上野耕平&反田恭平、初共演で “サンデー・ブランチ・クラシック”にカムバック!

レポート
クラシック
2016.4.8
反田恭平(ピアノ)、上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

反田恭平(ピアノ)、上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

ついにこの日がやってきた。上野耕平&反田恭平が初共演。
第17回 “サンデー・ブランチ・クラシック”2016.3.6ライブレポート

昨年12月に明かされていた共演が、ついに実現する日がやってきた。あっという間に予約が埋まったこの公演、この日を指折り数えて待っていた方も多いのではないだろうか。超満員となったLIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplusで開催された第17回「サンデー・ブランチ・クラシック」には、クラシックサクソフォン奏者の上野耕平と、ピアニストの反田恭平が登場した。

定刻になり、まず最初にステージに現れたのは反田。これまで、第1回と第3回の「サンデー・ブランチ・クラシック」に登場してくれている反田だが、カフェに導入された新しいグランドピアノでの演奏は初めて。ピアノの感触を確かめるように爪弾くと、やがてリスト作曲『ラ・カンパネラ』を奏で始めた。一音一音が際立つような、繊細ながら大胆なタッチ。トリルが美しいさざ波のように寄せては返し、やがて激しく波打つメロディに、カフェの空気は一気に高揚した。

反田恭平(ピアノ) (撮影=岡崎雄昌)

反田恭平(ピアノ) (撮影=岡崎雄昌)

「皆さん、お久しぶりです。今日は結構な曲数を演奏するので・・・ちょっと巻いていこうかなと」と、挨拶早々に上野を呼び込んだ。拍手に迎えられ登場した上野は「本日はこんなにたくさんの方にお集まり頂けて嬉しく思います」と客席に笑顔を向けた。

「反田くんのものすごい演奏のあとに、何を演奏しようか考えまして。今日はちょっと変わったことをお楽しみ頂けたらなと思い、ピアノには絶対に出せない音を出そうと思います」という上野。頭の上に"?"を浮かべる観客に、上野は「皆さん、微分音って知っていますか?」と問いかけた。

微分音とは、半音より狭い音のことを指す(クォータートーンともいう)。「ドとレの間には、ド♯がありますよね。実は、このドとド♯の間にも音があるんです。ちょっと出してみますね」と実践して聞かせてくれる上野。ほんの少しの変化だが、表情が変わる音がする。「次の曲は、この微分音を使って作られた曲をお届けしたいと思います」と披露してくれたのは、テュドール作曲『クォーター・トーン・ワルツ』という曲。

上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

この曲、メロディの中に微分音が存分に使われている。その音が、曲にちょっと笑ってしまうような道化の表情を持たせ、不思議な感覚を生み出す。さらに、スラップ・タンギングや重音奏法など、上野の演奏テクニックでサクソフォンという楽器の魅力を聴かせ、存分に楽しませてくれた。演奏を終えた上野が反田に「微分音出せますか?」と聞くと、反田からは「いや、出せないでしょ!」とツッコむ一幕も。

いよいよ、ここからは二人の共演!これまで何度か音を合わせたことはあるそうだが、人前で演奏するのは初となる。「ちょっとドキドキしています」と胸を押さえる反田に、ニコニコと笑顔を向ける上野。そんな二人が、初共演の最初に選んだ曲は、J.マティシア作曲『デビルズ・ラグ』。

反田恭平(ピアノ)、上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

反田恭平(ピアノ)、上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

この曲・・・滑り出しから、走る走る!自然と一緒にリズムを取りたくなってしまうような軽快なメロディと、サクソフォンとピアノの掛け合いが生み出す音のキャッチボール。時折、お互いの顔を見合わせながら、呼吸を合わせ・・・そして、仕掛ける!どんどんヒートアップしていく仕掛け合い!!同じ曲ながら1部と2部ではまったく違う曲に聞こえるぐらい、熱い演奏が繰り広げられた。

曲が終わると、客席からは割れんばかりの拍手が贈られ、本人たちもとても楽しそうな表情。この曲を演奏しようという提案は上野からだったそうで、「この曲の譜読みをした時、すごくびっくりした」と振り返る反田。「弾きづらいなと思うところもあって、そこは音を足しちゃおうかな~とか思ったり・・・」と明かすと、上野は「そう思えるのがすごいよね」とその才能に称賛の言葉を贈る。すると、「いや~、でも弾けないと負けてる感じがしてムカムカしちゃって」と、まだ21歳の若者の素顔が覗き、会場は和やかな笑いに包まれた。

