蓮沼執太×ヘラルボニー桑山知之氏 津久井やまゆり園での陰惨な事件から10年、入所者の“心の声”を描いた楽曲「根っこを育てる」制作への想いとは

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映像作品「ハートビート・ボイス 津久井やまゆり園事件から10年、心の声を聴く」

映像作品「ハートビート・ボイス 津久井やまゆり園事件から10年、心の声を聴く」

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蓮沼執太が津久井やまゆり園の入所者の“心の声”を描いた楽曲「根っこを育てる」が10月7日より配信されている。2016年7月に神奈川県相模原市の県立障害者支援施設で発生した陰惨な事件から今年で10年。
本楽曲は蓮沼とヘラルボニーのクリエイティブディレクターである桑山知之氏が現地を訪れ、園内で収録した呼吸や足音、気配といった日常の音を起点に、発語の有無を超えて一人ひとりに宿る“心の声”を描いた映像作品『ハートビート・ボイス 津久井やまゆり園から10年、心の声を聴く』から生まれたもの。排外や分断といった言葉が社会に影を落とし続ける現代において、見過ごされがちな声や感覚に改めて目を向け、“聴く”ことの重要性を伝える試みは非常に意義があると言える。蓮沼と桑山氏に制作の過程と、作品の背景にある想いについて訊いた。

 

――まずは桑山さんが所属しているへラルボニーという会社であり、音楽レーベル「ROUTINE RECORDS」について教えてください。

桑山:ヘラルボニーは主に知的障害のある作家さんが描いたアートのデータを軸に、モノだったり、空間装飾だったり、ムービーだったり、いろんな形でクリエイティブに落とし込んでいくことを通じて、障害のイメージを変えるとともに、新たな文化をつくることにチャレンジをしているブランドです。ROUTINE RECORDSは2022年10月からスタートしたんですけど、初回が金沢21世紀美術館での展示でした。障害のある人は机をパタパタ叩くとか、声を出すとか、行動を繰り返す常同行動(ルーティン)と呼ばれる習性があるんですけど、そこから生まれる音をサンプリングして楽曲にすることがROUTINE RECORDSのコンセプトになっています。最初に金沢で披露した後、NHKのEテレでのスピンオフ企画をやったり、Corneliusとのコラボレーションをやったりして、今回のプロジェクトはROUTINE RECORDSとしては第5弾になります。

――『ハートビート・ボイス 津久井やまゆり園事件から10年、心の声を聴く』の企画はどのように立ち上がったのでしょうか?

桑山:津久井やまゆり園の事件が2016年の7月26日にありまして、そこから10年という節目のタイミングというのがまずありました。神奈川県は障害福祉の歴史においてすごく重要な場所でもあり、いろいろディスカッションを重ねてきたんですけど、その中で「映像を作る」という話があって。自分がもともとテレビ局でドキュメンタリーの制作をしていたというのもあるんですけど、映像作品とROUTINE RECORDSを掛け合わせることによって、民放やNHKさんが作るようなドキュメンタリーとはちょっと毛色の違うアプローチで、神奈川県さんが大切にしている「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念を、生活者にとって、より心が動く形で伝えられるんじゃないだろうかって。

――桑山さんはnote(https://note.com/heralbony/n/n3bf797c704a0)で「事件発生当時、私は前職で報道記者になったばかりでした」と書かれていますね。

桑山:そうなんです。このプロジェクトはヘラルボニーが参加しないといけないだろうなっていう責任感はありましたし、じゃあその中で誰がオーナーシップを持ってやっていくんだ?となったときに、自分がやるしかないという感覚は強くありました。仕事としてというのもあるんですけど、一人の人間として、10年前のあのときの世の中の受け止め方にはすごく思うところがあったし、そこからさらに排外主義や断絶が広がっている感覚があるし、溝が深まってる気がしていて。そこはヘラルボニーとして、自分個人として、チャレンジしたいなと思っていました。

――蓮沼さんに音楽を依頼したのはどんな経緯だったのでしょうか?

