沖縄の夏を締めくくる『沖縄全島エイサーまつり』が人の心を揺さぶり続ける理由とは、担当者と司会DJが明かす「若者たちの情熱と本気」

インタビュー
イベント/レジャー
2025.9.10
左からDJモーリー、宮城高士さん

左からDJモーリー、宮城高士さん

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沖縄の伝統芸能、エイサー。その印象は「イーヤーサーサー」という掛け声や、太鼓が鳴り響く華やかなお祭りを思い浮かぶ人も多いはず。我々SPICE編集部ももそんなイメージを抱きながら、異国情緒あふれる沖縄市コザへ向かった。取材前日、晩御飯を食べていると突然店主に手を引かれ、そのままついていくと太鼓の音が聞こえてきた。音が鳴る方へ向かうと、車道でエイサーが行われ、道端には大勢の観客が集まっている。人生で初めて目の当たりにしたエイサーは、ぶつかりそうなくらいの距離で繰り広げられる踊り、低重心にもかかわらず一糸乱れぬ動き、太鼓や歌の力強さ、そして観客の目の輝き、その全てが熱を帯びていて胸を打たれた。

エイサーを踊るのは青年会に所属する若者たち。普段は各々の地域で活動するが、9月12日(金)~14日(日)の3日間は、コザに34団体が集まり一年の集大成を披露する『沖縄全島エイサーまつり』が行われる。今年で70回を迎えるにあたり、運営を担う沖縄市観光物産振興協会の宮城高士さんに、エイサーの基礎から話を聞いた。聞き手は同イベントで司会を務める、FMコザのDJモーリー。長年の付き合いという二人のインタビューはまるでラジオかのように始まった。

●そもそもエイサーとは?●

ーーさあそれでは、沖縄市観光物産振興協会のエイサー担当でおなじみ、宮城高士さんです。今日のコンディションはいかがですか?

ばっちりです。

ーー県外の方からするとうちなんちゅ(沖縄の人)は、エイサーが踊れる、三線(さんしん)が弾ける、空手をやってる、指笛ができる、酒に強いなど、色々イメージを持たれていると思うんですけど、実際にエイサー経験者はどれくらいだと思いますか?

ハハハ(笑)。そうかもしれないですね。エイサーは、ほぼみんな経験しているんじゃないですか。小学6年生、中学3年生の運動会や体育祭でやってると思うんですよ。でも青年会に入って教えてもらったことがある人は、経験者と比べてグンッと下がると思います。

ーー高士さんは越来青年会に所属されていたんですよね。

16歳の頃、友達に誘われて参加してから、今はOBとして参加しています。

ーー僕は6月から行われる事前イベント『エイサーナイト』などを始め、エイサーに携わって18年になるんですけど、やったことはないんですよ。

小学校、中学校もですか!?

ーー中学校はあるんだけど、そのときは『琉球國祭り太鼓』の方が創作されたものを教えてくれたというのが唯一で。だからバチを持ったことも大太鼓を打ったこともないという。

まじですか! さっきの「ほぼ」は撤回します(笑)。

宮城高士さん

宮城高士さん

ーーそんなエイサーですが、ちょうどこの取材日の9月4日(木)は沖縄の旧盆の初日となります。「ウンケー」で先祖をお迎えしてゆくって(ゆっくりして)もらい、真ん中の「ナカビ」を経て、3日目に「ウークイ」で送るという日程でエイサーが行われますが、どのようなことをやるのでしょうか。

基本的に、旧暦のお盆にあわせて一軒ずつ練り歩く「道ジュネー」というものを行います。今は道路に沿う形ですが、青年会が太鼓を叩いたり踊ったりして3日間地域を練り歩いて先祖をお迎えし、ウークイで「さよなら、また来年遊びに来てね」と送る盆の行事です。

ーー先祖の魂を供養する念仏踊りからきているんですよね。3日間それぞれエイサーでやることは違いますか?

特に違いはありません。大体どの青年会も公民館からスタートし、例えば初日は1丁目……のように場所を変えながら、地方(じかた)の三線と歌に合わせてずっと練り歩く。夕方6~7時くらいから、夜の11~12時くらいまで、範囲が広ければもう少し遅くなる地域もありますが、3日間ずっと道ジュネーをしています。

ーー軽トラなど車で音響を携えて、ゆっくりゆっくりまわるわけですよね。すごいのは、地域のみなさんが音の出どころを聞き分けて、どんどん人が増えていくところだと思うんです。

そうですね。踊り手はみなさんに観ていただきたいと思っているはずなので、観客が増えていくのはありがたいです。モーリーさんがおっしゃったように車も移動しながら進んでいくので、ご覧になる際は歩きでお越しいただきたいのと、ゴミはお持ち帰りいただけるとうれしいです。

ーー最近はYouTube撮影をされている方が沢山いらっしゃるから、そのお陰でエイサー熱が高まっている感じはありますよね。司会をしながら沖縄の人も、県外の人も、そして海外の人も、大きなリアクションをしてくれるなと手応えを感じます。

