坂本昌行の「立ち姿」を見せつけたい 「ONE MAN STANDING」演出・菅野こうめいにインタビュー!
菅野こうめい
V6の坂本昌行が初のワンマンミュージカル・コンサート「MASAYUKI SAKAMOTO Musical Concert 『ONE MAN STANDING』」に挑む。2月5~7日(金~日)にBunkamura オーチャードホールにて上演されるこのステージは、これまで数々のミュージカルの舞台でセンターに立ち続けた坂本が、ミュージカル史に残る数々の名曲を新たな魅力で届ける極上のひと時となる模様。演出を務めるのは、数々のミュージカルやコンサートを手掛けた菅野こうめい。本番を間近に控えた1月下旬、菅野にコンサートの見どころなど、たっぷりと伺ってきた。
――坂本さんとは、ブロードウェイミュージカル「フットルース」以来のタッグですか?
菅野:そうなんですよ。2001、2002年に坂本くんと「フットルース」をやって、それ以降は特別お仕事をしていないんです。もちろん、その間も彼が出ている舞台を観たり、楽屋で話をしたり、他の舞台を観に行ったときに偶然客席で会ったりはしていたんですが。
――この「ONE MAN STANDING」というコンサートはどのように生まれたんですか?
菅野:当初、オーチャードホールでフルオーケストラとのミュージカル・コンサートをやったらどうか?というアイディアもあったんですが、そういうコンサートなら他にもいっぱいある訳で。あと、よくよく考えると坂本くんがこれまでにやってきたミュージカルってオーケストラ形式でやるようなものが意外とないんです。
僕は30年くらい、相当な数のコンサートを演出してきました。今井美樹さんのデビューコンサートから始まり、中山美穂さん、いろいろな女優さん、宝塚のOGさんのステージもやってきましたが、ずーっと女性のコンサートばかりで男性のコンサートを本格的に手掛けたことはなかったんです。だからこそいつか男性のコンサートをやりたいとずっと思っていて。それもシアトリカルなショーとしてのコンサートを作りたいと思っていたんです。
僕は、フランク・シナトラのコンサートに憧れていました。若い頃、自分がショーの演出家を目指したときに、シナトラがラスベガスの「サンズ・ホテル」というホテルでやったライブ盤があるんですが、のちにマイケル・ジャクソンのプロデューサーになったクインシー・ジョーンズがアレンジャーで、カウント・ベイシー・オーケストラが演奏しているという名盤です。僕はそれを、それこそ、レコードがすり切れるほど聞いてコンサートの様子を妄想していましたね。若い頃はお金もないしラスベガスまで観に行くこともできないじゃないですか。そのライブ盤にはシナトラが延々話しているトークの部分も残っていたりして、曲とトークのバランスとかを研究していました。僕もいつか、今でいうとマイケル・ブーブレやハリー・コニック・ジュニア…「現代のシナトラ」と呼ばれている人たちのようなコンサートを作ってみたくて。
でも今の日本では、なかなかその「主役」にハマる人がいない、誰がいいんだろう?と30年近くずーっと妄想を続けていたときに坂本くんの企画の話が舞い込んできて「そうだ!マイケル・ブーブレのようなことができるのって坂本くんしかいないじゃない!ならばオーケストラじゃなく、ビッグバンドを連れてきてください!」
その時に自分の中のセットリストもほぼできてましたね。
坂本くんのアメリカン・ロックがあふれるミュージカル、フレッド・アステアを彷彿させるクラシックなミュージカル、ピーター・アレンのポップスを使ったジュークボックス・ミュージカル…すべてにおいて適役だ!と。そこから改めて坂本くんと話をして、今日に至る…ということです。
菅野こうめい
――坂本さんと初めてこの企画を話したとき、どんなやりとりがあったんですか?
