『特別展 古代エジプト』最古の巨像の一部が40年ぶり来日ーー『世界ふしぎ発見!』でなじみの考古学者「ミステリーを紐解くような展示に」

レポート
アート
2026.4.17
『ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト』 撮影=黒田奈保子

『ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト』 撮影=黒田奈保子

画像を全て表示(31件)

ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト 2026.3.20(FRI)~6.14(SUN) あべのハルカス美術館 

約3000年以上にわたる古代エジプトの歴史を彩る彫刻や棺、さらに人間やネコのミイラなどの遺物がいま、大阪・あべのハルカス美術館に集結している。私たちの想像を超える高度な文化を創出した古代エジプト人の営みが、3月20日(金・祝)に開幕した『ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト』にて紐解かれる。

会場では生活や文化、ファラオやピラミッドに潜む謎、ミイラをはじめとする死後の世界など、3つのステージに分けてその魅力を紹介。映像や音声を交えていたり、古代エジプト文明で印象的なアイコンとしても使われる「目」が異彩を放っていたりと、これまでの古代エジプト展とはひと味違うユニークな展示がなされている。その監修は、長年お茶の間で親しまれてきた『世界ふしぎ発見!』でおなじみの考古学者・河江肖剰が務めた。河江へのインタビューとともに、ステージごとに展示作品をピックアップしてお伝えしたい。

■“ミステリーを解く”3つのステージへ――監修者が語る展示構成の狙い

同展では、質、量ともにアメリカ屈指と名高いニューヨークのブルックリン博物館より、彫刻、棺、装飾品、土器、パピルス、さらに人間やネコのミイラなど約150点の遺物が集結。私たちの想像を超える高度な文化を創出した古代エジプトの人々の営みを紐解いていく展示が展開されている。「知っているようで知らない事実」から最新技術を使ったピラミッド研究まで、小さな子どもから大人まで存分に楽しめる内容となっている。

これら展示はどのような狙いで構成されたのか? 同展監修者であるエジプト考古学者で名古屋大学デジタル人文社会科学研究推進センターの河江肖剰教授にその狙いなどを聞いた。

エジプト考古学者で名古屋大学デジタル人文社会科学研究推進センターの河江肖剰教授

エジプト考古学者で名古屋大学デジタル人文社会科学研究推進センターの河江肖剰教授

――今回、約150点の遺物が展示されていますが、作品のセレクトはどのような経緯があったのでしょうか?

最初にブルックリン博物館からいくつかのリストが送られてきたなかで、私とハルカス美術館の関係者のみなさんと協議しながら選んでいきました。なかには私から「ぜひこれを持ってきてほしい!」とリクエストしたものもあります。「王の頭部」がまさにそれで、日本で展示されるのは約40年ぶりとなる素晴らしい遺物です。

――今回は3つのテーマに合わせて展示されていますが、展示のこだわりについて教えてください。

今回の展示はマニア向けというより、まずは一般の方に楽しんでいただきたいと考えています。ミステリーを紐解くような展示タイプにしています。その中でも、私が長年発掘しているピラミッド建設者の居住地“ピラミッドタウン”に焦点を当てた展示も面白いのではないかと考え、最終的に3つのセクションに分ける構成になりました。

――古代エジプト初心者や子どもが楽しめるポイントを教えてください。

動物のミイラがあるとか、棺の中には本物のミイラが入っているとか、そうした点に想像を膨らませてほしいですね。最近はプロジェクションマッピングなど映像で知る機会が増えていますが、実物に触れる経験は減っているように思います。今回の展示は触れることはできませんが、子どもたちには“本物を見る”ことで、それが何なのか、そして数千年残ってきたことを感じてもらえるとおもしろいと思います。

■圧倒的な目力にひきつけられる!

「王の頭部」

「王の頭部」

河江教授イチオシ! 日本に約40年ぶりに来日した「王の頭部」は、目や鼻筋など当時の面影が鮮明に残り、古代エジプト人の顔立ちを垣間見ることができて興味深い。紀元前2650〜2600年頃に作られたもので、現存するエジプト王の巨像の一部としては最古のものとされる。学者の見立てでは、ギザの大ピラミッドを建造させたクフ王がモデルと考えられているという。貴重な遺物を囲いもなく間近で鑑賞できる機会は滅多にないので、ぜひじっくりと目に焼き付けたい。

「王の頭部」像の周囲を照らすスポットライトにもあるように、鑑賞を通して特に気になったのが「目」だ。「王の頭部」の足下にあるのは、「ウジャト」といわれる古代エジプトで最もよく使われた護符で、ホルス神の“癒やされた左目”を象徴する守護のシンボルが使われている。

「女性の祖先胸像」

「女性の祖先胸像」

展示されている遺物には、目力が強い像も多い。例えば、女性たちの“おしゃれ”や“美しさ”に関する作品を展示するコーナーにある「女性の祖先胸像」は、いまでこそ彩色や飾りものは失われているが、じっと見つめられているような強い目力を感じることができる。耳元には耳飾りをつけるためのピアス穴が開いていて、当時の女性たちの“オシャレ”がいまと変わらなかったのかもと、想像するのも楽しい。古代エジプトでは「美しさ」が単なる容姿の良さだけでなく、内面的な美徳である「善良さ」を意味していたという。容姿だけでなく内面まで気遣ってこそが“美”。現代にも通じる考え方かもしれない。

