《連載》もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜Vol. 6 吉田玉延(文楽人形遣い)×吉田玉征(文楽人形遣い)
-
ポスト -
シェア - 送る
未来を見据えて
さて、12月は本公演で『源平布引滝』竹生島遊覧の段と九郎助住家の段、鑑賞教室で『団子売』と『傾城恋飛脚』新口村の段を上演。
『源平布引滝』で上演するのは、木曽義賢から小まんに託された源氏の白旗が平家方に奪われそうになるところを、源氏に心を寄せる平家方の武将・斎藤実盛が白旗を持った小まんの腕を琵琶湖に切り落とすことで防ぎ、義賢の子を身ごもって小まんの家に匿われている葵御前が無事に出産するのを見届けるという物語。小まんの息子・太郎吉が旗を持ったまま流れ着いた小まんの腕をみつけて持ち帰り、そこへ現れた実盛と戦場での再会を誓い合うさまは名場面だ。玉延さん、玉征さんともに足遣いを勤めるが、ほかに玉延さんは、九郎助住家の段で、実盛や、のちに太郎吉の父であることがわかる瀬尾十郎を小まんの実家へ案内する庄屋の人形を遣う。
玉延:大きく物事が動く前の場面なので、とにかく段取り良く、そして庄屋らしくせかせかと立ち働く様子を出して演じたいです。実は僕は『源平布引滝』が一番好きな作品で。以前、師匠がなさった時の実盛がカッコよかったですし、太郎吉は可愛らしいし、(小まんの父の)九郎助も瀬尾十郎も人情味がある。観ていてとても楽しいのではないでしょうか。
鑑賞教室の『傾城恋飛脚』新口村の段は、飛脚屋の忠兵衛がひょんなことから公金に手を出して追われる身となり、恋人の傾城・梅川を伴って父親・孫右衛門のいる故郷の新口村に帰ってくるという物語。会ってしまえば縄をかけなければならない罪人と知りつつ息子への情愛が滲む孫右衛門と、そんな父への想いが溢れる忠兵衛や梅川の姿が胸を打つ。この段では、玉延さんは伝が婆(でんがばば)、玉征さんは置頭巾(おきずきん)を遣う。どちらも、故郷を梅川に案内する忠兵衛らの前を通っていく人々のうちの一人だ。
玉征:悲しい話ですよね。自分の前に姿を現そうとする忠兵衛に、孫右衛門が、顔を見たいのに「今じやない、今じやない」と言うところなど、いい場面だなと思います。そして、僕らは通り過ぎる役のプロですから(笑)。
玉延:(笑)本当によくつくんですよね。諸先輩方も同じことを感じてきたと思うんですけど。でも、(次々と人が通り過ぎるため)前の人との距離やスピードなどは難しくて、本当に勉強になります。
玉征:忠兵衛の紹介と共に動くから、太夫の語りも意識しないといけないし。
玉延:文楽の魅力を伝える良い演目ですよね。一緒に上演する『団子売』も華やかですし。
左遣い、そしていつかは主遣いへ。二人はどんな役が得意な人形遣いを目指しているのだろうか。
玉征:やっぱりこの体格を活かしたものとなると荒物になるのかなと思います。『仮名手本忠臣蔵』の斧定九郎とか、いつか遣ってみたいですよね。
玉延:僕は、二枚目はもちろんですし、あとは女方にもすごく興味があって、足を遣っていても楽しいと感じるんですよ。重宝されるマルチな人形遣いになりたいなと思います。
最後に、これから文楽の世界を担いに来てくれるかもしれない若い世代に向けて、メッセージをもらった。
玉延:文楽は、僕達が正しく繋いでいけば千年後にも続いているような、普遍的な価値を持った芸能。そのような芸を一生かけて追求していくのって、とてもカッコよくないですか? 地方巡業や海外公演など刺激的な仕事も多く、様々な土地で見たことのない風景に出会えるのも大きな楽しみです。興味が少しでもあったら、ぜひ文楽の世界に飛び込んでみてください。若い力を必要としています!
玉征:豪華客船での公演など、文楽に入っていなかったら経験していないだろうな、と思うようなお仕事がたくさんあります。文楽はやる気さえあれば誰でも歓迎です。世襲制ではないので、一般家庭の出身でも人間国宝という頂点を目指せるって、すごいことだと思いませんか?
来たれ、若人!
≫「技芸員への3つの質問」