世界を席巻する日本のマンガやアニメの原点すべて。『HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』レポート

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17:00
『HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展覧会公式アンバサダー・King & Prince 高橋海人

『HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展覧会公式アンバサダー・King & Prince 高橋海人

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「集中線」「ギャグ描写」「アニメ原画」など——現代のマンガやアニメの表現の原点を辿ると、江戸時代に絵師として活躍した人物に辿り着いた。葛飾北斎、世界で最も有名な日本人アーティストの「HOKUSAI」。その画業について、浦上コレクションの『北斎漫画』全15編を中心に紹介する展覧会『HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』が、2025年11月30日(日)までCREATIVE MUSEUM TOKYOにて開催中だ。2024年11月にオープンした東京・京橋エリアの新たなアート・カルチャー拠点で、“北斎のしわざ”をどのように体感できたかを紹介しよう。

展覧会公式アンバサダーはKing & Princeの高橋海人

展覧会公式アンバサダーに就任したのは、King & Princeの高橋海人(高の正式表記ははしごだか)だ。2025年10月17日(金)公開、北斎の娘・応為を題材にした映画『おーい、応為』に出演し、奇しくも北斎との縁は深い。

開幕に先立って開催されたメディアセレモニーでは、北斎が愛したベロ藍をイメージさせる青色のコーディネートで登場。浦上蒼穹堂の浦上満氏とも対談し、音楽活動や俳優の傍ら、特技の絵を活かしてアーティストとしても活躍する彼ならではの視点で展覧会の魅力を紹介した。

King & Prince 高橋海人

King & Prince 高橋海人

——高橋さんには数ヶ月にわたって、魅力をずっと語っていただきましたね。

これまでの準備期間でたくさんの絵と触れ合って、勉強させていただいて、絵に基づくストーリーも教えていただきました。ずっと北斎の絵を学んでいたので一つひとつの絵に対する思い入れが強くなり、「やっと世に出ていくんだね」みたいな、勝手に持ち主感覚になっちゃっています。全然、僕の絵じゃないんですけどね。

——今回、高橋さんは音声ガイドも担当されています。聞き取りやすく、美しく優しい声が非常にマッチしていました。

そう言っていただけると嬉しいです。やはり日本を代表する北斎ですから、きっと展覧会にもたくさんの方がお越しになる。ご覧になるいろいろな方のペースを崩さないように、優しく寄り添うことを心掛けました。自分も北斎が大好きなので、感情がどうしても溢れ出るようなシーンもあって、収録している時間もすごく特別でした。

——数多くのコレクションの中から、高橋さんが最も気に入ったという『略画早指南(りゃくがはやおしえ)』の魅力を教えてください。

これは小さい子やお弟子さんなど、これから絵を始める方々に向けて、北斎が絵の描き方を教えている書物です。右側にあるのがお猿さんの絵で、その描き方を構図で説明しています。これを見て、北斎って感覚で絵を描くだけじゃなくて、計算して絵を描いていた人なのかなと思わされて。また、浦上さんから教えていただいたのですが、北斎は万物を線と丸と四角と三角で描けるとお気づきになったそうです。その発想力にもびっくりしました。

左:ラルフ鈴木(日本テレビアナウンサー)、右:King & Prince 高橋海人

左:ラルフ鈴木(日本テレビアナウンサー)、右:King & Prince 高橋海人

マンガの世界に飛び込んだかのような大空間

ここからは高橋や浦上氏のコメントを挟みながら、会場レポートをお届けしよう。最初に目に飛び込んでくるのは、現物を100倍にした巨大な絵。ここまで引き延ばしても力強さがまったく弱まらない、北斎の絵から伝わるエネルギーと技量に圧倒される。拡大した絵と現物、その両方を一緒に楽しめるのも面白い。

高橋は「集中線をよく見ると、その影になっている背景に人物の絵が違う色で描かれている。この表現が素敵」と言及。細部の繊細な色彩表現にも気づく、クリエイター的な審美眼には脱帽した。

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

本展は色彩豊かな錦絵よりもモノクロの版画が中心だが、「北斎」と聞けばきっと誰もが思い浮かべる『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の展示もお見逃しなく。その数年後に描かれ、北斎の画力や表現力がさらに高まった『富嶽百景』二編「海上の不二」との比較を楽しめる。

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

「北斎はたくさんの人に絵に触れ合ってほしかったのかなと思います。描き方を教えるくらい器の広い、絵が好きな楽しいおじちゃんだったのかな」と高橋。『一筆画譜』や『三体画譜』など独自のメソッドを生み出し、指南書として広め伝えた。迫力あるタテ構図の絵にも独自性が光る。

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

高橋が「マンガの森に迷い込んだような感覚」と話していた『北斎漫画』の展示は、まさに森林のよう。区画ごとに設置された解説パネルは北斎ビギナーにもわかりやすく、作品の解像度を高めてくれる。

「64年間かけて全15編が出た、北斎の代表作の一つ。現代のマンガとは少し異なり、北斎が漫然と描いたいろいろなものを寄せ集めています。博物誌のようなものもあれば、歴史的な題材もある。北斎の中にあるユーモアや、見る人を楽しませる精神が溢れています」と浦上氏。膨大な絵の中からお気に入りを見つけてみたくなるだろう。

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

浦上 満氏(浦上蒼穹堂 代表)

浦上 満氏(浦上蒼穹堂 代表)

特に注目いただきたいのは「雀踊り」。踊り方を教えるための細かな表現が何ともユニークだ。この絵をもとに制作されたアニメーションは、今まで北斎の展覧会を数多く見てきた筆者も興奮した。CREATIVE MUSEUM TOKYOらしさ溢れる、ともいえるこの表現を会場内の特設ミニシアターでぜひ見てほしい。

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

北斎マニアも必見の『日新除魔図』

北斎の絵は見尽くした、と思っている人にも目にしてほしい作品がある。初公開となる16図の肉筆画『日新除魔図』だ。「北斎は毎朝、魔除けとして霊獣の獅子を描いていました。擬人化して描いているのが非常に面白く、筆致も素晴らしい」と浦上氏も高く評価。愛らしくユーモラスな獅子たちの姿は必見といえよう。(※会期中、『日新除魔図』のみ一部展示替えを行います)

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

最後を飾るのは『富嶽百景』全3編・102図、富士山を思わせる展示ケースが壮大な印象をもたらす。最晩年の傑作には「駄作が一点もない、素晴らしい絵」と浦上氏も太鼓判を押した。「画狂老人卍」の号で絵を描き続けた、北斎の決意表明ともいえる有名な跋文(ばつぶん)にもご注目いただきたい。

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

『HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』展示風景 CREATIVE MUSEUM TOKYO、2025

「北斎のお茶目さや熱量、技術力など、いろいろな部分を味わえるところが魅力だなと思います」と高橋。今まさに世界を席巻している日本のエンタメとカルチャー、その中におけるマンガやアニメの原点となる表現が大空間で見る者を圧倒する。『HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展』は11月30日(日)まで、CREATIVE MUSEUM TOKYOにて開催中。


文・写真=さつま瑠璃

イベント情報

「HOKUSAI-ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」
会期:2025年9月13日(土)~11月30日(日)
会場:CREATIVE MUSEUM TOKYO
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土および祝前日は20:00まで開館
※最終入場は閉館の30分前まで
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