三宅裕司×松下由樹が「笑い」を真剣に語る! 熱海五郎一座 熱闘老舗旅館『ヒミツの仲居と曲者たち』
(左から)松下由樹・三宅裕司
熱海五郎一座の公演 熱闘老舗旅館「ヒミツの仲居と曲者たち」が、6月3日(金)~27日(月)まで、新橋演舞場にて上演される。13年目となる今年は、ゲストに松下由樹と笹本玲奈を迎えることになった一座。そこで、座長・三宅裕司と松下由樹にこの舞台への想いを聞いてきた。
――初めての公演から13年目に入られる今回、振り返ってみていかがですか?
三宅: これだけのメンバーが集まると、みんな笑いの第一線でやってきた人ばかりなので、自分の笑わせ方を持っているんです。最初の頃はその人の笑わせ方に任せる脚本作りをしていたんです。例えばコント赤信号からリーダー(渡辺正行)とラサール石井がいるところは二人に赤信号っぽい笑わせ方を、昇ちゃん(春風亭昇太)には落語っぽい笑わせ方…みたいなことが多かった。ただ、それをやっているとなんだか笑いが一つじゃないな、これだけ多様化している中で熱海五郎一座をお客様がなぜ選ぶのか、が明確じゃなくなってくる…つまり熱海五郎一座の笑いというものが何なのかがぼやけてしまうので、何年目からだったか、作家と僕で作ったものをきっちりやってもらう方向性にしました。皆さんの得意分野の技術を見せるのは別で一人のときにやってもらい、この一座に来たときは一座の中にハマるみなさんの腕を見せてくれ、というようにしたんです。
――軽演劇って観るのとやるのとでは大違い、かなり難しい、という話をよく聞くのですが、できるだけ多くのお客様を笑わせるためにどんな工夫をされているんですか?
三宅: 幼稚園児からお年寄りまでが同時に笑うってことを目指すと、「大衆的な笑い」というものになるんです。それって何か?というと「わかりやすい」ことなんです。おそらくわかりやすい笑いというのはTVの世界ではちょっと古い笑いになると思います。もうちょっととんがっている笑いのほうがTVの最先端をいく笑いになると思うんですけど。この一座がやるのは「わかりやすい笑い」だと思うんです。わかりやすい笑いの中にどれだけリアルな人間っぽい設定を入れられるか。そのためにストーリーがある。よく、「ハートフルコメディ」と言うのがありますが、それはきっと「笑い」を「要素」として使って人間ドラマの感動を目指すのですが、この一座はテーマが「笑い」ですから、「笑い」のためにストーリーを使うんです。
三宅裕司
――その一座に今回松下由樹さんと笹本玲奈さんがゲスト出演することになりましたが、松下さんのコメディエンヌとしての才能は?
三宅: 今日こうやっていろいろな方の取材を一緒に受けているうちに、思っていたことが確信に変わったと思っています。喜劇は「シリアス」なんです。表現としてね。でも心のどこかに「笑ってもいいんですよ」という思いがあってそんな空気を漂わせながらシリアスにやればやるほど面白い。松下さんはそこをわかっている人なんだろうなと思います。
松下: 本番が始まってお客さんがどう見てくれるかにかかっていますが、そもそも「笑い」という観点からお芝居をやってきた訳ではなく、純粋に芝居をして、化学反応で笑いが起こる、自分で笑わしにいくんじゃなくて何かこう真剣にやっていることがずっこけて見えたり、マジメにやればやるほど周りが笑っちゃうストーリー展開になるとか、そういう風にやってきました。そうはいってもどのようにできるのかは稽古から積み上げていかないと、と思っています。
松下由樹
三宅: 「笑い」の話をするときによく言うんですが。あるお婆さんが、生きていても仕方がない、死のうと思って首を吊る縄を作って、部屋の上の梁にかけようとするんだけど、婆さんだからどうしても縄が梁にひっかからない。無言で30分ひたすら縄を梁にひっかけようとしているんです。最初は悲しいんですが…。
松下: 観ているうちに生命力が出てきそう!(笑)
三宅: 最後爆笑になっていく。でも決して笑わそうとしているんじゃないんです。そこは真剣にやる訳だしね。そのうち首が疲れ、腰も疲れいろいろなおかしさが出てくる。それって笑わせようとしているんじゃなくて、リアルにやっているからおもしろい。こういう取材を受けて笑いを言葉にして分析していくとすごい難しいことのようになっちゃうんですが、ただやることは作家が書いてきた台本をどんだけリアルにできるか、だけなんですよね。そこまで台本を練ろうと思ってやっています。
――となると、この作品の中ではいわゆる「アドリブ」はないのでしょうか? 観客としてみていると、この場面は日替わりのアドリブなんじゃないか? って思うくらい自由さを感じるところがあるんですが。
三宅: アドリブはないですね。ないのですが、稽古場で気持ちよくなってポンと出てきた言葉が「それ、いいね!」ってなって台本に取り込まれたりはしますよ。「これ、いいかも! じゃ5分休憩」…で作家と、「今のやりとりを入れるためにはこの前のフリをこうしたほうがよりおもしろくなるね、じゃこうしよう」って。あと、もっとアドリブっぽい表現の方が面白いと思った時はアドリブに見せるような稽古をすることもあるかもしれませんね。
(左から)松下由樹・三宅裕司
――レギュラー陣の一座の皆さまについて。この人は油断ならない、何を出してくるかわからないって方はいらっしゃいますか?