桑山:理由はいくつもあるんですけど、まずはやはり東京パラリンピックの開会式でのお仕事が本当に素晴らしいなと思いましたし、その前後の様子とか、ビハインドザシーン的な記事を拝見したときに、障害のある人とか当事者との関わり方、スタンス、眼差しがすごく素敵だなと思って。ヘラルボニーは障害のある方に対して、「手を差し伸べる対象」とは一切思っていなくて、むしろ障害のある方に依存しているビジネスモデルなんです。その意味でも、蓮沼さんがすごくフラットに当事者の方と関わられてるのを感じて、それが素敵だなと。やまゆり園のことは「事件があった場所」という色眼鏡で見てしまいがちだと思うんですけど、それは脳内にありながら、コミュニケーションとしてはすごくフラットにされるんだろうなという想像ができたんです。

事件を起こさないように社会が考えないといけないし、我々自身が考えないといけない問題だと思うので、そこを学び直す意味でもとてもいい機会。(蓮沼)

――「障害のある方が出す音をサンプリングして曲にする」というROUTINE RECORDSのコンセプトとも、蓮沼さんの作家性は合っていたわけですよね。

桑山:そうですね。蓮沼さんがフィールドレコーディングを長きに渡ってやられてきたということは、ROUTINE RECORDSとの相性がすごく良いだろうと思っていました。しかも、その人固有の声とか音を聴くっていうのももちろんありながらなんですけど、蓮沼さんは“サウンドスケープ”みたいなお話をよくされていて、それがすごくいいなと。“場所”にもフォーカスをしてクリエイションされるっていうのは、今回のコンセプトにすごくマッチするだろうなと思いました。

――蓮沼さんは今回のプロジェクトに参加することの意義をどのように感じましたか?

蓮沼:やまゆり園の事件と僕に直接関係があるかといったら関係はないわけですけど、でも自分のこれまでやってきた活動を紐解いていただき、クリエイションされる映像の中で役に立つところがあるだろうなと思ったので、参加させてもらいたいとお答えしました。まあ、「関係ない」と言いましたけど、物事は基本的に最初はみんな関係ないので、何か繋がりが持てて、やっと自分のことになるっていうのが基本で、そこから広がっていくものだと思っているので、今回関係性を持たせてくれるきっかけを作ってくれたと僕は受け止めています。もちろん大きな事件だし、こういった事件を起こさないように社会が考えないといけないし、社会が考えるってことは我々自身が考えないといけない問題だと思うので、そこを学び直す意味でも、とてもいい機会だなと思いました。

――実際にやまゆり園を訪れて、どんなことが印象に残っていますか?

蓮沼:いきなり抽象的なことを言っちゃうんですけど、みんな違う時間を持って生きてるなっていうのをすごく思いました。例えば、アルミで作品を作ってる榎本さんの時間と、施設で働いている方の時間は多分違うだろうし、個人に内包している時間はそれぞれ違う。みんな同じことはしていなくて、バラバラなことをやって動いているわけですけど、俯瞰的に見たらそれは我々もそうで。ただ、やまゆり園の空間の中では特に強く時間が違うなと思いました。鳥が巣を作ってたんですけど、鳥にも時間があって、それも違うし、山にも時間があるし、湖にも時間がある。全部の違うものを後々に咀嚼するというか、そんなことを思っていました。

――フィールドレコーディングの方法に関しては、どんなことを意識しましたか?

