勝山康晴×スズキ拓朗が語る、コンドルズ埼玉公演 2023 新作『POP LIFE』今年は埼玉会館にて開催

インタビュー
舞台
2023.5.24

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2006年より続くコンドルズ埼玉公演が16作目を迎える。2023年5月27日(土)~28日(日)に埼玉会館大ホールで上演される今年の新作のタイトル『POP LIFE』は、プリンスによる往年の名曲から採られた。「日常奪回!人生にポップを!」をキャッチコピーに掲げ、学ラン姿の男どもが舞台狭しと踊り演じる。本年は彩の国さいたま芸術劇場が⼤規模改修⼯事のため休館中で、会場を埼玉会館に移しての開催だ。コンドルズ(主宰:近藤良平)のプロデューサーでもある勝山康晴とCHAiroiPLIN(チャイロイプリン)の主宰でもある若手のスズキ拓朗に、埼玉での創作秘話や新作への抱負を存分に語ってもらった。

■コンドルズにおける埼玉公演は、いまや「王道」

勝山康晴

勝山康晴

――埼玉での新作公演が16回目を迎えます。例年5~6月に行われるこの公演は、コンドルズにとってどのような意味を持ちますか?

勝山康晴(以下、勝山) 夏に東京&全国ツアーでコンドルズの王道をやってきましたが、それを変えるんです。埼玉でやる挑戦的な新作を僕たちも気に入っていて、クオリティも高い。全国を回すとなると、どこに行っても通用しそうなもので固めがちなんですが、もうちょっと尖がったものをやりたい。東京でももう少し挑戦したい。そこで、今年から埼玉公演を王道にして、東京公演を実験に変えます。それぞれ違うことをやっていきます。

――スズキさんは出演者のおひとりとして埼玉公演をどのように捉えてきましたか?

スズキ拓朗(以下、スズキ) コンドルズには筒井(昭善)さんという舞台監督の方もいらして力を貸してくれます。埼玉公演では、大掛かりなセット、舞台機構を使いますが、筒井さんのアイデアも含めて、良平さん、勝山さんのやりたいことを形にしていきます。コンドルズ全員で彩の国さいたま芸術劇場大ホールの空間を毎回どういうふうに料理しようかとなります。美術や空間との絡みは凄く面白いですね!

勝山 拓朗の話を聞いて大事なことを思い出しました。最初の埼玉公演『勝利への脱出 SHUFFLE』が2006年なので、活動開始から10年かかっているんです。1996年にコンドルズを始めた頃にはコンセプチュアルなダンスが流行っていましたが、それらを横目に「コンセプトを決めた舞台って、ダサくない?」って超ノンコンセプトでやり続けてきました。でも、埼玉では違うことをやるべきだよねとなった時に「コンセプトだ!」と(笑)。「俺たち、やってないよね」と。埼玉公演ではコンセプトのある作品をちゃんとやろうということになりました。

――彩の国さいたま芸術劇場大ホールの劇場機構をフルに用いた空間性とかアート性が埼玉公演で上演される新作の特徴だと思うのですが、根底にあるのはコンセプトの追求だったのですね。

勝山 アイデアがバンバン出るメンバーばかりなので、コンセプトのある作品を絶対に創ることができる自信があったんですよ。だから埼玉ではコンセプトのあるものをやってきましたが、やればやるほど奥が深いんです。昔の自分たちからすれば超ダサいことをやっているんですけれど(笑)。

■近藤良平のもと、ベテランと若手が噛み合うコンドルズの現在

スズキ拓朗

スズキ拓朗

――2022年4月よりコンドルズ主宰の近藤良平さんが彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任し1年が経ちました。近藤さんが芸術監督に就くとメンバーに明かされた際に、スズキさんは皆の前で感極まって泣いたそうですね?

スズキ 本当に泣きましたよ! 僕はさいたまネクスト・シアターで前芸術監督の蜷川幸雄さんに指導していただきました。フィリップ・ドゥクフレさんのカンパニーDCA『パノラマ』にゲスト出演させていただいたこともあります。彩の国さいたま芸術劇場は、僕にとってダンスだけじゃなくて演劇も含めての母校みたいなところなんですよね。蜷川さんのあとに良平さんですから、ビックリの嵐というか、うれしくて涙が出ました。自分が信じている人についていくことは大事なんだと胸を張って若者に言えます。

――近藤さんが芸術監督になってからのコンドルズに変化があるとすれば、どのような?

