橋本淳、黒木華、中田青渚出演 家族の物語描く、加藤拓也の最新作『ここが海』が開幕【ゲネプロレポート&コメント】

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2022年に第30回読売演劇賞・演出家部門優秀賞、第26回鶴屋南北戯曲賞ノミネートを果たした『もはやしずか』の加藤拓也橋本淳が3年ぶりのタッグを組み、「性別を変更したい」と告げられた家族の物語を描く『ここが海』。2023年の春に初稿が完成して以来、シスジェンダーやトランスジェンダーとの対話を重ねながら作り上げて来たという。2025年9月20日の開幕を前に、ゲネプロが行われた。

<ゲネプロレポート>

本作の登場人物は、ライターとして働く岳人(橋本淳)と、同じくライターの友理(黒木華)、二人の娘・真琴(中田青渚)。家族は日本各地のホテルやロッジを点々としながら生活しており、真琴はオンラインで授業を受けている。いわゆるノマド生活、アドレスホッパーと呼ばれる人々だ。ある日、友理が「性別を変更しようと思っている」と告げたことから、三人は家族としてのあり方や関係性について改めて考えるようになる。

現在では「LGBTQ」という言葉を耳にする機会も増え、「性の多様性」に関する制度の整備も進んでいる。一方で未だ充分な理解がされているとは言えず、当事者は様々な不安や悩みを抱えている。また、「第二の当事者」と呼ばれる性的マイノリティ当事者の友人や家族、恋人がどのような“日常”を送っているか知る機会はさらに少ない。

……という前提を知ると、この作品の主人公が「ある日パートナーからカミングアウトを受けた側」である意義が見えてくる。確かに、LGBTQをテーマにした作品は増えていても、カミングアウトを受けた人間の心の揺れや葛藤が描かれることは多くない。

友理から「男になりたいと思っているかもしれない」とを聞いた岳人が口にする「知り合いに同じような関係の人たちはいるのか」「わからないけど、相談したくなるかもしれない」という言葉はとても素直な思いではないだろうか。

考えてみれば、相手がマジョリティに属していたとしても「絶対に正解の言葉」などというものは存在しない。だが、本人の意思に反して性的嗜好や性自認を広めるアウティング、悪意のない偏見や固定観念によるマイクロアグレッションといった問題の認知が広がる中、相手を大切に思っているほど「どんな言葉をかけるのが正解かわからない」「何かあったときに聞ける相手はいないのか」と不安になる気持ちも理解できる。

また、自身の性自認について考え始めてから何年も悩んできた友理と、話を聞いたばかりの岳人のすれ違い、考えの違いもリアルだ。

性別変更のためには様々な要件を満たす必要があること、その中に「結婚していないこと」が含まれることを知らなければ、「男になりたいかもしれない」というカミングアウトが離婚の話に繋がるのは飛躍していると感じてしまうだろう。当事者側も、自分らしい生き方のために家族の形を変えるのか、大切な人が周囲からの偏見や好奇の目に晒されるのではないかという不安と闘いながら手続きを進めていく必要がある。

自分らしく生きるために、それほど多くの手順と手続きは本当に必要なのだろうかという疑問が生まれるが、ごく一部でLGBTQへの配慮や制度を悪用した犯罪が起きていることを考えると、反発があるのもまた理解できてしまう。(これもLGBTQに限った問題ではないのだから、マイノリティの権利を制限する理由にはならないとも言えるが……)

岳人や友理の選択が幸せな未来につながっていたらいいと思うと同時に、本当に悩み苦しんでいる人のために何ができるのか考え込んでしまった。

橋本は、岳人の戸惑い、友理に寄り添おうという努力と少しの無神経さをリアリティを持って演じる。一生懸命言葉を選びながらも、自分自身の考えを整理しきれていない姿を丁寧に見せ、共感できる人物を作り上げていた。

黒木も、自分の中で様々なことを考えた末のカミングアウトであることがわかる、繊細な芝居で友理を表現。自分が「男性」として生きた時に岳人や真琴に与える影響を考え、苦しみ抜いたことがわかる。