コロナ禍が明けてから、観ている人は確実に増えていますね。でもやる人は減っているんですよ。どうしたもんでしょう!  観てカッコ良いなと思った方がいらっしゃれば、ぜひ練習場でもある公民館に足を運んでいただきたいですね。

●地域への思いが深まる青年会●

青年会の識頭をバックに

青年会の識頭をバックに

ーー青年会の皆さんは、エイサーのときだけ活動するイメージを持たれている方もいると思うんですけど、実はそうじゃないですよね。どんな団体か教えていただけますか。

他県だと青年団と呼ばれる団体で、各地色んな所にあります。沖縄の場合だと市町村の中での字(あざ)ごとに括りがあって、例えば沖縄市は37自治会あるうち24~5の青年会が活動しています。その中でも、沖縄市の各青年会をまとめた組織「沖縄市青年団協議会」に加盟しているのが21団体。「胡屋青年会」「諸見里青年会」など、各字の名前を背負った青年会の方々が、地域の敬老会、新年会などの行事を手伝っています。他にも小中学校の行事前にグラウンドの草刈りをしたり、地域の清掃活動を行ったりしています。そういう活動にも参加しつつ、夏になるとエイサーを頑張っています。

ーー地域をきれいにして恩返しをすることは、結果としてエイサーにたどり着くんですよね。僕は青年会が、エイサーで強い絆を生む場所でもあると思うんですよ。長い所では2~300年と伝統の型を守り続けている青年会もあり、地域にとって欠かせない存在です。

練習が始まったら公民館に見に来てくれる地域の方たち、道ジュネーを始めから終わりまでずっと追いかけてくれる子どもたち、音が聞こえ始めたら家の前で待ってくれる方たち。皆さん楽しみにしてくださっている様子を見るたび、エイサーでのつながりはなくならない方が良いなと思っています。

ーーOBの皆さんが現役の青年会を呼んで飲み会を開いてくれるとか、サービスしたりとか、若い頃だけじゃなくておじいちゃん、おばあちゃんの世代までずーっと青年会を通してつながっている気がしていて。

青年会に入って特に役員などをすると、縦も横も人のつながりが相当増えると思います。助けられたり、頼られたりというのがあるので、その関係性はずっと続きますよね。個人的にも地域の方々をはじめ、他の青年会の後輩にも助けられてるし、助けたいと思っています。

ーー青年会のお話も伺ってきました。入るためには年齢などいくつか規則があるんじゃないかなと思うんですが、それは各々の青年会によって違いますか?

練習が始まるときに現役のメンバーが同級生や後輩、兄弟に声をかけるので、それがキッカケで参加することがほとんどですね。自治会に電話で問い合わせていただいても大丈夫ですが、自然な流れでの紹介が多いです。稀ではありますが、エイサーを観て「この青年会がカッコ良かった」といって公民館にいらっしゃる方もいます。沖縄市の場合は年齢制限も会によりますね。他の地域では25歳までのところもあります。卒業してもOBとして活動したり、保存会で活動することもありますよ。

DJモーリー

DJモーリー

ーー必ずしも出身地の青年会に入らないといけないという決まりはない? 

沖縄市では今はもうほとんどないですね。昔は出身者以外は入れないという規則もあったらしいんですけど。中学校区で基本的に分かれているんですよ。なのでA中学の学区内に青年会が3つあるとすると数人ずつ分かれて入ってたんですが、今はもうその括りもないです。

ーー最近変わってきたなと思うのが、「ここの強豪に入りたいから他の出身だけど通う」というのも増えてきたなと。

増えていますね! そこで経験した活動を出身地に戻っても実行したり、地域で頑張っている同級生にその団体の熱を伝えたりして、やっぱり地元のことを思ってやってくれるとうれしいなと思います。

ーー現状として若者の加入数は?

両極端です。動きが揃っている、カッコ良いというのが求心力になって増えている青年会もあるんですよ。一方で激減して、イベントにも参加しなくなったという団体もある。一時期、沖縄市青年団協議会の加入団体数が24にまで伸びていましたが、今は減って21団体になりました。あなたは地元のために頑張っていますか? 地元の青年会を応援していますか? 身近に頑張っている知り合いはいませんか?​ 特に20代後半の方々には、出身地の団体を観たり、青年会の活動やエイサーに参加していただきたいです。

●70回を迎える『沖縄全島エイサーまつり』の見どころ●

ーー県内の青年会が集結する『沖縄全島エイサーまつり』が、いよいよ9月12日(金)~14日(日)に開催されます。他のエイサーまつりとの違いはどこでしょう?

