BRAHMANが仲間と刻んだ、山あり谷ありの30年史『尽未来祭 2025』最終日ーー孤独と悲しみを分け合った先に残る、確かな愛

レポート
音楽
18:00
BRAHMAN『尽未来祭 2025』 撮影=三吉ツカサ

BRAHMAN『尽未来祭 2025』 撮影=三吉ツカサ

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BRAHMAN『尽未来祭 2025』2025.11.24(MON)千葉・幕張メッセ国際展示場9-11ホール

全バンド、臆することなく、媚びることなく、自分のやるべき演奏をやり遂げた。BRAHMANに寄せてカバーを披露する演者が一組もいなかった唯一の日である。ただ、衝撃的なメインディッシュが来ると前菜に何を食べたのか思い出せなくなるのと同じことで、出演順が早ければ早いほど「何だったっけ?」になっていく。強烈すぎるメインの一皿がさらに更新されていく。これが半日続いた『尽未来祭』3日目。最後にTOSHI-LOWが呟いたのは「……俺たち、世界観薄いほうなんだな(笑)」という一言だった。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=山川哲矢

ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影=山川哲矢

04 Limited Sazabys 撮影=岸田哲平

04 Limited Sazabys 撮影=岸田哲平

ASIAN KUNG-FU GENERATIONが開始早々「リライト」を放ち、04 Limited Sazabysが愛されパンクで駆け抜け、Dragon Ashが百戦錬磨のミクスチャーで踊らせる。ゴッチの余裕ある笑顔、Kjの愛あるトーク力はもちろん、童顔ゆえ今も若手に見えるGENが堂々と胸を張り、どこか楽しそうに、このメンツに並べる自分たちを誇っていたのがとてもよかった。空気を一変させたのは4番手BUCK∞TICKである。今井寿が「ハロー『尽未来祭』、アゲてくよ」と宣言して始まるステージ。新体制になっての新曲ばかりなので、昔の有名曲はなく、BRAHMANがカバーした「ICONOCLASM」すらセトリには入ってこない。アゲてく、と言ったものの、中盤からは唱和もできないインストを平然とぶっ込み、最新アルバムから最もダークなゴシックナンバーで締め。水を打ったように静まり返るフロア。ただただ圧倒されるばかりなのだ。それでも最後に樋口豊が「30周年おめでとう、呼んでくれて感謝します」と語っていたのは、この後を考えれば愛嬌があったわけだが。

Dragon Ash 撮影=橋本塁

Dragon Ash 撮影=橋本塁

BUCK∞TICK 撮影=山川哲矢

BUCK∞TICK 撮影=山川哲矢

GEZANはさながら赤い異神の集団だ。お面を装着したマヒトゥ・ザ・ピーポーが『尽未来祭〜』と叫ぶが、それは別に後輩としての祝辞ではなく、声は次々とサンプラーに取り込まれ呪術的なループになっていく。BPM100で続く前半のダンスパートに体も脳みそもぐらぐら揺れ続けるばかり。この後のSUPER BEAVERはやりづらくて仕方なかろうと予測していたが、飛び出してきた渋谷龍太は歌の化け物、いや、フロアの隅々までを掌握していく化け物級のフロントマンだった。「斜に構えてりゃ楽だろ……そんな顔してるバンドがひとつもいなくてよかった!」などと共演者たちを立てながら、客を絶対にひとまとめにせず、「ひとりひとりのあなた」として照らしていく。言葉の強さにヤラれ続けた40分間。気づけば会場中が歌に包まれ、歌そのものになっていくような多幸感が自然発生していた。

GEZAN 撮影=岸田哲平

GEZAN 撮影=岸田哲平

SUPER BEAVER 撮影=橋本塁

SUPER BEAVER 撮影=橋本塁

ただ、そんな空気を完膚なきまで破壊するのがDIR EN GREYなのだ。おどろおどろしいスクリーン演出と世界中のアンダーグラウンド・メタルを煮詰めた音楽性。あまりにも残虐で救いがなく、同時に信じ難いほど美しい光景が続く。ボーカル京は見た目も唱法もほとんど鬼神で、今日ここにどれだけ魔界の住人が集まっているのかと頭がクラクラしてくる。そしてライブが終わってみれば、BRAHMANの「ブ」の字も『尽未来祭』の「じ」の字もMCに出てこなかったことに気づいて愕然とするのだ。それは非礼でも何でもない、むしろホストに対する気高いリスペクト。馴れ合いのカケラもない、そもそもイベントだとも思えない、まったく異次元の時間があった。

DIR EN GREY 撮影=山川哲矢

DIR EN GREY 撮影=山川哲矢

さらにLUNA SEAはヒット曲を大量に持つスターの貫禄をまざまざと見せつける。出演バンド、そして観客の中にもスレイヴは大量にいるようで、一曲ごとに巻き起こる「待ってました!」の一体感がハンパない。BRAHMANとは水と油どころか、すっかり互いのフェスに呼び合う仲になっており、ここまで時間が経てば90年代シーンの壁など笑い話だ。ラスト「ROSIER」の大合唱には誰も彼もが最高の笑顔を見せていた。

