ヴァイオリン・島方瞭、オール・ラヴェル・プログラムで挑む3度目のプロデュース公演への想いとは ミュンヘンでの生活、JNOの活動までロングインタビュー
―ー今回の演奏会は、オール・ラヴェル・プログラムですね。
「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」、「ヴァイオリン・ソナタ第2番 ト長調」、「ツィガーヌ」、「ピアノトリオ イ短調」の4曲を取り上げます。ラヴェルの弦楽器の作品はあまり多くなく、今回の4曲と、弦楽四重奏曲、そしてオーケストラ曲があるくらいですが、ラヴェルは、僕にとってとても特別な作曲家です。今回の演奏会で、僕の中でのラヴェルに対する理解度を深めて、極めたいと思っています。ラヴェルの音楽は、僕のパーソナルな部分にマッチして理解できると思っていて、それをもっと肥やしていろんな表現につなげていきたい、という思いがあります。
ラヴェルにとって、第一次世界大戦はすごく大きな出来事で、特にピアノトリオは、ラヴェルの一つの境目、転機となった作品です。それ以降、彼の考えや興味が変わっていきますが、そのことをその後の作品を通してお伝えできればと思って、このプログラムを組みました。
―ーまずは、ピアノトリオですね。
ラヴェルは第一次世界大戦が勃発していたときにピアノトリオを書いていましたが、自ら兵役を志願して行かなければならなかったので、もの凄いスピードでこの作品を作曲し、5週間で書き上げました。たぶん、自分の最後の作品になるかもしれないという覚悟のなか、集大成のつもりで書いた渾身の一作です。僕は、このピアノトリオは最も演奏の難しい室内楽曲の一つだと思います。ラヴェルの音楽は、弦楽器の音色のキャパシティが広く、左手のピッツィカートを使ったり、フラジオレットの響きを入れたりいろいろな音色が求められています。
―ーそして、ヴァイオリン・ソナタとツィガーヌに続きます。
「ツィガーヌ」は弾いたことがありますが、ヴァイオリン・ソナタは初めてのチャレンジです。今は、いろいろアイデアを自分のなかで模索して準備を進めています。
ラヴェルは、第一次世界大戦での兵役から帰還後、心が難しい状態になり、母親を亡くしたこともあって、作曲できなくなります。数年間、作曲意欲がわかず、苦しい状態が続くんです。作曲家業の再開後、ヴァイオリン・ソナタの依頼があったものの、すぐには書けず、代わりに作曲したのが「ツィガーヌ」。そして、そこから4年を経て書き上げたのがヴァイオリン・ソナタです。
ヴァイオリン・ソナタは、それだけの時間をかけて、大切に大切に作ったのが楽譜を見るとわかります。本当に無駄が一つもなく、シンプルかつ、素晴らしく、美しいという印象です。超傑作で、ラヴェルの中でも非常に完成度の高い作品なのではないかと思います。第1楽章は、教会旋法が響いて、なんとなく旧いヨーロッパ的なのですが、ラヴェルは旧い音楽に思いを寄せて書いたと思います。第2楽章はブルース。彼は第2楽章でアメリカのジャズを取り入れました。そして第3楽章で第1楽章と第2楽章をコンビネーションすることで旧いヨーロッパとアメリカを合わせました。これは僕の推測ですが、ラヴェルの平和への願いが表れていると思います。
―ー最後は、ヴァイオリンとチェロのためのソナタですね。
このデュオは、ラヴェルの晩年の作品です。ドビュッシーの追悼のため書かれました。ドビュッシーはラヴェルにとって、フランス音楽界の大先輩であり、彼はドビュッシーの作品からいろいろな影響を受けていました。彼らは信頼し合っていたと思います。この二重奏を弾いてみると、ドビュッシーが使っていた音型や彼が好んでいた世界観を大切にして作曲しているのがわかります。ヴァイオリンとチェロだけというすごくシンプルな楽器編成。2つの旋律楽器で曲線を描く、そういう作曲の仕方は、当時すごく新しい音楽であって、それにチャレンジしたかったのではと思います。すごく難解な曲で、プレイヤーにもプレッシャーがかかる曲です。
―ー共演者を紹介していただけますか?
チェロに水野優也くん、ピアノは吉見友貴くんにお願いしています。
水野くんは高校1年から同じクラスでした。カルテットを組んでいたこともあるし、留学した時期も同じですし、ずっと一緒に頑張ってきました。それから、僕たちは、18世紀イタリアのテストーレという同じ楽器製作者の作った楽器を使っています。同一人物の作った2つの楽器を弾くというのは、奇跡みたいなことです。10年くらいの仲間と同じ楽器で演奏できることに結構感動しています。ホールでどう響くのか、本当に本番が楽しみです。
吉見くんは僕より3歳下。僕は7年前、大学1年生のときに霧島国際音楽祭のマスタークラスに参加したのですが、その音楽祭で吉見くんが演奏しているのを初めて聴いて、もの凄く感動して、直接彼に会いに行って、感動を伝えました。そのとき、僕の中で一緒に弾いてみたいと思ったのです。そこから、よく一緒に弾くようになりました。彼はアンサンブルに長けたピアニストで、僕のリサイタルでの共演を頼んだこともあります。今回は、4、5年ぶりの共演です。
今回の演奏会で、室内楽で水野くんや吉見くんに再会して、お互いに成長を見られるのはうれしいですね。
―ー会場の浜離宮朝日ホールについてはいかがですか?
素晴らしい響きのホールです。JNOのリサイタルシリーズでのリサイタルは、3回目になりますが、1回目(2022年3月)はヴァイオリンとヴィオラを弾き、2回目(2022年8月)はヴィオラだけを弾く室内楽の演奏会でした。今回、初めてヴァイオリンだけを弾く演奏になります。演奏会ごとにチャレンジがあるのがうれしいです。
―ー最後にメッセージをお願いいたします。
一人の作曲家にフォーカスした演奏会ということで、ラヴェルの生涯や残された楽譜を研究して、彼の思想や好みに僕なりにマッチできるか、僕の中では、それが試されている演奏会だと思います。お客様もラヴェルの魅力にどっぷりと浸かっていただきたいですね。彼の感性に会場全体で思いを寄せることができればいいなと思っています。特別な響きを持つラヴェルを、素晴らしいホールで、素晴らしいソリストたちと一緒に演奏できるのは夢のような時間だと思います。
取材・文=山田治生
公演情報
『ヴァイオリン 島方瞭の世界 2023』
日程:2023年7月29日(土)13:15開場 14:00開演
会場:なら100年会館 中ホール
日程:2023年8月1日(火)18:15開場 19:00開演
会場:浜離宮朝日ホール
Vc.水野優也
Pf.吉見友貴
<オール・ラヴェル・プログラム>
ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
ヴァイオリン・ソナタ第2番 ト長調
ピアノトリオ イ短調
全席指定(U30) 2000円
※ご来場特典スタンプラリー
主催:Japan National Orchestra
制作協力:イープラス / Nexus
※未就学児童入場不可
※新型コロナウイルス感染症等の感染防止のため、来場時にはマスク着用をお願いします。
※ご購入者の氏名・連絡先を、保健所等の公的機関へ提供させていただく場合がございます。予めご了承ください。
※全席指定(U30) は、公演当日30歳以下の方を対象としたです。来場時に年齢確認を行いますので必ず年齢がわかる身分証をお持ちください。
※初回来場時に来場特典スタンプラリーカードを配布いたします。集まったスタンプに応じてプレゼントをご用意しております。