「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24」バレエのオープニングを飾る『ドン・キホーテ』は情熱的溢れるラブコメディ
Mayara Magri as Kitri in Don Quixote ©2019 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
英国はロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)で上演された、ロイヤル・オペラ、ロイヤル・バレエ団による世界最高峰のオペラとバレエを、特別映像を交えてスクリーンで体験できる人気シリーズ「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」。ライブでの観劇の魅力とは一味違う、映画館の大スクリーンと迫力ある音響で、日本にいながらにして最高峰のオペラとバレエの公演を堪能できる、至福のひとときが味わえる。今シーズンは「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24」として、全8作品<バレエ4作品/オペラ4作品>が届けられる。
そのバレエのオープニングを飾るのが、バレエ初心者でも楽しめる、生き生きとした情熱に溢れるラブコメディ、ロイヤル・バレエの『ドン・キホーテ』だ。チャールズ英国王夫妻が臨席したことも大きな話題となった本作の見どころを、舞踏評論家・森菜穂美氏の解説とともに紹介しよう。
【動画】The Royal Ballet: Don Quixote cinema trailer
『ドン・キホーテ』はあらゆるクラシック・バレエ作品の中でも最も明るく楽しいラブコメディで、華やかな超絶技巧もふんだんに盛り込み、スペインの生き生きと情熱的なパワーにあふれている。バレエ初心者でも、そのパワフルさと華麗な魅力に思わず引き込まれてしまう傑作だ。
バルセロナの街角を舞台にした本作は、『白鳥の湖』他で知られる巨匠マリウス・プティパが20代の頃、マドリッド王立劇場と契約し、スペインで過ごして闘牛やキャラクターダンスに夢中になった体験が生かされている。街の踊り子、闘牛士、ファンダンゴ、ロマの踊りなど多彩なキャラクターやエキゾチックな踊りが、作品に生き生きとした魅力的な味わいを加えている。
Matthew Ball as Basilio in Don Quixote ©2019 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
なお、今回上映される本作は元プリンシパルで世界的なスターのカルロス・アコスタ(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ芸術監督)が2013年に振付けを担当している。劇中では登場人物たちが台詞を叫ぶ場面や、ダンサーたちが床の上だけでなく、テーブルやワゴンの上でも踊るといった演出も取り入れられた。彼の振付について森氏は「彼にとって重要なのは登場人物たちの個性であり、バレエのステロタイプに囚われず一人一人が生身の血の通った人間として描かれている」と説明している。
Mayara Magri as Kitri in Don Quixote ©2019 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
ヒロインの町娘キトリを演じるのは、2011年にローザンヌ国際バレエコンクールで優勝したマヤラ・マグリ。ブラジル出身ならではの天性の明るさと安定した技巧がこの役にぴったり。森氏は「夢の場面での、一転してエレガントで軽やかなドルシネア姫との演じ分けにもぜひ注目していただきたい」と注目ポイントについてコメントしている。
Mayara Magri as Kitri in Don Quixote ©2019 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
キトリの恋人、床屋のバジル役を演じたのは、人気の高い英国出身のマシュー・ボール。端正な容姿で、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』では男性の白鳥を演じるなど様々な舞台にチャレンジしてきた。ボールは、私生活ではマグリとカップルで、二人の息はぴったり。コミカルな掛け合いが自然で、片手リフトなどのパートナーリングも見事に決まり、最後のグラン・パ・ド・ドゥではダイナミックな跳躍を見せている。