蓮沼:僕の普段のやり方と近しい距離の取り方をしたので、良くも悪くも、僕を含め周り全員が平等に捉えられていると思います。例えば、ピアノを弾かれる方がいた。もちろんピアノの音を録るんですけど、その場で鳴っているのはピアノの音だけじゃないんですよね。その場に人がいたら、その人もその空間の音を構成しているひとつで、つまりはノイズという概念が一個もない。なので、全部を等しく録っていく。これは良くも悪くもで、サウンドテクニック的なアプローチとしては、「もっと寄り添えるでしょ?」っていうのもあるんですよ。細かい音でアクティビティをしている方だったら、より指向性の強いマイクで近めに録った方が音が良いっていう意見もあるんだけど、僕はある程度の距離をとって、俯瞰的に、指向性を広く録る。そういう距離感は自然と意識していました。

――なるほど。

蓮沼:あとはみなさんが楽しそうでしたね。それはすごく大切なことで。マイクとカメラは人の動きを録る/撮るもので、それは奪うということでもあるから、最初はそれが不安でした。報道の方が来ることも多いから、そういうことに多少慣れてらっしゃったみたいなんですけど、はじめましてで、いきなり音を録り始めたら、「なんだこいつは?」ってなるじゃないですか。レコーディングとは人のものを取ることで、そこをデリケートに考える必要があるっていうのは、いつも思ってることなんですよね。

行動を同じくすると目線が同じになるから、本当の意味でその人の思いを、言葉を超えて感じることができるだろうと思って、私も実践していたところがあります。(桑山)

――映像の中で蓮沼さんが入所者の方と一緒にお散歩をするシーンが印象的でした。ただ部外者が音を録りに来たっていうだけではなくて、その空間で一緒に過ごして、音も録らせてもらう。その関係値が大事だったのかなって。

蓮沼:あのシーンは僕の前にも撮影スタッフの方が同じように歩いてたんです。やっぱりみんなと触れ合いたいみたいで、もっと歩きたいってなってたから、じゃあ今度は僕が行きましょうかって、2周目ぐらいを捉えて使ってもらってるんですけど。やっぱり人それぞれの触れ合い方があって、シャイな人もいれば、オープンな人もいて、実際に接触をすると、それこそ言葉を超えるじゃないですけど、感情がわかったりする。いろんな情報を溜め込んで、「クリエイションしに行くぞ」っていう気持ちもあったけど、ああやって一緒に歩くことでハッとすることもたくさんありました。

桑山:今のお話は僕もすごく大事なポイントだと思っていて、園の近くに唯一ぐらいの飲食店として蕎麦屋があるんですけど、そこがなかなか美味しくて、最初はよく行ってたんです。なんですけど、「園でも食べれますよ」と言ってもらえて、これは園で食べた方がいいなって。そこからはずっと園で食べるようにしたんですよ。やっぱり行動を同じくするって、目線が同じになるから、すごく大事なことだと思っていて。そうすることで、本当の意味でその人の思いを、言葉を超えて感じることができるポイントなんだろうなと思って、私もそれは実践していたところがあります。

――蓮沼さんがフィールドレコーディングをしている姿を見て、どんな感想を持たれましたか?

桑山:現場は予定調和にはいかないことだらけなんですよね。ルーティーンがあって、大体の活動時間があるとはいえ、いざその時間になっても、「全然あっちの方行っちゃいました」とか、別のところで「今ホワイトボード消してます」みたいなことがよくあって。でも蓮沼さんはそういう状況にもすごく臨機応変に対応されていて。それは先ほどおっしゃられたように、その場を録りに行っているからなんだろうなって。“これを録りに行きたい”だと、予定が狂うこともあると思うんですけど、そうではなく、蓮沼さんは園そのものを録りに行かれてるんだなっていう、それもすごく印象に残っています。

蓮沼:一人ひとりの行動を細かく分析して、それぞれにマイクをセットして録ったとして、それで本当に心の声を聴いてますか?と思うんですよ。全員と対等に向き合わないと何も見えてこないし、聴こえてこない感じがするんですよね。大事なのは“録る”じゃなくて、“聴く”ことなんです。録った素材じゃなくて、今聴いてる音にフォーカスして、それに比重を置いて捉えることがすごく大切なので、すぐ動けるようにコンパクトなセットで録音をしました。

相手がどう思っているか、どうしたいかを分かろうとする。対象としているものを“聴く”ということが、最初のドアノックなんだと思います。(蓮沼)

