梓川、「苦手」だったライブが「めっちゃ楽しい」空間にーーメジャーデビューも発表されたZepp Shinjuku(TOKYO)公演をレポート

レポート
音楽
2025.8.12
梓川

梓川

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梓川 2nd ONE-MAN LIVE「PORT_A」
2025.8.3 Zepp Shinjuku(TOKYO)

8月3日(日)、梓川が約2年振りとなるワンマンライブ『梓川 2nd ONE-MAN LIVE「PORT_A」』をZepp Shinjuku(TOKYO)にて開催した。以前、当サイトで行なったアルバム『端子』のインタビューで、今回のライブについて「難しい曲が多いので(笑)、本当に歌えるのか?っていう懐疑の目で来てほしいです」と、読者に向けて話していた彼。筆者としては、彼のライブを今回初めて観ることになったので、疑わないにせよ、実際どんな感じなのか楽しみにしながら会場に向かった。結論、歌えるのか、歌えないのかで言うならば、歌える。しかも、ただ歌えるのではなく、めちゃくちゃ歌える。約90分間、梓川はバラエティに富んだ楽曲たちを卓越した歌唱力で歌い上げていくことはもちろん、ライブという空間を全身で楽しみ続けていた。

サポートメンバーがすでにスタンバイしているステージに登場した梓川。フロアからは大歓声があがる。その様子を見た彼は、人差し指を口に当て“しーっ”と落ち着くように促した後、この日の1曲目として「東京心中」を歌い始めた。歌い出しを終えると「会いたかったぞ!」と叫び、グルーヴィーでありながらも、ドロドロとした深い業や情念を感じさせるサウンドを艶のある歌声で歌う。アウトロでは情熱的なフェイクも飛び出し、たった1曲で彼の世界にオーディエンスを深く引き摺り込んでいった。そこからソロ回しを交えたサポートメンバーの紹介を挟み、「Disco FLO」へ。ミラーボールが煌めく中、オーディエンスの声を求めるように歌ったり、ラスサビでは美麗なハイトーンをソウルフルに叩き込んだりと、リズムに身を委ねながらメロディを紡いでいく。「無料生配信」では、「お前ら手を挙げれるか!」とフロアを煽りつつ、ステージを縦横無尽に動き回りながら、原曲よりもかなり長めにロングトーンを響かせる。そんなところからも彼の興奮がありありと伝わってくる。

この日のライブは、アルバム『端子』の楽曲を中心にしつつも、「元々“歌ってみた”文化の出身なので、カバーも織り交ぜつつやろうと思う」と話す梓川。そのなかでも「今日はライブでまだやったことのないことに挑戦しようと思って」ということで、「さみしいひと(cover)」は、アコースティックギターを弾きながら披露。アコギを強くかき鳴らしながら、気だるげな雰囲気を漂わせながら歌い上げていく。続く「霧傷」は、ファンタジックながらもどこか不気味なサウンドに包まれながら、柔らかく歌声を運んでいくと、そこから「人マニア(cover)」で一気に空気をガラリと変えて、激しく緩急をつけながら突き進んでいった。また、「uni」や「アネクメーネ」といったエレクトロサウンドが軸になっていた楽曲たちは、ライブではサポートバンドの演奏によってまた違う手触りとなり、生々しく躍動する。「フィンガースナップできる?」とフロアに求めて始まった「渇愛論Ⅱ(cover)」では、ステージの縁に腰をかけたり、マイクから拡声器に切り替えて歌ったりと、様々なパフォーマンスでフロアを魅了していた。

ライブ中盤にはアコースティックコーナーも用意されていた。「Eye」では、薄明かりの中でスポットライトを浴びつつ、内省的な言葉を美しいハイトーンで連ねていくと、続けて「平均台」を披露。原曲は梓川の歌とアコースティックギターのみで構成されていたが、この日はベース、ドラム、キーボードも柔らかくメロディに寄り添い、「誘導灯」では、儚くも切ないメロディを柔らかな美声で紡ぎ上げていた。その余韻を味わっているところに、「しんみりしたところで、夏、感じませんか?」と届けられたのは、「日本の夏(cover)」。ラテンフレーバーなグルーヴでフロアを揺らしていくと、「友達呼んでいい?」と、はるみん。を呼び込み、「Mont4ga feat.はるみん。」を繰り出す。ダウナーかつヘヴィなエレクトロサウンドの上で高速ラップを畳み掛けてフロアを熱狂させ、盟友を送り出した後、「クズ男は好きか?」という一言から「相応」へ。レーザービームが飛び交う中、官能的なサウンドと共に艶やかな歌声を響かせていく。

アルバム『端子』は、彼が敬愛する豪華作家陣が手がけた様々なベクトルの楽曲が収録されていたが、この日のライブは過去曲やカバー曲を交えてその振り幅をさらに拡張させながらも、その中心にある彼の歌声を強烈なまでに堪能できる構成になっていた。そんな梓川だが、「実は夢とか野望があんまりなくて。だけど頑張れているのは、自分には信じたいものがあるから」と、MCで話す。

