ピアニスト・小林愛実が語る、オール・シューベルトの3年ぶりニューアルバム 12月にはサントリーホールにてソロコンサートも

インタビュー
クラシック
2024.11.27

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ピアニスト・小林愛実がニュー・アルバム『シューベルト:4つの即興曲作品142、ピアノ・ソナタ第19番ハ短調、ロンド イ長調他』を2024年11月27日(水)にリリースする。前作から約3年ぶりのアルバム発表となったが、その間小林は、ショパン国際ピアノ・コンクール第4位入賞、結婚、出産と大きな出来事を経験してきた。12月には2年ぶりとなるサントリーホールでのソロコンサートも控えたいま、何を思うのか。小林に話を聞いた。

――3年ぶりのアルバムは、オール・シューベルトです。

2021年にショパンのアルバムを出し、その後ショパン国際ピアノコンクールに入賞したことを一区切りとして、次はシューベルトに取り組みたいと思っていました。

シューベルトには、他の作曲家にはない美しさ、小さなダイヤモンドのような輝きがあると思います。彼は31歳の若さで亡くなっていますが、今回録音したのは最晩年の作品、ちょうど今の私と同じくらいの年齢で書かれたものばかりです。シューベルトの後期作品は、歳を重ねてからでないと弾けないとよく言われますし、私もそう思っていたこともあります。でもむしろ、今の同じ年齢で弾いておいたほうが良いのではないかと、決心しました。そして、歳を重ねてから何十年か後にまた演奏するのも良いなと。

彼の作品は、孤独だけれど同時に優しさにあふれています。残された人生が長くないと気づきながら、小さな幸せを発見してそれを音楽にしているかのようです。30歳で死について考えることは、現代では普通あまりないと思いますが、彼は音楽の中で神の声を聞きながら、ずっと生と死について考えていたのだろうと思います。

――今ここに30歳のシューベルトがいたら、同世代の小林さんの眼にどう映るのでしょう?

すごく博識でしょうね。30歳でも私よりずっと成熟していて精神年齢が高いと思うので、向こうからしたら、私のことはずいぶん子供だと思われるかもしれません(笑)。でも彼も音楽家らしい少年の心も持ち合わせていたのではないかと思います。

今のように長生きが普通でなかった分、命あるうちにできるだけ多くの作品を世に送り出したいという考えがどこかにあり、だからこそ精神的な成長が早かったのではないでしょうか。私たちも昔の人のように毎日を大切に生きていたら、同じ年齢でももっと成熟できるのかもしれませんけれど。

――ピアノ・ソナタ第19番D958にはどんな想い入れがありますか?

カーティス音楽院に留学して最初の年、18歳の頃にマンチェ・リウ先生から与えられた作品です。学校のホールで行われた、故レオン・フライシャーさんのマスタークラスで指導していただいた思い出もあります。

最後の3つのソナタの1つめで、他の2曲と比べてとてもエネルギッシュです。これが自分のあるべき姿なのかと自問自答を繰り返すかのような第1楽章は、シェイクスピアの「To be or not to be」のようなメッセージを感じます。第2楽章は天国のような場面もありながら美しい音楽が流れ、第3楽章は短くてかわいらしいメヌエット、そして第4楽章は一定のリズムを基盤に最後まで途切れず進む元気さがあります。全体に、生と死を行き来しながら、苦しみのなかでもどこか前向きで、諦めていないものを感じます。

――あわせて収録されているのは、即興曲D935です。

すごく好きでずっと勉強したいと思っていた曲で、アルバムは、これを中心に選曲していきました。出産後に初めて取り組んだ作品でもあります。形式や音楽の感じ方がD958のソナタに似ていますが、やはり即興曲なのでよりフレキシブルです。美しい変奏曲や花を慈しむようなピュアな心も感じられます。こちらのほうがよりシューベルトらしい自由な歌を感じます。

――シューベルト弾きとして好きなピアニストはいますか?