勝山 良平さんは振りを忘れないようになった。昔は自分で振り付けしたのに忘れていましたから。

スズキ 稽古場でも結構踊る回数多いですね。

勝山 あと、ちょっとだけお洒落になりました(笑)。

スズキ ダンスに関して、ますます振り付けに対してのクオリティとか考え方が細かくなってきた。

勝山 一時期、この人は骨しか振り付けないんだなと思っていました。骨の形だけは決めるから、あとはみんなで自由にやりなと。

スズキ 骨だけの指示の内容は変わらない部分もあるんですけれど、「よし、創ったやつを今見せろ!」みたいに言う時もあります。こちらに求めてくるレベルが高くなっているような気がしますね。いや、僕が下がったのかな(笑)。

――近藤さんは芸術監督に就いてから演劇や音楽、サーカスのアーティストと組む「ジャンル・クロス」作品を手がけるなど新展開を迎えていますが、その辺りの影響もあるのでしょうかね。

スズキ コンドルズの良いところは全員がうるさいことです。「こちらの方が面白くないか?」「こうじゃないか」というのを何かしら言うんです。良平さんがいろいろな方と関わるようになった今、コンドルズは良平さんとずっと一緒にやってきたからこそ、「もっとこうしたほうがいいんじゃないか?」という意見を言うのは止めちゃいけないなと思います。

――コンドルズは、近年ベテランと若手の共存が面白いですね。

スズキ  ベテラン勢のキャラクターは面白いですね。でも、若手はダンスだけ踊っていればいいのか。ダンスで負けない自負はあるんですけれど、僕も含めてもう少しキャラクターとか、何もしなくても面白いパフォーマンスとか、何か色をもう少し足していかないとコンドルズにいる意味がないんじゃないかなと。コンドルズの中で何色として舞台に立つのかを考えながら稽古に挑むことを目標にしています。

勝山 拓朗たちも30代半ば。舞台業界では中堅ですよね。そういう意味では、20代のメンバーをもう1回くらい入れてもいいのかもしれない。

スズキ その話はたまに出るんですよ。

勝山 (山本)光二郎さんなんか、もう少しで60ですからね。還暦ですよ。60代から30代までいるカンパニーになりますね。そこに20代までいたら相当幅が広いじゃないですか。

■新作でも、音楽が巧みに用いられることは必至!

――ここからは新作『POP LIFE』についてうかがいます。表題を付けた理由とコンセプトについて教えてください。

勝山 最初は違うタイトルに決まっていたんだけど、何か違うんじゃないかなという話になりました。5月8日にコロナが5類になってから初のコンドルズの公演ですし、もう少し生活に寄り添えないのかという話になって「LIFE」は使おうかと。そこから『POP LIFE』になりました。今回は「生活って、意外と楽しかったね」ということをなんとなく確認し合うような作品になればいい。去年の『Starting Over』みたいに反戦のような社会的なメッセージを出すのも大事ですが、生活って大事だし、楽しく過ごそうと思えばいくらでも楽しく過ごせるということを共有できる作品がいいですよね。

――近藤さんがバスケットボールのゴールの前で跳んでいる写真が使われているチラシも明るくていいですね!

勝山 気合が入っていますから。『スラムダンク』の映画もヒットしているじゃないですか(笑)。バスケって、ポップだよねと。日本が1980年代、高度経済成長でポップになってくる中で、注目されてきたスポーツがバスケです。それから、良平さんとバスケって意外性があっていいなと。なのでこのチラシに。

――むろん「ただ明るく」だけではないと思います。何か深いテーマの追求もあるのですか?

