「次の頂きへ進んでいきたい」スーパー登山部、『2nd EP Release Traverse』下界編ファイナルを大団円で終了、8月は白馬山荘5daysへ

レポート
音楽
2025.7.31
 撮影=ハヤシマコ

撮影=ハヤシマコ

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2025年7月11日(金)、大阪・梅田BananaHallにて『スーパー登山部 2nd EP Release Traverse』が行われた。2023年に山好きの小田智之(Key.Vo)を中心に結成された5ピースバンド・スーパー登山部は、音楽と登山を軸に活動を行っていることから、ツアーを「Traverse(トラバース=山から山へと横断すること。縦走すること)」と呼ぶ。昨年開催したバンド初のトラバース『1st EP Release Traverse』では、ファイナル公演を長野県白馬山荘で実施、今年5月には三重県御在所岳で音楽フェスを初主催と着実に活動を進め、音楽界隈でも山界隈でも加速度的に知名度を伸ばしているところだ。そんな彼らが、8月の白馬山荘5daysを前に、大阪の地で「下界のトラバースファイナル」を大成功で終了した。それぞれのキャリアに裏打ちされた実力と創造性、素晴らしきバンドアンサンブル、そしてメンバーの人柄も存分に見える、あたたかな夜となった。

『スーパー登山部 2nd EP Release Traverse』2025.7.11(FRI)大阪・梅田BananaHall

突然降り出したゲリラ豪雨に驚かされつつ会場に到着すると、オーディエンスが続々と入場を始めていた。その中には、ライブハウスでのライブが初めてとおぼしき人の姿が散見された。「番号順に入るんだ!」「ドリンク代がいるんだね」とウキウキした表情でを握りしめる様子を微笑ましく思うと同時に、音楽以外のフィールドでも活動するスーパー登山部だからこその広がり方に、可能性を強く感じた。

会場に入るとアンビエントなBGMが雰囲気を高める。ステージ中央には植物が置かれ、フロアから感じられる期待感とメンバーへの愛が、穏やかな心地良い空気を作っていた。定刻を少し過ぎ、小田智之、いしはまゆう(Gt.Vo)、梶祥太郎(Ba)、深谷雄一(Dr)が静かにステージに現れ、BGMの世界観を延長するようにやわらかく音を鳴らし始めた。やがてHina(Vo)がジョインして、1曲目の「hatoba」を奏でていった。小田のピアノが美しく響きわたり、Hinaの透き通る歌声が会場を満たしていく。涼しげな幕開けから後半は徐々に高まり、見事なロングトーンやブレイクも使って観る者を惹き込んでいった。

Hinaが「トラバース地上編ファイナル大阪、スーパー登山部です。よろしくお願いします!」と挨拶すると、軽快なサウンドから「風を辿る」へ。会場はわっと湧き立ち、ポップでキャッチーなメロディーと清涼感のある歌声、息ぴったりのバンドアンサンブルに身体を揺らし、一体感が生まれていく。

小田は、いつものように「皆さん登山してますか!?」と呼びかける。活動初期は全然手が挙がらなかったそうだが、今は多くの人の手が挙がる。スーパー登山部をキッカケに登山を始めた人も、山をキッカケにスーパー登山部を知った人も、どちらもいる。彼らの唯一無二の活動の形が確実に実を結んでいるのだ。「楽しくてたまらない!」といった様子の小田は、生き生きと目を輝かせて「下界のトラバース、ファイナル来たぞ~!」「いえーい!」とコール&レスポンス。ファイナルというと寂しくなる、としょんぼりするも「寂しくなんかないですよね」と自分自身に言い聞かせ、「楽しい時間を皆さんと過ごしていきたいと思います」と言う小田を、メンバーは優しい瞳で見守っていた。

小田とHinaのツインボーカルが美しいサウンドスケープを描き出した「意志拾い」の間奏では、「意志拾いチャレンジ」と名付けられた、小田のカウベルとオーディエンスのクラップの応酬が行われる。だんだん難易度を上げていく小田に、しっかりと食らいついていくフロア。「これは僕の負けですね」と言わしめたのだった。

とびきりハッピーな空気に包まれた後は、小田がボーカルを取る少しミステリアスな音像の「秋の海藻」、冷たさと美しさが同居したような「睡蓮の街」と、彼らの表現力の幅広さを際立たせる楽曲を連投。Hinaのハイトーンボーカルの裏で動きまくる梶のベースライン、そこに重なる深谷の力強くも繊細なビート、激しく唸るいしはまのギターソロ、クラシックの要素も感じさせる小田のピアノ。まるで物語のようにダイナミックに押し寄せる音の塊に圧倒され、ワンマンだからこそ享受できる彼らの音楽の奥深さを知ったのだった。

MCではブックスタイルでリリースされた2nd EPの見どころを紹介。いしはまは自身が手がけた全デザインと、ソロで作詞作曲してスーパー登山部がリアレンジした楽曲「スーパー銭湯もある」のコメンタリー、深谷は初めて描いたメンバーの似顔絵、梶はマニアックな機材紹介、小田は作曲コメンタリー、Hinaは前髪(どれだけ動いても決して崩れないとその場で実演!)の年表と個性あふれる内容を紹介して、オーディエンスの好奇心をくすぐっていた。

