本役を務めながら、舞台裏でカバー役の台詞をブツブツ……。ロングランを支えるカバーキャストとは? その裏側に迫る!~舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』上野聖太×川辺邦弘×前東美菜子インタビュー
本役もカバーも。支え合い繋ぐ、ロングランのカンパニー
上野:僕自身のことを言えば、アンサンブルとハリーは全く違うのでその意味での混乱はないです。初めてハリーの稽古をしたときに役者の引き出しを開けた感覚があって、そこからカバー稽古が楽しくなりました。この作品のアンサンブルは、動きながらモノを動かしたりと舞台転換の役割を担うことが多いんですよね。
前東:わかります。私もそれに支えられている部分がありましたね。体中が痛いけど、ご飯を早く食べて30分後にロビーに集まろう!って。
川辺:僕は文学座の劇団員で、劇団公演ではダブルキャストってほぼないんです。研修生のときにダブルキャストをやって以来。だから竪山(隼太)さんやエハラ(マサヒロ)さんがロンをやっているのを見て、そういう方向性もあるんだと大変勉強になりました。自分だけで考えるよりも、その人物が豊かになるなぁと。
前東:確かに。私も同じ役の方たちをじっくり見るようにしています。役作りもそうだし、動線もね。
上野:僕は最近月1回観劇して、今までのハリーはほとんど観てきました。普段は知り合いの出演者に「あそこ良かったよ」って言うためのネタを探したりするけど、今はあえてハリーに集中して観るようにしています。
前東美菜子
――先輩たちから学ぶことは多そうですね。
上野:はい。ハリーは今まで5人いて、皆さんよく教えてくださいます。(石丸)幹二さんは変更があると「あそこ変わったよ」と。向井理さんはご自分の稽古後に僕の稽古を見てくれて、ちゃんとアドバイスもしてくれる。稽古からずっと一緒にやってきたこともあり、この関係性はロングランならではじゃないかな、と。学校の同級生や先輩後輩みたいな感覚で、皆さんに育てていただきました。
前東:向井さんは教えるためだけに稽古場にいらしたことがあって、感動しましたね。私がジニーデビューでものすごく切羽詰まった稽古の時には、馬渕(英里何)さんが全部細かく教えてくださって。私は馬渕さんを休めるために舞台に立つのに、デビュー本番まで観届けてくださった。もう休んでください!という気持ちになりました。本当に皆さん、親身になって教えてくださり、人に恵まれたなと感謝しています。
――役と作品に対しての責任感、そしてみんなで力を合わせないとこの舞台は成立しないと皆さんご存じだからこそ、でしょうね。逆にご自身の役をカバーの方たちに教えてあげることも?
川辺:もちろんです。舞台裏で付いてもらって「ここで着替えてこれを持っていくんだよ」「この台詞中には出ちゃダメ、転換とぶつかるから」とか。
上野:舞台上のことよりも舞台裏がわかりづらいし、何より安全第一ですから。
川辺邦弘
――この機会にカバーとして、みなさんにお伝えしたいことや訴えたいことはありますか。
上野:もっと注目していただけたら嬉しいです。海外ではスウィングやカバーの人たちがフィーチャーされることも多いんですよね。日本でもその存在により光が当たると、お客さんに楽しんで応援していただけるのではないかと思います。
川辺:僕はロン役を通算48回くらいやらせていただきました。3カ月ほど続けてやらせてもらって、やっと役が染みついてきたなと感じ始めたところ。間が空くと忘れてしまうこともあるので、できたらカバーの回みたいなものを作って、定期的に演じられる機会が欲しいです。月に2、3回でもあると、より役を深められると思うんですよね。
上野:確かに数カ月空くと、また一からと言う感じになってしまう。カバー役の回ができたらいいですね。
前東:本当に。安全面からも必要だと思います。
仲間のカバーデビューにはガン泣き! 何回観ても飽きない、誇りに思える作品
――複数役を演じて感じる、この作品の魅力を教えてください。
前東:どの角度から観ても絶対に面白いです!
川辺:そうだよ。絶対に面白いし、誰がやっても面白い(笑)。
前東:きっと犬や猫が観ても(笑)。そう言えるくらい、すごい舞台です。
上野:月1回観ても毎回面白いし、飽きることがありません。出ている人たちを本当に尊敬しますし、みんなすごいよ〜!って好きになっちゃいます。良くできているし、誇りに思える作品。ロングランする価値があります。
上野聖太
――観劇しながらグッとくることはありますか?
前東:私は客観的に観られないんですよね。みんな大丈夫?ってドキドキしながら観てしまうので。どうですか?
上野:アルバスのカバーの小松季輝くんのデビューが急遽決まって、ちょうど休みの日で観ることができたのですが。ずっと息子として一緒に稽古してきたアルバスが、別のパパを相手に頑張っているのを観て、ガン泣きでした。
前東:私も小松くんがデビューしたときはグッときました。ああ、やってるな、うわぁ!って。
上野:この二人のカバーデビューも感動しました。このロンとハーマイオニー、良いカップルで最高でした。
川辺:俺も聖太がハリーデビューしたら絶対泣いちゃうな。
前東:本当に。たまらないと思う。
上野:僕はこれまでミュージカルでの活動が多く、『呪いの子』はストレートプレイなので、ある意味アウェイなんです。ミュージカルを観に行くと知り合いがたくさんいて、「『呪いの子』、観に行くよ」「頑張ってね」とみんな言ってくれる。中には「僕らの希望だよ」とまで言ってくれた人もいて。その反響の大きさに、ハリーのデビューを控えて、これは人生の一大事だ!と実感しています。
川辺:タイトルロールだからね。
前東:すごいことですよ!
上野:頑張ります!……って、二人とも僕にプレッシャーかけてない?(笑)
取材・文=三浦真紀 撮影=荒川潤
公演情報
<受付期間>4月12日(金)10:00~5月16日(木)20:00