念願の阿佐スパ『ポルノ』24年ぶりに挑む松居大悟「良くないことをしているのに、いけいけ!と思う高揚感」で観客を巻き込む
松居大悟 撮影=高村直希
長塚圭史率いる「阿佐ヶ谷スパイダース」の傑作戯曲『ポルノ』が4月2日(木)から、東京・本多劇場、福岡・西鉄ホール、大阪・サンケイホールブリーゼにて24年ぶりに上演される。自ら長塚に相談し、念願の上演をかなえたのは、「劇団ゴジゲン」を主宰し、映画監督としても活躍する松居大悟。高校時代に地元・福岡で観て衝撃を受けた、「演劇体験の原点」であるという作品で、どのような演出を試みるのか。今も創作の源として松居の根っこにある本作の魅力、玉置玲央や前田敦子など信頼を寄せる7人のキャスト、舞台と映像を自在に行き来する彼のスタンスなどについて話を聞いた。
■演劇の力強さやエネルギーを感じた2002年の初演
――24年ぶりの上演となる『ポルノ』は、松居さんにとって思い入れの深い作品だそうですね。
高校生のときに福岡で観て、衝撃を受けたのが『ポルノ』です。演劇の力強さ、エネルギーみたいなものを感じ、今もその感覚が残っているからこそ、こうして創作を続けているのだと思います。これをキッカケに演劇界に飛び込んだ自分と同じく、『ポルノ』を観て、「演劇ってすごい」と、若い人たちが思うキッカケになったらいいなという気持ちがあります。同じ事務所の同期である玉置玲央も、東京で初めて観た商業演劇が『ポルノ』だったそうで、同世代の彼と一緒にこの作品を届けられるのも感慨深いです。
――当時、どのあたりに演劇の力強さや衝撃を感じたのでしょう。
「やっちゃいけないことを、声高らかにやっている」という印象がありました。テレビや映画、漫画でもやっていないような……。たとえば、「坂の多い町にエスカレーターを作る」と主張して、その説得力のために自分の足を折るとか。人物たちのアプローチは過激だけど、ギリギリ筋は通っていて。
松居大悟
――台本を読ませていただきましたが、いろいろなものを抱えた7人の男女が登場し、会話がどんどん思いがけないほうに飛躍していくおもしろさを感じました。笑いも起こるような?
そうなんです。笑いもあるけど、笑っていいのかもわからない。結構危険なことを言ってるのに、劇場のみんなは笑っているあのムードが、今考えると演劇の魅力だったのかなと思います。その閉鎖性がおもしろいんですよね。密室でコソコソ、「見ちゃいけないもの」をみんなでのぞき見ている感じ。それこそ、タイトルの『ポルノ』とも、どこかつながっているのかもしれないです。
――なるほど! ちなみに、この作品と出合った当時、どんな高校生だったのでしょうか。
中学時代はあまり学校へ行かず結構引きこもりで、それを心配した母親が、劇場へ演劇やミニシアターの映画によく連れて行ってくれました。高校では、教室の隅で漫画を描いているようなタイプでした。
――その頃、どんな演劇に触れていたのですか?