目力が強いのは人間の像だけではない。「動物」や「昆虫」にまつわる遺物も多く、サル、魚、ウシ、ネコ、さらにはハエまである。「カバの像」の瞳はつぶらで可愛いし、「サルの像」は本物さながら。歴史や宗教的背景を抜きにしても、どれも“可愛い”ものばかり。特に装飾品や像は造形が忠実で、現代でも通用するデザイン性の高さに驚かされる。

人形棺の右目

人形棺の右目

ほかにも「人型棺の右目」など、古代エジプトでは「目」のモチーフが多用されていた。目=神の力そのものと考えられていたため、護符や神殿、墓に描かれた壁画やレリーフ、大小さまざまな像や小さな遺物に至るまで、丁寧に作り込まれた“目”の存在感は強く、つい視線を奪われてしまう。

会場のいたるところで、「ウジャト」のイラスト付きのトリビアも展示。「エジプトにはお金がなかった」「30代はもう晩年!?」など、読むほどに興味が湧くものばかり。例えば、古代エジプトの人物像は横向きに見えるが、実は完全な横向きではなく、肩を含む上半身は正面、腰から下は横向きという独特の定型表現をしている。視覚的な正しさよりも、特徴をわかりやすく伝えることを重視した結果だという。“目”に注目が集まるのも、この表現描写だからこそなのかもしれない。「へぇ〜」が止まらない展示にも注目してほしい。

今回の展示では筆者は“目”が気になって仕方がなかったが、なにかひとつテーマを決めて会場を巡ってみるのもいいだろう。そのテーマが文化やその背景を知るキッカケになり、またそこから意外と身近に感じられる古代エジプト人の生活が見えてくるかもしれない。

■現代と変わらない生活が浮かび上がる

ここから展示構成の説明へ……と行きたいところだが、その前にぜひチェックしてほしいのが「音声ガイド」。同展では2種類の音声ガイドがあり、「特別版」のナビゲーターは菊池風磨、「通常版」のナレーターは辻岡義堂(日本テレビアナウンサー)が担当。異なる解説が楽しめるので、聞き比べもおすすめだ。

1st Stage 古代エジプト人の謎を解け

「書記アメンヘテプ(ネブイリの息子)」

「書記アメンヘテプ(ネブイリの息子)」

会場に入ってまず目を引くのは「書記になれ!」の展示コーナー。書記は古代エジプトで親が子に就かせたい職業ナンバーワンだった。書記といっても現代のように議事録を作ったり文書管理をしたりするのではなく、神の言葉である文字を操る役職で、神官や官僚もすべて書記に含まれるという。ここでは、書記が使っていたとされるパレットや葦のペン、ノートのように使われた蝋板などを展示している。

「ニカーラーとその家族の像」

「ニカーラーとその家族の像」

家族や仕事中の姿を描写した像として残されるほど“憧れの職業”だった書記。筆者は“像を作れるくらい高給取りで生活は潤っていたのだろう”と邪推していたが、同展の公式カタログによると、近年出土した書記たちの骨を分析した結果、腰痛や肩こりに悩まされていたことがわかったという。憧れの職業とはいえ、仕事の悩みは現代と変わらないようだ。

このように1st Stageでは「約5000年前にはすでに高度な文明を築いていた古代エジプトの人々の姿や生活、文化に潜む謎を掘り起こす」ことをテーマに、古代エジプト人の日常生活を紐解いていく。“古代エジプト”と聞くと、ピラミッドやツタンカーメンの黄金のマスクなど、王家の建造物や副葬品といった煌びやかなイメージが強いが、その背後には現代と変わらない人々の日常が存在していた。

2nd Stage ファラオの実像を解明せよ!

2nd Stageでは「絶対的権力を有する王の姿とピラミッドに潜む謎を掘り起こす」がテーマ。古代エジプトの王の名前には「神」に関連する語が多く、当時の宗教・政治・社会情勢が反映されている。ここではファラオ(王)をはじめとした「神」の名を冠した12人の古代エジプト王がどんな存在で、どんな力を持っていたのかを紐解いていく。なお、同展では2章・3章が撮影可能となっているので、気になる作品はぜひカメラに収めておこう。

エジプト現地で測量した精巧な解析データと実写映像を組み合わせたピラミッドの最新調査映像にも注目したい。ドローン技術と3DCGデータ化技術が用いられ、ピラミッドや内部構造など、現地でもなかなか見られない貴重な映像がまとめられている。スクリーン横には、ピラミッドに積み上げられた石の“実寸サイズ”の写真が展示されており、その高さはなんと約1.5メートル(河江教授自ら撮影)。たったひとつの石でこの大きさだ。それが一人のファラオの墓のために、人力で何万個も積み上げられたと想像すると……ファラオの絶対権力の大きさに圧倒される。

「ファラオの仕事」のコーナーでは、偉大で神聖な存在とされてきたファラオたちの仕事ぶりをレリーフを中心に紹介。内政・外交・軍事・宗教など、現代と変わらない、いやそれ以上の働きを見せていたファラオたちの姿が浮かび上がる。

3rd Stage 死後の世界の門をたたけ!