反田恭平(ピアノ)、上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

反田恭平(ピアノ)、上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

続いての演奏は、ピアソラ作曲『リベルタンゴ』。絡み合うメロディがセンチメンタルに響き、ピアノとサクソフォン、それぞれの音がタンゴを踊るように駆け引きを見せる。この曲でも、誘うように仕掛けあう二人。ドラマチックに展開する旋律が、より熱を帯び情熱的な演奏でカフェを染め上げた。

反田恭平(ピアノ) (撮影=岡崎雄昌)

反田恭平(ピアノ) (撮影=岡崎雄昌)

上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

上野耕平(サックス) (撮影=岡崎雄昌)

もちろん、拍手は鳴りやまない。アンコールに応えてくれた二人は、もう一曲、モンティ作曲『チャルダッシュ』を披露してくれた。この曲は、12月に上野が出演してくれた際にも演奏してくれたが、その時とはまた違う表情で聴かせてくれた。のめり込むように弾く反田、大胆不敵に自由に吹き上げる上野。才能と才能、個性と個性が相乗効果で生み出す爆発的なエネルギーを、存分に楽しめる30分となった。

上野耕平、反田恭平 サイン会の様子 (撮影=岡崎雄昌)

上野耕平、反田恭平 サイン会の様子 (撮影=岡崎雄昌)

演奏を終えた二人を直撃すると、二人とも高揚感に溢れた様子で、初共演の感想を語ってくれた。「めっちゃ楽しかったです。ライブ感満載!リハと全然違いましたね」と上野が言うと、「なんか、上野さんが仕掛けてきたんですよ!」と反田が演奏中の様子を振り返った。「仕掛け癖があるの(笑)」と笑う上野に、「仕掛け返しました!」という言い返す反田。そのやりとりは、エキサイティングな演奏そのものながら、青年二人の等身大な姿を感じさせてくれて、なんだか安心する。

今回演奏する曲については、「彼(反田)と演奏することを考えた時に、僕の中でパッと浮かんだのが、今日共演した曲たちだったんですね。やってみたら、案の定ぴったりでした」と選曲がぴたりとハマったと上野は満足げ。クラシックを中心に活動してきた反田は、今回のような曲はあまり演奏したことのなかったそうで、「クラシックだと、ああいう裏拍が大事になるような曲はなかなかないので、逆に新鮮でびっくりしましたけど(笑)。すごく勉強になりましたね」と語っていた。

ちなみに、上野から最初に『デビルズ・ラグ』を提案されたのは居酒屋だったらしく、「周りの音で、メロディぐらいしか聞こえなくて。“いいんじゃないですか?”って軽く答えたら、結構大変でした(笑)」と反田は笑っていた。

上野耕平(サックス)、反田恭平(ピアノ) (撮影=岡崎雄昌)

上野耕平(サックス)、反田恭平(ピアノ) (撮影=岡崎雄昌)

最後に、「本当に、今日はこんなにたくさんのお客様に来て頂けて感激です。それぞれの作る世界、二人がぶつかり合う瞬間の初お披露目を、皆さんとともに出来て本当にうれしく思います。またぜひ聞きに来てください」(上野)、「これまで、第1回、第3回にソロで出させて頂いた時とはまたちょっと違ったアグレッシブな音楽をお届けしました。この、皆さんと身近に音楽を共有できるこの空間を大事に思っていますので、また呼んで頂けたらなと思っております」とそれぞれメッセージを贈ってくれた。

反田恭平(ピアノ)、上野耕平(サックス)、 (撮影=岡崎雄昌)

反田恭平(ピアノ)、上野耕平(サックス)、 (撮影=岡崎雄昌)

ほとばしる若き才能がぶつかり合い、熱い熱いライブが繰り広げられた3月最初の日曜日。幸運にも目撃した方の記憶に、色濃く残る時間となったのではないだろうか。ぜひまた二人の「サンデー・ブランチ・クラシック」への登場を期待したい。
 

撮影=岡崎雄昌 文=友成礼子

プロフィール
上野耕平(サックス)

