「感銘を受ける物語」~東山紀之×岡本圭人が共演舞台『チョコレートドーナツ』について語る

インタビュー
舞台
2023.9.21
『チョコレートドーナツ』(左から)岡本圭人、丹下開登、東山紀之

『チョコレートドーナツ』(左から)岡本圭人、丹下開登、東山紀之


1970年代、差別に苦しみながら、育児放棄されたダウン症のある少年を育てようとするゲイのカップルを描いた映画『チョコレートドーナツ(原題:ANY DAY NOW)』。2020年、世界で初めて舞台化されたこの作品が、3年の時を経て再演されることとなった。映画版ではアラン・カミングが扮した主人公ルディを初演に引き続き演じる東山紀之と、今回初参加でルディの恋人ポールを演じる岡本圭人が意気込みを語った。

ーー再演への思いについてはいかがですか。

東山:初演はコロナ禍のまだまだ大変なときで、東京公演は半分中止になりました。もちろん、覚悟はしていたんですけれども、自分の弱さというかそういうものを感じつつ、でも、やっぱり演劇の力というもので、お客様がすごく入ってくれて。自分自身、非常に感銘を受ける物語でしたしね。やっとコロナ禍も落ち着いてきたので、今こそ、研ぎ澄まされた思いでお届けしたいなと気持ちを新たにしている感じですね。

ーー今回のポール役は岡本圭人さんです。

東山:不思議な感じなんですけど、圭人って言われたときに、なるほどっていう納得感があったっていうか。「えっ」じゃなくて、「ほお、圭人ね」としっくり来るものがあったし、それって大事だなと思いますしね。圭人の舞台は、彼に誘われてよく観に行っていたんですけれども、本当にすてきな俳優さんになってきているので、同じ板の上で、作品としてすばらしいものができたら、僕にとっても圭人にとっても財産になりますし。彼の新たなチャレンジをぜひ観ていただきたいという思いが強いですね、

岡本:東山さんは、父親(岡本健一)の先輩でもあり、今こういうふうに言ってくださって、ちょっと不安だったところがなくなったというか、稽古と本番の舞台で共に過ごす時間がすごく楽しみになりました。『チョコレートドーナツ』は映画公開時に観に行って、自分自身も心にすごく刺さった作品だったので、今回の再演でポール役を演じさせてもらえると聞いたときに、自分が最初に映画を観たときに受けた感動だったり、心に響いたものを、一生懸命役作りをしてお客様に届けたいなと思ってます。

ーー「感銘を受ける物語」とおっしゃっていました。

東山:結局、人間同士がどんな思いをもって生きていくかという物語なので。ゲイとか、ドラァグクイーンとか、表面的なものはありますけれども、本質的なところで愛し合うということを表現しているので。その当時のアメリカで、ゲイのカップルはすごく差別の対象でもありますし、ダウン症のある子を預かるというのは非常に勇気がいることですよね。それをお客様にも感じていただけたら。何でもそうなんですけれども、表現者もそうですし、生きるってやっぱり勇気が必要だなと。それを表立って「これが必要!」という感じで言うよりも、演劇を通して感じてもらえたら、日々の生活に活かしてもらえるのかなと。普遍的なテーマだと思うんです。どの作品もそういう普遍的なことを表現していますけれども、そこについて、非常にダイナミックな表現をしている作品だなと思いますね。

岡本:個人的にぐっと来たのは、ルディとポールとマルコの関係性ですね。非常に心に響いて。ハッピーな物語ではないですが、この3人の関係性が失われていく、奪われていくときに自分が感じるものが非常に強くて。なので、自分と東山さんとマルコを演じる3人(丹下開登、鎗田雄大、鈴木魁人)とで、家族のような関係性をしっかり作っていきたいと思っています。難しそうなテーマがちりばめられているんですけれども、それとはまた別に、失ったことで気づく何かであるとかもあると思うし。人間って生きていて失うことって必ずあると思うので、そこを感じてもらえたらと思ってます。

ーー岡本さんは映画や台本は英語でふれて理解されたりもするんでしょうか。

岡本:映画は、字幕になってしまうとやっぱり文字制限で失われてしまうところもあったりすると思うので。今回も原作は映画ですが、自分もより作品、ポールという役柄について理解するために原作を取り寄せてその台本を読んで、ちょっと違う感じ、ちょっと違う発見をいろいろ見つけました。