――蓮沼さんは資料のメッセージでも「一番大切なことは、その声を聴こうとする姿勢です」と書かれていました。

蓮沼:本当にそう思ってます。今、突発性難聴になってしまって、半分聴こえない状態を経験していて、気持ちも日々変わってるんですよね。今回のプロジェクトと難聴は別に一緒じゃないんですけど、知覚とか認識についてもすごく考えています。今回のプロジェクトはもう少し詩的、ポエトリー的というか、誤解も合致もあると思うけど、もうちょっと柔らかく、心の声を聴こうとする姿勢が大事かなって。聴く姿勢があるということは意識があるわけで、自分の耳を“何を聴きたいか”にチューニングするんですよ。そうすると、相手がどう思っているかとか、どうしたいかを分かろうとすることにつながって、行動を助けられるなら助けるし、一緒に何かできるんだったら一緒にする。対象としているものを“聴く”ということが、最初のドアノックなんだと思います。

――フィールドレコーディングを終えて、その後の楽曲制作はどのように進んだのでしょうか?

蓮沼:やまゆり園に行って、その翌日から2週間アメリカに行ってたんですけど、帰ってきてからデモを送ったんでしたっけ? 

桑山:そうですね。やまゆり園に行ったのが6月8日で、デモをいただいたのが6月の22日か23日とか。

蓮沼:香港に行く前だ。アメリカに2週間いて、1回帰ってきて、また香港に行くんですけど、その間に多分2日ぐらいあって、そこで曲に落とし込もうと思ったんですね。もう旋律と歌詞はあったので、「こんな感じですかね」っていうデモを一度送らせてもらいました。でも、言葉が乗ってるとか歌ものになるって思ってましたか?

桑山:いや、わからなかったですね。 現場で「どっちがいいと思いますか?」とは言ってましたけど、どっちも全然あるなと思ったので。コンセプト的には言葉がない方が、ノンバーバルの方がいいのかなとも思いつつ、でも言葉の良さもありますからね。

根っこのところには何があるんだろう? そこにはどういう広がりがあるんだろう?ということを考えるのは、まさに心の声を聴くことと同じだと思ったんです。(桑山)

――蓮沼さんはなぜ歌を入れようと思ったのでしょうか?

蓮沼:2025年の末にミナ ペルホネンの30周年のイベントに呼んでいただいて、森山未來さんとミナの田中景子さんと3人でパフォーマンスをしたんです。その前に「つぐminä perhonen」という展示を世田谷美術館でやっていて、3人で見に行って、そこで皆川明さん(ミナ ペルホネンの創業者)の「根っこを育てる」という言葉を知ったんです。で、今回の曲の淡い旋律は自分の中にもうあって、それと「根っこを育てる」のフィーリングが良かったので、1回その言葉と曲で即興のパフォーマンスをやってみたことがあって。

――すでに原型があったと。

蓮沼:で、今回のやまゆり園のクリエイションがあったときに、「根っこを育てる」は僕が書いた言葉じゃないから距離もあって、割と一般的な詩に見えたというか、誰もがそれぞれの視点で自分事として考えられるような詩だなと思ったんです。自分のことというよりは、みんなそれぞれが考えられるような意味を持った、多義的な詩だなと思った。で、それと僕がやまゆり園でやらせてもらったクリエイションが混ざり合い、曲になっていった。で、桑山さんにまずは旋律と曲のムードを伝えなければと思って、ピアノで歌ったデモを最初に送ったんです。

――デモの時点で言葉も乗っていたわけですね。

蓮沼:はい。ただそこからはもう少し加筆する必要があって、曲をさらに作り、歌詞も作り、一曲にした感じです。《豊かにしてくれるだろう》まで皆川さんの詩で、そこから下が僕が書いた歌詞になってます。 なので、途中からはやまゆり園に行って、音楽が作ってくれた歌詞ですね。

――最後の《混ざり溶け合い巡り ひとつの家で愛を踊る》は、まさに現在のやまゆり園を連想させます。桑山さんは曲に対してどんな印象を持ちましたか?