1992年生まれ。茨城県東海村出身。
8歳から吹奏楽部でサックスを始め、東京藝術大学器楽科に入学。これまでに須川展也、鶴飼奈民、原博巳の各氏に師事。
第12回ジュニアサクソフォンコンクール第1位、第7回日本ジュニア管打楽器コンクール金賞、同第10回金賞、など数々の賞に輝いたのち、第28回日本管打楽器コンクールサクソフォン部門において、第1位(史上最年少)ならびに特別大賞(内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、東京都知事賞)を受賞。2014年11月、第6回アドルフ・サックス国際コンクール(ベルギー・ディナン)において、第2位を受賞。現地メディアを通じて日本でもそのニュースが話題になる。2012年2月から3月にかけて、師である世界的サクソフォン奏者須川展也氏の「須川展也EXツアー2012」にゲスト出演し全国各地で共演。高評を博する。スコットランドにて行われた第16回世界サクソフォンコングレスでは、ソリストとして出場し、イギリス王立ノーザン音楽院吹奏楽団と、ピット・スウェルツの難曲、「ウズメの躍り」で共演。世界の大御所たちから大喝采を浴びた。その他、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」への出演、テレビ朝日「題名のない音楽」収録ではマルタン作曲「サックスと管弦楽のためのバラード」(山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ)を熱演し、2015年9月の日本フィル定期公演に抜擢された。このサントリーホールでの2日間の公演は、クラシックサックスの可能性が最大限に引き出され、好評を博す。
サクソフォンカルテット《The Rev Saxophone Quartet》ソプラノ・サクソフォン奏者、ぱんだウインドオーケストラコンサートマスター。

反田恭平(ピアノ)

1994年札幌市生まれ、東京都出身の21歳。
2012年 高校在学中に、第81回日本音楽コンクール第1位入賞(高校生での優勝は11年ぶり、併せて聴衆賞を受賞)、毎日新聞社主催による全国ツアーで好評を博す。2013年、桐朋学園大学音楽学部に入学するも、同年9月M.ヴォスクレセンスキー氏の推薦によりロシアへ留学。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席(日本人初の最高得点)で入学。2014、15年度(財)ロームミュージックファンデーション奨学生。2015年5月「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。2015年9月11日には、東京フィルハーモニー交響楽団定期への異例の大抜擢を受け、ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 を(指揮:Aバッティストーニ)熱演し、満員の会場で大きな反響を呼び、同月27日は、新日本フィルハーモニー交響楽団と「フレッシュ名曲コンサート」にてチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(指揮:円光寺雅彦)を演奏し観客を魅了した。12月にはコンチェルトとリサイタルでマリンスキー劇場デビューを果たす。2016年1月のデビュー・リサイタルは、2000席が完売し、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた。ピアノはタカギクラヴィア株式会社のサポートを受け、ホロヴィッツが愛奏したヴィンテージ・ニューヨーク・スタインウェイを弾く。
現在、M.ヴォスクレセンスキー、S.・クドリャコフ、A.ガマレイ各氏に師事し、ロシアを拠点に国内外にて演奏活動を意欲的に行っている。

 

公演情報
◆上野耕平(サックス)出演
 須川展也 サクソフォン・リサイタル


日時:2016年8月21日(日)
会場:鎌倉芸術館 大ホール (神奈川県)
出演者:須川展也、國末貞仁、福井健太、山田忠臣、上野耕平(サクソフォン) 、小柳美奈子(ピアノ)

<曲目・演目>
カッチーニ(朝川朋之編):アヴェ・マリア 
ブルーベック(挾間美帆編):トルコ風ブルー・ロンド 
石川亮太: 「銀河鉄道の夜」 
チック・コリア(本多俊之編):スペイン 
ほか

 

反田恭平(ピアノ)出演
 3夜連続ピアノコンサート​


日時:2016年8月30日(火)~9月1日(木)
会場:浜離宮朝日ホール (東京都)
出演者:反田恭平(ピアノ)

<曲目・演目>
8月30日(火) ~ドイツ~
バッハ:パルティータ 第2番 BWV 826
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 op.13 「悲愴」
ブラームス:ピアノ・ソナタ 第3番 へ短調 op.5  

8月31日(水) ~フランス~  
リスト:詩的で宗教的な調べより第7番「葬送」 
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 op.31 
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第9番 ニ長調K.311 
ラヴェル:夜のガスパール  
9月1日(木) ~ロシア~ 
スクリャービン:幻想曲 ロ短調op.28 
ラフマニノフ:絵画的練習曲 op.39 より抜粋 
ストラヴィンスキー:ペトルーシュカより「ロシアの踊り」 
ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第2bな 変ロ短調 Op.36 

※止むを得ない事情により曲目等が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

◆「サンデー・ブランチ・クラシック」今後の出演予定

4月10日(日)
林そよか/作曲・ピアノ
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE: \500

4月17日(日)
松田理奈/ヴァイオリン & 中野公揮/作曲家、ピアニスト
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE:500円

4月24日(日)
前川ひろみ/ヴォーカル
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE: \500


公式サイト:http://livingroomcafe.jp/
 
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