ーーお互いの印象についてお聞かせください。

東山:圭人はね、幼少期から見ているけれども、やっぱり、ある瞬間から筋が入ったというか、本気になったなという感じがあって。内野聖陽さんと共演していた『M.バタフライ』でも、京劇の女形役で、舞台上で全裸にもなって。僕はあの姿を観たときに彼の本気さを感じましたから。「大人になったな」と感じましたね。そういうことを感じていたときにこのお話が来たので、すごくいい真剣勝負ができる気がするなと思って。

岡本:『M.バタフライ』、観に来てくださいって誘ったんですよ。東山さんが『さらば、わが愛 覇王別姫』で女形を演じられたときと京劇の先生が同じで、先生から東山さんのことも聞いていて、ぜひ観に来てほしいなと。そうしたら、前から4列目くらいに座っていらして。僕がお客様に話しかけるシーンがあったんですけれども、……近いなあ……と(笑)。今みたいに僕のことを言ってくださって、うれしいです。僕は、子供のころから『PLAYZONE』で育っているので。あのとき舞台で観ていた方とこういう形で共演できるなんて、すごく幸せなことだなと思ってます。東山さんは、やっぱりスターですよね。華というか。子供のころから父親の舞台を観ることが多かったんですけれども、それとはまた違う、光という感じ。出るだけで、立っているだけで、光が出るようなスター性というか。その光に負けないように自分もがんばりたいなと思っています。

ーー共演にあたって楽しみなことは?

東山:実際に舞台に立ったとき、お客様の感情の揺れ動きみたいなものがすごくよくわかる作品なので、それは俳優として楽しみですね。作品のもっている力もあるし、宮本亞門さんの演出もすごいもんだなと。それを同じ空間で共有できるというのは、なかなかない経験だと思うんです。実は大変難しい作品でもあるんですけれども。ポールは法律の専門家ということで、圭人のセリフには専門用語もいっぱいあります。でも、物語には非常にすんなり入っていけますし、お客様が最後に見せてくれる涙というのは、こちらから観ていてもさらに感動するみたいなことがあるので、それをなるべく引き出したいですけどね。

岡本:今のところ、自分と東山さんの距離というものがまだありますけれども、稽古に入って、役を生きるときに、ポールとルディとして出会ったときだったり、会話しているときだったりにどういう感じになるんだろうと、台本を読みながらずっと考えていて。そこがすごく楽しみですね。初舞台の『Le Fils 息子』で父親と共演したときに、岡本圭人としての自分が父親に言えなかったことを役を通して言えることがけっこうあったりしたので、それが演劇のすばらしいところというか、自分の殻を破る瞬間なのかなと思うので、今回も、ポールだからできることがあると思うので。普段自分ができないことを、ポールを通して伝えたりしていきたいなと思います。

ーー役柄をどう演じたいと考えていらっしゃいますか。

東山:本当に理不尽な話なので。そして、この作品を演じるにあたっては宗教観が必要だと思うんです。マルコっていうのはキリスト教における天使の名前なので、僕らはそれに付き添う神々なのかなと。そのうえで、アメリカの理不尽であるとか差別であるとかさまざまな問題が集約されているので、この作品をやることによってちょっとでもいい未来になるといいなと思っているんですけれども。

3年前の初演のとき、映画版の主演のアラン・カミングが、舞台についてツイッターに上げてくれたんです。今、コロナ禍だけど、東京では『チョコレートドーナツ』の舞台版が超ヒットしているらしいぜって。そのとき、こうやってつながるんだなと思ったんですね。今回もそういう心の絆が生まれるといいなと。というか、飛行機代出したら来てくれるんじゃないかな。ね、パルコさん。

(PARCO劇場の方より、トラヴィス・ファイン監督は来日するとのコメントあり)

え、監督来るんだ。やべえな。映画版に関する、監督とマルコ役の子とのドキュメンタリーを拝見したりしたんですけれども。監督が舞台を観てくれたら、また広がるんじゃないかと思いますね。

岡本:今回、亞門さんといろいろ打ち合わせをさせていただいて、自分が個人的に気になっているポールの背景、ストーリーについて、なぜこういう風になってしまったかとか、なぜルディの働くショーパブに行ったかとか、どんな過去があるのかとか、そんな話をさせてもらって。その後、亞門さんがいろいろ台本を修正してくださって、再演ではありますけれども、初演で谷原章介さんが演じていたポールとはまた違う人物像になるような予感がしていて。年齢も違いますし、そこも台本にも入っているんですが、そういう作業ができたのがよかったなと。個人的に、今まで翻訳劇をやることが多くて、台本を変えるなんてしたことなかったので、こういうアプローチの仕方もあるんだなって。亞門さんと話し合って、よりポールの人物像が深まった感覚がして。日本語ってすごく語尾が重要で、語尾ひとつでその人の人物像がけっこう変わってしまうような気がしていて、そこもいろいろ亞門さんとお話しをさせてもらって。今、台本を読みながら想像しているものと、稽古場に入って、東山さんのルディと一緒になったときとで、気持ちも語尾も変わると思うんですよね。そこも、そのときそのときの雰囲気だったり空気感で変えていいよとおっしゃってくださったので、すごくうれしかったのと、新しい、今までにないポールというものができるんじゃないかなとわくわくしています。初演とは違うセリフだったり、新たに増えているセリフだったりもあるので、また新しい作品になるんじゃないかなと思っています。