桑山:最初は音源のみのデモで来たので、「何を歌ってるんだろう?」と耳を澄ませて聴いて、すごくいい歌詞だし、トーンも含めてすごく素敵だなと思いました。表現できる人は表現をすればいいと思うんですけど、表現ができない人もいるというか、伝わる形で表現できない人が大勢いると思うんです。私自身も喋りとか何か表現することが決して得意なわけではない。そう思ったときに、この歌詞はすごく共感できると思いました。自分が何かを思ったときに、本当にその人が考えてることなのか、思いなのかって、もしかしたら本人さえもわかっていないことがすごくあるなと思うと、じゃあこの根っこのところには何があるんだろう? そこにはどういう広がりがあるんだろう?っていうことを考えるのは、まさに心の声を聴くことと同じだと思ったんですよね。

――フィールドレコーディングをした音は、基本的に加工をせずに使っているそうですね。

蓮沼:フィールドレコーディングをやってると、「サンプリングするためにフィールドレコーディングをしてるんですか?」と聞かれるんです。でもそうじゃなくて、先ほども言ったように、僕は音を聴くためにフィールドレコーディングをしていて、それが自分のチューニングになるんですよ。もちろん美術作品とか、今回みたいなクリエイションのためにフィールドレコーディングをすることもありますけど、大前提としては、やっぱり何かの目的のためにフィールドレコーディングをしてるわけじゃない。録った素材を加工するということは、さっきの「解像度を高くしてマイクで録る」っていう話と同じことになるんです。でも僕はフィールドレコーディングを素材として考えていないので、基本は加工もしないし、むしろ逆ですね。こっちが音で参加させてもらってる、ぐらいの考え方です。どうしても音楽が主体になって、フィールドレコーディングは客体になりがちなんですけど、「主役がフィールドレコーディングだ」っていうぐらいの感じ。僕は「自然の音の方がすごいぞ」と思ってしまうんですよ。そういう精神でやってると、1990年代のサンプリングミュージックみたいな感じの使い方には全くならないですけど、でもやっぱり音として面白いとか、音として抜けがいいみたいなものもあるので、そういったものをクリエイションとして使ってるところはあると思いますね。 

桑山:最初は結構落ち着いたトーンのデモで、「なるほど、わかりました」っていう感じで、そのトーンを意識しながら映像の編集を進めたんですけど、最後にレコーディングに行ったら、結構アバンギャルドになってて。そこからまたエディターさんと、かなりチューニングをして。

蓮沼:スタジオに入って、シンセで遊んでたんですよ(笑)。

桑山:私はそういうのも好きなんですよね。なので、楽曲のクリエイションはそのままにして、それに合わせて映像をチューニングする方がいいなと。

――音楽と映像に相互作用がある。

桑山:蓮沼さんが手を加えたことには絶対に意図があるので、それを最大限尊重する、リスペクトするっていうところですね。ただ映像と楽曲そのものはある程度切り離しているというか、楽曲は楽曲で、いい意味で独り歩きしていってもらえたらいいなと思っていまして。曲をきっかけにして、調べていくと、「これって実はやまゆり園で聴いた声を使っているんだ」となっていったときに、何か返ってくるというか、そういった現象も起きたらいいなと思ってはいます。

「根っこを育てる」ジャケットビジュアル

「根っこを育てる」ジャケットビジュアル

――入所者の方の造形作品を用いたアートワークについても教えてください。

蓮沼:これを作った榎本さんは、朝、花に水をやっていたり、園をフル活用していて、楽しんで生きてるなっていう感じの方で。最初に「それぞれ違う時間を持っている」という話をしましたけど、ここにはこのアルミの作品を作っている時間がある。そういったメタファーにもなるかなって。僕のフィールドレコーディングと同じように、その作品をどのようにキャプチャリングするかも距離が必要だなと思って、デザイナーの前田晃伸さんにも僕と同じような距離感で作ってもらいたかったから、アルミの作品だけお送りして、前田さんの視点でビジュアルにしてもらいました。