菅野:まず坂本くんがこれまでやったミュージカルの楽曲を全部リストアップして、それを本人に見せて「この中でやりたいものにマルをつけて」ってお願いしたんです。僕の頭の中で考えているセットリストはあえて伝えないで、まずは坂本くんがやりたいものを、と。
出てきた結果は僕のリストとほとんど一緒でした。なので、そこからたたき台を作り、「僕はこうしたい」「この曲よりこっちの曲に」とか「どうする?タップ踏む?」「絶対やりたい」とかいろいろね。ミュージカルのコンサートだからといって、ミュージカルの1シーンを再現するということはしたくなかった。だって坂本くんは「踊って歌えるマイケル・ブーブレ」だから。ミュージカルのナンバーを別の角度から、音楽的アプローチをかけていきたいと思ったんです。そこで才能豊かな友人、音楽監督の羽毛田丈史を巻き込み、今までミュージカルでやっていたアレンジと違うアレンジをお願いしたり、モノによっては作品の中では坂本くんではなく相手役の女性が歌った曲なんだけど、「実はこの曲、男性でカバーされてるんだよ。こういう風に歌ってみない?」と坂本くんに相談してみたり。とにかく、これまでのミュージカル・コンサートとは一味違う、坂本くんならではのコンサートになるようにアイデアを出してきました。
このコンサートについて、坂本くんがいちばんこだわったのは、
「ミュージカルに対する“未来”と“夢”」でした。
いつかやってみたいミュージカルがあるんだ、と。もちろんそれはコンサートが始まるまでの秘密なんですが、でもその楽曲を入れたいと。このコンサートでは、過去を振り返るだけじゃなく、この先実現するかどうかわからないけれど、ソロコンサートという「夢」が一つ叶ったことで、もう一つ「夢」を提示したいんだと。そう彼が言ってくれたので、その“夢”が込められた曲がいくつか入っています。
改めて坂本くんがミュージカル人生を振り返った際に、前を見据えていこうとしていることとは何なのか、それをみなさんに伝えていきたい、それが坂本くんのこだわりなんです。
――企画から選曲の話まで出てきましたが、次にステージで見せる作業の話を。ここから形にしていく際に、菅野さんがこだわったこととは何ですか?
菅野:もうタイトル通りなんです。坂本くんの「立ち姿」を見せたいんです。今回の一つの特徴でもあるんですが、巷で流行っているミュージカル・コンサートって、最初から大勢の出演者がいたり、日替わりのゲストがいて、そのゲストと一緒に歌ったり…っていう形式が多いと思うんです。正直なところ、最初その演出も考えていたんですが、ふと気が付いたんですよ。「あれ?坂本くん一人でいいんじゃない!?」って。元々、坂本くんが「舞台のセンターに立ち続けている男」っていうイメージ、その「立ち姿」を見せつけたいっていう思いがあったんだから。一人で頑張ってもらおうと決断しました。ただ彼を助ける意味でも、彼と今まで舞台を作ってきた「仲間」は必要だから呼び集めようと、ときには彼とデュエットしたりコーラスもするしダンスも踊る、すべてのシーンでバックアップするメンバーを10人オーディションで選びました。彼らが出演することでより一層坂本くんが映えて見えることを狙っています。ここも見どころですね。
――ちなみに坂本さんご本人の「今」は?
菅野:やはり一人で全部やらなければならないから、苦労もしていると思いますが、でも一方でそれを楽しんでいるような気もします。どこかでいつもより気楽に感じているところがあると思うんです。
普段のミュージカルで「座長」でいるときは、カンパニーを引っ張っていかなければ、という気持ちが先に立つと思うんだけど、今回は百戦錬磨の10人が頼りになるし、みんなが坂本くんを押し上げようとしている。その部分では彼は今回気を使わないでいられると思うのです。
とはいえ、20曲もの膨大な楽曲を覚えなければならない。普通、全部覚えてないですよ。2001年の「フットルース」の歌を全部覚えているかっていうと覚えていないですよ。覚えなおす、新たに自分の中に入れていく、っていう作業が必要になるのでイチからミュージカルを作る状態に近いと思います。だからアタマとカラダが一緒になるまでは必死にもがく。もうしばらくの間、もがくでしょうね。でも、あと少ししたらバンドが入ってきますし、そうなったらもうやるしかない、って気持ちになりテンションも上がるから状態もぐっとよくなるでしょうね。
――今回、菅野さんが特に観たいと思った演目は何ですか?
