「特別な日に君と会えてよかった」DEZERT、初の日本武道館ワンマンライブ公式レポート到着
『DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN「君の心臓を触る」』2024.12.27(FRI)東京・日本武道館
DEZERTが、バンド初の日本武道館ワンマンライブ『DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN「君の心臓を触る」』を2024年12月27日(金)に開催した。本公演のオフィシャルレポートが到着したのでお届けする。
結成13年目にして、夢の舞台である日本武道館での単独公演を成し遂げたDEZERT。池袋BlackHoleという小さなライブハウスから始まった彼らは、活動当初は破天荒な問題児という印象もあったが、音楽に真正面から向き合い続け、多くの人の心に届く頼もしいバンドへと変貌を遂げた。
昨年9月に今回の日本武道館公演を発表して以来、DEZERTはこの一夜に向けてひた走ってきた。同じシーンで活動する仲間や先輩たちも、ヴィジュアル系を未来へと繋ぐ大切なライブを控える彼らを見守り、時に背中を押してきた。もちろん、年の瀬に集結した観客も、DEZERTから何かを受け取りたい、声を届けたい、4人が武道館に立つ姿を見たいなど、さまざまな思いを抱いていただろう。そんな特別な夜に、バンド史上最大規模の場所でDEZERTが届けたのは、たった一人に向けた手渡しの音楽だった。
神聖な空気が漂う武道館に足を踏み入れると、いつも通りビートルズの「Yesterday」がエンドレスで流れている。ほぼ定刻に開演。暗転と同時に怒号のようなメンバーコールが飛び交い、ステージ正面に設置されたライトから眩い光が放たれる中、華やかな赤の衣装を纏った4人が姿を現した。スクリーンに映る赤い風船は形を変え、やがて本公演のテーマでもある脈打つ心臓が生々しく浮かび上がる。止まない歓声の中、千秋(Vo.Gt)が「生きていて良かった、そんな夜をあなたと歌いに来ました。DEZERT始めます」と力強く開幕を宣言。
一曲目は「心臓に吠える」。SORA(Dr)の全身を叩きつけるようなドラム、Miyako(Gt)のアグレッシブで鋭利なギター、Sacchan(Ba)の波打つような骨太のベース、そして千秋の感情を揺さぶる切ない声が重なり、4人の音が武道館に響きわたる。その瞬間、神聖な空気はDEZERTの放つ気迫と熱で塗り替えられた。観客は激しく頭を振り、ステージ前方からは炎が勢いよく噴出。広い会場は、まるでライブハウスのような熱気が漂い始める。千秋は「“君たち”ではなく、“君”と音楽をしにきました!」と観客一人ひとりに向き合うことを宣言しつつ、「まさかもう感動なんてしてねぇだろうな? まだまだ行くぞ!」と、4人が武道館に立っている光景に感極まる観客の心を読んで、ニヤリと笑った。
「君の脊髄が踊る頃に」「Sister」でギアはすでに全開。千秋の「来い、来い武道館!」の煽りも飛び出し、MiyakoとSacchanはステージの端まで駆け出し、観客に近づいて煽る。「ミスターショットガンガール」では、千秋がMiyakoの髪をぐしゃぐしゃに乱したり、Sacchanと肩を組んで歌ったりする場面も。SORAもドラムを叩きながら無邪気な笑みを零していた。この特別な夜を、メンバーも心から楽しんでいる様子が伝わってきた瞬間だ。
ここで千秋は過去を思い返し、「当時は気に入らない先輩を無視するし、気に入らないお客さんがいたらその場で言うし、なかなかf○○k youした手を下げられなかった」と苦い記憶を吐露。そして、「今思うと救われたかった。たった8文字を伝えるために尖ってみたけど答えは出なかった。救いの声なんてない、あるとしたら絶対自分の中にある。必ず救いはこの中に」と自身の胸を示すと、切ないメロディが際立つバラード「Call of Rescue」へ。Miyakoの奏でる憂いを帯びたギターの音色が会場いっぱいに広がり、その中心で千秋はお立ち台にもたれるようにして身を屈め、悲痛な叫びを歌い上げた。
スモークが立ち込める不穏な雰囲気の中、続けて披露したのは「さぁミルクを飲みましょう。」。約10年前にリリースしたこの曲は、当時の彼らが見たバンドを取り巻く世界を、皮肉めいた言葉で表現したナンバー。浮遊感のある冷たいサウンドに乗せ、毒々しい歌詞を歌う千秋の姿は、恐れを感じるほどの迫力に満ちている。千秋が「あなたと綺麗事を鳴らしたい」と繰り返しながら、ギターを構えて怪しげなリフを掻き鳴らすと、強い意思が乗ったSORAのドラム、Sacchanの狂ったような鍵盤、Miyakoの歪んだギターが重なり、4人はまるで音で会話するかのようなセッションを始める。そのグルーヴはどんどん加速していき、そのまま「神経と重力」へなだれ込む。張り詰めた緊張感が会場を覆い尽くした。
重々しい空気をガラリと変えたのは、「ストロベリー・シンドローム」。千秋は「メンバーの親が来てたからやりにくい」と前置きしつつ、<トんでる脳ミソの上 大事なトコロが裂けた>という危ないフレーズのコール&レスポンスを繰り返し要求。Sacchanがお決まりのパンダの被り物をして現れると観客は歓喜し、待ってましたと言わんばかりに激しくヘッドバンギング。この無法地帯でカオスな空気感も、DEZERTのライブならではだ。