梓川「自分のことを信じて協力してくれるスタッフさんとか、5年間やってきた自分の頑張りとか工夫とか、そういうものを信じたいし、それが原動力になってます。それは活動に直接関わっている人だけじゃなくて。友達とか家族とか、はたまた一回会っただけのコンビニの店員さんにも思っているんだけど。自分の信じたいもののためになら、頑張ってもいいかなと思えた。そう思わせてくれたのは、みんなの応援とか、YouTubeのコメントとかであって。そういうものを見ると、信じたいなって思う。なので、僕は信じることにしました。僕が歩んできた5年間プラス、ここから歩んでいく人生を応援してくれたら嬉しいです」

そんな感謝の言葉の後に届けられたのは、「ハッピーエンディング」だ。『端子』の中でも際立って華やかなポップソングを伸びやかに歌い上げると、オーディエンスは左右に手を振り、温かな空気がZepp Shinjukuに満ちていく。そこからラストスパートをかけるように「今さらサレンダー」へ。性急なビートで場内の興奮を引きずり上げていくと、そのピークを更新するように「ノルカ//ソルカ」へシームレスに繋げる。「力残すなよ! ブチ上がりますか!」という梓川の絶叫に促されて、オーディエンスもオイコールとシンガロングを巻き起こし、凄まじい熱狂の中で本編を終えた。

大音量のアンコールが巻き起こる場内に聴こえてきたのは、メトロノームの音。規則的に繰り返される音に合わせ、オーディエンスが手拍子を始める。そこへ幻想的なシーケンスが加わっていく中、梓川とバンドメンバーがステージインし、「パラノイア」になだれこんでいった。ちなみに、アンコールの演出と音に関しては梓川が考案、制作したそう。MCで「『端子』を作ってからいろんなものが作りたくなっている」と楽しそうに話していたが、楽曲はさることながら、様々なクリエイティヴに興味の矛先が向いているところは、なんとも彼らしい。そして、「今MVを作っている曲を」という予告を挟みつつ、披露されたのは「言っちゃった!」。再びフロアを熱く揺らしていくと、アウトロでは梓川がシンセサイザーを操って強烈な音を放ち、大歓声が上がった。そして「みんなの人生が、これから先、“マジか!”っていう驚きと喜びに満ちていることを心から願っています。今日はありがとうございました……まぁ、つったってな!」という前置きから、ラストナンバーの「マジか!」へ。クールでありながらも熱を帯びた歌を響かせると、やや冷笑的でドライな歌詞に合わせるかのように「疲れたから帰るわ! ありがとね!」と、アウトロの途中で舞台袖に戻っていくという締め方もユニークで、強いインパクトを残していた。そして、ライブ終演後の映像で、彼のファンクラブが立ち上がることと、さらに、トイズファクトリーからメジャーデビューすることを発表。まさに“マジか!”な展開に、客席からは驚きと喜びの声が上がっていた。

前述のインタビューや、この日のMCでも話していたことなのだが、梓川は今回のライブに対して「自分がライブを好きな人間なのかどうかを確かめる」というテーマを設けていたとのこと。終始楽しそうにしていたのもあって、「実はライブってちょっと苦手で……」と明かすと、フロアからは「意外!」と言わんばかりに声が上がっていたのだが、梓川としてはライブに向かうにあたって、「心にかかる負担がある」という。しかし、『端子』を作っている最中はそれがあまりなく、今回のワンマンはむしろ楽しみだったそうだ。ステージに向かうことへの負担や、心に重圧がかかるという側面において苦手意識はあるのかもしれないが、ステージで歌い、オーディエンスとライブ空間を作り上げていくこと自体は楽しいのだろう。また、梓川としては、「楽しんでいる自分を見てもらおう」というテーマを胸に、この日のライブに臨んでいたとのこと。事実、彼の歌を求めるフロアの熱は終始かなり高かったのだが、間違いなくあの空間を一番楽しんでいたのは、梓川本人だったと思う。なかでも象徴的だったのが、「人マニア」の最中に放った「やばい! みんな、俺、今めっちゃ楽しい!」という一言。自分の中にある平常心も、事前に描いていた青写真も、あらかじめ決めていたルールも遥かに飛び越えてしまったかのような、純度100%の興奮が溢れ出ていた。

“マジか!”な告知映像の後、「もっと楽しい方へ」という文字がスクリーンに映し出された。その言葉通り、ここからも梓川はリスナーを驚かせる楽曲を生み出しながら、ライブという空間でオーディエンスと自身の音楽を共有する喜びを育んでいくだろう。ここからさらに広がりを見せていく彼の活動を楽しみにしていたい。


文=山口哲生
撮影=江藤はんな(SHERPA+)

セットリスト

梓川 2nd ONE-MAN LIVE「PORT_A」
2025.8.3 Zepp Shinjuku(TOKYO)

1. 東京⼼中
2. Disco FLO
3. 無料⽣配信
4. さみしいひと(cover)
5. 霧傷
6. ⼈マニア(cover)
7. uni
8. アネクメーネ
9. 渇愛論II(cover)
10. Eye 
11. 平均台 
12. 誘導灯
13. ⽇本の夏(cover)
14. Mont4ge feat.はるみん。
15. 相応
16. ハッピーエンディング
17. 今さらサレンダー
18. ノルカ//ソルカ
[ENCORE]
19. パラノイア
20. ⾔っちゃった!
21. マジか!
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