Patch『磯部磯兵衛物語』衣装付き通し稽古で候!
出演者せいぞろいのオープニング 撮影:吉永美和子(このページすべて)
「処す?」となる心配ご無用! 脱力系ギャグ漫画が熱さと笑い満載の歌劇に。
以前もニュースを掲載したけれど、浮世絵風のタッチで描かれた独特の世界観で人気の時代劇ギャグ漫画『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~』が、大阪の俳優集団「Patch」によって舞台化! いわゆる「2.5次元ミュージカル」など、マンガやアニメの舞台化が流行中の昨今、まさかこんなグダグダでくだらない(褒めてます)漫画を、よりによって歌劇のスタイルで2.5次元化するとか。原作の仲間りょう先生じゃないけど「一体編集部は何を考えてるんだろう」(チラシより)状態だ。その問題作の、本番用の衣装を付けた通し稽古が行われるというので、早速足を運んで参りました。
団子屋の看板娘(鎮西寿々歌)と磯兵衛(井上拓哉)に一体何が…?
舞台は(多分)江戸時代。立派な武士になることを目指して、武士道学校に通っている磯部磯兵衛(井上拓哉)は、息子を過信する母上(中山義紘)に見守られ、級友の中島(星璃)・高杉(村川勁剛)・花岡(吉本考志)らとつるみ、団子屋の看板娘(鎮西寿々歌)に恋心を抱き、暴れん坊の志賀大八(岩﨑真吾)にケンカを売られたりしながら、のんびりダラダラと生きている。しかしある日、学校の先生(川下大洋)の号令で、みんなで高尾山まで地獄の修行に行くことに。そこに忍びの者学校生徒の服部半端(松井勇歩)、平賀源内(三好大貴)が発明したロボット宮本武蔵(竹下健人)までが絡んできて、修行はまさに「地獄」の様相を呈していく…。
磯兵衛がロボット宮本武蔵(竹下健人←朝ドラ『あさが来た』の弥七役!)と対決!!
…などといかにも原作に詳しいような説明をしてみたけど、実は筆者、諸事情ありまして、原作漫画をこの試し読みでチラ見しかしてない状態で通し稽古を拝見。しかしだからこそ、「原作を読んでなくても充分面白い!」と、胸を張って言える次第だ。磯兵衛と母上の、当人たちは真剣だけど傍から見たら大変どうでもいい春画(江戸時代のエロ本)のやり取りで幕を開けたと思ったら、主に磯兵衛の見栄っ張りとカン違いと妄想から巻き起こる騒動を、無駄にクオリティの高い歌と踊りと体を張ったギャグで盛り上げる。一曲まるまる煩悩や筋肉について歌い上げるとか、母上演じる中山義紘が一瞬美輪明宏に見えるようなソロパートがあったりとか、メタ演劇的な要素が入った(つまりは役者たちが素に戻った)スリリングなボケツッコミが続くとか…。前回の『幽悲伝』(稽古レポートはコチラ)で、王家の兄弟をめぐるシリアスな青春物語を演じたのとは、とても同じ劇団と思えないぐらい、最初から最後まで熱さとバカバカしさのオンパレードだ。
舞台は江戸時代なのに、なぜか某キングオプポップを彷彿とさせるダンスが…。
とは言っても、いい加減に作られているなんてことは決してない。時代劇らしく歌舞伎の様式を取り入れた演出や演技が随所で光る(実はPatchメンバーは『白浪クインテット』で歌舞伎調の芝居は経験済み)上に、ベテラン俳優ならではの貫禄を見せまくる川下や、癒し系の容姿に反して大胆な笑いもこなしてみせる鎮西らが、ギュッと要所を締めていく。スタッフもふくめた全員から「くだらないことを本気でやってみせる」という心意気が伝わり、通し稽古の段階ながらも何度も本気で笑わされ、そしてクライマックスでは意外と本気でハラハラさせられた。
服部半端(松井勇歩)がピンチ! この後、母上(中山義紘)まで乱入して大変なことに…!
ちなみに通し稽古の直後に、稽古場に置いてあった原作漫画を読ませていただいたら、いろいろなエピソードが予想以上に原作通りだったことにビックリ! 磯兵衛と大八の対決(?)シーンも、漫画のコマを「ここまでやるか」レベルで忠実に再現していて、作・演出の末満健一の原作のリスペクトぶりが、これだけでもしっかりと伝わった。しかしその一方で、原作では一コマしか登場しないキャラクターがとんでもない使われ方をされていたり、高尾山のエピソードではちょっとした変更が加わっていたりもする。おそらく原作ファンは、漫画そのままのシーンが再現されていることに感動したり、「人間が演じたらこういう風になるのか!」という嬉しい誤算と発見を、上演中に何度も楽しむことができるのではないだろうか。またアニメ版のファンならば、ナレーションをアニメと同じ坂本頼光が担当しているだけでも、安心感が違うはずだ。
いらんほど気合の入ったサービスシーンも盛りだくさん!
現時点でもかなりクオリティは高いけど、稽古後には「まだまだここからもっと面白くします!」と口々に宣言してくれたPatchの面々。月並みな締め方になってしまうけど、本番ではここからどこまでボルテージが上がっているのかが、お世辞抜きで楽しみでしょうがない。そして今一番気になっているのは、劇中歌の『筋肉ええじゃないか!!』(←実は原作にちゃんと出てくる台詞だということを後で知る)が当分頭から離れなくなるんじゃないかということと、原作者の仲間がその再現度を絶賛したものの、本日の稽古には登場しなかった「熊本さん」が、本番ではどんな暴れっぷりを見せてくれるのかということだ。
■日時:4月20日(水)~25日(月) 14:00~/19:00~ ※20日=19:00~、23・24日=13:00~/18:00~、25日=12:00~/17:00~ ※24日昼公演は前売完売。20日、21日昼の回、22日昼の回は終演後、アフタートークイベントを開催。24日夜の回は終演後、Patchによるハイタッチ会を開催。
■場所:ABCホール
■料金:6,500円
■原作:仲間りょう(集英社「週間少年ジャンプ」連載)
■脚本・演出:末満健一
■音楽:和田俊輔
■出演:井上拓哉、中山義紘、星璃、村川勁剛、吉本考志、岩﨑真吾、三好大貴、松井勇歩、竹下健人、近藤頌利、有馬純、田中亨、藤戸佑飛、尾形大悟、山田知弘/竹村晋太朗(劇団壱劇屋)、坂本頼光(声の出演)、鎮西寿々歌、川下大洋(Piper)、ほか
■公式サイト:http://isobe-stage.com/