「ぶつけるだけの音楽じゃつまんない。希望がほしい。このバンドで光を見たなって思いたいし、思ってほしい」。
千秋のそんな言葉から始まったのは、「私の詩」。あたたかな陽だまりを想起させる、まさに希望の光のような歌だ。灯した光は「ミザリィレインボウ」で虹となり、より強い輝きを放つ。イントロで音を鳴らした瞬間、無数の光線と細かな光の粒が武道館に広がる。幻想的な景色の中、DEZERTが届けたのは、違いも弱さも受け入れようとする壮大な愛だ。観客は手を高く掲げ、彼らの思いを胸いっぱいに受け止めた。
客席から沸き起こったハンドクラップを聴きながら、千秋は再び口を開く。「俺は、この音を聴くために生まれてきたんだと信じてやまないバンドマンでございます。コロナで声出せないとき、その音で何度励まされたか。今日さまざまな事情がある中で、ここを選んでくれた。すごいことだって僕はわかってますよ。そんなあなたたちに何ができるか。行きたい場所へ連れていくことはできません。人生の道で歩く力が足りないとき、少しでも押してあげる。それが音楽だと思うし、バンドをやってる意味だと思ってます。だからあえて言います、これからもよろしく。“千秋またなんか言ってる”、“話長い”、“バグってる”。そのときは助けてほしい」。
弱い部分も見せた素直な感情を伝えると、早速「声も聞きたい」という千秋の要望で、観客は一斉にシンガロング。客席からステージへ降り注ぐ数千人のあたたかい声を受けた4人は、喜びと感動を噛み締めるような、筆舌に尽くし難い表情を浮かべていた。
「ここが一生あんたらの居場所だからな!」と千秋が力強く叫んだのを合図に始まったのは、「僕等の夜について」。
<綺麗事も汚さも全部 届いてくれよ 僕等の夜には意味があるんだと 照らしてくれよ こんな僕を 君の歌で>。
疾走感あふれるメロディに乗せたメッセージを受け取った観客は、拳を突き上げ、声を張り上げる。他人同士が音楽を通じて鼓動を重ね合うという、DEZERTが追い求めた特別な関係が、かけがえのない居場所が、いまこの瞬間ここに確かに存在していたと思う。曲のクライマックスでは銀テープが飛び、この美しい空間を祝福するように輝いていた。
ここからライヴはラストスパートへ。「「遺書。」」、「「君の子宮を触る」」と激しい曲を続けて投下し、会場のボルテージを一気に引き上げる。「再教育」では凄まじい爆発音と共に火花が噴き出す演出も飛び出し、観客のテンションも最高潮へ。獰猛なサウンドに似合う荒々しい表情を浮かべた千秋は、「一対一の勝負だ!」と叫び、鮮やかなデスヴォイスを轟かせた。
「俺はずっと君のために歌おうと決めて、この一年向き合ってきました。変わっただろ? 俺はこんな自分を気に入ってるし、胸張って生きていこうと思います。その自分を作ってくれたのは、もちろんメンバーもスタッフもだけど、間違いなく君です。君がいるからライブしてる。モヤモヤも感情も全部、君がいるから続けられる。毎回人生を教えてもらってます。ありがとう」。千秋は腰を屈め、観客に目線を合わせて語り掛ける。
「もっと大きいところ目指しましょう。あなたがいてくれて良かった。そう思って歌ってると、15周年、20周年、30周年、40周年、まだまだ君と生きていける気がする!未来はここにはないと言ったけど、今日は少し未来に触れたい。特別な日に君と会えてよかった。何度だって言うんだ、生きてて良かったって。そういう場所にしていこうよ!」と高らかに言い放ち、本編ラストの「TODAY」へ。観客の心に訴えかけながら、一音一音を丁寧に届ける。明るく照らされた客席では、観客が感極まった表情でその姿を見つめていた。
<君の苦しみも 僕には聞こえないけれど 確かに手は伸ばしている>。
爽やかなメロディに刻まれた歌詞は、嘘をつけない彼らが、ステージの上からフロアにずっと投げ続けてきた、あまりにも真っすぐなメッセージ。モニターに映る4人の表情は晴れやかで、しかしどこか泣き出しそうにも見えた。
ただ感動的なムードだけでは終わらせてくれないのが、DEZERTのライブ。ここから再び「「殺意」」「「秘密」」で凶暴なサウンドを叩きつけ、観客の心に火をつける。観客はもちろんメンバーも一心不乱に頭を振り、ひたすらに熱狂。そして最後は、「「切断」」。“武道館の最後はこの曲で”という二つ目の約束も果たし、満身創痍の中、限界まで暴れ狂いながらフィナーレを迎えた。
記念すべき初の武道館ワンマンでDEZERTが届けたのは、単なる夢の達成ではなく、集まった全ての人へ生きる希望を与える小さな光。千秋が以前語った「“このバンドを応援してきてよかった”と言ってもらうための武道館でいい」という願いをまさに体現したライヴであった。そしてその光は、ライブが終わった後に続く日常生活を照らし出すだろう。ふとした瞬間に思い返し、あたたかな記憶を蘇らせてくれる魔法のように。
取材・文=南明歩、撮影=西槇太一
セットリスト
<SETLIST>
ライブ情報
https://www.dezert.jp/