ACIDMANがアコースティックとロックの2部構成で惹きこみ圧倒した、ツアー追加公演

レポート
音楽
2016.4.28
ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

画像を全て表示(14件)

ACIDMAN LIVE Extra Show Second line & Acoustic & Rock 2016.4.24 NHKホール

暗闇に沈むステージに、大木伸夫が独りで現れる。アコースティック・ギターを抱えて椅子に座り、ルーパー・エフェクターを駆使して、ベースラインとチャイムを重ねる。何もなかった場所に音が生まれ、息をし始める。佐藤雅俊、浦山一悟がそっと位置につき、おもむろに刻まれるラテン風のビートに乗り、大木が歌いだす。曲は「イコール」。無から有へ、静寂から躍動へ、鮮やかなオープニング。4月24日、午後5時半、NHKホール。あまりの好評にプレミアム・と化した、アコースティック・ツアーの追加公演の開幕だ。

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

「せっかくの追加公演なので、ロックもやります。アコースティックは座って、ロックは立って。自由に楽しんでください」

今日のタイトルは『ACIDMAN LIVE Extra Show Second line & Acoustic & Rock』。前半は最新アルバム『Second line & Acoustic collection Ⅱ』からの曲を、演出を排して次々と披露してゆく。「±0」はクールでジャジー、「type-A」はサトマがアップライト・ベースで強靭なグルーヴをたたき出す。未知の方のためにひとこと。ACIDMANのアコースティックは、フォークソング的なものではない。アタック、グルーヴ、スピードを兼ね備え、ロックと何ら変わりない衝撃を孕む。音が少ないぶん、そのパワーをむしろダイレクトに感じ取れるほどだ。

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

「I stand free」は、壮大なロック・バラードの原曲が、一悟のしなやかなブラシさばきで、軽やかなカントリー調へと変身する。大木のギターもエフェクトを駆使した楽しげなものだが、希望のメッセージを伝える歌詞の重みはまったく不変。素晴らしかったのは「swayed」で、強力なパーカッション、タンバリン、うねるベース、かきむしるギター、ループと生音が分厚く重なる、アコースティック編成ではありえないエモいサウンドに度肝を抜かれる。高速ダンスビートの「HUM」では、大木のファルセットが神聖なものを感じ取れるほどに美しい。

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

続く「リピート」。2月のNHKホールではストレイテナーのホリエアツシが客演したが、「今日は来られません」と大木。イントロを爪弾き始めるも、おもむろに演奏をストップ。「やっぱりホリエくんのピアノがないと歌えないなー。実は来てるんです。ホリエアツシ!」 ステージに呼びこまれたホリエが、「そういうの、好きだねー」と笑う。なんともなごやかな演出だが、演奏は極めて質の高いもので、柔らかく弾むビートと、ホリエのピアノが奏でる乾いたロマンティシズムのバランスが見事。1曲ではもったいない。いつかライヴ丸ごと、一緒にやってくれないだろうか。

ホリエアツシ  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ホリエアツシ  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN/ホリエアツシ  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN/ホリエアツシ  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

終盤には大曲が並んだ。独りで弾き語った「季節の灯」、そして「ALMA」を歌う前には、大木が歌詞に込めた思いを丁寧に解説する。138億年前に生まれた宇宙のこと。僕たちにはいずれ終わりが来ること。だからこそ今を大切に生きること。ACIDMANはデビュー当時から、ずっと同じことを歌い続けている。どの曲も組曲のようにつながっている。アコースティックならではの、そしてアコースティックからはみ出した豊かな音の冒険に身を浸しながら、“伝えたい思いをはっきりと持つバンドは強い”と思う。ラストは「FREE STAR」。ギターのフレーズは原曲とほぼ同じだが、アコースティックのおかげでより浮遊感を増した、光を目指して進む希望の言葉。いい曲は、どんな形でも、いい曲だ。

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

午後7時30分。おなじみのインスト「最後の国(introduction)」が流れ出す。熱狂。歓声。沸き上がる手拍子。いきなりのテンションMAX、すさまじい爆音で「World Symphony」が始まる。第二部、〈Rock〉パートのスタートだ。背後のスクリーンに、逆向きに激しく振る雪のような映像が流れだす。続いて「アイソトープ」。ロック・スタイルでのライヴは4か月ぶり、今年初ということだが、溜めていたものがあったのだろう。音の振り切れ方がハンパない。

