#野水映画 “俺たちスーパーウォッチメン” 第三回レビュー『心霊ドクターと消された記憶』

コラム
イベント/レジャー
2016.5.13

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。

「誰々と何々」という名前で思いつく映画タイトルは、私が最近観た中でも印象的なものがある。『鑑定士と顔のない依頼人』(13)、『記憶探偵と鍵のかかった少女』(13)。前者はジェフリー・ラッシュ演じる偏屈な鑑定士が恋に落ちるお話で、後者はマーク・ストロングが他人の記憶にアクセスして事件を解決する記憶探偵を演じていた。

そして今回紹介する作品は、だ。『心霊ドクターと消された記憶』! 前述の2作品をどっぷりと楽しんだ私としては、タイトルを聞いただけでワクワクしていたのは言うまでもない。そんなこの作品は『戦場のピアニスト』(02)でアカデミー主演男優賞を獲ったエイドリアン・ブロディが主演の“スペクターミステリー”と銘打たれている。スペクター=亡霊。つまり亡霊が引き起こすミステリー…といったところだろうか。

エイドリアン・ブロディ (C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW

エイドリアン・ブロディ (C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW


最愛の娘を事故で亡くしてしまった精神分析医のピーター(エイドリアン・ブロディ)。彼は悲しみに暮れ、それでも普段の生活を取り戻すため、患者たちのカウンセリングを続けてゆく。そんなある日、エリザベスという患者ではない少女が彼のもとを訪れる。フードをかぶったその謎の少女が残していったのは、1枚のメモ。ピーターはメモに残された数字を調べてゆくうちに、患者たちとのある共通点に気づいていく。

普段は人の良さそうなイケメンのブロディ。特徴的な彼の“下がり眉”が今回は、ピーターの鬱々とした表情を作るのにうまく働いている。しかし、鬱々としているのは彼のイメージだけではない。この作品中のすべてが愁いを帯びているのだ。本編はほんのり青みがかった映像で進み、美しいのに何故か見るほどに心細く、不安になってゆく。それこそが私の心にクリーンヒットしたポイントだ!

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW


舞台となったオーストラリアは雨が少ない地域のはずなのだが、本編中はほぼ雨降りのシーンが続く。この雨というエッセンスが加わることにより、一層“湿度”が高まるのだ。日本では古くから、よく柳の下だの雨の日だのに幽霊が現れると伝えられてきた。この作品にはそういった逸話に近いものがある。じっとりとした湿度を感じる空気の中で、すっと背後に厭な感覚を覚えるような、そんな日本的な恐ろしさを垣間見ることが出来るだろう。

昨今の海外ホラーにおける幽霊の表現は、とても私好みになってきている。前述のように湿度を感じるゴーストやスペクター(幽霊と亡霊の違いという意味であえて分けて書こう)の描写がとても素晴らしいと私は思うのだ!たとえば、『クリムゾン・ピーク』(15)などを手掛けたギレルモ・デル・トロ監督の描くスペクターたちは、美しく儚く、とても恐ろしかった!!表現としては古くから伝わる日本的幽霊の様相でありながら、ジャパニーズホラーでは表しきれていない雰囲気を持っている。だから私は海外の幽霊が好きなのだ!この作品に出てくるゴーストやスペクターたちも、寂しげな顔でこちらをうかがっているかと思えば、時に恐ろしい顔を覗かせる。

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW


それだけではなく、ゴーストたちはピーターの失くした記憶の謎を解くために様々な方法で干渉してくるのだが、それが“物理的”ではないのがまた良いのだよ……!とても叙情的なのが良いのだよ……!私としては雰囲気だけでご飯3杯はいける!だからこそ熱く語ってしまうのだ!ご理解いただきたい!!

……ふぅ、少し落ち着こう。この作品はホラーではなく“スペクターミステリー”なのだ。ん?スペクターはさておき、ミステリー…なのか?という点については、ここだけの話私も疑問を抱いている。正直なところ謎解き要素は薄く、謳い文句にある「謎に落ちていく」という感覚を持てなかったのが本音ではある…(すまぬ)。ミステリーよりもホラー、あるいはダークファンタジーの部類なんじゃないかと私は思っている。ストーリーの芯がどうのこうのより、エイドリアン・ブロディとスペクターたちの、美麗かつアンニュイな雰囲気を純粋に楽しんでもらいたいと思う!

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW


そうそう、タイトルにある“心霊ドクター”。それだけをぱっと聞くと、主人公ピーターが幽霊になってカウンセリングをしているのか!と思うかもしれないが、一つだけネタバレをするのなら、彼は幽霊というわけではない。どこに幽霊が現れるのか、誰が幽霊なのか……実は公式サイトのあらすじを読めば分かってしまうので、私はここではあえてあらすじを途中までしか書かなかった。「幽霊の正体は事前に知らないまま楽しみたい!」という方は、是非公式サイトのあらすじを読まずに一度楽しんでほしい(笑)。いやー、エクソシストものに脚本で携わっているとはいえ、このマイケル・ペトローニ監督には是非がっつりとしたホラー作品を撮ってほしいものである!

幽霊や亡霊のもたらすじっとり感を、お洒落に昇華したこのスペクター・ミステリー。一度体感することを、私は強くオススメする。

『心霊ドクターと消された記憶』は、5月14日(土)角川シネマ新宿ほか全国順次ロードショー

作品情報
『心霊ドクターと消された記憶』

(2015年/オーストラリア/カラー/シネスコ/DCP/英語/90分)

原題:Backtrack
監督・脚本:マイケル・ペトローニ
出演:エイドリアン・ブロディ、サム・ニール、クロエ・ベイリス

翻訳:高橋澄(G)
提供・配給・宣伝:プレシディオ/協力:松竹

(C) 2014 Backtrack Films Pty Limited; AP Facilities Pty Ltd; Screen Australia and Screen NSW

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