三谷幸喜さんの『笑の大学』『アパッチ砦の攻防』や、G2さん演出の『MIDSUMMER CAROL ガマ王子 vs ザリガニ魔人』とか。ラーメンズさんのコントも、福岡で上演されるたびに母親が連れて行ってくれました。結構いろいろ観ていましたね。
――その中でも、『ポルノ』が演劇体験の原点だと紹介されていましたが。
ほかの作品は「楽しかった、また観たいな」という感じだったのですが、『ポルノ』だけは違って。おもしろかったけど、うかつにおもしろかったと言えないような、ちょっと後ろめたい感じがあり。でも忘れられなくて、なんなら、24年引きずっていたんだなと思います。
■圭史さんは全部委ねてくれるけど、正解も教えてくれない
松居大悟
――今回の上演にあたり、長塚圭史さんとはどんなやり取りがあったのでしょう。
ずっと前から、いつか『ポルノ』をやりたいとはお話ししてたんです。僕が事務所に入った頃は圭史さんも同じ事務所「ゴーチ・ブラザーズ」にいらっしゃったので、事務所の先輩としてお話ししていて。でも当時はまだ、自分に『ポルノ』をやれるような経験値が足りないと思っていました。もう一つ、ずっと気になっていた圭史さんの『イヌの日』を先に上演して。
――2016年に上演された舞台で、玉置さんも出演されていましたね。
はい。『イヌの日』は、小学生のときの初恋の子を15年間防空壕に閉じ込め、ひとりじゃかわいそうだから、友達も一緒に監禁しているという物語。心は小学生のまま、体だけ大人になっていて。もちろんやってることは間違っているけど、自分の正義を信じている……。稽古をしていると、そのことがちゃんと伝わってきました。痛いけど、どこかで許せてしまう。これがニュースだったら、ただ「監禁事件」が切り取られて終わりだと思います。でも2時間かけて、その人たちの心情を追いかけながら出来事を見ると、間違っている側の目線に立っているんですよね。それは『イヌの日』にもありますし、『ポルノ』にもすごくあると思います。
松居大悟
――共通するものを感じたのですね。
当時から「いつか『ポルノ』をやりたいです」と圭史さんに伝えていました。その後、コロナ禍があり、タイミングを探っていたのですが、コロナが落ち着き、劇場を押さえるように動いて、あらためて圭史さんに相談して。
――『ポルノ』は阿佐ヶ谷スパイダース旗揚げ公演『アジャピートオジョパ』に、新たなエピソードを加えた作品で、大事な位置づけにありそうですよね。
そうですね。圭史さんは「こういうふうにやって」とか言わないし、全部委ねてくれます。でも逆に言うと、正解も教えてくれないから、自分たちで考えるしかないです。
――台本は、ほぼ当時のままなのですか?
時代が変わり、伝わり方に齟齬が生まれる部分を書き直すなどしています。当時はかなり丁寧に説明していた部分もあるのですが、今は情報量の多い時代で、観客の読解力も高いと思うから、追いつかれないぐらいがいいなと思って。
圭史さんは「自分の恥ずかしいところを見つめるという意味で『ポルノ』にした」とも仰っていました。「松居くんは僕の初期のロマンチシズムが好きなんだね」と。はい、好きなんでしょうね(笑)。圭史さんの初期の戯曲、物語や人物に特化している泥くささは、やはり好きですね。
松居大悟
――今回あらためて台本を読まれて、この作品の魅力や核となる部分について感じることを教えてください。
まずいくつかの愛の形があり、みんな少しずつ間違っていそうで、間違っていない。すべての会話がクスッと笑えて、チャーミングで愛おしくなる。それは当時の圭史さんの照れ隠しなのかもしれないのですが、おもしろいですね。
――窮屈さを感じる今の時代に上演する、という点ではいかがでしょう?
