展示中の作品に異常が発生? 『どこか奇妙な職業体験 真夜中の学芸員』体験レポート
『トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~』関連企画『どこか奇妙な職業体験 真夜中の学芸員』
夜の美術館……なんだか面白いことが起こりそうな、素敵な響きを感じないだろうか。本記事は虎ノ門ヒルズにて開催中の『トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~(以下、トニー・アウスラー展)』に付随して、2026年9月26日(土)まで開催される没入型ナイトミュージアム、『どこか奇妙な職業体験 真夜中の学芸員』の体験レポートだ。
職業体験の名の通り、本イベント参加者は「学芸員」に扮して閉館後の美術館をうろうろ歩き回る。そして展示作品の巡回探索を行ううちに、何やら不思議なことに巻き込まれて……? というのが大まかなストーリーだ。
受付時にもらえるオリジナルの白手袋。体験中はこれが「学芸員」の証となる
本イベントを仕掛けるのは、虎ノ門ヒルズの情報発信拠点「TOKYO NODE」の研究開発チーム「TOKYO NODE LAB」と、没入型の体験イベントを数多く企画してきた「株式会社夕暮れ」。この『どこか奇妙な職業体験』シリーズは、これまでにも夜の学校調査や貸切一軒家の清掃など、一風変わった舞台・設定で開催されており、いずれも高い評価を得ているという。今回の真夜中の学芸員編も、売り切れの回が続出するほどの人気ぶりだ。さて……夜の美術館には、一体どんな体験が待っているのだろうか?
閉館後の美術館で、何かが起こっているらしい。
レクチャー風景
受付を済ませた参加者たちはバックヤード的なところに通され、まず本イベントの「学芸員」としての振る舞いのレクチャーを受ける。一般的な美術館の学芸員業務とは違って、今回鑑賞者たちがやるべきことは、臨時のヘルプ要員としての「閉館後の会場内点検のお手伝い」であり、どちらかというと警備員に近い。けれど私たちがしっかり点検をしないと、明日の開館に差し障るかもしれないので責任重大である。美術館スタッフとしての誇りをもって臨まねばならない。
レクチャー風景
会場内のチェックシート、名札、ペンライト、そして「トワイライトミュージアム」のロゴの入った白手袋をみんなで装着。部長からのレクチャーの最後には、「点検、開始!」の決めセリフ&ポーズを伝授されるひとコマも。指差し・声出し確認は確かに大事である。
本当に入っていいの?
会場入り口
いよいよ45階にある美術展の会場へ。入口には、不安になるほど誰もいない……
会場入り口
「閉館中」「本日の営業は終了しました」の立て看板がしっかりと出ている。「関係者以外立ち入り禁止」を越えて、夜の美術館に入る快感は想像以上のものだった。筆者はその昔美術館でバイトしていたので「関係者以外立ち入り禁止」の先に進むことはよくあったのだが、その時とは比べ物にならない興奮である。今夜だけ特別にそこを踏み越える、というのがイイのだ。企画者はそのあたりの心のツボを本当によくわかっていると思う。
夜に浮かぶ目玉たち
トニー・アウスラー《Specular》
ギャラリー内で参加者を待ち受けるのは、『トニー・アウスラー展』の目玉作品である《スペキュラー》だ。昼の鑑賞だと閉め切られていた窓のスクリーンが開放されており、作品と夜景との相乗効果でいっそう神秘的な空間となっている。トニー・アウスラーは、ざっくり言ってしまえばプロジェクションマッピングの祖であり巨匠である。映像をあらゆるモノに照射するという彼の作品は、暗くなったあとの街や美術館ととても相性がいい。
会場風景
一瞬学芸員としての仕事を忘れて、窓の外の夜景にうっとり。ガラスに映り込んだ目玉が、天体みたいに見えた。
どこかおかしなところはないか……と点検
先輩学芸員が、最近夜の美術館で起こっている不思議な出来事(いたずら?)について解説してくれる。なんと展示作品のキャプション(※タイトルなどが記された説明パネルのこと)に、意味深な落書きが大量発生しているらしい。この《スペキュラー》のキャプションには「目をへらしておくよ」なんて不敵な一言も。先輩の指示で、参加者たちが目玉の数を数え始めると……
先輩「おかしいですね。12個あるはずなのに、11個しかない!」
展示室内を徹底点検!
