春風亭一之輔「一席一席、今日が最後というつもりで」　即完の三夜連続独演会『春秋三夜2024』を語る～配信チケット販売中

落語家・春風亭一之輔が三夜連続で行う独演会『落語一之輔／春秋三夜2024』が2024年11月28日（木）から3日間、よみうり大手町ホールで行われる。当代随一の人気落語家だけあって、リアルは即完売となったが、ライブ配信と2週間のアーカイブ配信を楽しめるオンライン視聴券が販売中だ。

2014年から始まった本シリーズ。今年で11年目を迎え、本公演では〝シーズン２〟と銘打たれている。といいながらも、「えっ、もう10年なの？（前回公演の）今年の春のことすら覚えてないんだもん」と本人はあっけらかん。この10年の変化を問われ、「老眼になりました。もともと目が悪くて、高座にあがっても最前列も見えないぐらいなんですけど、この前、落語協会の寄り合いの写真がうちに届いて。なに写ってるかぜんぜんわかんない。横で見ていたカミさんに『離してごらん』って言われて、そしたらやっと見える。『ようこそ、老眼の世界へ』なんて言われちゃってね……」と笑わせる。

落語に関しては、「10年間、ずっと変わらず、平熱でやってきた。それが結構難しいんですよね。沈むときもあれば、異常にアッパーになってしまうこともあるし。そういう自分自身の波がありながらも、無理はせず。でも、絶対に期待には応える」と、ひょうひょうとした中にも静かな矜持をにじませた。

「志がないのが志」と笑いをまじえながら言い切るが、「落語は同じことをやっていても自分が飽きちゃう。手を抜くというか、楽にやろうと思うとつまんない。一席一席、今日が最後というつもりでやっている」と芸への馴れ合いは微塵もない。

本公演でも、「ネタおろし」にも毎回挑戦してきた。新しい演目を覚え、観客の前で初めて口演するという、落語家にとっては緊張感のある試みとなる。特に、一之輔のような秒を惜しむ売れっ子にとっては、なおさらタフでハードになろう。今回も、すでに持ちネタが200を超えるなか、新しいネタを各日1席ずつ披露する。「やってないネタはいっぱいある。年齢を重ねてきて、昔は食指が動かなかったけれど、他の噺家さんがやってるのを聞いて、『俺がやるならこうしてみたいな』と思うようになった、そういうネタが出てきた。『柳田（格之進）』とか、『文七（元結）』とか、この落語一之輔でおろして、自分の財産になっているネタもたくさんある。『意地くらべ』なんかは、特にそうですね」

新型コロナウイルス禍を経て、落語界にもオンライン視聴という新しい楽しみ方が定着しつつある。「もちろんどういった会なのかにはよるけれど、この公演に関しては、すごくいいこと。落語は1000人、2000人の大きなキャパでやるわけじゃないから、が取れなかったりして、どうしても足を運べない人というのは出てきてしまうよね。遠くに住んでいたり、体の具合が悪かったり、もしかしたら病院で聞いている人もいるかもしれない。そういった方が、お金を払って聞いてくださる。本当にありがたい。落語聞いたことないけれど、こういう配信があるなら聞いてみようという人もいるしね」

とはいえ、配信だからといって、一之輔ならではの鋭いマクラの切れ味を甘くはしない。「言いたいこと言っちゃいます。生だから言っちゃいけないことも言っちゃうかも。ネットニュース書く人なんかは、ぜひ配信の券買ってほしいね（笑）」

今回は新シーズン始動を記念し、毎回好評のオリジナルグッズがパワーアップする。トートバッグ、一之輔ゆかりの柄をちりばめた手拭い風ハンカチ、クリアファイルなどファンにはたまらないセットだ。オリジナルのおみくじには、《いいんだか、わりぃんだか、はっきりしないのもまたよし》（小吉）など、「リビングで書いた」という〝一之輔イズム〟が炸裂したメッセージが書かれているのも楽しい。

「シーズン２か……。これからまた10年たったら、56ですか。落語界では56なんて、まだまだひよっこですけどね。素敵な50代を迎えられるように、しっかりと、今までどおり、足元を固めていきたいですね」

取材・文＝塩塚夢　撮影＝毛利修一郎