躍動するミニマル・ミュージック~「久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャーVol.12」鑑賞記
久石譲「The Circles」(久石譲&ミュージックフューチャーバンド)
久石譲の主宰する「ミュージック・フューチャー Vol.12」(JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.12)が、2025年10月22日に東京オペラシティ・コンサートホールで開催された。今年は、前半に久石の新作「The Circles」と「Piano Sonata」が披露され、後半にスティーヴ・ライヒの「18人の音楽家のための音楽」が演奏された。完売、満員の盛況。若い聴衆が多いのが特徴的である。
スティーブ・ライヒ「18人の音楽家のための音楽」
「The Circles」はこのコンサートのために2025年10月4日に書き上げられたばかりの新作。もちろん、世界初演である。弦楽四重奏(郷古廉、横島礼理、中村洋乃理、櫃本瑠音)+クラリネット(バス・クラリネット持ち替え)2名(亀井良信、マルコス・ペレス・ミランダ)+パーカッション2名(マリンバ:神谷百子、ビブラフォン:東佳樹)+ピアノ2台(鈴木慎崇、三又瑛子)という編成。7分ほどの作品。久石自身が指揮を執った。複雑なリズムを弦楽器がアクセントをつけて繰り返す。そして全員で高揚し、もとに戻っていく。作曲者によると、「The Circles」というタイトルは「楽曲が途中から冒頭に向かって短いフレーズごとに逆行していき、最後は一つの大きなリングになる」ということを表している。
久石譲「The Circles」
続く「Piano Sonata」では滑川真希が独奏を担った。この作品は、2020年の秋にフィルハーモニー・ド・パリでのコンサートのために作曲されたが、コロナ禍のために延期され、結局、今年5月に大阪・関西万国博覧会で滑川によって世界初演された。今回の演奏は、同曲の東京初演となる。滑川はオーストリアを拠点に演奏活動を行っている。フィリップ・グラスのピアノ・エチュード(全20曲)を世界初演し、世界初録音したことでも知られる。久石とも親交がある。
作品は、「ヘヴィ・メタル」、「ブルース・インヴェンション」、「トッカータ」の三つの楽章からなり、全体で23分ほどかかった。第1楽章は、短い素材が繰り返され、変化していく。躍動的な音の動きと複雑なリズム。第2楽章は抒情的なピアノの響きが印象的。緩徐楽章だが音楽は停滞しない。明晰な演奏でポリフォニックな音楽が展開される。第3楽章は快速のトッカータ。ピアニストの身体に楽曲が入り込んでいるので、安心して演奏を聴くことができた。
「Piano Sonata」(独奏:滑川真希)
後半のライヒの「18人の音楽家のための音楽」は、ヴァイオリン1名、チェロ1名、クラリネット(バス・クラリネット持ち替え)2名、ピアノ4名、打楽器7名、女声4名の計19名で演奏された。指揮者は無し(作曲者は、自律的なアンサンブルを求め、指揮者は必要なしとしている)。それでも、久石はリハーサルに立ち会い、アンサンブルを指導したという。
約1時間を要するミニマル・ミュージックの傑作。これまで日本では、ライヒが来日した際に彼のチームが同曲を演奏したことはあるが、日本人中心のアンサンブルが演奏したことはなかった。昨年の「FUTURE ORCHESTRA CLASSICS」におけるオリジナル編成版での「砂漠の音楽」日本初演に次ぐ、偉業といえるだろう。
パルスの繰り返しとリズムの変化が特徴。ヴァイオリンの郷古廉は後半に進むにつれて、ノリが良くなっていく。クラリネットの亀井良信がしばしばアンサンブル全体に合図を出す。4人の歌手(東京混声合唱団:稲村麻衣子、大沢結衣、小巻風香、小林音葉)は、マイクを使って、音を伸ばしたり、短い音を繰り返したり、リズミックな音型を歌ったり、大活躍。マラカスも10分近く休みなく鳴らされる。そういう繰り返しを、機械ではなく、生身の人間がやるところが面白い。また、聴き手として、繰り返しによって、感覚がより覚醒されていくのを感じる。最後はヴァイオリンのトレモロで静かに締め括られた。
スティーブ・ライヒ「18人の音楽家のための音楽」
今回の「MUSIC FUTURE」では、久石の指揮は1曲のみであったが、久石の新しい作品2曲が披露され、まさに久石譲プロデュースというべき「18人の音楽家のための音楽」が上演され、久石ワールドを満喫することができた。来年からは海外でも「MUSIC FUTURE」が展開されるという。今後のプロジェクトにますます期待したくなる。
取材・文=山田治生
公演記録
久石譲&ミュージックフューチャーバンド
ピアノ:滑川真希
久石譲:The Circles ※世界初演
久石譲:Piano Sonata
スティーヴ・ライヒ: 18人の音楽家のための音楽
<東京>
2025年10月22日(水) 開演 19:00(開場18:00)
東京オペラシティ コンサートホール
2025年10月23日(木) 開演 18:30(開場17:30)
長野市芸術館 メインホール
■主催:
(東京公演):日本テレビ/エイベックス・クラシックス
(長野公演):テレビ信州/日本テレビ/エイベックス・クラシックス
■制作:エイベックス・クラシックス
■制作協力:プロマックス
■運営:
(東京公演):サンライズプロモーション東京
(長野公演):テレビ信州エンタープライズ