「アコースティック・ツアーが楽しくて、ずっとこのまま落ち着いた感じで、ナイスミドルを目指そうと思ったんだけど(笑)。やっぱりロックもいいね。一つになりましょう」

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

春めいた輝きあふれる「式日」、明るいダンスロック・チューン「migration10 64」、柔らかい包容力に満ちた「アルケミスト」。ふんわりと立ち上がるドリーミーなギター・エフェクトが効いている。「Slow View」はクールでサイケデリックなインスト。そして何と言っても素晴らしかった「2145年」。サトマがラップトップとキーボードに回り、淡々と繰り返すループがやがて壮大なラウドロックへと進化してゆく、ドラマチックな大曲。SF的世界観を持つ壮大な歌詞の世界と、精密な音作りがぴたりと重なる。「造花が笑う」は久々に聴いた気がするが、猛烈な音圧にいつ聴いても圧倒される。ACIDMANはデビュー当時から、何一つブレてはいない。

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

「Stay in my hand」から「ある証明」へ。猛烈にラウドだが、シューゲイズ的なナイーヴさを含んだみずみずしい音空間。これぞACIDMAN。残すところはあと1曲。ここで大木が、激情をこらえるようにして語りだす。「また震災が起きてしまいました」。九州のこと。そして5年前の東北のこと。僕らはいつ終わるかわからない。争う時間はもったいない。楽しい日々を一秒でも長く過ごしたい。大切な人と笑っていられれば、いい人生だと思う。――思いを込めた独白のあとに歌った「世界が終わる夜」の、なんと美しかったことか。終わりがあるから、僕たちは今の大切さを知る。言葉で、音で、態度で、行動で、ACIDMANは誰よりも鮮明に、一つの指針を示してくれている。

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

アンコール。「せっかく立ってもらったけど、最後はアコースティックでもいい?」と前置きしたあと、披露したのは、リリース未定の新曲だった。大木のアコースティック・ギターと歌を中心に置いた、シンプル極まりない曲。約2年前、祖母の死を目前にして、思ったことを描いたという歌詞が胸を打つ。命はつないでゆくもの。大木のメッセージは明確だ。そして最後は「Your Song」。軽やかなビートと、伸びやかな歌。エモーショナルに満ちた長いライヴを締めくくる、ほっと息をつくような解放感。

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

なんと、合計3時間半。まったく違うスタイルのライヴを2本ぶんやったのと同じ、とんでもないパワーだが、ひとつ気づいたことがある。アコースティックも、ロックも、バンドが発散するエネルギーはまったく同じだった。ピアニッシモからフォルテッシモまで、すべての音の中にみなぎる生命力。10数年聴き続けてきたが、やはりACIDMANは凄いバンドだと感動を新たにした特別な夜だった。


レポート・文=宮本英夫

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

ACIDMAN  Photo by Yukihide "JON..."Takimoto

セットリスト
ACIDMAN LIVE Extra Show Second line & Acoustic & Rock
 
1. イコール
2. ±0
3. type-A
4. REMIND
5. I stand free
6. スロウレイン
7. swayed
8. HUM
9. リピート
10. Under the rain
11. 季節の灯
12. ALMA
13. FREE STAR
14. World Symphony
15. アイソトープ
16. 式日
17. migration10 64 
18. アルケミスト
19. Slow View
20. 2145年
21. 造花が笑う
22. Stay in my hand
23. ある証明
24. 世界が終わる夜
[ENCORE]
25. 新曲
26. Your Song
 
※「migration10 64」の64は右上付きが正式表記。

 

リリース情報
ACIDMAN LIVE TOUR “有と無” Documentary film
 
発売日:2016年5月31日(火)
DVD:1枚組 PROV-3013 ¥4,000(tax in)
発売元:ユニバーサルミュージック合同会社
販売元:FREESTAR / ユニバーサルミュージック合同会社
シェア / 保存先を選択