――個人的には、年輪に見えるなと思って、「根っこを育てる」というタイトルとも結びつくように思いました。

蓮沼:いただきました(笑)。でも時間が入ってるっていうのはまさしくそうですね。最初は自分とは関係ないと思っていたことが、きっかけをいただき、時間を経て、少し理解ができ、自分ごととなり、この作品が生まれたということなんだと思います。

閉じるのではなく開いていく、分けるのではなく交わっていく。ある意味では、この映像を見て、気づきや発見がないなっていうところまで、そういう社会になったらいいな。(桑山)

――では最後に改めて、今回の映像作品や楽曲を通じて、どんなメッセージを伝えたいですか?

桑山:映像のナレーションでも言ってることなんですけど、閉じるのではなく開いていく、分けるのではなく交わっていく、そこがすごく大事なポイントだなと思っていて。障害福祉の歴史的に、より郊外に障害のある人を集めて、そこに閉じ込めて、幽閉していくみたいな流れはやっぱりあったんです。だから大人になるにつれて、障害がある人との接点がどんどんどんどん減っていく。教育でいう分離教育とかは、国連からも是正勧告が出されていたりするんですけど、やっぱりより交わっていくことがすごく大事なポイント。映像の最後に出てくるのは、地域で行われているホタルが見られる素晴らしいお祭りなんですけど、障害のある人も含めた形で当たり前のようにみんな一緒に楽しんでいる様子、景色を見ていきたいですし、我々から作っていきたいなと思っていて。ある意味では、この映像を見て、気づきや発見がないなっていうところまで、そういう社会になったらいいなって。 

――最初にお話しされていたように、事件から10年が経って、むしろ排外や分断のような言葉がより広がっているかもしれない。そういう中で、10年前の事件を一つのきっかけにして、もう一度その問題を問い直すというか、そういう意義もすごくあるなと。

桑山:じゃあここからまた10年後にちゃんとより良くなっているだろうか?とも考えますし、今私は一歳の息子がいるんですけど、彼らがこれからの価値観を作っていくので、新たな価値観をちゃんとインストールしていくためにも、この作品もそうですし、私個人としても、これから新たに作っていくクリエイションの中で提示し続けていきたいです。あとは、今回の作品がそれこそ教育現場であったり、そういうところで活用されたら嬉しいなと思っていて、この曲が合唱曲になったらいいなと思っています。

蓮沼:すごくシンプルな、みんながより良く生きやすくなるようにっていう気持ちの一つの現れが作品だったりするし、それが少しずつ広がって、その積み重ねでパラダイムが変わるというか。一人ひとりの考え方が少しずつ変わって、新しい価値観が作られていけばいいなと思います。我々が今囲まれている状況は、僕は決して良いとは思っていなくて、直さないといけないところがとても多いと思うんです。その中で僕は職業として、生きる術として、曲を作ったり、作品を作っていて。大きい事件があった後に、10年経ち、じゃあ社会が変わっているのかなとか、そこに住んでいる人たちはどうやって今は生きてるのかなとか、いろいろ考える機会になると思うし。そういった振り返る機能が、曲だったり映像にあると、自分だけじゃなくて、他者にとってもよりよく生きられる一つのきっかけになると思うんですよね。

取材・文=金子厚武
写真提供
=ヘラルボニー 撮影=橋本美花
 

リリース情報

蓮沼執太、HERALBONY
「根っこを育てる」

2026年10月7日(水)配信
https://virginmusic.lnk.to/NurturingRoots  

関連リンク

■蓮沼執太
オフィシャルサイト https://www.shutahasunuma.com/

■株式会社ヘラルボニー 
コーポレートサイト https://www.heralbony.jp
オンラインストア https://store.heralbony.jp/
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