庭劇団ペニノ大阪公演『ダークマスター』初日直前稽古場レポ

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稽古中の風景より。赤い帽子の男が作・演出のタニノクロウ。 [撮影:吉永美和子]

稽古中の風景より。赤い帽子の男が作・演出のタニノクロウ。 [撮影:吉永美和子]

ほんの10分でその異色さが伝わる、全身で“体感”する舞台。

小さな洋食店を舞台に、不条理な人間模様が繰り広げられる「庭劇団ペニノ」の舞台『ダークマスター』。脚本(原作は短編マンガ)・演出のタニノクロウもお気に入りの1つに上げる傑作が、関西の俳優&スタッフで固めた座組で改訂再演される。5月5日より初日を迎えるのを前に、その稽古場を訪問した。

稽古場兼会場の「OVAL THEATER」を訪れると、まず劇場のエントランスが、早速物語の舞台となる「キッチン長嶋」の扉に付け換えられている。その中に入ると、本物の洋食店と見まがうぐらいリアルなセットが出現していて、この時点で完全に物語世界に巻き込まれた気分になった。訪れた時は、ちょうど劇中映像用のシーンを、通しで演じている最中。偏屈なマスター(緒方晋)に「自分の代わりに調理と接客をしてほしい。料理の仕方は小型のイヤホンを通じて教える」と請われた男(井上和也とFOペレイラ宏一朗のWキャスト)が、客の前で手慣れた風に料理ができるようになってきたものの、途中でマスターから予想外の指令が入って戸惑う…という、最初の山場となるシーンだ。

稽古中の風景。上がFOペレイラ宏一朗、下が井上和也バージョン。 [撮影:吉永美和子]

稽古中の風景。上がFOペレイラ宏一朗、下が井上和也バージョン。 [撮影:吉永美和子]

今回の大きな改訂は、舞台を大阪にしたため、劇中の会話が関西弁中心になったことだ。カウンターに座る客もほとんどが関西弁で、中には男に向かって昨晩の阪神戦の感想を話し出すなど、関西の庶民的なお店なら「あるある」な風景も。オープンキッチンからは、鍋とコンロがぶつかる音、焼けた肉の煙、次第にただよってくる料理の匂いなどが伝わってきて、本物の洋食店の中にいるような気分になってくる。さらに本作の見(聞き?)どころは、舞台には姿を見せないマスターの指令を、観客も手元のイヤホンで聞くことができるということだ。それを聞くと、マスターが調理の手順や野菜の切り方などを指示し、男もちゃんとそれに合わせて動いていることがより明確になる。ここまで徹底的に臨場感を演出する芝居は、なかなかお目にかかれない。また耳元から聞こえてくる緒方の声が、静かだけど妙に逆らい切れないような響きがあってゾクッとする。このシーンはわずか10分程度のものだったが、これだけでもこの状況の異常性が存分に感じられ、相当に刺激的だった。

大阪が舞台ということで、お客の中にはお笑い芸人も。(左から)大石英史、杉田一起(エキストラ)、FOペレイラ宏一朗 [撮影:吉永美和子]

大阪が舞台ということで、お客の中にはお笑い芸人も。(左から)大石英史、杉田一起(エキストラ)、FOペレイラ宏一朗 [撮影:吉永美和子]

撮影の後は、ここから一ヶ月後となるシーンの稽古が行われた。お店はすっかり人気店となり、入れ代わり立ち代わりお客さんが入ってくる。この客たちのほとんどがエキストラなので、彼らへの演出が中心となった。とは言っても、タニノの演出は入店や食べるスピードなどの段取り面に終始し、それ以外の演技面は意外なぐらいにフリー。予想外の動きに笑いが起こったりはするものの、ダメ出しはほとんど入らない。Wキャストの井上とペレイラの両方のパターンでシーンを通して、タニノからの「キャストによって雰囲気が大きく変わると思うから、それを覚えておいてほしい」という言葉で締められた。

トイレや洗面台も非常にリアル。壁には長嶋茂雄のポスターが。 [撮影:吉永美和子]

トイレや洗面台も非常にリアル。壁には長嶋茂雄のポスターが。 [撮影:吉永美和子]

稽古後にタニノに、「男」の役を井上とペレイラが演じることで、具体的にどういう差が出ているか? を聞いてみると「それに答えるのは難しい」と前置きをした上で「この2人は年齢や質感も違うので、だからこそWキャストにする意味があると思いました。この役は料理などの作業が膨大で、いわば演技ができないような状況なので、だからこそ出てくるお互いの個性や味が、作品の質を変えてくると思います。その方向性に関しては、2人に委ねているという感じです」と語ってくれた。

タニノとWキャストの俳優同士が打ち合わせ。 [撮影:吉永美和子]

タニノとWキャストの俳優同士が打ち合わせ。 [撮影:吉永美和子]

そして今回の稽古では出てこなかったが、物語の最後にはある大きな仕掛けが待ち受けているという。これまで東京で上演した時は最後に天井が崩れていたが、今回はタニノいわく「崩れるより難しい、新しい表現に挑戦する」とのこと。果たしてどんな驚がくのラストが待ち受けていて、そして観客たちはその風景にどんな思いを抱くことになるのだろう? その全貌があらわになる日を、大いに期待して待ってほしい。

公演情報
庭劇団ペニノ『ダークマスター2016』
 
■日時:5月5日(木・祝)~15日(日) 19:00~ ※7・14日=14:00~/18:30~、8・15日=14:00~、9~11日=休演
※Wキャストのスケジュールは公式サイトでご確認を。
■場所:OVAL THEATER (大阪市)
■料金:一般=前売3,500円 当日4,000円 学生=3,000円(前売・当日共)

 
■原作:狩撫麻礼
■画:泉晴紀(エンターブレイン『オトナの漫画』所収)
■作・演出:タニノクロウ 
■出演:緒方晋、井上和也/FOペレイラ宏一朗(Wキャスト)、大石英史、坂井初音、ほか 
■公式サイト:http://niwagekidan.org/performance_jp/438
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