金曜日はコザ・ミュージックタウンのまわりで道ジュネーをします。国道を2車線封鎖して、それも旧盆以外に練り歩きを見れるというのはなかなかないこと。土日は、コザ運動公園陸上競技場での演舞となります。各青年会が演舞場内で円を描いたり、マーチングバンドのように動いたり、練り歩きとはまた違う隊列が見られます。​

ーーいつも狭い道でやっているのに対して、演舞場で隊列の動きも見れる『全島』はやっぱり違うんですよね。

一番の違いは、このイベントはエイサーがメインなこと。若い子たちが一生懸命頑張っているのがカッコ良いのかな。

コザ運動公園陸上競技場

コザ運動公園陸上競技場

ーーお客さんとして『全島』に行ったことがあるのでその立場から言うと、魅力はこの一瞬に込められた力。5~6月から練習が始まって、お盆や『全島』までの期間でみっちり体を絞って、動きにキレがでて、声が出るようになってきて、連携が取れるようになって一枚岩になった。初日からそんな青年会のみんなのボルテージが上がった状態で、最高傑作ができる日がこの3日間なような気がしていて。やはり地域の名前を背負っているので、「わったー(私たち)が一番だよ」「他の青年会には負けないよ」という気持ちが表情や隊列に表れていて、お客さんも少なからず感じ取っているんだろうなと思いました。

100%そうですね! 先日久しぶりに中学校区で開催されたエイサーまつりに行ったんですが、思い返せば知り合いが出ているのを観て「頑張ってる!」と感動した気がします。みんなが頑張って一生懸命練習して、イベントに向けて先輩からアドバイスを受けて直して……その頑張っている瞬間が出てるということですね。

ーー学生や社会人をしながら、時間を合わせて3~4ヶ月練習する。誰も手を抜いていないから終わった後は肩で息をする。我々お客さんは『全島』でしかその集大成を観ることができないけど、間近で彼らの表情、流れる汗を見たときに揺さぶられるものがあるんですよ。

そうですね。僕は「青年会のどこどこがカッコ良いな」という感覚を忘れていたのかもしれない。本気の人が何十人もが集まるので、感じるパワーは違いますよね。

ーー各青年会が最終日にお呼ばれいただくために頑張っている気がしていています。トリを務めるのはどれだけすごいことなのかと。

僕は白塗りの「さなじゃー」、「京太郎(ちょんだらー)」と呼ばれる道化役をしながら出演していますが、『全島』の日曜日のトリは緊張感が違いました。でも超楽しいです! 緊張しているけど、僕は楽しさの方が勝ちました。

ーー保存会やOBのみなさんも勢揃いして登場するんですよね?

祭りなので、現役の子たちが先輩たちにお願いしてみんなで参加します。沖縄市内でいうと多いところで100人を超えてくる団体もいますね。

ーーそして、去年は沖縄市市制施行50周年記念という節目でしたが、今年は第70回を迎えます。

すごいですよね。

ーー今年のみどころを教えてください。

土曜日は東京中野区新風エイサーという東京の団体が参加するんですよ。日曜日は沖縄市の友好都市になっている東京の町田市から、東京都町田琉町田琉が18年ぶり2回目の出演が決まっています。県外の団体でも県内の団体に負けず劣らずやっているところがあるんだなというのを観ていただきたいなと思います。日曜日は沖縄市から7団体が出場します。普段だと4団体くらいなんで、そこも見どころかな。あと、単純に人の多さです。スタンド席から演舞場を見るとたくさんの人がいるんですよ。

ーー芝生の緑や、ブルーシートの青が見えなくなるくらい、人の頭で埋め尽くされるんですよね。

今年も来てくれてありがとうと思いますもん。演舞場の周りは無料で、スタンド席は有料なんですけど、スタンド席からは隊列の動きが見れるので魅力かな。

ーー番外編の話だけど、朝から並んでいるお客さんもいらっしゃいますよね。

そうなんです。土曜日は15時から演舞スタートなので、開門が14時なんですよ。僕たちは朝7時くらいに会場入りするんですが、その時点でゲート前に並んでいる人がいるんですよ。演舞場の近くの一番いいところで観たいんでしょうが、「熱中症気につけてよ」って思います。

ーー去年夜の9時に終わって、10時にゲートが閉まったそのすぐあとから待ってるって人がいて。「何やってるんですか?」って聞きに行ったら、「明日の為に並んでます」って。

いましたね(笑)。やっぱりクレイジーなんですよね。踊っているメンバーは、ここまでして観てくれるんだとうれしく思っているはずです。ありがたいですよ。​でも本当に気をつけてほしいです。熱中症には。

ーーそれくらいエイサーに魅了されて、しかも沖縄の人は音が鳴ったら思わず体が動いてしまうという、しょうがない状態になってますよね。

そうそう、エイサーの音を聞いたら笑顔になりますよね。他県でもそうだと思うんですが、地域の芸能をやっている人たちは熱量が高い気がします。

ーー最後に、高士さんにとってのエイサーは?

正直分からんです。でも……なくしちゃダメなもの。100年以上続いているなら、もう100年も続いていいはず。若い人たちに続けてほしいから協力するし、手伝っています。ないといけないものなんでしょうね。

取材=DJモーリー 文・撮影=川井美波(SPICE編集部)

イベント情報

『第70回沖縄全島エイサーまつり』
開催日:9月12日(金)~14日(日)
会場:沖縄市コザ運動公園陸上競技場・胡屋十字路周辺
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