Matthew Ball as Basilio in Don Quixote ©2019 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
また人気上昇中の若手ファースト・ソリストのカルヴィン・リチャードソン(闘牛士エスパーダ役)をはじめとする、伸び盛りの若手ダンサーを発見できるのも、シネマシーズンならではのお楽しみのひとつ。そしてこれら若手ダンサーの活躍と共に、作品を引き締めるのは、タイトルロールのドン・キホーテ役を演じるバレエ団を代表する名役者ギャリー・エイヴィス。森氏は「エイヴィスの気品あふれる演技によって、高潔な人格を持つロマンティックな老紳士としてのキホーテのキャラクターが立ち上ってきます」と舞台上で強烈な存在感を放つエイヴィスの演技に賞賛を送っている。
Gary Avis as Don Quixote © ROH 2023 Photographed by Andrej Uspenski
今回のシネマで上映された公演には、英国王チャールズ3世とカミラ王妃も臨席し、彼らが客席から拍手で迎えられる場面もおさめられている。尚、シネマシーズンで中継された公演に英国王が臨席するのは初めて。
Mayara Magri as Kitri in Don Quixote ©2019 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
※森菜穂美氏(舞踏評論家)による『ドン・キホーテ』解説全文は下記URLにて閲覧可能です。
■森菜穂美氏(舞踏評論家)による『ドン・キホーテ』解説全文はコチラ
上映情報
ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』
1/26(金)~2/1(木) TOHOシネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
TOHOシネマズ日本橋にてアンコール上映決定、2/2(金)~2/8(木)まで
【公開期間】2024年1月26日(金)~2月1日(木)
【公開劇場】
北海道 札幌シネマフロンティア
宮城 フォーラム仙台
東京 TOHOシネマズ日本橋
東京 イオンシネマ シアタス調布
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜
愛知 ミッドランドシネマ
京都 イオンシネマ京都桂川
大阪 大阪ステーションシティシネマ
兵庫 TOHOシネマズ西宮OS
福岡 中洲大洋映画劇場
【上映時間】約3時間予定(途中2回の休憩あり)
【音楽】レオン・ミンクス
【デザイナー】ティム・ハットリ―
【照明】ヒューゴ・バンストーン
【ステージング】クリストファー・サンダース
【指揮】ワレリー・オブシャニコフ
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
ドン・キホーテ:ギャリー・エイヴィス
サンチョ・パンサ:リアム・ボズウェル
ロレンツォ(キトリの父):トーマス・ホワイトヘッド
キトリ:マヤラ・マグリ
バジル:マシュー・ボール
ガマーシュ(金持ちの貴族):ジェームズ・ヘイ
エスパーダ(闘牛士):カルヴィン・リチャードソン
メルセデス(街の踊り子):レティシア・ディアス
キトリの友人:ソフィー・アルナット、前田紗江
二人の闘牛士:デヴィッド・ドネリー、ジョセフ・シセンズ
ロマのカップル:ハンナ・グレンネル、レオ・ディクソン
森の女王:アネット・ブヴォリ
アムール(キューピッド):イザベラ・ガスパリーニ
ファンダンゴのカップル:ミーシャ・ブラッドベリ、ルーカス・B・ブレンスロド
【配給】東宝東和
老紳士ドン・キホーテは、読みふけっていた本に登場する美しい姫ドルシネアを夢に見て恋する。ドルシネア姫との出会いを夢見て、従者サンチョ・パンサを引き連れて騎士を気どり冒険の旅に出る。
陽光あふれるバルセロナの街角。町娘キトリは床屋のバジルと恋仲だが、父ロレンツォは娘を金持ちの貴族ガマーシュに嫁がせようと目論み、二人の仲には反対だ。街にドン・キホーテとサンチョ・パンサが現れ、キトリこそ夢の姫君ドルシネアだと思いこむ。
恋人たちはロマの野営地に逃げ込む。そして再びドン・キホーテの夢の中、ドルシネア姫、キューピッド、そして森の女王や妖精たちが踊り、甘美なひと時が過ぎて行く。
キトリとバジルは街の居酒屋で友人たちと祝杯を上げようとするが、そこにはロレンツォやガマーシュも待ち構えていた。バジルは、結婚を許さないなら死んでやると狂言自殺をし、ドン・キホーテに説得されたロレンツォは二人の結婚を認める。そして二人の結婚式が華やかに行われる。恋人たちの仲を取り持ったドン・キホーテはサンチョ・パンサを引き連れ、再びドルシネア姫を追って次の冒険へと旅立つ。