三宅: 全員そうですけど(笑)。みんな笑いのプロですから。本人が気持ちよくやっていて稽古場でもウケているんですけど、次の場面のためにはシリアスにやってほしい、その人が笑わせようとしてやっていることを「笑わせるな」というダメ出しをするときはものすごく気を使いますね。ここが面白すぎると、こっちが生きなくなるからちょっと抑えよう…って。だからといって萎縮して、常に台本通りやらなきゃ、と思われるとこれまたつまらないんです。隙あらば、隙あらば、と思っているこのスリリングな稽古場じゃないとおもしろくないですよね。そこの舵取りと整理整頓は誰に対しても大変ですね。
三宅裕司
――となると、笑いのプロではない、松下さんや笹本さんへの演技指導は…
三宅: 「ここは強く言ってください」とか、「ここはちょっと間をあけてください」って、ごく普通に。「なぜですか?」といわれて「笑い待ちです」とは言いたくない。そういっちゃうと「笑い待ちの気持ちで待ってください」ってことになっちゃうから。「ここは相手に言われたことがショックで頭の中で繰り返して考え直して、また腹が立ってもう一回言うための間です」って伝えますね。そうすると自然な笑い待ちの間になって見えるんです。そうすることで、隙のない「お芝居のための間」となるんです。
――松下さんの役は裏がある設定、とのことですが、何か今の段階でちらっと語れることはありますか?
松下: お話の内容は聞いておりますが、、ヒントもまだ言えないですね。
三宅: その裏のネタがラストに感動をもたらす伏線になっていますから。本当は仲居になりたくてここに来たんじゃないっていう…。
松下: 人間ドラマというか、その事を最後まで隠しながらいるというのもすごくおもしろいなって思いまして、どんな脚本で、それまでどうだったのか、どんなキャラクターでいればいいのか、どう演じるんだろうか、というのを考えています。
三宅:ここがすごい難しいんですよね、喜劇って。ラストの感動のためには隠しておきたいんですが、「わからないこと」って笑いにつながらないんですよ。「なんでこの人ってこうしたんだろう」そのひっかかっていることがお客さんの中にあると「笑い」は小さくなるんです。だからストーリーを引っ張ってラストの感動に持っていく伏線とわかりやすい笑いのバランスが難しいですね。実はその「秘密」には笹本玲奈ちゃんも関わっているんです。
松下由樹
――松下さんといえば、昔はダンスもなさっていたそうですし、今回その片鱗を拝めるのか、と期待しています!
松下: いやいや、ええっと…仲居の恰好をしていますしねー。この姿でどう踊るんだろうと。
三宅: これからいろいろ細かいところを詰めていくんですが、まあ、軽演劇ですからねえ(ニヤニヤ)。黒子が出てきて松下さんの衣装を引き抜いてダンス衣装にするって手もありますしね。
松下: おおお、すごすぎる!
三宅: 黒子も一緒に踊りながら出てくればいいんだから(笑)
――ちなみに旅館という設定ですが、ステージ上で入浴シーンは出てきますか?松下さんが、笹本さんが…とみせかけて他の方の入浴シーンとか…!新橋演舞場で上演される作品では、本水を使うものもよくありますし!
三宅: ないです(即答)。 熱闘老舗旅館の「熱闘」って「熱湯」じゃないから! 「闘う」だから! …本水はもっと後にしましょうかね(笑)
(左から)松下由樹・三宅裕司
取材・文=こむらさき