だからこそ「かっ飛ばしてくれ!」ではないけれど、良くないことも大きい声で言って、いろんな人に揶揄されても正義を貫くというキャラクターたちを応援したくなる。それがすごく不思議な鑑賞体験になると思います。
■「お客さんを冷静にさせない」
松居大悟
――キャスティングについてもお聞かせください。
やはり2002年の阿佐ヶ谷スパイダース上演時の、あの世代の人たちでやっている感じが良かったから、この僕ら世代、特に演劇を頑張っている世代でやれたら、というのはありました。自分の中ではよく知っている、演劇や映画で信用を置いている人たちに声をかけていって。「柿喰う客」の(玉置)玲央や、「ヨーロッパ企画」の藤谷理子さん、「ゴジゲン」のうぇるとん東、昔劇団もやっていた小野寺ずるさん。そして新しい出会いというところでは、「ゴーチ・ブラザーズ」新人の鳥越裕貴くん、熊本で出会った岩本晟夢くん。前田敦子さんは映画で何度もご一緒していて、いつか演劇で一緒にやりたかったのでお願いしました。
――玉置さん演じる国旗耕二と、前田さん演じる国旗美和子の夫婦は不思議な関係ですよね。
なんかいびつですよね。劇が進むにつれて関係性が逆転を繰り返していく。「どっちが変なんだ?」と。やっぱりこの夫婦は信頼関係があるほうがいいし、稽古場でコミュニケーションを取れたほうがいいなと思っていて、玲央も僕も「前田さんがやってくれたら」と、ピンポイントでお願いしたところがあります。
――そうなのですね。7人のキャストの皆さんとこの台本で、松居さんはどんな演出プランを考えているのでしょうか。
考える隙を与えたら、急に冷静になっちゃう気がするんですよね。良くないことをしてるのに、「いけいけ!」と思ってしまう、あの高揚感。それが『ポルノ』には必要な気がします。お客さんを冷静にさせないように、というか。
――怖いですね(笑)。
はい(笑)。中盤以降は特にテンポを上げて、どんどんお客さんを巻き込んでいく。終わった瞬間にバンッと放ったら、皆さんの心の中に残るかなと思います。
――単なるコメディーでもないですし、不思議な余韻がありそうです。
そうですね。ラブストーリーでもなければホラーでもない。ジャンルでくくれないところが、おもしろいんだと思います。
松居大悟
――主宰されている「劇団ゴジゲン」の、温かい柔らかいコメディーの作風とも違いますが、これが演劇の原点なのですね。
「ゴジゲン」と全然違いますよね! でも僕は『ポルノ』で衝撃を受け、「ヨーロッパ企画」を観て、脚本を書いてみたいと思った人間なので、「阿佐スパ」と「ヨーロッパ企画」の間にいるのかもしれないです。そんな場所ないかもしれませんが。
――そういった「幅」があるからこそ、映像もやられたりしているのでしょうか。
結果的にこうなった感じで、不思議です。映画はオリジナルと原作ものがあり、そこでまたアプローチが違ってきます。「ゴジゲン」は自分のベースとしてありますね。大きな劇場というより、息遣いが聞こえるぐらいの距離感で、初期衝動の試してみたいことをやる場。そして外の演劇は、組んでみたい人とやってみるなど。映画も然りです。
――いろいろな現場で、迷いが出ることもありますか?
悩みもしますし、それを口に出すタイプです。「今こういうことに悩んでいる」とみんなに言って、助けてもらうことが多いかも。創作は好きだけど、旗を振って「こっちだよ!」と導くまでの自信はなく、みんなと話し合いながら、同じ船に乗って進むのが好きです。
――これから『ポルノ』の本格的な稽古が始まるそうですが、皆さんとの創作を経て、観客にどのように楽しんでもらえたらと思いますか?
久々に、ちょっと行儀の悪そうなのが出てきたなと思ってもらえたら嬉しいですね。最近は情報が少なく洗練された劇が多いけど、僕にとって演劇の原点は、すごく危うい、見世物小屋へ行ったような感覚に近かったから。当時の『ポルノ』を観ていた人にも、初めて観る人にも、「演劇っておもしろいんだな」と楽しんでほしいですね。
取材・文=小野寺亜紀 撮影=高村直希
松居大悟
SPICEでは後日、松居大悟・玉置玲央・前田敦子3名の合同取材レポートも掲載予定。お楽しみに!
公演情報
<福岡公演>2026年4月15日(水)、16日(木) 西鉄ホール
<大阪公演>2026年4月25日(土)、26日(日) サンケイホールブリーゼ
【作】長塚圭史 【演出】松居大悟
【出演】玉置玲央、前田敦子、鳥越裕貴、藤谷理子、小野寺ずる、岩本晟夢、うぇるとん東