菅野:やっぱり自分が演出した「フットルース」です。そして「ボーイ・フロム・オズ」。実は昨日「フットルース」のシーンを初めて通してみたんですが、ああ20年近く経つとこういう「フットルース」になるんだって感じました。僕自身「フットルース」という作品に思い入れが深いんです。あのころ坂本くんも30代に入ったばかりで、ブロードウェイミュージカルを初めてやることになり、かつ初めて主演する作品だったから。坂本くんをはじめ、周りのメンバーも若かったし、前からステージを観ていると、自分に突き刺さるようなエネルギーを感じていました。でも今回、周りにいる10人もそれなりにキャリアのある人たちなので、坂本くん含めてやみくもに若いだけじゃない顔ぶれ。そうしたら、突き刺さるというより円熟味を帯びたロックサウンドになっていたんです。それを観ながら「うわああ」って感動したんです、「いいなあ」って。それを素直に伝えたら、坂本くんは「いちばんグサッと刺さることを言われた(笑)」って。でも「それでいいんだよ!」って思うんです。アーティストの円熟度が伝わるなんてすごい感動的でした。そういう坂本くんを随所に見てもらえると思います。
――「フットルース」で出会った頃の坂本さんと今の坂本さん。年月とともに変わったところはありますか?
菅野:彼は最初から変わらない。最初から大人でした。だから今、一緒にやっていると「あの頃、あの年であんな事をやっていたなんてすごかったんだな」って改めて思います。ものすごく頑張っていたんだなって。今は楽な部分、余裕を感じられる部分も出てきたと思うけど、それでもあえてそれを見せないんです。取り組む姿勢も何も変わらない。彼の他の作品の稽古場もときどき観てましたが、なんでこんなにまじめでストイックなのかなって思います。その姿勢は全く変わってないですね。
――坂本さんには、いつかブロードウェイの舞台に出てほしい、と思っているのですが…。
菅野:先日、渡辺謙さんも出ましたしね。坂本くんもそういう素材ですよね。ポピュラリティなところ含めて可能性は十分ありますよね。
菅野こうめい
――さて、オーチャードホールでの本番が徐々に近づいておりますが…ファンの間では、当日どんな格好で行けばいいのか、悩んでいる声もあるようです(笑)
菅野:オーチャードホールだからといって、そんなに気取ってやっているつもりはありませんが、そもそも「劇場」って本来おしゃれな場所で、日常と違う時間を過ごすところ。ドレスアップしてくる必要はないけれど、自分にとって「とっておき」、それがセーターでもデニムでも、そういったものを身に着けて出かけてみてはどうですか?
ちょっとだけおしゃれすると気持ちもおしゃれになるでしょ?「心をおしゃれに」してくればものすごく楽しいと思います。
――彼氏との初めてのデートの服装くらいのおしゃれ度?
菅野:そうそう、そのくらいで十分。
でもたぶんオーチャードホールに初めて入ったときはビビると思いますよ(笑) 分厚いカーテンのような大きな緞帳があって…初めて入るお客様にはぜひ天井を観ていただきたいです。その高さとか、シャンデリアのようなライトとかね。お客様もきっと緊張するだろうから、オープニングからしばらくしたら緊張が解けるような構成にしたいと思ってます。
おしゃれでカッコつけた坂本くんから始まりますが、そのうちいつもの坂本くんも出てくるので安心してください!(笑)
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最近は、「(菅野が手掛けた)あの作品を見てこの仕事に就きました」「あの舞台を観て今ここにいます」と同業者からも言われることが多くなったという菅野。
「ああ、ちゃんとやらなきゃな、と今更ながら思います。やっているときはそんなことは思ってないんですけどね」そう笑いながらも「手掛けた作品でいちばん印象に残る作品は」と聞けば「どの作品も全力でやりきるし、だからこそ愛しすぎて選べない。すべてですね」と即答。今回の「ONE MAN STANDING」もそんな愛しい作品の一つとなりそうだ。
『ONE MAN STANDING』」
■日時:2016年2月5日(金)~7日(日)
■会場:Bunkamuraオーチャードホール
■出演:坂本昌行
■構成・演出:菅野こうめい
■音楽監督・編曲:羽毛田丈史
■公式サイト:http://www.s-oneman.com/