「登場人物全員を応援したくなってくる」~ゴジゲン、新作公演『雲のふち』の稽古場レポートが公開

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ゴジゲン第19回公演『雲のふち』               イラスト:坂之上正久

ゴジゲン第19回公演『雲のふち』               イラスト:坂之上正久

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2024年11月20日(水)~12月1日(日)下北沢 駅前劇場にて、ゴジゲン新作公演『雲のふち』が上演される。本番まで一週間を切る中、この度、稽古場レポートが公開された。

稽古場レポート

ゴジゲンが2年半ぶりに新作公演を上演する。タイトルは『雲のふち』。秋晴れのような空色のチラシを手に、どんな景色が見られるだろうと期待に胸躍らせながら、通し稽古が行われる稽古場を訪れた。

ゴジゲン作品の魅力の一つが登場人物だ。すごく個性が強いわけでも、突出した才能があるわけでもない普通の人たちなのに、愛しくなってしまう。
さて、誰の目線で物語を楽しもうか。飛び交う台詞に耳を傾けていると、善雄善雄演じる佐伯がその役を買って出る。佐伯は水島(本折最強さとし)と話す傍ら、たまたま近くに居合わせた父娘(東迎昂史郎、大渕夏子)の会話が気になって仕方ない。あ、これは実生活でもカフェや電車でよくあるやつだ。佐伯と一緒になって父娘に興味を引き付けられているうちに、すっかり物語にのめり込んでしまった。
ちょっとピリついた雰囲気で話しているし、単に思春期の娘と父親ってことでもないのかな? この人、過去に何があったんだろう? そうやって会話の端々から、関係性や人となりを想像しているうちに、彼らにどんどん親近感が湧いてくる。

場面が変わると、佐伯と水島の友人である小野田(松居大悟)、そして、小野田にある頼み事をしに紀夫(山﨑将平)が現れ、登場人物同士の関わりがより多方向に広がっていく。いつの間にか、特定の一人の目線で物語を追うのではなく全員を応援したくなってくる。
コミカルなやり取りに笑わされたと思いきや、何気ない会話と地続きに突如核心を突く名台詞が放たれる。難しい言い回しや、綺麗な言葉で取り繕った詩的な表現を使わず、あくまでも日常的な会話の中にキラーワードを忍ばせているからとても腑に落ちる。さらに、役者が決して大げさでなく、自然な動きや発語で伝えることで説得力が増している。難しいことをさらっとやってのける、演技のクオリティの高さを実感した。
同時に、松居大悟が紡ぐ脚本と、ナチュラルに見えるが実は緻密な演出を、役者たちが心から信頼していることも窺えた。役者が台詞を自分のものとして確実に落とし込み、どっしりと構え演じていることに心地よさを覚える。

物語の中盤では意外な人物同士の関係性が垣間見える。自問自答や近しい人とのやり取りで精一杯の忙しい日々に、偶然の出会いや久しぶりの再会が舞い込むことで、思いがけず新しい風が吹く。
いつも近くにいる相手ではないからこそ本音を漏らせるという経験に、共感する人は少なくないだろう。ちょっとした奇跡が自分にも訪れるのではないかと前向きになれるような、誰かと出会ってみたくなるような、グッとくるシーンが続く。大切な人をちゃんと思い出そうとしたり、自分のこれからの人生を考え直したり、普遍的でとても大事なことに気付かされる。
そこから終盤に向けて、観客と共に歩こうとしてくれているように丁寧なペースで物語が展開する。
ゴジゲンを長年支えてきた、NHK連続テレビ小説『虎に翼』で注目を集める森優太の音楽が、作品に寄り添いながら優しく鳴るのも印象的だ。

ラストシーンまでを見届け、人と人とが関わるってどういうことなんだろうとあらためてじっくり考えた。自分の夢や目標のために本気を出すのはとても勇気がいるけれど、それよりも別の誰かの背中を押すほうが怖い、そんな時代だ。だからこそ私たちは物語や芸術に変化や向上のきっかけを求めるのかもしれない。
人が人に与えられる影響は、きっと取るに足らない些細なひとかけらだ。でも、あの人のおかげで今日この景色を見ることができたと心から思える日だってある。その絶妙な狭間を本作は見事に描いている。
上演時間は約1時間30分。11月20日(水)~12月1日(日)、かねてよりゴジゲンが立ち続けてきた、下北沢 駅前劇場にて。

取材・文:村田紫音    写真:関信行

公演情報

ゴジゲン第19回公演『雲のふち』

日程: 11月20日(水)~12月1日(日)
会場:下北沢 駅前劇場
 
作・演出:松居大悟
出演:東迎昂史郎 松居大悟 本折最強さとし 善雄善雄 山﨑将平 大渕夏子
チラシイラスト:坂之上正久
 
 
HP:http://www.5-jigen.com/
X:@5_jigen
Instagram:yurichan_gojigen
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