ーーマルコ役のひとりである丹下開登さんは初演に引き続いての出演となります。

東山:ビジュアル撮影で再会しましたが、以前の感覚にすんなり戻れましたね。いい意味で本当に変わらなくて。ダウン症というのは本当に魅力のひとつで、こんなに素直で穏やかでいられるっていうのは、チャーミングなまんまでいるということだから、かわいいですよね。会うたび、「東山さん大好き」って言ってくれるんで。娘より言ってくれるんですよ。そういうのって、僕自身も穏やかな気持ちになれますし、彼が舞台にちゃんと立ってお客様の前で芝居をしているということが、出てきただけで感動的ですよね。ダウン症のお子さんをお持ちの方もたくさんいらっしゃると思うんですが、そういう方たちにとっても希望というか、可能性が広がるというか。社会的な弱者とかでなく、チャーミングさ、魅力だと思うので、お客様にもそこを感じていただけたらと思いますね。

ーー今回マルコ役のトリプルキャストとして新たに鎗田雄大さん、鈴木魁人さんも参加されます。

東山:みんなそれぞれ性格や感情の出し方が違うので。丹下くんは本当にいつも穏やかなんですよ。嵐も大好きなんですよね。「嵐と東山さん大好き」って言ってくれるので。

岡本:丹下くんと話したとき、「嵐が好き」と言うので、「僕もHey! Say! JUMPにいたんだよ」と言って。「何それ、見たい」ってすごく言ってくれたので、今度、自分が出ていた時代のDVDを渡すねと言ったらすごく楽しみにしてくれて。ビジュアル撮影のときに初めてお会いしたんですが、稽古がとても楽しみになりました。どういう化学反応が起きてどんな作品になるのか予想ができないんですが、予想ができないものほど人の心に刺さったり、おもしろいものになると思うので、それが楽しみですね。トリプルキャストということで、3人それぞれ違うマルコになると思うので。マルコが違うと違うポール、違うルディになると思うし、3人の関係性も違ってくると思うので、そこが楽しみですね。どの公演も新鮮な気持ちで演じられるような気がします。

ーー他の共演陣についてはいかがですか。

東山:皆さん一流の人たちばかりだから、何をやっても受け止めてくれる感じがしますね。楽しみです。初演のときは稽古場で皆さんマスクしていたので、舞台に上がるまでどんな顔かわからなくて。「え、そんな顔してたんだ」みたいな。

岡本:劇場に入って初めて「こんな顔だったんだ」ってありますね(笑)。僕はまだ、マスクがある現場でしか舞台をやったことがないんです。高畑淳子さんとは今年の1月15日が千秋楽だった『4000マイルズ〜旅立ちの時〜』でも共演していて、こんなに早くまたご一緒できるんだなと。そのとき、ものすごく勉強になりましたし、刺激になりました。今回また違う関係性なので、どんな感じになるのか楽しみです。

ーー役柄と重なる経験はありますか。

東山:ルディはとにかくベット・ミドラーが大好きだから、僕がマイケル・ジャクソン大好きなのと似てるなと。「世界で最高のディーバよ」とか言うんですよ。「明るくて楽しくて、くだらない冗談もたくさん言うの」みたいなルディの表現、明るさ、まっすぐさは僕の中にはないものなので、演じていて楽しいですね。本音がすごすぎてみんなが引くという。ポールにもずかずか行くでしょう。「嘘つき」みたいな感じで。何か、圭人が、言えなかったことをセリフを通じてお父さんに言うってさっき言ってたけれども、何となくわかる気がする。僕はその逆で、自分にないものを出せるみたいな。いつもおとなしくしてるから。家の中とかでも。アスリート的な感じでできるというか。