そして娘・真琴を演じる中田は、多感な時期らしい親との距離感、大人びたところがありつつまだまだ子供なアンバランスさを絶妙な愛らしさで演じている。

家族の距離感、何気ない会話から見える思いやりや信頼も、本作の大きな見どころと言えるだろう。シリアスな場面が多いからこそ、ちょっとしたやりとりが和ませてくれる。

マイノリティゆえ「LGBTQ」として一括りにされがちだが、HPに掲載されている対談やパンフレットで何度か触れられているように、考え方や価値観は一人ひとり違う。この作品で描かれている家族も、一つの形であって「正解」や「モデルケース」ではない。だからこそ、見た人間が様々なことを感じ、考える余地があると感じた。

自分たちを取り巻く社会、身近な人たちとの関わりや価値観について改めて考えるきっかけになる作品を、ぜひ劇場で見届けてほしい。

<開幕コメント>

作・演出 加藤拓也
この物語は、性別を変更したいと家族から告げられた第二の当事者を描いた小さな物語です。家族は暮らしかたも多くの人が経験するような暮らしかたをしていません。そして「変わっていく人を受け入れることができる」という信頼を、変わっていく人の中に少しずつ積み重ねていく家族の話でもあります。劇場でこの作品を一緒に観れることを楽しみにしています。

橋本淳
開幕まで辿り着くことができたのは、関係者の皆様、そしてお客様のおかげです。心より感謝申し上げます。
演じる側として、しっかり自覚し考え、現時点での明確な答えを表現に乗せるために尽力します。もちろん観た方の数だけ、感じるものや考えがありますので、ただ純粋に鑑賞を楽しんでいただけたら幸いです。
素晴らしいスタッフ・キャストに囲まれていることに感謝しつつ、いつもの作品以上に、その場で起こることに正直に反応し続け、その時間や空間の中で存在出来ることを、より意識して届けられたらと思います。
ぜひシアタートラムにお越しください。お待ちしております。

黒木華
長かったような短かったような稽古期間を経て、いよいよ本番です。
岳人、友理、真琴。
三人でとても濃密な時間を過ごした気がします。
共演のお二人の感情を取りこぼさぬよう、また一緒に友理を作って下さった方々の気持ちも乗せて、見てくださる方に葛藤や愛情が伝わりますように精一杯演じたいと思います。

中田青渚
稽古を重ねるごとに作品が少しずつ立体的になっていく感覚がすごく不思議であっという間よ稽古期間でした。
舞台に不慣れな私にも、演劇の初歩的な部分から皆さんに沢山のことを教えていただき、難しいけれど演劇って面白い!と感じました。
いよいよ開幕するということで緊張ももちろんありますが、皆さんに観ていただけることがとっても楽しみです!
人と人との関わりを丁寧に描いた作品ですので、ぜひ観に来ていただけると嬉しいです。

 

本作は2025年9月20日(土)〜10月12日(日)まで、シアタートラムで上演される。

公演情報

『ここが海』
 
日程:2025年9月20日(土)~10月12日(日)
会場:シアタートラム
 
作・演出:加藤拓也
出演:橋本淳 黒木華 中田青渚
 
STAFF:
美術 山本貴愛
照明 吉本有輝子
音響 佐藤こうじ(Sugar Sound)
衣裳 伊賀大介
演出助手 葛西祥太
舞台監督 竹井祐樹
 
ジェンダー・セクシュアリティ制作協力 認定特定非営利活動法人 ReBit 藥師実芳
ジェンダー・セクシュアリティ考証 若林佑真
票券 インタースペース
 
制作:佐粧 恵
プロデューサー 山浦依里子
エグゼクティブプロデューサー 小見太佳子
 
企画・製作 株式会社アミューズクリエイティブスタジオ

※開場は開演の30分前
※未就学のお子様はご入場いただけません。ご了承ください。
※車イスでご来場予定のお客様は、予めご購入席番をスペース(03-3234-9999)にご連絡ください。
※やむを得ない事情により、内容・公演スケジュールが変更となる場合がございます。他日への変更・払い戻しはいたしかねます。予めご了承ください。

料金>
[A]8,500円 [B]9,500円 [C]11,500円 (全席指定・税込)
※上演時期[A~C]により料金が異なりますのでご注意ください。公演内容は同じです。

に関するお問い合わせ】
スペース 03-3234-9999(10:00~15:00<休業日除く>)
 
【公演に関するお問合せ】
アミューズチアリングハウス
https://fc.dps.amuse.co.jp/cheering/qa/contact
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【アミューズSTAGE 公式X】
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