まずはルプーさんですね。大好きなピアニストです。すごくあたたかくて人間味があって、どうしてあんなに美しく歌えるのだろうといつも思います。あとは内田光子さん、ブレンデルさんの演奏も刺激になりました。

こうした巨匠たちの演奏は、今の時代にありがちな、いわゆるお客さんウケを意識したような表現がまったくありません。それにそれぞれがすごく個性豊かです。昔はYouTubeもなく、簡単に他の音源が聴けなかったから、そもそも誰かの真似をすることがないというのもあるでしょう。

私自身、最近はあまりYouTubeの音源を聴かないようにしています。録音を聴いているといつの間にか頭に残るとか、つい真似してみたくなることがあるように思うので、誰かの演奏を聴くなら基本的にはライヴで触れることにしています。

――反田恭平さんとの連弾による「ロンド」も収録されています。

結婚して子供が生まれてから初めての録音ですし、夫もピアニストなので、せっかくの機会だからと連弾も録音することにしました。10分ほどの短い作品ですが、最初はとにかく意見が合わなくて(笑)。途中一瞬、もう二度と一緒に録音なんてしないと思ったくらいですが、“合わせてほしいならちゃんと強い意志を持って弾いて”と言われ、それに応えて弾いたら向こうも譲ってくれたり、こちらも譲ったりして、最後はすごく楽しく演奏できました。ちゃんとした意志がある相手には、自然と合わせたくなるものなのですよね。

結果的に、まさかそんなギスギスした瞬間があったとは思えないほど、息ぴったりの演奏になっています(笑)。

――お子さんが生まれて、ピアノに向かう心境に変化はありますか?

産後に復帰してすぐは、舞台に立ち続けることに心身がついていけないところがありましたが、ようやく最近、仕事と子育てをそれぞれ楽しめるようになってきました。このレコーディングは子供を両親に預けてベルリンで行ったので、自分のペースで集中して音楽に向き合う感覚を取り戻す良い機会になりました。

日本での本番のときは、子供が会場に来てくれるとなぜか上手く弾けるんです! ステージに出る直前まで一緒にいて、楽屋に戻るとまた会えることで、温かい気持ちになれるからかもしれません。見守ってくれていると思えるみたいです。

――12月8日にはサントリーホールでリサイタルがあります。

アルバム収録曲からシューベルトの即興曲をメインに置き、シューマン「子供の情景」と、新しいレパートリーとなるショパンのピアノ・ソナタ第3番を演奏します。毎年行ってきたサントリーホールでのリサイタルですが、昨年は産後でお休みしたので、今回は2年ぶり。またあの舞台に戻れることをとても楽しみにしています!

取材・文=高坂はる香 撮影=山崎ユミ

リリース情報

小林愛実『シューベルト:4つの即興曲作品142、ピアノ・ソナタ第19番ハ短調、ロンド イ長調他』
 
2024年11月27日発売
小林愛実(ピアノ)
反田恭平(ピアノ)※Disc2/7のみ
WPCS-13868/9(2枚組) ¥3,850(税込)

Disc1
1-4. シューベルト:4つの即興曲作品142
Disc2
1-4.シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番ハ短調
5. リスト:シューベルトの宗教的歌曲S562 第1曲連祷(れんとう)
6. リスト:シューベルトの12のリートS558 第7曲春の想い
7.シューベルト:ロンドイ長調(連弾曲)

公演情報

小林愛実 ピアノ・リサイタル 2024
 
日程:2024年12月8日(日)14:00 開演(13:30 開場)
会場:
東京/サントリーホール
プログラム
シューベルト:即興曲集 D935 op.142
シューマン;子供の情景 op.15
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
料金(全指定席)
一般 ¥6,000
学生券¥3,000(カジモト・イープラスのみの取り扱い)
主催:KAJIMOTO
協賛:株式会社リソー教育
協力:ワーナーミュージック・ジャパン
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