岡本:ポールがなぜルディにひかれていったのか。ポール自身も夢があったりいろいろなことを感じているんだけれども、それを口に出すことがあまりできないとか、言えないようなことがあって、そんな中でルディに出会って。ルディが正直者で何でも口に出すから、そういったところにひかれていくと思っていて。僕自身、あまり自分からしゃべるタイプではなかったんですけれども、アメリカに留学したとき、アメリカの人って、自分がやっていることが正義でもあるし、自分のことを表現しないとやっていけないような社会でもあったりするので、ニューヨークの演劇学校に行き始めたときとか、他の人たちがすごく輝いて見えたんですね。自分もこういう風になりたい、こういう風に自分の思いとか自分の心の内にあるものを言いたいとかっていう気持ちがそのときすごく芽生えたので、そういった感情とかを思い出しながら、セリフを言ったり、ルディに対する目線を意識したりして演じていきたいなと。目線って何かすごく重要だと思うんです。セリフもそうなんですけれども、やっぱりその人を見る目、その人を見ながら感じることってすごく大事だと思っていて、だから、自分がアメリカに行ったときに感じたようなこととかもいろいろ思い出しながら、こういったところでこういう感情があるかもしれないなとかっていうことを、稽古に入る前から考えながらやっていきたいと思っています。アメリカの演劇学校の最初の試験みたいなものがあって、それが、今まで誰にも話したことがない自分のトラウマを話すっていうものだったんですね。クラスメイトの前でそれを言うんですけれども、クラスメイトみんなが自分の想像を超えたことを話していて、それを聞いたときにすごく心動かされたんですね。それで、自分も今まで人に言ったことのないようなことを打ち明けたときに、今まで、自分を偽るっていうわけじゃないけれども、自分を作ってステージに立っていたというところがあって、自分の中で蓋をしているところを開けるような瞬間っていうのがなかったなと初めて感じて。そんな話をしながら、自分も大号泣しちゃって、言葉が出ないぐらいになって。でも、それを言った後に自分もすごくすっきりしましたし、周りのクラスメイトも感動していて、そこで自分の殻が破れたなって。自分にそういう部分があるということは、役柄の人物もそれぐらいのものを持っているはずなので、セリフだったり台本に書かれている以上の、ポールのもっと奥底にあるものをいろいろ探していきたいなと思っています。

ーーさきほど、初演の経験を通じて、お客様の感情の揺れ動きみたいなものがすごくよくわかる作品だとおっしゃっていました。

東山:やっぱりね、歌と踊りで表現できるんで。オープニングで僕が出てきたときから、みんなちょっとひっくり返ってる感じがする(笑)。出てきたな、みたいな。皆さんの目の開き方に、僕もびっくりする。思いっきりやった方が楽しいっちゃ楽しいですね、やっぱり。それと、最後にも歌うんですけれども、亞門さんの演出でたっぷり自分の気持ちができてから歌い始めるんで、それまでのすべてが集約されて、お客様の感情がぐっと集まってくるのがわかるので、オープニングからそこに行くまでのプロセスというのがやっぱり楽しかったですね。

ーー初演から3年、時代も変わっていますが、再演にあたって変えたいことなどありますか。

東山:自然体で行けたらいいなと思いますね。亞門さんの演出って的確なので。3年前よりは多少老いている可能性があるから(笑)、きっちりしないといけないなと思いますけれども、アラン・カミングがまたツイートするくらいがんばりたいなと思います。

ーー岡本さんは、現時点で課題ととらえていらっしゃることはありますか。

岡本:楽しみにしていることはたくさんあって。初演の舞台の映像を拝見したんですけれども、ルディが歌うところだったり、ダンスしたりしているところは絶対に生じゃないと見ちゃいけないなと思って毎回スキップしてたんですね。やっぱり目の前で見て感じたいなっていうのがあって。そういったところを実際にポールとして見るのがすごく楽しみだなっていうのはありますね。皆さんはすでにたくさん稽古もして本番もやっていらっしゃる中、再演の中に入ってくので、やっぱり自分は稽古に入るまでに一生懸命自主稽古とかもいろいろしてやっていかなきゃなと思いますね。

ーールディとポールの関係性を出すためにどうされますか。

東山:やっぱり、マルコも含めての関係性を稽古場でちゃんと作るというのがいいと思うので。僕らが不安に思うとやっぱりそれが伝染するので。マルコたちはね、一回覚えたら忘れないんですよ。僕がセリフを忘れても、彼らは忘れないですから。安定してるな、みたいな。とにかくガンガン来てくれるんで。「東山さん大好き」「僕も」という感じで。ときどき側転をやって見せたりして。おいしいケーキ作って持ってきてくれたりもするんだよね。

