大衆演劇の入り口から[其之九] ・後編(関西編) 2016年、あなたも大衆演劇デビューしませんか?京橋の「劇団天華」に注目
澤村千夜座長(左)・澤村神龍副座長(右)による「梅川忠兵衛」 あやかさん撮影(2015/12/13)
18もの劇場・センターがひしめきあう大衆演劇のメッカ・大阪。各劇場のお正月公演の競争は輪をかけて凄まじいようだ。関西の友人からはこんなメールが届いた。「この1月の大阪は本当に厳しいです。劇場は増える、人気劇団がひしめきあっている。しかもただの月ではない、1年の始まりをそれぞれの劇場から“任されている”」。そんな関西エリアで年始の公演を担当しているのはいずれも実力派劇団ばかりだが…つい最近の東京公演で、筆者を含め関東の大衆演劇ファンにも大きなインパクトを残してくれた、「劇団天華」に注目したい。
芝居に“風景”が開く
澤村千夜座長(左)・澤村神龍副座長(右)の「湯島の白梅」(2015/11/28)
「劇団天華」は羅い舞座京橋劇場で公演中だ。関西では数年前から人気を集めていたが、東京在住の筆者はつい最近まで観る機会がなかった。遅い出会いとなったのは昨年9~11月の初東京公演。初乗りにも関わらず、浅草・木馬館や十条・篠原演芸場がいっぱいに埋まっているのに驚いた。周囲の大衆演劇ファンに評判を聞くと、
「芝居もショーも斬新っていうか…ビックリしちゃって」
「芝居が独特で面白いの!芝居を通して伝えたいことがたくさんあるんだと思う」
10年、20年も大衆演劇を観てきた先達で好きになっている人も多かった。きっと新しいなにかがあるのだろう。そこで筆者が初めて観に行った日の芝居が『三人出世』。
「俺が仕事にありつけずにいたとき、誰が優しくしてくれた?江戸の町をさまよっとるとき、迎え入れてくれた家が一軒でもあったか?泥棒の親方、あの人だけが、俺に優しくしてくれた…。俺が悪いんやない、世間の風が悪いんや!」
幼なじみの男3人の出世をめぐる芝居。役人に出世した男(澤村千夜座長)と、道を踏み外して泥棒になった男(澤村神龍副座長)が涙を散らしてぶつかる場面がある。泥棒の男の、世の中への怒りと悔しさに満ちた叫び。それに対して、役人のほうは静かに言葉を返す。
「世の中には色んな人がおる。目の見えない人も、手や足のない人も…。けど、目の見えない人はあんまさんをやる。手のない人は荷を背負って飛脚をやる。足のない人はかんざし職人をやる。お前は目も手も足も全部揃うとるやないか。なのにどうして仕事につけんのや。世間のせいやない、お前が自分の弱さに負けただけや!」
千夜座長の渾身のセリフに大きな拍手が沸いた。ささやかな人情噺の向こうに、社会へのまなざしが開いていく。舞台が一枚絵で終わらず、登場人物たちの暮らしを想像させるような、“風景”の奥行きが目の前にあった。『花かんざし』『へちまの花』『釣忍』『お里沢市』『丸髷芸者』…いずれの芝居もリアルな人間の体温と、ざらざらとした手触りに満ちていた。この物語にこんな面があったんだ、こんな景色も広がるんだ!と、その切り口のみずみずしさに目を見張った。
一方で舞踊ショーは、電飾あり、アクロバットあり、ストーリー仕立てのものあり、洋風のドレスありと幅広い。
迫力満点のアクロバティックなショー。(2015/11/22)
左から澤村龍太郎さん、沢村ゆう華さん、澤村千夜座長、沢村鈴華さん、澤村悠介さん。画面が華やかな洋風のショーも。(2015/11/8)
澤村千夜座長。芝居の随所に、座長が独自に物語をとらえ直した視点がひらめくのが楽しい。温かみのある声も魅力だ。
澤村千夜座長(2015/12/20)
澤村神龍副座長。少年役や女性役も含め、幅広い役の一つ一つにひたむきな演技が観客の心を打つ。
澤村神龍副座長(2015/12/19)
花形の澤村丞弥さん。甘くやわらかな美貌に客席の歓声が沸く。特に女形は少女のような可愛さ。
澤村丞弥花形(2015/12/20)
予告されている1/9(土)~1/11(月)の3連休の演目は以下の通り。
1/9(土) (昼)芝居『花かんざし』 (夜)芝居『へちまの花』 ラストショー『花が咲く』(新作ショー)
1/10(日) 澤村神龍副座長誕生日公演 芝居『やくざ忠臣蔵』
1/11(月) 芝居『お島千太郎』 ラストショー『スーパー西遊記~変面』
羅い舞座京橋劇場はJR「京橋駅」より徒歩5分。KiKi京橋ビルの5Fにある。大衆演劇の劇場としては全国でもトップレベルの広さだ。入場料は1600円。※貸し座布団代として別途100円必要。※1/10(日)は特別公演のため入場料3000円。
羅い舞座京橋劇場公式サイトより
同ビルの下の階には、お好み焼き屋やカフェや居酒屋がたくさん入っており、観劇の前後に友人と食事を楽しむこともできる。
筆者のチョイスで関東・関西からそれぞれ1つずつ劇団を紹介したが…全国で130と言われる大衆演劇の劇団は、いずこも負けず劣らず、全身全霊のお正月公演を繰り広げている。「2016年は新しい趣味を見つけたい」という方、歌舞伎や宝塚が好きで「今年は新しいジャンルの舞台を観てみたい」という方。多様で多芸、万華鏡のような大衆演劇の世界で、あなたをお待ちしています!
≪前編(関東編) 横浜の「たつみ演劇BOX」に注目≫はこちら
会場:羅い舞座京橋劇場 公式サイト
期間:1月1日(金)~30日(土) 昼の部まで
●京阪本線「京橋駅」、地下鉄長堀鶴見緑地線「京橋駅」よりすぐ
●JR「京橋駅」より徒歩5分