LUNA SEA 撮影=田辺佳子

LUNA SEA 撮影=田辺佳子

すべて驚きの連続、トリ手前のELLEGARDENまでがやけに短く感じられたのもこの日の特徴である。ようやくの安心感というか、細美武士とTOSHI-LOWの愛情深いストーリーをほぼすべての観客が共有しているため、急激に生まれるラブラブな空気もまた異様なのだった。「すげぇ幸せ。わかる? 世界にひとりしかいない親友に命賭けられる瞬間があるって」などと感無量の表情で語る細美を、ここにいる全員が全力で愛している。一体感にせよシンガロングのボリュームにせよ、通常のフェスではまず見られない温度感。そんな空気の中、最後のバトンがBRAHMANに渡されたのだ。

ELLEGARDEN 撮影=石井麻木

ELLEGARDEN 撮影=石井麻木

「霹靂」でゆっくり引きつけ、「A WHITE DEEP MORNING」で柔らかに幕を開けるステージ。誤解を恐れず、かつ相対的に言うのなら、それはとても普通のライブだった。目を疑う事件は起こらず、まさかそんなというセットリストも用意されていない。メインとなるのは前作『梵唄』や最新アルバム『viraha』の曲だから、BRAHMANの今をナチュラルに魅せていく内容である。

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

もっとも、普通、ナチュラルとは、ほどよくバランスが取れているという意味ではない。バンド史上最も苛烈なハードコアナンバー「知らぬ存ぜぬ」があり、演歌を超えて民謡かと思うくらい土着的な「満月の夕」カバーがあるように、一曲ごとの方向性は完全に振り切れている。強烈な怒りの歌「不倶戴天」の最後にピースサインが生まれるように、簡単には成立しない矛盾もそのまま提示される。小器用にバランスを整えず、むしろ極端から極端へと突っ走る姿が、実のところ一番ナチュラルなBRAHMANらしさになっているのだ。

撮影=山川哲矢

撮影=山川哲矢

撮影=山川哲矢

撮影=山川哲矢

では、ここまで極端な表現の果てに何が生まれるのか。LUNA SEAのSUGIZOが流麗なバイオリンを響かせた「鼎の問」がひとつの答えを運んできた。福島第一原発で働く作業員たちの声を映すスクリーン映像は社会派の色が濃いが、それは勇ましきプロパガンダとして響かない。MVの方向性を決めたものは煮えたぎる怒り、行き場のない悲しみだったと思うが、結果的には切なさが込み上げ、後には微かな温もりが残る。細美武士と歌う「今夜」も同じことで、孤独と悲しみを分け合った先には確かな愛が残っている。それは気軽にシェアできる友愛、平等な博愛といったものでは全然なくて、ものすごい修羅場、あるいは鉄火場を踏み超えた同志だけに生まれるLOVEなのだろう。

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

最終日のセットリストは、すべてそんな答えに帰結するものだった。悲しい時は死にたくなるほど悲しむべきだし、怒る時は気が狂うほど怒っていい。喜ぶ時は照れることなく見つめ合って共に歌い、楽しい時は全身を使ってバンザイのポーズを決めればいい。そういうことを続けてきたら、すべてが愛に着地した。頭で決めたテーマではなく、体ひとつでぶつかってきたから見えた答えだろう。作為はなく、どこにも疑いの余地がない。ものすごく極端な喜怒哀楽を行き来しながら、だからこのライブには、なんの事件性もないのである。

最後、TOSHI-LOWのMCは10分以上も続いた。上手くまとめる気もないようで、初日や2日目のように要約するのは難しい。はっきり輪郭が見えてきたのは、この『尽未来祭』を共に作ろうとしていた仲間のひとりを途中で失ったという話。チバユウスケや恒岡章など近しい先輩のことを歌っているだけでなく、BRAHMANチームの中にもリアルな喪失があったのだ。それでも、どれだけ耐え難いことでも、痛みを「普通」に変えていく。なんでもないことのように、むしろ順調であるかのように立ち上がる。かくしてラストナンバーは「順風満帆」。左右のヴィジョンと右往左往ステージの後方スクリーン、4面を使ってドーンと大写しになった「順」「風」「満」「帆」の文字に、山あり谷ありの30年史が、ありとあらゆる人間の喜怒哀楽が詰まっていた。

撮影=三吉ツカサ

撮影=三吉ツカサ

取材・文=石井恵梨子 写真=オフィシャル提供(撮影:岸田哲平、三吉ツカサ、山川哲矢、橋本塁、アンザイミキ)

初日の総括レポートはこちら
90年代の同士が結集、BRAHMAN結成30周年『尽未来祭 2025』愛すべきユニティが溢れかえった初日ーー「懸命にやってる奴しかここにはいない

■2日目の総括レポートはこちら
「大切な仲間が集まってくれました」BRAHMAN結成30周年『尽未来祭 2025』2日目はーー失い、迷いながらも続けて来たバンドの生き様そのものだった

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