ここで、8月11日(月祝)の山の日にリリースされる新曲「燕」を披露。深谷のキックにいしはまのギターが重なり、ショルダーキーボードを持ったHinaの歌声が広がると、全身が言い知れぬ多幸感に包まれる。どこか異国感を感じさせるフレーズや、Hinaのスキャットも新鮮なポップスソングで、また彼らの新しい色を見れたような気がしてワクワクした。

再び「樹海」でどっぷりと音に潜ると、Hinaのアカペラから「火花」をゆったりと響かせる。泣きそうなほど美しく切ないメロディーと、一言ずつ丁寧に感情を込めて聴かせるHinaの歌唱力に酔いしれた。

Hinaは、自身が初めて作詞にチャレンジした「木枯らし」について話し始める。この曲が生まれた去年の秋頃、恋人との別れや、初の白馬山荘ライブ、ツアーなど様々なことが重なり、心身を崩してすっかり自信をなくしてしまったと語る。「気持ちが追いついていかなくて、体調を崩したり、音楽が聴けなくなったり、朝が怖くなったり。でも「自分に向き合わなきゃ、戦わなきゃな」と思って。小田さんがこの曲のデモを持ってきてくれた時に、歌詞を書かせてくださいと言って初めて歌詞を書いたんですよ」と、涙をこらえながら想いを吐露する。アコギを持ってステージで弾くのも初めてで「最初は手が震えて、今もめちゃくちゃ手冷たいし、震えてるんですけど、回数を重ねるたびに少しずつ自信になって、ここに立っててもいいんだと思えるようになってきました。今戦ってる人や苦しい人がいると思うけど、この曲を聴いて前向きになってもらえたらいいなと思ってこの曲を書きました。それぞれの聴き方で楽しみながら聴いてくれたら嬉しいです」と、真っ直ぐに想いを伝えた。

ひとフレーズずつ、大切そうに美声を響かせていくHina。おおらかなメロディーにHinaの切ない想いと「前を向こう」という決意が乗り、小田といしはまのコーラスが優しく寄り添う。そして後半で訪れる「ギャラクシーゾーン」。リバーヴ感満載のバンドサウンドにしばし没入すると、最後はHinaのアコギと歌声で締め括った。

残すところ、ついに1曲。小田は「1曲目の「hatoba」、つまり標高0mから始まり、最後「頂き」で締めるというセトリになっております。みんなで辿り着けた「頂き」で、楽しく終われたらと思います」と述べる。名残惜しそうにしつつも、Hinaは「またこうやって目と目を合わせてライブできる日がくるように、私たちも山を登って音楽もできるように頑張ります」と力強く言葉を紡いだ。

最後は代表曲の「頂き」を明るく披露。小田が白馬岳に登った時の想いを描いた歌詞、パワフルで爽やかなアンサンブル、メンバー全員でのコーラスからは、バンドの活動と5人の絆が感じられた。

最高潮の盛り上がりでライブを終えると、メンバーはアンコールに応えて再びステージへ。「大阪でワンマンができるとは、1〜2年前は思ってもなかったので、こんなに登山部を知って、応援してくれる人がいると思うと嬉しいです。ありがとうございます(いしはま)」「僕らもどんどん次の頂きへ進んでいきたいと思っています。皆さんも一緒に進んでいただけたら嬉しいです。今後とも応援よろしくお願いします!(小田)」と感謝を述べて、「最後はみんなで下山した後に行きたい場所に連れていきます(Hina)」と、いしはまがソロで作詞作曲した「銭湯もある」をスーパー登山部バージョンにアレンジした「スーパー銭湯もある」をチルに、ダブからサンバアレンジも交えるという展開で、心地良くも賑やかに締め括った。

本当にあたたかく、フロアからの愛にあふれた幸せなライブで観る者をさらに夢中にしたスーパー登山部は、8月20日(水)〜24日(日)に長野県白馬山荘で5日間ライブを行う予定だ。その「頂き」を超えた彼らはさらに飛躍していくだろう。今後のスーパー登山部から目が離せない。

スーパー登山部「頂き」 Mountain Video

取材・文=久保田瑛理 撮影=ハヤシマコ

セットリスト

『スーパー登山部 2nd EP Release Traverse』
2025年7月11日(金)大阪・梅田BananaHall
 
<セットリスト>
1.hatoba
2.風を辿る
3.意志拾い
4.秋の海藻
5.睡蓮の街
6.燕(新曲)
7.樹海
8.火花
9.木枯らし
10.頂き
EN.スーパー銭湯もある

【スーパー登山部 Information】

 

リリース情報

スーパー登山部
New Digital Single「燕」
 
2025年8月11日(月)Release
 
<収録曲>
01_燕
02_燕 (Instrumental)
 
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ライブ情報

『2nd EP Release Traverse』
◎2025年8月20日(水)~24日(日)長野・白馬山荘
※詳細は後日解禁
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