岡本:やっぱり、どう関係性を作っていくかですよね。

東山:いっぱいお小遣いあげた方がいいよ(笑)。

岡本:(笑)。マルコたちとも、それに、東山さんとも距離をつめていきたいですね。自分の中では「ヒガシくん」なんですよ。子供のときからずっと、父親の出ている舞台とか、ジャニーズの舞台に連れていってもらって、「ヒガシくんこんにちは」って挨拶していて。それってすごくアドバンテージだとは思うんですよ。自分のことを子供のときから知ってくれているお兄ちゃんと一緒に芝居をするというのはなかなかない経験だったりすると思うので。でも、気づけばいつしか「東山さん」と呼ぶようになっていて。公の場では「ヒガシくん」ってやっぱり言えないですけれども、稽古場とかでは、昔の思い出に従って「ヒガシくん」って呼ぶと、距離が縮まるかなとひそかに思っています(笑)。

東山:僕はどう呼ばれてもいいんですけどね。圭人は何と言っても、3歳くらいのときに森光子さんに飛び蹴り食らわしてみんなに「こら~」って怒られた男ですから、僕もそのうち飛び蹴り食らうんじゃないかと(笑)。

ーー初演の際、亞門さんからの言葉で心に残っていることはありますか。

東山:「東山さん全然変わってない」って言われたのがすごく印象的で。自分では変えてるつもりだったんだけど、全然変わってないんだなって。ルディになってないってことですよね。それから真剣にやって、どうにか亞門さんからリアクションを取ろうと。稽古場で遊ぶようにして、思いっきり解放してやるようにしたら、すごく喜んでくれて。そこからですね。正直さみたいなものが動きの中から出てくるようになって。割と派手なアクションも心がけてやるようにして。亞門さんにああしてこうしてって言われてその通りにやると、なるほどな、お客様のリアクションもその通りだろうなと。歌も「ていねいに歌わないで」みたいな。「何言ってるかわかんないくらいに、唇パサパサみたいな感じで歌って」とか言われて、そうやってみたら、確かにそうだよなみたいなところもあって。それからは新鮮でしたね。「上手くやらないで」みたいな。「叫ぶだけにして」って言われてそうやると、確かにいいな、と。歌唱の先生と一緒だとすごくていねいに歌うんですけれども、それを一回全部捨ててやったら、物語的には確かに正しいなと。

ーー岡本さんは、現段階で亞門さんとお話しになって心に残っていることはありますか。

岡本:自分が思っていること、亞門さんが思っていること、いろいろ話して、最終的に、これ稽古してみないとわからないですねと言おうとした瞬間、亞門さんがそうおっしゃって、「そうですよね」みたいな。ブロードウェイで演出もされていますし、すごくしっかり演劇のことをわかっていらっしゃる方で、日本を代表するトップの演出家なので、亞門さんが自分の作ったポールを喜んでくださったらいいなと。稽古で、自分が一番重要だなと思っているのは、演出家の心を動かすことだと思っているので、それができて初めてお客様に届くのかなと。まずは少しでも亞門さんの心を動かせるように、僕がポールを演じてよかったと言ってもらえるように、一生懸命稽古をしていきたいなと思っています。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

公演情報

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
『チョコレートドーナツ』
 
日程・会場:
【東京】2023年10月8日(日)~31日(火) PARCO劇場
【大阪】2023年11月3日(金・祝)~5日(日)豊中市立文化芸術センター 大ホール
【熊本】2023年11月10日(金)・11日(土)市民会館シアーズホーム 夢ホール(熊本市民会館)
【宮城】2023年11月16日(木)東京エレクトロンホール宮城
【愛知】2023年11月23日(木・祝)日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
 
原作:トラヴィス・ファイン/ジョージ・アーサー・ブルーム(トラヴィス・ファイン監督映画『チョコレートドーナツ(原題:ANY DAY NOW)』より)
翻案・脚本・演出:宮本亞門
訳詞:及川眠子

出演:
東山紀之
岡本圭人
八十田勇一、まりゑ、波岡一喜、綿引さやか
斉藤暁、大西多摩恵、エミ・エレオノーラ、矢野デイビット、穴沢裕介
丹下開登・鎗田雄大・鈴木魁人(トリプルキャスト)
高木勇次朗、シュート・チェン、棚橋麗音、小宮山稜介
山西惇、高畑淳子
 
企画・製作:株式会社パルコ
公式サイト:https://stage.parco.jp/program/choco2023
ハッシュタグ:#チョコレートドーナツ
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