽曲だった。

続いて演奏された「Tranquility」は、のびのびとした演奏から生まれる音の奥行きに圧倒された。今思えば、会場全体に漂う一体感と高揚感は、Anlyの言葉を借りると「音楽の神様」の力だったのだろう。「音燦鱗型-Dress Code-」の<永遠に錆びない 琴線の在処 今ここで波打っている>という歌詞に通づる現象が、この時間、この会場で起こっていた。

思い切り琴線を刺激された観客がこの日1番の喜びの瞬間を作り上げたのは、「We’ll Never Die」だった。Anlyのアカペラの歌い出しからクラップが発生。やがて観客が続々と立ち上がり、それが伝播してスタンディングオベーション状態に。この様子を見たAnlyも松元もオーケストラメンバーも、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。体内に溢れた喜びを表現したいという観客の想いがこちらに伝わり、思わず目頭が熱くなる。Anlyも感動した様子で「まだ立ったままでいてね!」と言って「Alive」へ。最高にハッピーな空気に包まれた会場に後押しされるように、Anlyの歌声もぐんぐん伸びてゆく。ホーン隊の仕事も素晴らしく、会場全体にパワフルなエネルギーが溢れていた。楽曲が終わると大歓声と拍手の嵐! 「皆ありがとう〜! 素晴らしい。嬉しい〜!」とAnlyも心からの感謝を述べる。

本編最後は「星瞬〜Star Wink〜」。しっとりと壮大に、最後の一音まで丁寧に演奏する。言葉にできない幸福感が全身を駆け巡る。これが音楽の力、ライブの力。総立ちになった客席から、最大の拍手がステージに贈られる。いつまでも鳴り止まぬ拍手を松元が煽ってひときわ大きくし、一度拍手に見送られてステージを去ったAnlyを呼び戻す。

ここで、本公演の全曲をアレンジした「裏ボス」こと湖東を呼び込んだ。湖東は「本当に感動しました。昨日も感極まってますと言ってたんですけど、今日はマジでずっと泣いてました。私はそんなに涙腺ゆるくない方だと思ってたんですけど……。何で泣いたのかなと思った時に、音楽のパワーをすごく感じる会場なんですよ。奏者の方ともAnlyさんとも、4月5日に初めて会ってから1ヶ月くらいですけど、奏者の皆さんがすごく優しくて愛を感じて、このお仕事に取り組んでくださって。Anlyさんも本当に気さくに接してくださって、そういう1つひとつのことがどんどん音楽に影響していって、それが皆さんに届けられて、こうやって立ってくださったりして盛り上がって。そんな音楽のパワーをすごく感じて、何て良い空気なんだと」と時折声を震わせながら語っていた。Anlyは「(湖東は)天才なんですよ。これからずっと続いていくと思うので、今後ともよろしくお願いします」と、彼女に全幅の信頼を寄せた。

アンコールは「Welcome to my island」。この曲はAnlyの計らいで撮影OKに! のっけからクラップで大盛り上がり。2サビの<タクトを握りしめて>では、Anlyが指揮台に上がり、手で指揮をする特別な演出も。松元やオーケストラメンバーは心底楽しそうにその様子を見守る。これも打ち合わせでAnlyがやってみたいと希望していたのだが、こんなふうに実現していくんだなと感動させられた。客席との距離もグッと近づき、とても素敵なあたたかい空気に包まれていく。こうして最高の余韻を残し、2日間の「Style 京to琉」は大団円を迎えた。

カーテンコールでは合計5回登場したAnly。惜しみない拍手が止むことはなく、何度もステージに現れる彼女の笑顔は安心したように輝いていた。リスペクトが溢れるからこその、長めのカーテンコール。そしてマエストロの松元がステージを去り、オーケストラメンバーもステージを去る。その際に、メンバー同士が充実した表情で握手をしていた姿がとても印象的だった。終わるのがもったいない、名残惜しいと感じたライブ。Anly、オーケストラメンバー、観客、スタッフ。その場にいた全員に確実に「何か」を残した、愛に溢れた千秋楽となった。

Anlyがインスタグラムで「このプロジェクトはto be continued...」と書いていたように、今後もメンバー間の交流は続いていくし、「Style 京to琉」も始まったばかり。これからも自分たちにしかできない挑戦をしながら歴史を刻んでゆくだろう。またこのメンバーが再結集する日を楽しみにしていよう。

取材・文=久保田瑛里 撮影=ハヤシマコ

セットリスト

『Style 京to琉』
2023年4月30日(日)京都・京都劇場

1.Coffee
2.カラノココロ
3.KAKKOII
4.Moonlight
5.4:00 a.m.
6.月下美人-Queen of the Night-
7.Angel voice
8.CRAZY WORLD
9.音燦鱗型-Dress Code-
10.Tranquility
11.We’ll Never Die
12.Alive
13.星瞬〜Star Wink〜
EN.Welcome to my island
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