最後のステージでは、再生・復活を信じて保存されたミイラの謎や、副葬品・棺から古代エジプト人の信仰や死生観に迫る。

多彩な副葬品には目を引かれる。古代エジプト人は死後の世界でも現世と同じ生活が続くと信じており、日常生活に必要な“生活道具一式”を墓に納めていた。寝台や枕、イス、輿、食器、壺、化粧道具、衣服、さらには食べ物や飲み物まで供えられたという。ファラオの埋葬品ともなれば、当時でも美術品クラスのものばかり。繊細な技術が施された副葬品の数々は、まるでハイクラスジュエリーを眺めるような気分で鑑賞できる。

カノプス壺と蓋

カノプス壺と蓋

そして古代エジプト展で欠かせないのがミイラ。「ミイラ作り」のコーナーでは、臓器を納める「カノプス壺と蓋」や、ミイラの身体につけられた護符などを展示。さらにアニメ作品でミイラ作りの“レシピ”をわかりやすく紹介している。「木棺」「石棺」「カルトナージュ」など、ミイラを保護するケースも数多く展示。時代ごとに表情や色彩が異なるが、どれも“偉大なるファラオ”への敬意が感じられる丁寧な仕事ぶりだ。

また「動物」や「昆虫」にまつわる遺物も、歴史や宗教的背景を抜きにしても“可愛い”ものばかり。カバ、サル、魚、ウシ、ネコ、さらにはハエまである。特に装飾品や像は造形が忠実で、現代でも通用するデザイン性の高さに驚かされる。

ネコの棺とミイラ

ネコの棺とミイラ

「ネコの棺とミイラ」は、中に本物のネコのミイラが入っていることにも驚くが、その造形は現代のネコと変わらない愛らしさ。3000年以上前から変わらず愛されてきたネコの姿を想像すると、胸が熱くなる。

ステージの背景では、謎めいた呪文のような音声が流れている。これは古代エジプト語で現存最古の葬送文書「ピラミッド・テキスト」を、当時の発音で再現したもの。古代エジプト語は子音しかないため、呪文のように聞こえるのだという。音声再現には筑波大学准教授でエジプト学・コプト学博士の宮川創氏が協力している。まさかのエジプト人ではなく、日本人が再現しているとは……。

■“クスッ”と笑える限定グッズ&PEANUTSコラボも

最後にグッズショップをチェックするのも忘れずに。展示作品すべてについて、より詳しくまとめた図録は必見だ。

オリジナルグッズでは「人型棺の右目」をリアルに再現した前髪クリップや、丸いフォルムが愛らしい青いカバのぬいぐるみなど、同展限定の“クスッ”と笑えるアイテムが揃う。

「PEANUTSコラボ」では、スヌーピーと仲間たちが“冒険家”風にデザインされたぬいぐるみやポーチなど、ここでしか手に入らないアイテムもある。

すべてのステージを鑑賞し終えると、古代エジプトへの興味がさらに深まったのはいうまでもない。約3000年という長い歴史を経てもなお謎多き、古代エジプト。その片鱗を覗くことができる同展に、ぜひ一度足を運んでみてほしい。

取材・文・撮影=黒田奈保子

イベント情報

『ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト』
会期:2026年3月20日(金・祝)~6月14日(日)
開館時間:10:00~20:00(月土日祝は~18:00)(入館は閉館の30分前まで)
会場:あべのハルカス美術館 (大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階)
観覧料金:一般 2300円、大高生 1800円 、中小生 500円

●スペシャル
■コラボレーションメニュー+観覧券
<コラボデセールと本展観覧券のセット>
料金:お一人様(税サ込)当日券5,600円
販売期間:当日券 ~6月14日(日)
提供期間:~6月14日(日)
提供時間:13:30~17:00
 
<ケーキセットと本展観覧券のセット>
料金:お一人様(税サ込)当日券4,700円
販売期間:当日券 ~6月14日(日)
提供期間:~6月14日(日)
提供時間:10:00~20:00
 
<ランチビュッフェ本展観覧券のセット>
料金:お一人様(税サ込)当日券4,700円
販売期間:当日券 ~6月14日(日)
提供期間:~6月14日(日)※4月29日(水・祝)~5月6日(水・祝)は利用除外日
提供時間:11:30~15:00(土日祝は2部制・90分制)

主催:ブルックリン博物館、あべのハルカス美術館、朝日新聞社、東映、読売テレビ
協賛:DNP大日本印刷
協力:名古屋大学、日本航空、一般社団法人Platoo、ヤマト運輸、World Scan Project
企画協力:日本テレビ放送網
展覧会公式サイト:https://egypt-brooklyn.exhibit.jp/
美術館公式サイト:https://www.aham.jp/exhibition/future/brooklyn/
お問合せ:06-4399-9050(あべのハルカス美術館)
シェア / 保存先を選択