勝山 前2作品はコロナやウクライナの戦争を受け止めて創ってきましたが、今回はそういうのを無しにしようと思います。思いきりポップで楽しいやつはどうなんだろうかと。でも作品創りが進む中で「ただ楽しくポップというのはまた違うよね」となってきてはいます。なので、そこに毒を含ませるというところにたどりついています。

スズキ コンドルズにはもともとポップな部分があります。勝山さんが毒という言葉を選んでいましたけれど、「楽しい」というのは、この3年間大変なのを乗り越えたからだと思うんですね。その大変な部分というのが、舞台上でも必ず共感できる形でダンスとかパフォーマンスに組みこまれていないと逆にポップを表現できません。「ポップのためにポップをやるだけじゃない」というのは僕も考えています。良平さんはコンドルズの一人ひとりからにじみ出る大変さからの、それを乗り越えるポップというのをやりたいんじゃないかな。ポップにするための土台の大変さを何にするのかを、もう少し話したいと思います。

勝山 生活って、もっと軽やかなものじゃないですか? そういうところを表現したいですね。

――コンドルズの舞台は選曲の幅が広いですが、今回はポップを切り口に広がっていきますか?

勝山  そうですね。きっちり、かっちり、ポップな感じになると思います。これはやり過ぎでしょう!というくらいのポップさで攻めたいと思います。メンバーも「ポップ」と聞かれて皆言うことが違うのがなかなか面白くて。

スズキ  ポップだからといってポップスばかりではなくて、いまの流行りを逃していません。普通は「曲に負けちゃうよね」って思っちゃうところでも、意気揚々として「これでどうだ!」と言えるというか、そもそもコンドルズのメンバーは曲に負けない存在感を持っています。

勝山 音楽だけを聴いても1つのコンサートになっているような曲の並びが好きです。先日、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を子供と一緒に観に行ったのですが、1980年代にマリオブラザーズが出てきた時に中学生くらいだった人たちが聴いていたであろう音楽を使っているんですね。「あの時マリオブラザーズを応援してくれたみんな、ありがとう!」というファンへの愛とサービスが詰まっているように思うんです。青春時代に聴いていた曲って、思い出とセットで存在している。僕らは学ランを着て踊るじゃないですか? だからそういうのがより重なる。巧みかつ誠実に音楽を使ってきた自負があるんですけれど、今回も自信のある選曲になっています(笑)。

■いつもとは違う埼玉会館でのレアな舞台に期待!

――今年度の会場となる埼玉会館は前川國男の設計によるレトロな雰囲気がありますね。大ホールの舞台も含めて、いかがですか?

勝山 劇場の天井が非常に高く感じますね。昔の造りで趣がありますが、大ホールは広いので、そこをうまく活用しなければ。今回は客いじりをしますし、物販も再開します。距離の近さを出したいですね。

スズキ 客いじりとか物販という、ここ3年封印していたことをやって、「こうだったよね」と思い出してくれるような舞台になれば。舞台に立つと泣いちゃうんじゃないかな。

勝山 僕の中でのポップは、いい意味での予定調和ですね。安心だと思うんです。あえてそこを目指したい。安心していないと軽やかにはなれませんしね。安心感がある作品が今回はいいかなと。世の中の出来事を観ていると、僕たちの予想を裏切るようなことばかりです。そんな中、予想を裏切らないことをやりたいですね。凄く安心して感動したみたいな。

――最後に、あらためて舞台に向けての思いをお聞かせください。

スズキ 僕はバスケが好きで県代表に選ばれたくらいなので、(今作の)チラシビジュアルを見て、今回は俺が主役だ、これはもらったぞと(笑)。スズキ拓朗が大活躍だよということで、それを観にきてください!

勝山 日常の中で気軽に人と話したりすることって、やっぱりポップな感じがするじゃないですか。この3年、僕たちは距離をとったりして、大変な時期を過ごしてきたし、戦争も続いているし、今でも「気軽さ」を後ろめたく感じてしまう感覚があるように思うんです。でもそればかりじゃ息が詰まってしまう。だからこそ、日常の気軽さを肯定できるような作品、明日から少しだけ軽やかに生きるきっかけになるような作品にしたいと思っています。

取材・文=高橋森彦  撮影=池上夢貢

公演情報

コンドルズ埼玉公演2023新作
『POP LIFE』
 
日時:
2023年5月27日(土)15:00 開演
2023年5月28日(日)14:00 開演
会場:埼玉会館 大ホール
構成・振付・演出:近藤良平
出演:コンドルズ
 
主催:彩の国さいたま芸術劇場(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団)
企画制作:彩の国さいたま芸術劇場(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団)/ROCKSTAR有限会社
助成:
文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
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