展示チェックシート
やはりこのギャラリーでは何かが起きている。以後、参加者たちは自由に会場内を歩きまわり、配られた「展示チェックシート」を手に、展示作品の状態に異常がないか、キャプションに落書きがないかを点検していく。
会場風景
異常がないかじっと見つめていると、漠然と鑑賞している時よりもしっかり作品と向き合っているような感じがする。ただチェック項目を確認していくだけではもったいないので、せっかくならひとつひとつの作品の背景にはどんな意味があるのか、自分の心にどんな感覚が湧き起こったかなども、同時にチェックしながら進んでいきたいところだ。
トニー・アウスラー《ウィッカ》
例えば《ウィッカ》という作品では、会場に用意された仕掛けに「入れ替えるね!」というメッセージが添えられており、それに導かれるように、魔女がまたがっているはずのホウキに注目してみると異変に気づく。チェックシートによれば、正常な状態では白いホウキにまたがっているはずなのだが……それってもしかして、床にポーンと放り出されているあれのことだろうか……?
そして……
展示作品のチェックを終えた参加者は、この美術館で起こっている異変の原因、そして解決方法を探っていくことに。物語の核心に近づくためレポートできるのはここまでとなるが、謎解きイベントのように周回プレイしないとエンディングが見られない、なんてことはないのでご安心を。
おすすめしておきたいこと
終了時にもらえる点検完了のカード
実は美術館での職業体験とのことなので、ホラーか? 謎解きか? と少々身構え気味で参加をしていた。けれど、体験後の感覚はどちらかというと没入型の演劇を観た感覚に近い。これならばお澄ましなんかせず、最初からもっと、自分から進んで巻き込まれていく前のめりなモードで(テンション高めで)参加しておくのが最適解だったか! とちょっと後悔である。もしこれを読んでいるあなたがこの先に職業体験に参加するのだったら、ぜひ冒頭から「なりきり100%」「自分が主役」という気分で臨むことをおすすめする。絶対にその方が楽しい。
出口付近にあるフォトスポット。カメラに捉えられた自分の姿が変化していくのが面白い。
そしておすすめしたいことはもう一つある。本イベントのシナリオは、展覧会のテーマを理解するための補助線となるべく練られた物語であり、その補助線は驚くほどわかりやすい。だからこそ、本イベントを体験したあとに『トニー・アウスラー展』へ足を運ぶと、イベントで得た視点や物語の記憶が、実際の作品を見るときの「読み解き方」になってくれるはずだ。ぜひ本イベントを体験してから、その余韻とともに展覧会本編も味わってほしい。
TOKYO NODE CAFE コラボドリンク「真夜中のクリームソーダ」(税込1500円) 画像=オフィシャル提供
このイベントは「夜の美術館に入れて楽しかったね」で終わることもできるけれど、形のないもの(光や映像や意識)に器を与えることや、見る・見られる関係性の転倒について、私たちの深い思索のきっかけにだってなり得るものだ。せっかく学芸員になりきるのだから、体験後はなぜ「この展覧会」で「この物語」なのか、その結びつきについて、一杯飲みながら考えを巡らせてみてほしい。きっと有意義な夜となるはずだ。
『どこか奇妙な職業体験・真夜中の学芸員』は9月26日(土)までの木曜日〜日曜日、東京・虎ノ門ヒルズのTOKYO NODEにて開催中。お盆期間やシルバーウィークは当該曜日以外にも臨時開催が予定されているので、公演日程についてはサイトにて確認を。
文・写真=小杉美香、写真(一部)=オフィシャル提供
イベント情報
会期:2026年7月24日(金)~9月26日(土)の木曜日~日曜日(7月30日(木)を除く)および8月10日(月)~8月12日(水)、9月22日(火)~23日(水) ※計42日間
公演: 木曜18:45~、金曜・土曜19:45~、日曜18:45~(各回制/所要時間 約75分)
会場:虎ノ門ヒルズ ステーションタワー8階・ 45階TOKYO NODE (東京都港区虎ノ門2-6-2)
※本公演の演出の都合上、「トニー・アウスラー展」の一部作品をご鑑賞いただけないエリアがございます。
※平日学割3,500円(税込)/各日最終公演回割:4,000円(税込)/日時指定予約制